P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
私の足元に赤い血溜まりが広がっていく。
ヴォルデモートは滑り落ちるように血溜まりに倒れ伏すと、そこで時間が止まったのかピクリとも動かなくなった。
「愛しい我が娘って……そういえばそんな設定あったな」
私は魔法で体についた血を清めると、改めてダンブルドアに声を掛ける。
「動き出した時はどうなるかと思いましたけど、今度こそちゃんと死んだと思います。他の死喰い人はどうしますか? お父さんを残して皆殺しでいいですか?」
「全員生きたまま拘束するのじゃ。じゃが、反撃を貰う可能性もある。時間を止めた状態で失神させることは可能か?」
「出来ますよ」
幸い臨戦態勢ということもあり、死喰い人たちは全員杖を握っている。
私は順番に杖を手から引っこ抜いていくと、鞄の中に無造作に放り込んだ。
その後、魔法で出現させたロープで全員を拘束し、少し離れた位置から失神呪文を飛ばす。
失神呪文は真っ直ぐ死喰い人たちに向けて飛んでいくと、当たるギリギリの位置で停止した。
「時間が動き出した瞬間、失神呪文が直撃するという寸法です。名付けてディレイ・ステューピファイ」
「そのまんまじゃな。っと、セブルスは拘束せんでもよい」
「いいんです? パッと見た感じ、彼が死喰い人を先導しているように見えますけど」
「セブルスはこちらの二重スパイじゃ」
私はスネイプの目の前で停止している失神呪文の時間を動かす。
失神呪文はスネイプに当たると、そのまま弾けて霧散した。
スネイプの時間は止まっているので、失神呪文の効果はないはずだ。
「にしては、今日のような不意打ちを受けてますけど?」
「そりゃそうじゃろう。セブルスは先程までホグワーツで教鞭を取っていたのじゃ。きっと異変を感じ取り、わしとの打ち合わせ通りに死喰い人側に与したのじゃろう」
「打ち合わせ通りに?」
「状況が大きく動いたら、セブルスにはさらに深く闇の陣営へと踏み入ってもらうつもりじゃった。敵陣営の中心に味方がいるというのはこれ以上ないほどの切り札となる」
まあ、そういうことならいいか。
私はスネイプに巻き付いているロープを魔法で消失させる。
「それじゃあ、時間を動かしますね」
そして死喰い人たちから少し離れ、時間停止を解除した。
その瞬間、拘束されている死喰い人たちに失神呪文が直撃する。
死喰い人たちは手足を拘束されたまま宙を舞い、そのまま力無く地面へと落下した。
「──ッ!? 一体何が……」
スネイプはいきなり後ろに吹き飛んだ死喰い人たちを目で追い、その後血溜まりに倒れ伏しているヴォルデモートを見つける。
そして何かを悟ったのか、目の前に立つ私とダンブルドアを見た。
「……終わったのですね」
「ああ、これで終わりじゃ」
スネイプは少し寂しそうな目でヴォルデモートを見下ろすと、こちらへと歩いてくる。
私は入れ替わるように再度ヴォルデモートへ近づき、横でのたうち回っているナギニを悪霊の火で完全に焼き殺した。
「それで、この後どうします?」
「まずはこの戦いを終わらせよう。ヴォルデモートが倒れたと知れば、外で暴れている者たちも散り散りになって逃げることじゃろう」
「でしたら、私がヴォルデモートの死体を掲げますので、先生は勝利の宣言を」
私はヴォルデモートの死体を魔法で浮かび上がらせる。
ダンブルドアは何かを確かめるようにヴォルデモートの死体に触れると、スネイプの方を向いた。
「セブルス、拘束した死喰い人を地下牢へ収容するのじゃ」
「わかりました。……それにしても──」
スネイプは気絶したまま床に転がっている死喰い人たちを見る。
「凄まじいの一言に尽きますな。私が貴方を視界に捉えた時には、既に決着はついていた」
「わしではない」
ダンブルドアはそっと私の肩に手を置く。
