P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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後悔と決意と私

「セレネ・ブラックはシリウス・ブラックの二つ下の妹じゃ。サクヤ、君はブラック家本家の最後の生き残りなんじゃよ」

 

「私が、ブラック家の人間?」

 

 待て、待て待て待て……待って?

 私がブラック家の人間で、セレネ・ブラックの娘だとしたら。

 私は今自分の母親の部屋に住んでいることになるのか?

 クリーチャーが私に対し従順なのは私がブラック家の人間だからか?

 私は、去年自分の伯父をこの手で殺したことになるのか?

 思考が混乱する。

 頭の中がぐちゃぐちゃで、考えを巡らせようにも何も考えられない。

 

「混乱するのも無理はない。お主にとっては衝撃すぎる事実じゃろう」

 

 ダンブルドアは、だから言いたくなかったと言わんばかりに首を振る。

 私はその場に膝から崩れ落ちると、両手で頭を抱えた。

 

「そんな、え? 私は……でもあれは仕方なく……」

 

 もし私があの時ブラックを殺さずに投降していたら。

 ブラックに事情を打ち明け謝罪し、和解出来ていたら……

 

 私は今頃、シリウスとハリーの三人で暮らせていたのではないか?

 

「ああ。ああああああぁぁぁぁ……」

 

 まとまり切らない思考が声となり、私の口から漏れ出る。

 私は、自ら幸せな未来の可能性を叩き潰してしまった。

 私が望む平穏で幸せな未来がそこにあったはずなのに!

 

「私は……私は自分の伯父を……自分の家族をこの手で──」

 

 殺してしまった。

 

「わかったじゃろう。人を殺す行為の罪の深さを」

 

 私が顔を上げると、いつのまにか目の前にダンブルドアがしゃがみ込んでいた。

 ダンブルドアは表情に哀れみと同情心を滲ませると、そっと私の肩に手を置く。

 

「殺人というのは取り返しのつかない行為じゃ。お主は殺人を問題の解決手段の一つとしてしまっているが、それはあまりにも短略的で罪深い行為だということを自覚せねばならん。お主があの時シリウス・ブラックを殺していなかったら、今頃違う未来もあったはずじゃ」

 

 私の心の中を見透かすようなことをダンブルドアは言う。

 

「そう、ですよね……先生、私はどうしたら──」

 

 そこまで言いかけたところで、私は思い出す。

 スラグホーンは私の父親が生きていると言っていた。

 そうだ、ダンブルドアならきっと私の父親のことも知っている。

 

「ダンブルドア先生、私の父親は誰なんです?」

 

「なんじゃと?」

 

「だから父親です。スラグホーンは私の父親が生きていると言ってました」

 

 私がそう言った瞬間、ダンブルドアはわかりやすく目線を逸らす。

 

「先生、知ってますよね? 知らないとは言わせない。知らないはずがない」

 

「サクヤ、ホラスは本当に君の父親を知っていると言ったのかね?」

 

 ダンブルドアに言われ、私はスラグホーンの言葉を思い出す。

 そういえば、明言はしていなかったような……。

 

「あ……いや、スラグホーンは私の母と仲のよかった男性がまだ生きているとだけ。でも、その人以外には考えられないと言わんばかりの口調でした」

 

「セレネ・ブラックと仲のよかった男性……なるほどの」

 

 ダンブルドアは立ち上がると、先程まで座っていた椅子へと戻る。

 

「心当たりはある。セレネ・ブラックと仲のよかった生徒はホグワーツ内でも数人しかおらん。その中でも恋仲になるとしたら……一人だけじゃろうな」

 

「一体誰なんです?」

 

 私が聞くと、ダンブルドアは迷ったような素振りを見せる。

 この期に及んでだんまりを決め込むつもりか?

 私は服の下に隠しているナイフに左手を伸ばす。

 だが、そのナイフに触れる前にダンブルドアは口を開いた。

 

「バーテミウス・クラウチ・ジュニアじゃよ」

 

「クラウチが、私の父親?」

 

 あのクラウチが?

 一昨年ムーディに扮していた死喰い人が私の父親?

 

「本当ならば教えたくはなかった。両親共に死喰い人だったと知れば、お主は自ら将来を選択することなく、闇の奥底へと落ちていった事じゃろう」

 

「それは……」

 

 確かにそうかもしれない。

 両親共にスリザリンで、ヴォルデモートの手下だと入学前に知っていれば、私はなんの躊躇いもなくスリザリンに入寮し、なんの躊躇いもなくヴォルデモートに賢者の石を渡していただろう。

 

「お主の将来の可能性を狭めたくはなかった。お主には、自ら未来を選択して欲しかったんじゃ」

 

「まあ、確かにそうかもしれません。自分の父親がクラウチだって入学前に知っていれば、今の私は存在しないでしょう」

 

 ダンブルドアは一度目を伏せると、表情に厳しさを滲ませながら顔を上げる。

 

