P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
「五秒後に爆発します。五、四、三──」
「サクヤ、逃げるのじゃ!」
ダンブルドアの叫び声と同時に私は近くにあった机を横倒しにし、その陰に飛び込む。
それと同時に耳をつんざくほどの爆発音が響き、私は机と共に壁に叩きつけられた。
「──ッ! ゴホッ、うぅ……」
全身に痛みはあるが意識ははっきりしている。
机に足が無かったら、壁と机に挟まれもっと大怪我を負っていただろう。
私は机を押し退けると、軽く咳き込みながら部屋を見回す。
部屋の中は余すところなく血と肉片が飛び散っており、先ほどスラグホーンがいた周辺は爆発の衝撃のためかあらゆるものが粉々になっていた。
「……こりゃダンブルドアも死んだかな?」
「生きておるよ」
私の呟きに対し、後ろから声が掛かる。
そこには右腕の肘から先がぐちゃぐちゃに千切れ飛んでいるダンブルドアの姿があった。
まだ止血すらしていないのか、骨が覗く傷口からは絶え間なく血液が流れ出ている。
「あぁ、先生! ご無事なようで何よりです!」
私は慌てて心配する様子を見せる。
ダンブルドアはそんな様子の私に対し小さくため息をついた。
「今止血しますね」
私はダンブルドアの傷口の様子を観察しながら魔法で出したベルトでダンブルドアの腕を縛り付ける。
かなりの力で締め付けたため、ダンブルドアの顔が苦悶の表情に歪むが、取り敢えず出血は止めることができた。
「あー、前腕の骨ごと吹っ飛ばされてるみたいですね。命の水を掛けますか? それとも下手なことはせずにマダム・ポンフリーを呼びます?」
「命の水を」
私は賢者の石を取り出すために懐中時計を手に取ったが、賢者の石は先ほどスラグホーンを救うためにダンブルドアに貸したことを思い出す。
確かスラグホーンのために命の水を作り、そのまま机の上に置いておいたということは……
「……あー。まあ、そうよねぇ」
私は周囲を見回すが、賢者の石は見当たらない。
いや、あれほどの爆発だ。
きっと衝撃で粉々に砕けてしまったことだろう。
私はポケットから鞄を取り出すと、その鞄の中から小瓶に入った命の水を取り出す。
この宝石が初めて賢者の石だと気がついたときに試しに作ったものだ。
ここで使ってしまうのは勿体無いが、賢者の石ならまたパチュリーから貰えばいい。
それか一連のゴタゴタが片付いたらパチュリーに正式に弟子入りするのもありかもしれない。
私は小瓶の封を切ると、ダンブルドアの腕の傷口にかける。
だがダンブルドアの腕は治るどころか黒く変色しボロボロと崩れ始めた。
「──ッ、ダンブルドア先生、これは……」
「……わからん。痛み自体は消えたが、治ったような感覚はないの」
ダンブルドアは左手でローブを探り、途端に青ざめる。
「杖が……」
ああ、そうか。確かスラグホーンに右手首を掴まれた時、ダンブルドアは杖を握っていた。
ダンブルドアの杖は手首と共に粉々になってしまったことだろう。
「あ、私のを貸しますよ」
私は自分の杖をダンブルドアに差し出す。
だが、ダンブルドアは私の声が聞こえていないかのように呆然としていた。
「……先生? ダンブルドア先生?」
「あ、ああ。すまん。すまんの」
ダンブルドアは左手で私の杖を受け取ると、魔法で右腕の状態を調べようとする。
だが、心ここに在らずというか、どうにも集中できていないようだった。
まるで右手を失ったことよりも杖を失ったという事実の方にショックを受けているかのように。
「……ダメじゃ。わしとこの杖とでは相性が悪すぎる。一度校長室へ移動しよう」
私はダンブルドアから杖を返してもらうと、そのまま移動魔法、パチュリー曰く魔力多次元量子ワープを用いて校長室へと瞬間移動する。
ダンブルドアは校長室に戻ると同時に机へと駆け寄り、引き出しの中から黒く根本が捻れた杖を取り出し、自分の右腕に当て始めた。
「どうです?」
「詳しく調べてみないことにはわからんが、複雑な呪いが掛かっているのは確かじゃ」
「先ほどの爆発による影響でしょうか。でも、そんなことが可能なのですか?」
ダンブルドアは魔法で右腕を詳しく調べると、やられたと言わんばかりに左手で頭を抱える。
そして黒く変色した部分を切断魔法で切り落とした。
真っ直ぐと切り落とされた新しい傷口からは止めどなく血液が溢れ出る。
ダンブルドアは先程と同じように腕を魔法で締め上げ、無理矢理止血を行った。
