P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
「お前はセレネと、闇の帝王との間に生まれた子供だ」
クラウチの口から信じれない言葉が出る。
私が闇の帝王の……ヴォルデモートの子供?
「そ、そんなわけない。それはヴォルデモートと私が示し合わせてついた嘘で──」
「嘘? そんなわけないだろ。闇の帝王の肉体を復活させる際、何のためにお前の血を混ぜたと思ってるんだ。父親の骨、下僕の肉……そして、娘の血が無ければ闇の帝王の復活はなかった」
「私はハリーの代わりだって……本当はハリーの血が良かったけど仕方なく私の血を使ったって……」
「それは本当だ。本来の魔術では娘の血ではなく敵の血を入れる。だが、何かの手違いで代表選手はお前になった。その時、闇の帝王はお話になったのだ。何かの手違いでハリー・ポッターの代わりに代表選手に選ばれたサクヤ・ホワイトは自分とセレネ・ブラックとの間に出来た子供だということを」
そんなはずはない。
そんなことがあっていいはずがない。
「嘘よ。ヴォルデモートが私の父親のはずが……第一、私はパーセルマウスじゃない」
「パーセルマウスの子供が全員パーセルマウスを受け継ぐわけじゃない。もしそうだとしたらサラザール・スリザリンの血を少しでも引いている魔法使いは全員パーセルマウスになっているはずだ。お前はどちらかというとセレネの血を色濃く継いでいる。正直見分けがつかないほどにな」
「嘘……嘘よ! そんなはずはないわ! だって、もしそうなら……私がヴォルデモートの娘なんだったとしたら──」
私は、実の親すらもこの手で殺したことになるのか?
「闇の帝王がお前の父親じゃないのなら一体父親は誰だというんだ?」
「だから、クラウチ貴方が──」
「俺じゃねえって……何度も言わせるな。俺とセレネはそんな関係にはなかった。あのセレネが誰かと体を重ねたとしたら、それは闇の帝王以外にはあり得ないだろう。闇の帝王が一度お隠れになった年の一年ほど前から闇の帝王はセレネをそばに置いていた。セレネはな、闇の帝王のお気に入りだったんだよ」
「そ、そそそんなこと……ありえないわ。私の父親がヴォルデモート? それじゃあ、ヴォルデモートはなんで私を騙すようなことを」
そう、そんなことはありえない。
もし私がヴォルデモートの娘なのだとしたら、あのような嘘を私につく必要がない。
つまり、嘘をついているのはこいつだ。
バーテミウス・クラウチが私に嘘をついている。
「ありえないありえないありえない」
そんなことはあり得ない。
「う、嘘を吐かなくてもいいんですよ? お父さん。折角助かるんですから。ねぇ、私と一緒に暮らすのは嫌? 私、お父さんと一緒に暮らすために──」
「何度だって言ってやる。お前は俺の娘じゃない。お前がどれだけ否定しようが、お前には闇の帝王の血が流れている。お前の血で肉体を復活させることが出来たのが何よりの証拠だ」
嘘だ。
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。
「嘘をつくなァアアアアアア!!」
私は力任せに鉄格子に拳を振り下ろす。
鈍い金属音と共にひしゃげた鉄格子を無造作に掴むと、そのまま引きちぎる。
そして出来た隙間へと体をねじ込み、クラウチに迫る。
「う、嘘じゃない! なんだ? 知らなかったのか?」
「知っていたら殺してない! 知っていたら裏切ってない!」
私は右手でクラウチの胸倉を掴み、牢の石壁に叩きつける。
クラウチはなんとか私の右手を離そうと両手で私の手首を握るが、全く力が入っていなかった。
「私はヴォルデモートとは協力関係にあっただけで……自分の親だって知っていたら裏切っていなかった」
「ぐっ……おい、そんな馬鹿な話があってたまるか。そ、それじゃあなんだ? お前だけが闇の帝王を自分の親だと認識していなかったとでも言うのかよ?」
クラウチは苦しそうに足をバタつかせる。
そのままの勢いで私の腹部に数発蹴りを入れてきたが、まるで赤子に撫でられているかのようだった。
「親なはずがない。私の親はセレネ・ブラックと……でも、クラウチじゃないなら」
私は掴んでいたクラウチを力任せに投げ捨てると、鉄格子の外に視線を向ける。
「クラウチが私の父親じゃないなら、私の父親は一体誰?」
その問いに答えるものはいない。
ふと血液の生臭さを感じ、私は床を見る。
そこには大きな血だまりと、壁にへばりつくように潰れているクラウチの死体があった。
「あれ?」
