P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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戦闘訓練と筋肉痛と私

 一九九六年十二月二十六日。

 私はロンドンの高層ビルの地下にある不死鳥の騎士団の事務室で騎士団の現在の状況を確認していた。

 私が入った当初と比べるとメンバーはかなり増えているといえる。

 その中には私が見聞きしたことのある名前もいくつかあった。

 

「この人たちってホグワーツの卒業生ですか?」

 

 私の問いに隣にいるルーピンが答える。

 

「ん? ああ、そうだよ。その他にも魔法省の関係者や人づての勧誘で少しずつ勢力が増えている。まあ、とは言っても戦闘が出来る者は少ないけどね」

 

「あくまで情報収集のみ、ということですか」

 

 まあ確かに全員が全員戦える必要はない。

 それよりかは人数を増やし情報収集のための枝を伸ばしていく方が先決か。

 

「勿論、最低限の護身ぐらいは出来たほうがいいから少しずつ戦闘訓練は行っているけどね。これからも現地協力者という形で勢力を拡大させていく予定だ」

 

 不死鳥の騎士団はあくまで秘密結社だが、ここまでくるとある種の情報機関のような様相を呈してくる。

 まあ、散発的な死喰い人の活動に対処するには情報網を広げていくほかないのだろう。

 

 

 

 

 

 騎士団の事務所で現状の把握と簡単な情報交換を済ませた私は、ルーピンと一緒にホグワーツの教室を四つ繋げたほどの大きさの大部屋に来ていた。

 部屋の中心にはキングズリー・シャックルボルトの姿があり、その周囲を新人だと思われる騎士団員が取り囲んでいる。

 

「死喰い人が攻撃に使用してくる主な魔法の一つにアバダケダブラ、死の呪いがある。これに関しては今更説明する必要もないだろうが、一撃貰うだけでこの世とはおさらばだ。もっとも、死の呪いというのはかなり術者の力量に左右される呪いでもある。相手が死の呪いを放ってきたら、相手の力量は少なくとも中の上、運が悪ければ死喰い人の中でも上位クラスの実力者の可能性がある。逃げに徹するのが一番だ」

 

 まあ確かに、死の呪いというのは完全な状態で放たなければ相手を殺すことはできない。

 だが逆に言えば、完全な状態で放たれた死の呪いはどのような呪文を用いても防げない。

 

「死の呪いを見分けるのは簡単だ。特徴的な緑色の閃光をしている。実際一度見てもらおう」

 

 シャックルボルトはローブから杖を引き抜く。

 新人の騎士団員たちは今から死の呪文を放つということもあり、必要以上にシャックルボルトから距離を取った。

 

「アバダケダブラ!」

 

 シャックルボルトの放った死の呪文は鮮やかな緑色の閃光を放ちながら真っ直ぐ部屋の壁に吸い込まれると、バチンと弾けて消える。

 それと同時に静かなどよめきが上がった。

 

「さて、いざ死喰い人と立ち合って、相手が死の呪いを使用してきた時、一番は逃げに徹することだが、逃げることができない状況の場合も多いだろう。そのような場合はどうするか。分かるものは?」

 

 シャックルボルトは新人たちを見回す。

 新人たちは互いに顔を見合わせるだけで、誰も手を挙げようとはしなかった。

 シャックルボルトは小さなため息を吐くと、少し後ろのほうで様子を窺っていた私とルーピンの方に視線を向ける。

 

「ミス・ホワイト、君ならどうする?」

 

 今までシャックルボルトに集中していて私の存在に気が付いていなかった新人たちが一斉に私の方へと振り向く。

 私はそれに一歩前に歩み出ることで答えた。

 

「さあどうぞ」

 

 シャックルボルトはその意図を察したのか、私に対し無言で杖を構える。

 そして武装解除の呪文を私に向けて放った。

 私はシャックルボルトの放った赤い閃光を横に側宙するような形で避ける。

 そして地面に着地する前に杖を引き抜き、シャックルボルトに向けて構えた。

 

「と、まあここまでしろとは言わないが、おおむね今ミス・ホワイトが実践した通りだ。盾の呪文などで呪いを受けるのではなく、魔法そのものを物理的に避けてしまう。これは多くの呪いや呪文に対して有効な対処法だ」

 

 シャックルボルトは一通りの説明を終えると、新人たちを二人一組にして呪文を避ける練習をするよう指示を飛ばす。

 そして自分の手が空いたところで私たちの方へと近づいてきた。

 

「先ほどはありがとう。いい手本だった」

 