「治癒魔法に対する呪いが掛けられておる。何らかの治癒魔法や魔法薬を用いて傷を治そうとすると逆に体を崩壊させてしまう呪いじゃ」
「それじゃあ、マグル式で治すしかない。そういうことですね? 聖マンゴに縫合が出来る癒者がいるといいんですけど……」
ダンブルドアは少しずつ血が滲み出ている腕の断面を見ると、大きく深呼吸をする。
平静を装っているが、激痛がダンブルドアを襲っているはずだ。
「ダンブルドア先生、ここはスカーレット先生を頼っては如何でしょう。彼女ならマグルの社会にもそれなりの伝手を持っているはずです。医者の知り合いもいるかもしれません」
「そう……そうじゃな。サクヤ、すまんが急いでスカーレット先生を呼んできて貰えるかの。なるべく他の先生には気が付かれないように」
「わかりました」
私は爆発によって薄汚れた自分の服を魔法で清めると、移動魔法でホグワーツの四階にある女子トイレの個室へと移動する。
そして大急ぎでレミリアの私室の前まで走り、部屋の扉を叩いた。
「スカーレット先生! いらっしゃいますか!?」
私が扉の前で大声を挙げると、物凄い勢いで部屋の扉が開かれる。
部屋から出てきたレミリアは私の匂いをスンと嗅ぐと、真剣な表情になった。
「ダンブルドアが大怪我をしたのね?」
「はい。でも魔法による治療に対する呪いが掛かっていて……スカーレット先生ならマグルの医者の知り合いがいるかと思って──」
「待ってて」
レミリアは一度部屋の中へ戻ると、小悪魔を引き連れて帰ってくる。
「急ぐわよ。場所は校長室ね?」
レミリアは私が頷くよりも早く私と小悪魔を脇へ抱えると、凄まじい速度で廊下を走り始めた。
あまりの加速と速度に一瞬意識が飛びそうになるが、何とかそれに耐える。
加速だけならファイアボルトよりも速いんじゃないだろうか。
私が目を回しているうちにレミリアはガーゴイル像の前へと辿り着き、合言葉を言った。
「百味ビーンズ」
するとガーゴイル像は命を吹き込まれたかのように傍へ飛び退く。
レミリアは私たち二人を抱えたまま螺旋階段を駆け上がり、校長室の扉を押し開いた。
「ダンブルドアッ! って、また凄いことになってるわね」
レミリアはダンブルドアに駆け寄り、腕の状態を確認し始める。
小悪魔は軽く目を回しながら手に持っていた革製の鞄を机の上に置くと、中からメスや縫合針などの手術道具を取り出し始めた。
「綺麗に切れてるわね。切断魔法?」
「強い呪いを受けての。わし自らが切り落とした」
「切り落とした右手自体はあります? もし繋げられそうなら繋げますけど」
小悪魔はキョロキョロと辺りを見回す。
ダンブルドアは小悪魔に対し静かに首を振った。
「事の顛末を話すと長くなる。とにかく、右手自体は繋げられる状態ではないの。それに、魔法や魔法薬で回復させようとすると体が崩れてしまう」
「では、このまま止血と縫合ですね。レミリアお嬢様は自分の部屋から輸血用の血液を持ってきてください」
「わかった」
レミリアが校長室を飛び出すと同時に小悪魔は自分の手と道具に清めの呪文をかけ、余分な肉や骨を切除しながら縫合針で傷口を縫い合わせていく。
その途中でレミリアが校長室に戻ってきて、手慣れた手つきで輸血の準備を始めた。
「ダンブルドア、貴方何型?」
「調べたこともない」
「なんで自分の血液型を知らないのよ」
憤慨するレミリアを小悪魔が宥める。
「まあまあお嬢様、魔法界では他人の血を入れるなんていうのは医療行為ではありませんから。大丈夫です。ダンブルドア先生、貴方はO型ですよ」
「O型ね?」
レミリアは大きくO型と書かれた輸血パックを器材へと繋いでいく。
それを見て小悪魔はダンブルドアに言った。
「本当は成分輸血の方がいいんでしょうけど、生憎全血製剤しかありません。まあ元々お嬢様のご飯なのでしょうがないんですけど」
「ありがとう。助かるよ」
ダンブルドアは少し力無く小悪魔に微笑む。
そのようなやり取りをしている間も小悪魔は手術の手を止めることはなく、三十分もしないうちにダンブルドアの右腕は綺麗に縫い合わされた。
「傷口が完全に塞がるまで一月以上は掛かるのでそれまでは安静にしてください。呪いの種類的に、動作を補助するような魔法や魔法具の使用は大丈夫そうなので、魔法で義手をつけることをおすすめします。慣れてくれば特に不自由なく生活できるようになると思いますよ」
小悪魔は手術で使った道具を魔法で清めると、鞄の中へ戻していく。
レミリアは輸血で余った血液の袋にストローを刺してその中身を飲んでいた。
