P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
騎士団の本部へ顔を出したり魔法省で大臣と会談したり、日刊予言者新聞の取材を受けたり隠れ穴に遊びにいったりと忙しくしているうちにすぐに新学期がやってきた。
情勢が情勢ということもあり、今日限定でホグワーツの暖炉が煙突飛行ネットワークに接続されている。
私は夕食前ほどの時間に自宅にある暖炉の前に立っていた。
「それじゃあクリーチャー、留守をよろしくね」
私がそう言うと、クリーチャーは深々と頭を下げる。
「いってらっしゃいませ、ご主人様」
私はクリーチャーに軽く手を振り、暖炉の中に煙突飛行粉を一掴み投げ入れる。
そして炎の色が変わったのを確かめ、暖炉の中に入った。
「ホグワーツ!」
私がそう叫んだ瞬間、私の体は煙と共にものすごい勢いで煙突の中に吸い込まれる。
そして両足が地面についた時にはホグワーツにあるマクゴナガルの部屋の暖炉の中に立っていた。
私は軽く咳き込みながら暖炉から這い出る。
そして部屋の机で書類仕事をしていたマクゴナガルに挨拶した。
「お久しぶりです先生」
「お久しぶりです、ミス・ホワイト。無事に辿り着いたようで何よりです」
私は杖を取り出し体に付いた灰を綺麗に落とす。
そしてマクゴナガルに軽く礼をしてから夕食を食べに大広間へと向かった。
大広間では既に多くの生徒が食事を取っており、グリフィンドールのテーブルも人でごった返している。
こんなことならもう少し早く家を出るか、そもそも家で食べてくるべきだったと若干後悔しながら私はグリフィンドールのテーブルを見回した。
特に待ち合わせなどはしていないが、きっとどこかにロンとハーマイオニーがいるはずだ。
だが、一通り見渡した限りでは二人の姿は見えない。
まだホグワーツに到着していないのか、それとももう夕食を食べ終わって談話室に戻ったのか。
なんにしてもいつもまでも席に座らずうろうろしているのも不恰好だ。
私は適当に空いている席へと座る。
とりあえず、二人と合流するのは後回しでいいだろう。
私は近くにある皿を手当たり次第にかき集めると、順番に口の中に運び始めた。
夕食を取り終えた私は、大広間横の階段を上りグリフィンドールの談話室を目指す。
そして夕食の席で聞いた新しい合言葉を太った婦人に言い談話室の中に入った。
冷え込んでいる八階の廊下と違い、談話室の中は暖炉の熱でポカポカと暖かい。
私は普段よく三人で陣取っているソファーへと向かい、幅広のソファーの真ん中に腰掛けた。
ここにいればそのうち二人が来て声をかけてくれるだろう。
それまでは読書に励むとしよう。
私は拡大呪文が掛けられたポケットから内部に無限の空間が広がる鞄を取り出す。
そしてさらにその鞄の中から魔法薬学の教科書を取り出した。
あの『白と黒のプリンセス』の教科書だ。
この謎のお姫様が何者なのかは未だわかっていない。
スラグホーンの言葉から察するにスラグホーンの教え子であることはわかるが、それ以上のことはさっぱりだ。
私は教科書を捲り余白に書き込まれた文章を目で追っていく。
そのどれもが既存の魔法薬のレシピの改良だ。
「彼女のレシピは確かにスラグホーンをも唸らせる芸術性がある。でも、ここまでの技術を持ちながらオリジナルの魔法薬のレシピがないのはあまりにも不自然だわ」
それに、彼女のレシピでは既存の魔法薬以上のものは完成しない。
このレシピがパチュリーの作り出したものではないと直感的に察したのはまさにその部分だ。
彼女からはパチュリーほどの異常さを感じない。
あくまで魔法薬学にのめり込んだ学者の域を出ない。
「ハッピーホリデー! サクヤ!」
私がぶつくさ言いながら教科書を捲っていると、後ろからハーマイオニーがソファー越しに抱きついてきた。
「ハッピーホリデー、ハーマイオニー。今着いたところ?」
「いえ、随分前に着いてたわ。ハグリッドのところに行ってたの。……って、サクヤが教科書を読んでるなんて珍しいわね」
ハーマイオニーは私の肩越しに教科書を覗き込む。
そしてあまりの書き込みの多さに眉を顰めた。
「その教科書、サクヤのじゃ無いわよね?」
「あら、なんでそう思うの?」
「だって貴方そもそも板書しないじゃない」
ハーマイオニーはソファーを回り込むと私の横に座り、教科書をひったくる。
「それに貴方の文字じゃないし」
「ふふ、そうね。私はもっと字が綺麗だわ」
「で、結局この教科書はなんなの?」
ハーマイオニーはペラペラと教科書のページを捲る。
私はソファーに深く身を埋めながら言った。
「白黒のお姫様のよ」
「……何それ?」
