P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
一波乱あったクリスマスパーティーの次の日。
ホグワーツ特急でロンドンへと戻った私は、護衛の闇祓いに連れられてグリモールド・プレイスにある自宅へと帰ってきた。
玄関の前で護衛の闇祓いと別れ、家の鍵を開ける。
そして、数ヶ月ぶりに自宅の中へ入った。
「お帰りなさいませご主人様。お食事の準備が出来ております」
クリーチャーは自然な動作で私の鞄を受け取ると、そのままダイニングへと私を案内する。
ダイニングには肉料理を中心としたご馳走がかなりの量用意されていた。
「完璧だわクリーチャー。私の好みを完全に理解しているわね」
「クリーチャーめには勿体無いお言葉でございます。ご主人様」
私は椅子に座るとナイフとフォークを握る。
そして薄切りにされたローストビーフを何枚もまとめて掬い上げると、口の中に入れた。
「ホグワーツの料理も不味くはないんだけど、やっぱりクリーチャーの料理には一枚劣るわね」
「彼らも決して腕の悪い料理人というわけではないのですが、作る量が量ですので」
「一品一品丹精込めて作った料理には敵わない、そういうことね」
私は色々と料理を楽しみながらクリーチャーを見る。
このしわくちゃの屋敷しもべはかなりの昔からブラック家に勤めていたのだろう。
私は厚切りのベーコンを口の中に詰め込みながら、この家の前の持ち主だったブラック家について考えていた。
「そう言えばこの家って、ブラック家の持ち物だったのよね」
「はい。この家はブラック家の屋敷でございます」
「作り自体はそんなに古くないし、建てられたのはそんなに昔というわけでもないのよね?」
私はダイニングの隅々に目を向ける。
この家の明かりはガス灯だ。
勿論、実際にガスで灯っているわけではないが、少なくともこの家が建てられたのはガス灯が普及してからということになる。
「ホグワーツやグリンゴッツと比べると、随分と新しい建物だと言えるでしょう。ですが、建てられてから既に百年近い月日が経っているとクリーチャーめは推測します」
「まあ、そうよね。ホグワーツ基準で考えちゃったけど、この家も十分古いか」
「ですが、長年魔法により保護されておりましたし、パチュリー・ノーレッジによって修繕がなされております。このまま魔法で保護し続ければ数百年は持つでしょう」
まあ、人間である私の寿命は長くてもあと百年ほどだろう。
パチュリーから貰った賢者の石を用い、命の水を作り出して飲み続ければ話は別だが。
「聖二十八一族で最も栄えた一族か。ねえクリーチャー。ブラック家ってどのような一族だったの? ブラックというと私の中ではシリウス・ブラックのイメージしかないから……」
「シリウス・ブラックはブラック家の中でも異端中の異端。一族の鼻つまみ者な存在でした。一族の伝統に反し、純血主義を蔑ろにする。ブラック家とは本来最も血の濃さを重視し、純血主義を貫いていた家系なのです」
なるほど。典型的な純血至上主義の家というわけか。
「この家に住まわれていたブラック家の本家の方々はシリウス・ブラックを除いては皆スリザリンの出でございます。オリオン・ブラック様、ヴァルブルガ・ブラック様。そしてご息女であるセレネ・ブラック様です」
「シリウス・ブラックは?」
「オリオン様とヴァルブルガ様の息子、長男に当たります。セレネ様はシリウス・ブラックの妹君です」
セレネ・ブラック、どこかで聞いた名前だ。
確かその時もこの部屋に居たような……。
「ああ、そうだ」
思い出した。この部屋でムーディから聞いた話だ。
確かネビルの両親であるフランク・ロングボトムとアリス・ロングボトムが追っていた死喰い人がそんな名前だったような気がする。
確か命懸けの決闘になり、最後には二人に殺されたんだったか。
私は最後に残ったステーキを口の中に突っ込むと、熱いオニオンスープで胃の中に流しこむ。
そしてナプキンで口の周りを拭いた。
「シリウス・ブラックは私が殺して、セレネ・ブラックはロングボトム夫妻に殺された。オリオン・ブラックとヴァルブルガ・ブラックは?」
「オリオン様はサクヤ様が生まれる少し前にお亡くなりになりました。ヴァルブルガ様はオリオン様とセレネ様が亡くなられたことで次第に憔悴され、セレネ様が亡くなられた数年後に病死されました」
「ふうん。まあ、そうよね」