確かに壁に叩きつけたが、そんなに強く投げていない。
クラウチの死体は顔が完全に潰れており、その隙間から脳が飛び出ていた。
「あれ? お父さん? じゃ、ないんだっけ? あれ?」
私はクラウチの死体の横にしゃがみ込み、肩を揺する。
「じょ、冗談よね? だって、軽く放り投げただけで」
「誰だ!!」
その瞬間、突如後ろから声を掛けられ、私は弾かれるように振り返る。
そこにはスネイプとダンブルドアの姿があった。
「そこで何をしているのだ? サクヤ・ホワイト」
スネイプは牢屋の中にいるのが私だと分かると、ダンブルドアを通路の入り口に待たせてこちらへと近づいてくる。
そして私の足元で死んでいるクラウチを見つけ、足を止めた。
「何故だ? 何故殺した。何故、自らの親を……」
「親? やっぱりクラウチが私の親なんです? でも、本人は違うって……」
「それだけの理由で殺したのか?」
「し、死んでません! 多分。まだ息があるはずなんです!」
私は千切れかけているクラウチの頭部を持ち上げると、溢れた脳を手で掬い頭蓋骨の中に押し込む。
その瞬間、クラウチの口から空気の漏れる音が聞こえた。
「ほ、ほらまだ死んでない! 賢者の石……は粉々になったんだった。スネイプ先生の力があればすぐにこんな怪我治りますよね?」
私は怪我をしているクラウチを引きずりながら牢から出る。
その時クラウチの体が牢に引っかかり、頭部が千切れた。
「あ」
怪我がさらに酷くなってしまった。
私はクラウチの頭部を持ったままスネイプに近づいていく。
「でも、クラウチは私の父親じゃないらしいんです。俺とセレネはそんな関係じゃなかったって」
「な、なにを言っている。お前の父親はクラウチで──」
「じゃあ、やっぱり私は実の父親を殺したということですか?」
私はスネイプに向かってクラウチの頭部を投げつけると、時間を停止させる。
そしてスネイプに隠れるように立っていたダンブルドアへと近づいた。
「そこのところどうなんです? ダンブルドア。私の実の父親は誰なんです?」
ダンブルドアは慌てて視線を逸らす。
開心術を警戒したのだろうか。
だが、マグルと成り果てたダンブルドアに私の開心術を回避する手段などない。
「先生は知っていますよね? 私の父親は誰ですか?」
「……そこにいるクラウチじゃ」
違う。
ダンブルドアは嘘をついてる。
私は開心術でダンブルドアの心の中へと潜り込む。
そこには私に嘘をついていたことへの罪悪感と、私の親がヴォルデモートであるということを確信しているダンブルドアの心があった。
「貴方は、全部知っていたの? 全部知ったうえで、私に親を殺させたの?」
「し、仕方のないことじゃった。お主の勘違いを利用したことは謝る。じゃが、それ以外に魔法界とお主を救う手立てはなかった」
「嘘を吐くな! 貴方が救いたかったのは魔法界だけだ! 私のことなんてこれっぽっちも考えてない! お前は意図的に私にクラウチが親だと勘違いさせたんだ!」
そうだ、最初にクラウチが私の親かもしれないと言ったのはダンブルドアだ。
ダンブルドアは意図的に私を騙し、利用し、親を殺させたのだ。
「貴方はヴォルデモートが私の父親だと知っていたの?」
「……知っておった。じゃが、それには──」
「知っていて……私が家族を欲していると知っていて! 知っていたのに自分の都合で! 私のことなんて何も考えずに!」
私はダンブルドアに詰め寄る。
ダンブルドアは嘘をついていない。
つまりダンブルドアはヴォルデモートが私の父親であると知っていたのだ。
「知っていたら、君はヴォルデモートを裏切らなかったじゃろう?」
「当たり前だ! 親を裏切る子がどこにいる!? やっと見つけた自分の父親なのに、やっと私にも家族ができると思ったのに……」
こいつのせいで、こいつのせいで全てが狂った。
こいつさえいなければ、私は幸せな人生を送れていたに違いない。
「すまなんだ。でも、わしはお主の幸せを願って──」
「親を殺して得る幸せなんて欲しくない! 私は……私は例え不幸になろうとも親の温もりが欲しかった……」
目の奥から涙が溢れ、視界が歪む。
今思えば、ヴォルデモートは私へ愛情を注いでくれていた。
私は勝手に親子ごっこの延長だと思っていたが、ヴォルデモートはちゃんと私を愛していたのだ。
今なら、ヴォルデモートの最後の言葉の意味もわかる。
ヴォルデモートは、私のお父さんは死の直前まで私の幸せを願ってくれていたのだ。
「ぁぁぁぁああああああああ!!!」
こいつのせいで!
このマグルのせいで!