私は教科書の裏表紙を一枚捲り、『白と黒のプリンセス蔵書』と書かれている箇所を指し示す。
「『白と黒のプリンセス蔵書』……何が白と黒だったのかしら」
「それに関してはサッパリ。魔法薬学に長けた人物だったってこと以外は何もわからないわ」
私はハーマイオニーから教科書を返してもらうと、鞄の中に仕舞い込む。
ハーマイオニーは『白と黒のプリンセス』が気になるのかブツブツ言いながら考え事を始めた。
「白と黒……パッと思いつくのは新聞とかだけど、魔法薬には関係ないし……チェス、チェスなんてどうかしら?」
「駒のクイーンのこと? 確かに白と黒がいるけど……でもクイーンはクイーン(女王)であってプリンセス(王女)ではないわ」
確かに……とハーマイオニーはさらに考え始める。
私たちがそうしていると、男子寮の階段からロンが降りてきて真っ直ぐ私たちの方へ近づいてきた。
「久しぶり! そういえば二人はもう掲示板は見たか?」
ロンは私たちの前に回り込むと掲示板の方を指し示す。
私は軽く人集りが出来ている掲示板に視線を向けた。
「次のホグズミード行きの告知?」
「違うわ。姿現わしの講習会がホグワーツで開かれるの」
ロンの代わりに私の横にいたハーマイオニーが答える。
「なんだ。もう見てたのか」
「お昼にはホグワーツに帰ってきてたもの。それにしても楽しみよね」
「へえ、姿現わしに講習会なんてあるのね」
私は既に姿現わしとは違った瞬間移動術を身につけてはいる。
だが、対外的にも姿現わしの免許を取得しておいた方がいいだろう。
「三ヶ月の講習で十二ガリオンだってさ。ママにお小遣いの増額を頼まないとな」
「そう、三ヶ月も講習があるのね。応援してるわ」
「応援って、サクヤも当然姿現わしの講習を受講するだろ?」
ロンの問いに私は少し考える。
今まで試したことがあるわけではないので確証はないが、講習に参加してもきっと一日目で姿現わしは完璧にマスター出来てしまうだろう。
そうだとしたら時間とお金が勿体無い。
ダンブルドアに頼んで少し時間を止めさせてもらい、ダンブルドアの付き添いのもと一時間ほど姿現わしを練習するというのはどうだろうか。
それならば万が一バラけてもダンブルドアが治してくれるだろう。
「……いや、馬鹿らしいか」
「何が?」
私は軽く首を振ると改めて言う。
「そうね。勿論私も受講するわ。一緒に頑張りましょうね」
「ん? うん、そうだな。でも実際姿現わしってどんな感じなのか楽しみじゃないか? サクヤはもう経験あるんだっけ?」
ロンの問いに、私はダンブルドアと付き添い姿現わしした時の感覚を話して聞かせる。
そうしているうちに夜は更けていった。
クリスマス休暇を挟んだからといって、ホグワーツの授業は何も変わらない。
変身術や魔法薬学の内容は更に専門的で複雑になっていくし、その他の授業も内容が高度になっていく。
そんな中、レミリアが担当する占い学の授業だけはのんびりとした雰囲気が漂っていた。
「そうね。休暇明けだしあまり課題の残る授業はやりたくないわ。今日は今までの授業での疑問点や、理解が及んでいないところへの質疑応答の時間にしましょうか。自由に質問しなさい」
レミリアは小悪魔に教卓を退けるように命じる。
小悪魔は杖を取り出すと、教卓をふかふかのソファーに変身させた。
「さあ、どんな質問でもいいわよ」
レミリアは小悪魔が用意したソファーに身を投げ出すように腰掛ける。
そんなレミリアに対してクラスの生徒たちは、どうしていいかわからないと言った表情で顔を見合わせた。
そんな中、私の隣に座っていたパーバティがおずおずと手を挙げる。
「あの、スカーレット先生は吸血鬼という話ですけど、やっぱり血を吸うんですか?」
「あら、いきなり授業とは全く関係ない質問がきてしまったわ」
レミリアは軽く肩を竦めて笑う。
パーバティはその反応に少し小さくなった。
「あ、その、やっぱりいいです……」
「別に構わないわよ。なんでも聞けと言ったのは私だし。実際それぐらい緩い空気の方が他の子も質問しやすいだろうから」
レミリアはソファーからぴょんと立ち上がり、部屋の隅にあるキャビネットの扉を開ける。
そして中から赤い液体が入った透明のビニール容器を取り出した。
きっと中の赤い液体は血液だろう。
「じゃじゃーん。マグルの世界から取り寄せた輸血パックよ。少し古くなってもう人体には輸血出来なくなったものを貰ってきているの」
「ゆ、けつ?」
パーバティはわかりやすく首を傾げる。
ああ、そうか。魔法界では輸血という概念は存在しないんだった。
レミリアもそのことに気がついたらしく、少し肩を落としながら輸血パックを仕舞った。