ブラック家はヴォルデモートの敗北と共に衰退し、滅びたわけだ。
「あ、そう言えば。今私が使ってる部屋ってもしかしてシリウス・ブラックが使っていた部屋だったりする?」
「いえ、セレネ様が使われていた部屋でございます」
なら私の部屋に置いてある無駄に高性能な調合台はそのセレネ様とやらの持ち物か。
魔法薬のスペシャリストでもいたのかと思ったが、多分金持ちの見栄の一つだろう。
「まあ、なんでもいいか。あ、そうだ。二十六日に一度騎士団本部に顔を出すから」
「かしこまりました」
私はクリーチャーに対して軽く手を挙げると、元セレネ・ブラックの部屋へと戻った。
クリスマスの次の日。私は護衛のために家を訪れたルーピンと共に不死鳥の騎士団の本部を目指していた。
「そういえば本部が新しくなってから全然行ってないですね」
「まあ本格的に運用が始まったのは新学期が始まってからだからね。今では常に騎士団員が在駐して情報の整理を行っているよ」
「まあでも、主要メンバーの殆どはホグワーツにいたり魔法省で働いているわけですし、駐在所みたいな扱いですよね?」
私がそう尋ねると、ルーピンはいやいやと首を振る。
「それがそうでもない。特に本部の場所を提供したスカーレット嬢なんて毎週のように顔を出しているぐらいだ」
「レミリア先生が?」
彼女が毎週のようにロンドンに帰っているなんて話は聞いたことがない。
「まったく彼女の働きには頭が下がる思いだよ。聞く話ではホグワーツの夜の警備や授業も担当しているんだろう? それに森にいるケンタウルスにも協力を取り付けたらしい」
レミリアが占い学を担当しているのは周知の事実だが、まさか夜の警備や異種族との交渉まで担当しているとは。
この前お茶に誘われた時に忙しいと愚痴を溢してはいたが、それほどとは。
「確かに忙しいとは聞いていましたが、クリスマスパーティーの準備で忙しいんだと思ってました」
「ははは、確かにあれほどの規模のクリスマスパーティーを企画するのは時間が掛かるだろうね。本当に、いつ寝てるんだか」
「吸血鬼なんで、案外授業の合間に寝てるんじゃないですか? 占い学の授業ではいつも棺桶の中から登場しますし」
まあ、流石にあれは演出だとは思うが。
私とルーピンは路地を一本抜け、騎士団本部が入っているビルがある大通りに出る。
大通りはところどころクリスマスの装飾がなされており、昨日がクリスマスであることを実感させた。
私はルーピンの前を歩きながら町を眺める。
そして不意に昨日のことを思い出し、ルーピンの方に振り返った。
「そういえば、ルーピンさんはセレネ・ブラックという魔女を知っていますか?」
ルーピンはその名前を聞いて驚いたように一瞬足を止める。
「その名前をどこで?」
「ああ、いえ。シリウス・ブラックの妹だと聞いたので。シリウス・ブラックと学生時代仲がよかったルーピンさんなら何か知っているかなと」
私とルーピンは横並びになって再び歩き出す。
ルーピンはその話をするか少し迷っているようだったが、私が何度か視線を送ると諦めたように話してくれた。
「確かに知っている。話したことも何度かある。セレネ・ブラックはシリウス・ブラックの一つ下の妹だ」
「どのような人物だったんです?」
「そうだな。学生時代は礼儀正しく、掴みどころのない少女という印象だった。兄のシリウスに似て勉強の方もそこそこ成績が良かったみたいだが、魔法薬学の授業だけは校内でも抜きん出ていた。それこそ、リリーやスネイプと比べても頭ひとつ上なほどにね」
「でも、例のあの人の仲間になってしまったんですよね」
ルーピンは当時のことを思い出すかのように空を見上げる。
「ああ、そうだね。セレネ・ブラックはシリウスとは違い、正しくブラック家の人間だった。典型的なスリザリン思想というわけではないが、家の言うことには従順で、闇の勢力が力をつけていくにつれて次第に引きずり込まれていった」
「そして、最終的にはネビルの両親と決闘になり……」
「ああ、セレネ・ブラックは命を落とした。ちょうどシリウスが捕まったのと同じぐらいの時期じゃないかな」
そう言うルーピンの顔は少し寂しそうだった。
私とルーピンはロンドンの街をしばらく歩き、不死鳥の騎士団の本部が入っているビルの前へとやってくる。
私は休みの前と同じようにビルのエントランスに入ろうとしたが、すぐにルーピンに止められた。