「いえ、そんなことは。普段からシャックルボルトさんが新人の指導を?」

 

「いや、毎回というわけでもない。非番の闇祓いや古参の騎士団員が持ち回りで教師役をしている」

 

 私は壁際から新人たちを見回す。

 このような講習を受けていることもあり、新人たちの戦闘能力は相当低いと言わざるを得なかった。

 

「まあでも、このような練習をしたところで実際に避けれるかは別ですけどね」

 

 このような回避能力は基本中の基本だ。

 勿論、死喰い人たちもそれを予想して呪文を放つ。

 正直なところ、全力で距離を取ったほうがまだマシだ。

 私は二人一組になって練習している新人たちに目を向ける。

 みな呪文を避けることに必死になりすぎており、それによって大きな隙が生じていた。

 

「あの調子なら、パニックで逃げまどっていた方が生存率高いのでは?」

 

「……まあ、だからこその戦闘訓練なわけだが。自分の身は自分で守れる程度にはなってもらわなくては」

 

 シャックルボルトはそう言って肩を竦める。

 そして改めてといった様子で私に向き直った。

 

「そういえば、サクヤ君たちは何故ここに?」

 

「ああいえ、用というほどの用事はありません。ただまあ最近運動不足なのでもう少し体を動かそうかなと」

 

 シャックルボルトはそれを聞き、部屋の中を見回す。

 そしてある程度のスペースがある場所を見つけると、私とルーピンを案内した。

 

「できれば私が直接手合わせしたいところだが……」

 

 シャックルボルトはそう言いつつ新人たちの方へ目を向ける。

 まあ確かにあの様子では新人たちから目を離すわけにはいかないだろう。

 

「いえ、それには及びません。私の遊び相手はルーピンさんにお願いしようと思います」

 

「ははは、モテる男はつらいね」

 

 ルーピンは冗談めかして笑うと、静かに杖を抜く。

 私はルーピンから軽く距離を取ると、両手をポケットの中へと突っ込んだ。

 

「じゃあ適当に打ち込んできてください」

 

「いいのかい? こちらは決闘方式でも構わないが」

 

「それだとヒートアップしすぎてしまうので。それに私が壁を背にしていれば呪文の流れ弾を気にする必要もないでしょう?」

 

 それならば、とルーピンは杖を構える。

 私はそれを見て静かに目を瞑った。

 

「いつでもどうぞ」

 

「それじゃあ遠慮なく」

 

 私はルーピンの魔力へと意識を向ける。

 普段からさざ波のように強弱が少ないルーピンの魔力だが、今は一段と落ち着いている。

 きっと意識して魔力の動きを悟られないようにしているのだろう。

 だが、体内の魔力を杖で変換し放つという魔法の性質上、魔法を放つ瞬間には確実に魔力に動きが生じる。

 その瞬間、ルーピンの魔力が物凄い速度で動き、私に向かって高速で接近してくる。

 私はその魔力の塊を軽く体を逸らすことによって回避した。

 

「凄いな。魔力を察知するセンスがピカイチだ」

 

「まあ相当訓練しましたから。続きをどうぞ」

 

「それじゃあ、段々ペースを上げていくよ」

 

 ルーピンはそう言うと、一定の間隔を置いて私に対し魔法を放ち始める。

 初めは五秒に一度ほどのペースだったが、時間が経つにつれてどんどん魔法を放つペースが早くなっていった。

 私は次々と放たれる魔法を右へ左へと回避する。

 初めのうちは余裕を持って避けることができていたが、五分もしないうちに軽く息が上がってきた。

 

「もう少し早くても大丈夫そうかな?」

 

「はい。お願いします」

 

 これ以上の速度では魔力の察知だけでは少々心もとない。

 私は閉じていた両目を開け、ルーピンの杖を振る手の動きに集中した。

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

 その日の夕方。玄関の前でルーピンと別れた私は二階にある自分の部屋へと向かう。

 そして着替えとタオルを掴むと真っ直ぐバスルームへと向かった。

 私は着ていた衣服を洗濯籠へと突っ込み、シャワーで汗を流す。

 結局あの後ヒートアップした私はルーピンとの模擬戦闘に始まり、シャックルボルトとの決闘、新人たちとの一対多の戦闘などかなり体を動かした。

 正直な話、少々調子に乗って体を動かし過ぎたかもしれない。

 毎日のようにクラウチと戦闘訓練をしていた二年前と違い、最近は運動といえばたまに参加するクィディッチの練習ぐらいだ。

 