「サクヤ、改めて問う。ヴォルデモートと戦う意志に変わりはないか? ヴォルデモートと戦うということは、君の両親を裏切ることになる。もしかしたら、クラウチ・ジュニアとも殺し合うことになるかもしれん」

 

「もし仮に、戦わないと言ったら私の処遇はどうなるんです? 石の牢へ逆戻りですか? それとも、ヴォルデモート側につかれる前に殺します? ……先生は残酷な人です。先生に能力の秘密を暴かれ、対策を取られた時点で私は先生の味方をするしかないというのに」

 

「では、引き続きわしの下でヴォルデモートと戦う。そうじゃな?」

 

 ダンブルドアは眼鏡の奥で目をキラリと光らせると、じっと私の目を見る。

 開心術を掛けようとしていることはわかっている。

 ならば、素直に受け入れるまでだ。

 

「はい。私はダンブルドア先生のもとでヴォルデモートと戦います。だから……」

 

 だから、どうか。

 どうか……。

 

「どうか、クラウチ・ジュニアに……私のお父さんに罪を償う機会を与えては下さいませんか? 私がきっと説得します。だから、どうか……」

 

 

 どうか私に家族をください。

 

 

 

 

 

 

 視界が歪む。

 頬を伝う液体は、そのまま重力に従い地面を濡らす。

 生まれてこの方、私は両親というものを知らなかった。

 孤児院という環境で育ったため、それが普通のことだと思っていたし、自分の両親にさして興味もなかった。

 自分の親は自分を捨てたクズ野郎だと、本気でそんなことを考えていた。

 だが、事実は違った。

 私は捨てられたのではない。育てられる状況ではなくなってしまっただけなのだ。

 母親は闇祓いに殺され、その仇を討った父親はアズカバンに収監された。

 残った私を孤児院へ入れたのは魔法省の役人か騎士団のメンバーの誰かだろう。

 今まで私のもとにホグワーツの入校案内が届いたことが疑問だったが、これである程度説明がつく。

 歪む視界の中、私の思考もぐちゃぐちゃに歪む。

 私は止まらない涙を服の袖で拭い、深く腰を折る。

 

「私から、二度も親を奪わないで……お願いします……お願いします……」

 

 私は頭を下げながらもダンブルドアの目をじっと見る。

 ダンブルドアは小さなため息を一つすると、静かな声色で言った。

 

「いいじゃろう。お主が今後もヴォルデモートを滅ぼすための手助けをするというのなら考えてもよい。バーテミウス自身、幼き頃はひたむきに勉学に励む真面目な少年じゃった。ヴォルデモートが闇の道に引き込まなければ、全く違った未来があったはずじゃ」

 

「私の父親を助けてくれる……んですね?」

 

「バーテミウス・クラウチ・ジュニアの処遇について最大限の配慮をすることを約束しよう。もっとも、無罪放免は約束できん。彼はあまりにも殺しすぎている」

 

 ダンブルドアの言葉に、私はほっと息を漏らす。

 生きてさえすれば会いには行ける。

 話をすることも出来る。

 それに、ダンブルドアが本気で働きかければ、クラウチの刑期を大幅に短くすることも可能なはずだ。

 そしたら、私はクラウチと一緒にどこか遠くの田舎で──

 

「随分話が横道に逸れてしもうたの。一度本筋に戻ろう」

 

 ダンブルドアの声で私は妄想の世界から引き戻される。

 

「本筋?」

 

「ホラスが毒を飲んでしまうまでの経緯じゃよ」

 

 ああ、そういえばそんな話をしていたんだった。

 私は後ろで固まっているレミリアの方を一瞬振り返ると、涙を拭い二、三回深呼吸を繰り返す。

 そして私がこの部屋に来た経緯を話し始めた。

 

「先ほどから話題に出ているように、私はこの教科書のことをスラグホーン先生に聞きに来たんです。その時に、スラグホーン先生がこの教科書が母の持ち物であることを教えてくれて……父親の話になる前にスラグホーン先生は蜂蜜酒を一杯煽ったのですが、その瞬間咳き込み始めて……初めは咽せてるだけかと思ったんですが、最終的に自らの心臓を吐き出したんです」

 

「で、その瞬間時間を止めたと」

 

「いえ、その時はスラグホーン先生の時間のみを停止させて校長室にダンブルドア先生を呼びに行ったんです。ですが校長室に先生がいらっしゃらなかったものですから、先生を呼ぶために仕方なく世界全体の時間を停止させたというわけです。私が時間を止めたことがわかれば、どこにいようがすっ飛んでくると思いましたから」

 

 そして、その予想は当たっていた。

 私が時間を止めて一分もしないうちにダンブルドアは私の前に現れた。

 

「そこから先は先生もご存知の通りです。治療のために毒を研究し、治療できたかと思った瞬間、スラグホーン先生が爆発した。その結果先生は杖と腕を失い、私は賢者の石を失った」

 