「実はこの前入り口が変わったんだ。今は裏手にある」
「あ、そうなんですね」
ルーピンは周囲のマグルが私たちに視線を向けていないことを確認すると、ビルとビルの間の路地へと体を突っ込む。
そしてそのまま粗大ゴミをかき分けるようにして少し進み、地面に倒れている冷蔵庫の前で立ち止まった。
「ここだ」
ルーピンは冷蔵庫の扉を開けると、その中に足を突っ込む。
冷蔵庫の中は真っ暗な空間が広がっており、ルーピンの体はみるみるうちに飲み込まれていった。
「なんともまあ、魔法使いらしい入り口ね」
私は半ば呆れるように肩を竦めると、ルーピンの後を追って冷蔵庫の中に足を入れる。
地面があるようには感じない。
このまま暗闇の中を落下するしかないだろう。
軽く呼吸を整えると、冷蔵庫の中に飛び込んだ。
全身が浮遊感に包まれる。
落ちているかどうかはわからないが、地面に立っているという感覚もない。
まるで私の鞄の中のようだと感じ一瞬怖くなったが、そんな心配も束の間、すぐに両足が地面に付き、周囲が明るくなった。
「っと、無事着いたようね」
私は降り立った部屋をぐるりと見回す。
周囲が壁で囲まれており、目の前には無機質なドアと数字の書かれた無数のボタンが見える。
どうやらここはエレベーターの中だ。
エレベーターの内装も見覚えがないわけじゃない。
きっと騎士団本部が入っているビルのエレベーターだろう。
しばらく待っているとチンという軽い電子音と共に扉が左右に開かれる。
そこには黒を基調とした廊下が真っ直ぐと続いており、その先には無数の扉が見えた。
私はエレベーターから降り、一番近くの扉とその次の扉の間の壁を押し込む。
そして出来た隙間に体を滑り込ませた。
「よし、ちゃんと出てきたな」
隙間を抜けた先はいつものエントランスだった。
目の前には私の到着を待っていたのか、少し心配している様子のルーピンがいる。
「冷蔵庫に入るとそれぞれ別の異空間に飛ばされるんだ。たとえどれだけくっついて入ってもね。騎士団のメンバーだったらエレベーターから先の手順を知っているが、そうでないものはあの地下空間を模した異世界に永遠に閉じ込められるようになっている」
「それ、私がうっかりここまでの行き方を忘れていたらどうするつもりだったんです?」
「その時はダンブルドアに連絡して、ダンブルドアが到着するのを待つだけさ。何せ死喰い人である可能性があるわけだからね」
まあ、理にかなってはいるか。
私は納得した素振りを見せると、ルーピンと一緒に騎士団本部の中を歩いた。
「今日サクヤに来てもらったのは他でもない。一度騎士団の現状を知っておいてもらおうと思ってね。魔法省と共同戦線を張っているということもあり、騎士団員も順調に増えている。それに最近では定期的に闇祓いを招いて戦いの訓練を行ったりもしていてね。新規メンバーの戦力化も順調だ」
「戦闘訓練ですか」
「興味あるかい?」
「まあ、それなりに」
毎日のように訓練していた二年前が懐かしい限りだ。
私に戦い方を仕込んだクラウチは今頃何をやっているだろうか。
なんにしても、クラウチにしごかれていなければあの時シリウス・ブラックに殺されていたかもしれない。
いや、結局あの後ダンブルドアに捕まったことを考えると、案外負けていた方がよかったか?
もしシリウス・ブラックに負けていたら、私はハリーを殺さなくても済んだ。
やはり、私がハリーを殺さないといけなくなったのは全てブラックのせいだ。
私は何も悪くない。
「……サクヤ、どうかしたかい?」
ルーピンに声を掛けられ、私はハッと我に返る。
「──いえ。でも、確かに興味はありますね。最近運動不足ですし、クリスマス休暇ぐらい体を動かすのもいいかもしれません」
「ならちょうどいい。今日の訓練があと一時間後に始まる。ある程度現状を確認してもらったら試しに参加してみるかい?」
「ええ、そうですね。そうさせてもらいます」
私はそう返事をすると、ルーピンと共に騎士団の事務室へと入った。
設定や用語解説
現在のブラック家
現在のブラック家は完全に崩壊しており、分家や他の家へ嫁いだ者が残っている程度。ブラック家の血を引く魔法使いは多い。
セレネ・ブラックとシリウス・ブラックの関係
実の兄妹であり、セレネのほうがシリウスより一歳年下。
Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。