私はヴォルデモートの死体の左手を掴むと、ホグワーツの一番高い塔の屋上へと瞬間移動した。
城の外は壮絶な戦場と化していた。
校庭には巨人や死喰い人のものと思われる肉片が散らばり、飛び散った血液が緑の芝を紅く染めている。
レミリアはそんな中、二本の赤い槍を構えて残党と対峙していた。
まだ生き残っている巨人や人狼の顔には、明らかな恐怖の色が浮かんでいる。
それはそうだろう。
明らかに死屍累々の自分達に比べ、レミリアは全くの無傷なのだから。
「人狼が力を発揮できるように満月の夜を選んだのでしょうけど、間違いだったわね。満月の夜の吸血鬼は不死身なの」
レミリアは鋭い爪で自らの頬を撫でるように切り裂く。
傷口から真っ赤な血が溢れ出るが、それらの血は地面に滴り落ちる前にコウモリへと姿を変え、レミリアの体の周りを飛び回った。
これは私たちがヴォルデモートの死を告げるまでもないかもしれない。
そう思わせるほどにはレミリアの態度には余裕が感じられた。
「サクヤ、わしに拡声呪文を」
私は言われた通りダンブルドアの喉に拡声呪文を掛ける。
その後、外にいる死喰い人たちに見えるようにヴォルデモートの死体を浮かばせた。
「決着はついた! 闇の帝王は倒れ、その忠実なしもべたちも囚われの身となった!」
ダンブルドアの声がホグワーツの敷地内に響き渡る。
その声に、城の周辺にいた全ての者がこちらを向いた。
「すぐさま戦いを止めるのじゃ。これ以上、無駄に争うことはない!」
死喰い人達の間に動揺が広がっていくのが見て取れる。
レミリアはこちらを見てニヤリと笑うと、巨人の頭領らしき人物に話しかけ始めた。
小さい声で一言二言言葉を交わすと、巨人の頭領は仲間たちに指示を出し、撤退していく。
戦力の要である巨人達がいなくなってはもはや勝ち目はない。
人狼と死喰い人たちは半ばパニックに陥りながら蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「追わなくていいんです?」
「人手が足りんのでの。それに、ここから先は魔法省の仕事じゃ」
私は浮かべていたヴォルデモートの死体を屋上へ降ろす。
あとは城を取り囲んでいる何百もの吸魂鬼をどうにかすれば事態は収束するだろう。
「あとは吸魂鬼ですけど、私、守護霊の呪文は使えないんですよね」
「意外……というほどでもないか。それに関しても心配しなくてもよい。ちと到着は遅かったが、魔法省もしっかりと仕事をしていたようじゃ」
その瞬間、箒に乗った魔法使いの集団が、編隊を組みながら吸魂鬼の包囲網を突破してホグワーツの敷地内に入ってくるのが見える。
魔法省の闇祓い達だ。
闇祓い達は守護霊の呪文を使って吸魂鬼をホグワーツの敷地の外へ外へと追いやっていく。
そんな中、真っ直ぐこちらへ飛んでくる影が三つあった。
魔法大臣のルーファス・スクリムジョールに、その補佐官のパーシー・ウィーズリー。
そして護衛役だと思われるキングズリー・シャックルボルトだ。
スクリムジョールは塔の上へと降り立つと、私の足元に転がるヴォルデモートの死体を見る。
そして信じられないと言わんばかりの表情で口を開いた。
「やったのか? つまりは……その……終わったのだな?」
「いかにも。戦いは終わった。我々の勝利じゃルーファス」
スクリムジョールはつま先でヴォルデモートの死体をつつき、動かないことを確認すると、憑き物が取れたかのように笑みを浮かべる。
「そうか……そうかそうか! ついに終わったか! はは、そうかそうか! また勲章が増えることになるなダンブルドア!」
「今回、わしは何もしとらんよ。ヴォルデモートを撃ち破ったのはこの子じゃ」
ダンブルドアは私の肩に右手を伸ばし、義手がないことに気がつくと静かに手を下ろす。
スクリムジョールは一瞬ダンブルドアが何を言っているのか理解できていなかったが、すぐに目を丸くしてこちらを見た。