「まあ、マグルの世界から取り寄せているということよ」
パーバティの質問で勢いがついたのか、占い学のクラスの生徒たちはこの後も次々とレミリアに質問を飛ばしていく。
その内容は実に様々で、NEWT試験の対策から明日の天気、気になる男の子の落とし方など占い学に関係ない質問も多く寄せられた。
レミリアはその一つ一つに丁寧に答えていく。
そうしているうちに一時間近くが経過し、授業も終わりに差し掛かった頃、ふとレミリアが私の方へ視線を向ける。
「そういえばサクヤ、貴方は何か質問はないの?」
レミリアがそう話を振ると同時に、クラス中の視線が私に注がれる。
私は内心小さくため息を吐くと、レミリアに対して質問した。
「先生には妹さんがいらっしゃるようですが、どのような方なのですか?」
私の問いにクラスの生徒たちが少しざわつく。
レミリアは一瞬キョトンとしたような顔をしていたが、すぐに平静を取り戻して言った。
「内気で引きこもり気質でね。普段は家で絵ばっかり描いてるわ。魔法界では知名度はないけど、マグルの世界ではそこそこ名の知れた芸術家なのよ」
そういうレミリアの顔はどこか得意げだ。
その様子はまさに妹を自慢する姉そのものだった。
「さて、それじゃあ今日の授業はここまで。次回は中世における占い師の在り方と立場についてやりましょうか」
レミリアは大きな欠伸を一つすると、教室の隅にある棺の中に入る。
小悪魔はレミリアの上に優しく毛布を掛けると棺の蓋を閉めた。
レミリアの占い学ではお決まりの終わり方だ。
生徒たちは今日レミリアに質問した内容の話題を話しながら教室を出ていく。
私もパーバティとラベンダーと一緒に教室を後にした。
「へえ、それじゃあラベンダーはロンに気があるのね。意外だわ」
「ちょっと、声が大きいって!」
食事を取りに大広間へと向かう途中、ラベンダーは恥ずかしそうに私の肩を叩く。
「でもスカーレット先生のあの口ぶりと貴方の態度からしてそうなんでしょう?」
先程の占い学の授業で、ラベンダーはレミリアに今後の恋路を占ってもらっていた。
勿論授業の一環なのでレミリアは占いの結果を特に隠すことなく公表したわけだが、その内容を鑑みるにラベンダーが好意を寄せている男性がロンであることは明白だった。
「でもサクヤ、実際どうなの?」
並んで歩いていたパーバティが私に聞いてくる。
「どうって?」
「ロンのことよ。ロンっていつもサクヤかハーマイオニーと一緒にいるじゃない。実際どうなのかなって」
「そうねぇ……」
私が考え込むと、ラベンダーは少々不安そうな顔で私の様子を伺い始める。
思い返せば、ハリーやマルフォイと違いロンは私に恋愛的な感情は抱いていなさそうに思う。
「多分私は女としては見られてないわね。ハーマイオニーも同じじゃないかしら。私もロンに関しては男の子ってよりかは歳の近い姉弟みたいな感覚だし」
「あー、一周回って、みたいな?」
「別に一周も回らないわよ。ロン自身恋人欲しそうな雰囲気はあるし、告白したらすんなり付き合えると思うわ」
「ホントね? 応援してよ?」
ラベンダーは半ば縋り付くような形相で私を見る。
私はそんなラベンダーの様子に小さく笑った。
「勿論、貴方の恋路を応援してるわ」
それを聞きラベンダーは小さくガッツポーズをする。
ラベンダーからしたら私とハーマイオニーの存在がロン攻略の大きな障壁だったのだろう。
だがそれが自分を援護する砲台だと分かれば強い後押しになる。
ロンとラベンダーならお似合いのカップルになり得るだろう。
もしロンとラベンダーが付き合い始めたらどうなるだろうか。
友達同士というのは変わらないが、流石に四六時中一緒にいるというのはなくなるかもしれない。
「まあ、そんなものよね」
「何が?」
「なんでもないわ」
私は軽く首を振ると、そのまま大広間に入っていった。
設定や用語解説
サクヤのポケット
拡大呪文が掛けられており、鞄をすっぽり収納することができる。
サクヤの鞄
能力の暴走で内部の空間が無限大に広がり続けている。だが、サクヤ自身は教室一つ分ぐらいの空間しか使っていない。また、内部の時間が止まっているため中に入れたもの時間も停止する。
レミリアの妹
マグルの世界では名の知れた画家。二十年に一度ほどの頻度で名義が変わる。だが、作風は変わらないので一部のコアなファンからは同一人物の可能性を疑われている。都市伝説のような噂の域を出なければ何も問題はないが、同一人物であると確信し、それを世に広めようとしたものは何故か行方不明になる。
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