「なるほどの。何が起きたのか、正確な認識の共有は出来たとみて良いじゃろう。じゃが、ありのままをレミリアに話して聞かせるわけにもいかんのでな」

 

 ダンブルドアは失った右手を左手でそっと撫でる。

 

「わしも初めからスラグホーンの部屋にいたこととする。分霊箱とリドルの件を聞き出すためじゃ。じゃが、その最中にスラグホーンが蜂蜜酒を飲み、わしの杖腕を持って爆発。結果的にわしは右手と杖を失った」

 

「それが自然でしょうね。そして、治療のために校長室へ移動し、今に至ると」

 

 私は清めの魔法を自分自身に掛ける。

 そして目の充血が治っていることを手鏡で確認した。

 

「では、そのように話を合わせます。時間を動かしますので、先程と同じ姿勢を取ってください」

 

 ダンブルドアは小さく頷くと、椅子に深く腰掛ける。

 私もミリ単位で立ち位置を調整し、時間停止を解除した。

 

「別れを惜しむって、貴方ねぇ……そんな悠長なこと言ってる場合かしら?」

 

 時間の動き出したレミリアがため息交じりにダンブルドアに言う。

 

「冗談じゃよ。さて、どこから話したものかの……」

 

 ダンブルドアは先ほど私と打ち合わせた通りの話をレミリアに説明する。

 レミリアはそれを聞いて興味深そうに首を捻った。

 

「スラグホーンが爆発……自爆魔法ってことよね? スラグホーンはそんなに分霊箱のことを喋るのが嫌だったのかしら?」

 

「スラグホーンの様子を見るに、なんらかの毒物か、服従の呪いに掛かっていたのかもしれん」

 

「毒物って貴方……そんな毒があってたまるものですか。爆発するだけならまだしも、治療に対する呪いまで掛けるなんて聞いたことないわ。小悪魔、貴方は?」

 

 レミリアに話を振られ、小悪魔は小さく唸る。

 

「服従の呪文を薬物に落とし込む方法があれば可能かも知れないですけど……でもそれにしては余りにも偶然に頼りすぎていると言いますか。もしスラグホーン先生が一人で蜂蜜酒を飲んだら全てが無駄になってしまうわけですもんね。勝手に一人で爆発して終わりです。まあ、初めからスラグホーン先生を殺すことが目的だった場合はそれで良いんですが」

 

 確かに、もしスラグホーンが一人の時に蜂蜜酒を飲んでいたら、スラグホーン一人が死亡するだけだ。

 これを仕掛けた者の目的は、一体なんだったのだろうか。

 もしダンブルドアの殺害、もしくは負傷を狙ったものだとしたら、あまりにも運に頼りすぎている。

 だが、スラグホーンの殺害を目的としたものだとしたら、もっと簡単な毒でいいはずだ。

 このような複雑な効果をつける意味がない。

 

「確かに偶然に頼りすぎて……」

 

 いや、本当に偶然に頼りすぎているか?

 レミリアと小悪魔には話していないが、スラグホーンは当初心臓を吐き出した。

 もしそれが、ダンブルドアを近くへ誘き寄せるための撒き餌だとしたら……。

 スラグホーンがそのような不審死を遂げたとなれば、確実にダンブルドアはその死体を確認しに来るだろう。

 毒を仕掛けた犯人は、それを狙っていたのではないか?

 もしそうなら、私たちは犯人の手のひらの上で踊らされていたことになる。

 

「とにかく、一度現場を見てみないことには何もわからないわね。私と小悪魔はスラグホーンの部屋へ行こうと思うけど……ダンブルドア、貴方はどうする? 手術も終わったばかりだし、疲れているようならここで休んでいてもいいけど」

 

「すまんのう。お主の言う通り実はかなりヘトヘトじゃ。わしはここで休ませてもらうよ。サクヤ、お主もここへ残るのじゃ」

 

「いえ、先生。私はまだ動けますが」

 

「治療のためじゃよ。お主もあの爆発に巻き込まれたのじゃ。大きな怪我がないとはいえ、治療は早い方が良い。それに、わしの腕の傷と同じ呪いが掛かっておるかどうかも調べんといかん」

 

 確かに、もし私の全身に治癒魔法不可の呪いが掛けられたとしたら今後に大きな影響が出てくる。

 怪我自体は大したことないが、呪いの有無だけでも調べて貰うべきだろう。

 

「ならスラグホーンの部屋へは私と小悪魔で行くわ。何事もなければ一時間ほどで戻ってくるから、少し休んでなさい。行くわよ、小悪魔」

 

「はい。お嬢様」

 

 レミリアは小悪魔を従えて校長室を出ていく。

 ダンブルドアは左手で杖を掴むと、私の体に呪いが掛かっていないか確認し始めた。




設定や用語解説

もしサクヤがあの時ブラックを殺していなかったら
 あの時サクヤがブラックに破れ、捕まっていたとしたらブラックとハリー、サクヤの三人がグリモールド・プレイスの家で共に暮らすという未来は実現しえた。

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