「うーん、本当は二年生の時みたいに校内で決闘クラブを組織したほうがいいんだろうなぁ。でも、そうすると先生役は確実に私になるし……あ、そうだ。ハリーに先生役を頼めば私は練習に参加するだけでいいかも。旗頭としてもハリーは適任だし」

 

 髪と体についた白い泡を洗いながらし、タオルで体を包み込む。

 あまりにも足を酷使しすぎたせいか、膝が少し震えている。

 運動不足もここまでくると少し笑えてくるほどだ。

 私は新しい服を身に纏い、バスルームを出る。

 そしてまた自分の部屋に上がると、ベッドの上に倒れ込んだ。

 

「よっと、──おわっ!」

 

 だが、私が想像していたよりもベッドのスプリングが強く、私はそのままベッドの上を跳ね、床へと落ちる。

 私はその衝撃で勢いよく木製の床へと頭を打ち付けた。

 

「痛ったぁ……あ、そうだ。ハリーは私が殺したんだったっけ」

 

 私はクリーチャーが綺麗に掃除した冷たすぎる床に頬をつける。

 そしてふとベッドの下に目を向けた。

 

「ん? 何かしらこれ」

 

 ベッドの足と床の隙間に白いカードのようなものが挟まっている。

 私は特に何も考えずベッドの下に手を伸ばし、そのカードのようなものを引っこ抜いた。

 

「これは……もしかしてクラウチ親子?」

 

 私は床から起き上がると、ベッドに腰かける。

 写真には随分と若く見えるクラウチ・シニアと、ホグワーツの低学年ほどに見えるクラウチ・ジュニアが映っていた。

 背景の建物からして、写真を撮ったのはパリだろうか。

 

「あの親子、昔はそこそこ仲が良かったのね」

 

 ちょうど一年ほど前にクラウチ・シニアは息子のクラウチ・ジュニアに殺されている。

 この写真からは想像もできない結末と言えるだろう。

 私は少しの間感傷に浸ったあと、写真をひっくり返す。

 そこには少々子供っぽい文字でメッセージが書かれていた。

 

『親父の出張でフランスに来てる。夏休みはパリで過ごす予定だ。勉強サボるなよ白黒女!』

 

「女……ってことはシリウス・ブラックに向けた手紙ではない。それじゃあこれはセレネ・ブラックに向けた手紙ね」

 

 クリーチャーも、この部屋は昔セレネ・ブラックが使っていた部屋だと言っていた。

 それにセレネとクラウチが友人同士だったとしたら、クラウチがセレネを殺したロングボトム夫妻を憎むのも理解できる。

 気が狂うほど磔の呪文を掛けるほどに。

 

「詳しい話を聞いてみたいけど、生憎今は敵同士だし」

 

 私は写真を机の引き出しに放り込むと、他にセレネの持ち物が残っていないか部屋の中の探索を始める。

 今まで机やベッド、クローゼットなどはよく使っていたが、この部屋に住み始めてから一度も手をつけていない家具がいくつかある。

 例えば調合台なんかがそうだ。

 学校で習うレベルの魔法薬の調合では無用の産物であるし、そもそもこっちで薬を調合することは滅多にない。

 私は掃除だけが無駄に行き届いている調合台の引き出しに手を掛ける。

 そして順番に中を確認した。

 一段目の引き出しには魔法薬の調合で使うナイフや匙が無造作に放り込まれていた。

 ホグワーツの授業で使うものよりいくらか専門的だ。

 二段目は材料を量るための錘や、色とりどりの宝石が無造作に転がっている。

 私は宝石を手に取ると、光に透かしてみた。

 

「本物かしら?」

 

 生憎私には宝石を鑑定する能力はない。

 だがこんなところに宝石が転がっているあたり、セレネという女性の性格が透けて見えるようだった。

 

「調合台には特に面白いものはないか。本棚は……最初から空だったわね」

 

 本棚と同じようにクローゼットも私が入居した時は空だった。

 まあ、元は色々とあったのかもしれないが、パチュリーがこの家を改装した時に撤去されてしまったのだろう。

 全くもってつまらない。

 私はため息を吐くと、倒れ込むようにベッドに横になる。

 夕食が出来るまで仮眠を取ることにしよう。

 私は毛布に包まり、静かに目を閉じる。

 そして、まるで本当に重量が増えたかのように感じる体を夢の世界へ落とし込んでいった。

 




設定や用語解説

サクヤの戦闘能力
 サクヤは優れた魔力察知能力を持っている。また体が軽いためか身のこなしが軽く、目もいいため呪文を避けるのも得意。だが魔力量や体力は人並みのため、割とすぐガス欠を起こす。

Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
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