「それではサクヤが……彼女が例のあの人を殺したのか?」
「左様じゃ。勲章はわしではなく、ヴォルデモートを撃ち破ったサクヤや、ホグワーツ城を一人で守り切ったレミリア嬢にこそ贈られるべきじゃ」
「すぐに手配しよう。早急に彼女達に勲章を贈らなければ、私はきっと市民から大ブーイングにあい大臣職を降ろされてしまうことだろう。パーシー! カメラは持っているな? 歴史に残る写真になるぞ!」
スクリムジョールはパーシーにカメラを構えさせるが、ダンブルドアがそれを制止する。
「浮かれすぎじゃ。写真を撮るのはマーリン勲章の授与式の会場でも遅くはない。それよりも、お主にはまだ仕事が残っているとわしは思うのじゃが?」
「……そうだな。少しおかしくなっていた。礼を言う。私は闇祓い達の指揮に戻ろう」
「それがよい。それと、ホグワーツの地下牢に何人かの死喰い人を拘束しておる。今は失神呪文にて意識を失っておる状態じゃ」
「わかった。そちらにも人手を回そう」
スクリムジョールは箒に飛び乗ると、パーシーとシャックルボルトを引き連れて飛び去っていった。
そして、三人と入れ替わるようにしてレミリアが塔の上へと着地する。
レミリアはヴォルデモートの死体を一瞥するとやれやれと言わんばかりの表情で息をついた。
「うまくいったようね。貴方が留守の間に襲撃があったときはどうなることかと思ったけ、ど……」
レミリアは途中で言葉を切ると、ダンブルドアを上から下まで眺めて口をポカンと開ける。
「貴方誰?」
美鈴は私たちのような存在は魔力を魔法使いより感覚的に捉えていると言っていた。
吸血鬼のレミリアからすれば、魔力の消え去ったダンブルドアというのはほぼ別人に見えるのだろう。
「まあ、このような状態では無理もない」
「ヴォルデモートを殺すために全魔力を犠牲にしてスーパーミラクルな魔法を使ったというわけでもないんでしょう? 今の貴方、完全にマグルよ?」
「分霊箱を入手する過程で少しの。まあ、ヴォルデモートが倒れた今、もはやどうでもよいことじゃ」
どうでもよいことではないだろう。
あのダンブルドアの魔力が失われたのだ。
イギリス魔法界にとってこれ以上ないほどの損失だ。
「一体何があったのよ」
「事情は後じゃ。今は後処理を進めよう」
確かに、今は悠長に話している場合ではないことは確かだ。
「……わかったわ。私は小悪魔のところに行ってくる。サクヤ、ダンブルドアを一人にしてはダメよ?」
レミリアは私に釘を刺すと、塔の上から飛び降りる。
私はレミリアが凄い音を立てて地面に着地したことを見届けると、改めてヴォルデモートの死体を見下ろした。
「最期、ヴォルデモートが何か言ったの聞こえました?」
「ヴォルデモートが最期に何かを語ったのか?」
その言い振りから察するに、ダンブルドアにはヴォルデモートの言葉は届いていなかったようだ。
「いえ、何か言ったような気がしていたのですが、多分私の気のせいですね」
一年前の私になら、ある程度効果のある戯言だったかもしれないが、今の私は自分の両親の正体を掴んでいる。
ヴォルデモートとの親子ごっこはもう終わりだ。
「先生……約束、覚えてますよね?」
「勿論じゃとも。じゃが、少々時間が掛かることは覚悟しておいてほしい。物事には手順というものがある」
「わかりました。待ちます。お父さんの罪が軽くなるなら……私……」
父には殺人歴もある。
ダンブルドアの権力でどこまで罪を軽くできるかは正直わからない。
だが、それでも、私は家族が欲しい。
設定や用語解説
満月の日の吸血鬼
吸血鬼の魔力は月齢により大きく変化する。といっても新月の夜になると魔力が全く無くなるわけでもなく、月が出ているとパワーアップするぐらいのイメージ。
Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。