「包帯は定期的に換えないといけないのでしばらくは毎日様子を見にきますね」
「ああ、ありがとう」
ダンブルドアは少し短くなった自分の腕を見る。
レミリアは飲み終わった血液の袋を無造作に放り捨てると、ダンブルドアに言った。
「さて、何があったか聞かせてもらいましょうか。貴方ほどの魔法使いが杖腕を失うなんて、よっぽどのことがあったんでしょう?」
ダンブルドアはどこから話すか迷っているかのように椅子に深く腰掛ける。
そしてしばらく考えたあと、私に視線を飛ばしてきた。
「そうじゃな。順を追って話すとしよう。じゃがその前にしばし失った右腕との別れを惜しむ『時間をくれんか』の」
その瞬間、私は時間を停止させる。
ダンブルドアは周囲の時間が止まったことを確かめると、椅子から少し身を起こして言った。
「お主は本当に優秀な魔女じゃの。サクヤ」
「まあ、スカーレット先生に事情を話す前に私とダンブルドア先生との間で認識を合わせておかないといけないとは思っていたので。スラグホーン先生を助けるにあたって時間を止めたり賢者の石を使ったりと言えないようなことしかしていませんから」
レミリアには私が時間操作の能力を持っていることを教えていないし、今後も教えるつもりはない。
正直に事の顛末を語るにしても、ある程度真実を隠す必要があるだろう。
「その前に、まずはお主の話を聞かせてもらおうかの。ホラスが心臓を吐き出すまでの詳しい経緯じゃ」
まあ、それを尋ねるのは当然だろう。
私は鞄の中から魔法薬学の教科書を取り出すと、ダンブルドアに見せた。
「先生には悪いんですが、分霊箱のことを聞き出すためにスラグホーン先生の部屋を訪れたわけじゃないんです」
私はダンブルドアに教科書を手渡す。
ダンブルドアは机の上に教科書を置くと、左手でページを捲った。
「随分と書き込みのなされている教科書じゃな。この教科書は?」
「スラグホーン先生曰く、私の母親の物であると」
「母親?」
ダンブルドアは私に聞き返すと、再度教科書に視線を落とす。
「スラグホーン先生の話では、私の母親はスリザリン生で、スネイプ先生の一つ下だと仰ってました。……ダンブルドア先生はこの教科書の持ち主に心当たりはありませんか? いや、絶対知ってるはずです。知らないとおかしい。先生は知ってて黙っていたんですよね?」
私の追及にダンブルドアは押し黙る。
動揺している様子はない。
何か考えるように教科書のページを静かに捲ると、教科書から視線を上げて言った。
「お主の言うように、わしはこの教科書の持ち主を知っておる」
「なぜ今まで教えてくれなかったんですか? スラグホーン先生が気が付いたということは、ダンブルドア先生も勿論初めから知っていたわけですよね?」
「お主に教えたくない事情があった。お主の人生を左右する重要なことだからじゃ」
教えたくない事情?
人生を左右する重要なこと?
「そんなこと……貴方が決める事じゃないっ! 私は自分の親が誰か知りたい! その気持ちに事情や人生なんて関係ない!」
私の叫び声が校長室に響く。
ダンブルドアは目を伏せると、静かに言った。
「確かに、お主の人生を決めるのはお主自身じゃ。親のことをお主に教えなかったのは、わしの勝手な都合だったのかもしれん」
ダンブルドアは教科書を閉じ、机の隅に置く。
そして私の目をまっすぐ見ながら言った。
「お主の母親の名はセレネ・アルテミス・ブラックと言う」
「……セレネ・アルテミス・ブラック?」
聞き覚えがある。
いや、最近よく口にした名前だ。
それじゃあ、私は……。
「セレネ・ブラックはシリウス・ブラックの二つ下の妹じゃ。サクヤ、君はブラック家本家の最後の生き残りなんじゃよ」
設定や用語解説
賢者の石に執着があまりないサクヤ
ある意味では富や生にあまり関心がないともとれる思考だが、実際のところサクヤは命の水を飲む気満々だし、生成した金で一生遊んで暮らそうとも考えている。だが、それをする前に片付けないといけない事象が多すぎる。
ダンブルドアの握っていた杖
原作を読んだことがある人なら知っている通り、この時ダンブルドアが所持していたのはニワトコの杖。
全血製剤
採取した血液に保存液を加えたもの。大量出血時の輸血に使われる。レミリアのご飯。
セレネ・アルテミス・ブラック
シリウス・ブラックの二つ下の妹。生まれ月の関係で学年は一つ下。
Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。