私はローブの下に隠し持っていたナイフを引き抜くと、ダンブルドアに振りかぶる。
ダンブルドアは黙ってナイフを見つめると、静かに目を瞑った。
「すまん、約束は守れそうにない」
私はダンブルドアの胸にナイフを振り下ろす。
鋭く砥がれたナイフはダンブルドアの肋骨の隙間から体内に侵入し、心臓を貫いた。
鮮血がダンブルドアの洋服を赤く染めていく。
ダンブルドアは自分の胸に生えているナイフに視線を落とすと、ゆっくり仰向けに倒れた。
私はこの時、初めて私怨で人を殺した。
時間が止まっている世界というのは恐ろしく静かだ。
周囲にある物質は全て止まっているため、音を発することがない。
聞こえてくるのは自分の呼吸の音と、心音だけだ。
「ディフィンド」
ビシャリ、と周囲に血液が飛び散る音が響く。
胴体から切断された右腕は、力なく地面に落ちると同時に切断面から血液が溢れ出す。
だが、すぐに時間が停止し、出血は止まった。
右腕ではない。
「ディフィンド」
胴体から左腕が落ちる。
すぐに出血は止まる。
左腕ではない。
「ディフィンド」
右足、違う。
「ディフィンド」
左足でもない
「……ディフィンド」
私はダンブルドアの首めがけて切断呪文を掛ける。
魔法の閃光が当たった瞬間、コメディーのようにダンブルドアの首が飛び、そのまま壁に跳ね返って床に転がった。
頭部の時間は止まっていない。
「やっぱり頭部か」
私は切断魔法でダンブルドアの頭を輪切りにすると、鏡の破片を探す。
すると、脳の一部に銀色に変色している箇所を見つけた。
きっと、これが両面鏡の一部だろう。
完全に脳と一体になっている。
「……摘出は無理ね」
私は銀色に変色した脳の一部を悪霊の火で焼き尽くす。
強い魔力を当てて掛けられている魔法を無効化することは出来るだろうが、私の脳がそれに耐えられないだろう。
なんにしても、ダンブルドア側の破片は焼いた。
これで私を縛るものは何もない。
「もうやだ」
もう、家に帰ろう。
こんなところにいても仕方がない。
私は血まみれの自分自身に清めの魔法をかける。
そして、時間を止めたままロンドン……グリモールド・プレイスにある自宅へと姿くらましした。
グリモールド・プレイスにある自宅の自室に姿現わしした私は、着ている服を全て脱ぎ捨てるとバスルームに向かい時間停止を解除する。
そしてバスルームへと入ると、シャワーのバルブを捻った。
それと同時に魔法により熱せられた水が、シャワーヘッドから勢いよく飛び出してくる。
魔法とは便利なものだ。
電気やガスなど必要ない。
使用者の持つ魔力を用いて、水をお湯へと変える。
私は熱すぎるぐらいに感じるシャワーで全身にこびり付いた穢れを落としていく。
清めの呪文で血液自体はもう体についていないが、それでもどこか気持ち悪い。
どれだけ魔法で体を綺麗にしても、どこかスッキリしないのだ。
「……気持ち悪い」
ガシガシと私の白い肌を指で擦る。
だが、どれだけ洗っても、私の体から赤い色は取れない。
「取れない、取れない取れない取れない!」
全身を掻きむしり、必死に穢れを落とす。
「ああああああぁぁぁぁぁあああああああああ!!!」
どれだけ洗っても、どれだけ洗っても、私の肌には白さが戻らない。
まるで今まで浴びた血が私の肌に沁みついているように。
「ああああああああ痛ッ!?」
私はふと我に返り、過呼吸気味になりながらもバスルームに取り付けられている鏡で全身を確認する。
そこには、全身掻き痕だらけで皮膚が真っ赤になっている私の姿があった。
「……あほらし」
肌を掻いたら赤くなる。
当たり前の話ではないか。
私は魔法で体の傷を治すと、タオルで体を拭き、そのまま服も着ずに二階へと戻る。
そして、タオルを部屋の隅に投げ捨て、ベッドの中に潜り込んだ。
何も考えたくない。
もう魔法界なんて知らない。
やっぱり間違いだったんだ。
あの時、孤児院にやってきたマクゴナガルを毅然とした態度で追い返すべきだったんだ。
そしたら今頃私は誰一人殺すことなく、時間操作で多少インチキしながら面白おかしく平穏な人生を送れていたに違いない。
もういいじゃないか。
もう戦いは終わった。
平和な世界に英雄の居場所はない。
ホグワーツの卒業がどうした。
イモリの成績が何だって言うんだ。
そんなものなくたって生きていける。
私は、ただのんびりと平穏な日々を過ごしたかっただけなのに。
頭までシーツに包まり、外部からの情報を遮断する。
ギシ、と廊下を何者かが踏む音が聞こえるが、部屋に入ってくる様子はない。
私の帰りを察知したクリーチャーが様子を見にきたのだろう。
部屋に入ってこないあたり、優秀な屋敷しもべだ。
目が覚める頃には、立派なブレックファーストが出来上がっているに違いない。
そうだ、クリーチャーを連れて旅にでも出よう。
屋敷しもべ妖精に屋敷を離れた生活ができるのかどうかは知らないが、なんとでもなるはずだ。
ヨーロッパをくるっと回って、それからアメリカ。
中国や日本なんかも面白いかもしれない。
そんなことを考えると、なんだか楽しくなってくる。
私はシーツの中でほくそ笑むと、そのまま睡魔に任せるままに夢の世界へ落ちていった。
設定や用語解説
パーセルマウスの子供はパーセルマウス
ゴーントの家系は脈々とパーセルマウスを引き継いでいるため、サクヤがパーセルマウスを引き継いでもおかしくはなかった。むしろ引き継いでいないことがある意味での異常。父親の代でマグルの血が混ざったためかあるいは……
Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。