P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
side B 三十二番の番号札 (私は睡眠中)
血飛沫と共に死喰い人の生首が飛んでくる。
それに一瞬目を取られたのがいけなかった。
いや、スネイプに落ち度は何一つない。
スネイプがどれだけ気を張っていたとしても、結果は何も変わらなかっただろう。
目の前からサクヤ・ホワイトが消える。
それを認識した時には、全てが終わっていた。
「……っ!? ダンブルドア!」
消えたサクヤの姿を探すよりも先に、スネイプは後ろにいるはずのダンブルドアの安否を確認する。
だが、目の前に広がっている光景は、普段から冷静沈着なスネイプを慟哭させるのに十分だった。
スネイプがその場から動くことができたのは、ダンブルドアの死を認識してから五分ほどしてからだった。
とにかく、まずはこの惨状をしかるべきところに報告しなければならない。
幸いなことに、ここは魔法省の敷地内だ。
少し階段を上るだけですぐに闇祓いの本部がある。
スネイプは何度か大きく深呼吸すると、法廷のある階に戻るために踵を返す。
だがその瞬間、上の階から物凄い速度で小さい何かが駆け込んできた。
「──っ!? クソ、やっぱり間に合わなかったか」
その小さな影はレミリアだった。
レミリアはすでに生きている者がスネイプしかいない空間を見回すと、大きなため息をつく。
そして少し遅れて顔を覗かせた小悪魔に言った。
「ダメよ。逃げられたわ」
「まあそうですよねぇ。間に合うはずありませんって」
小悪魔はそう言って肩を竦める。
レミリアは地面に散らばるダンブルドアの死体の前へと移動すると、小悪魔に対し手招きした。
「遺体の縫合は出来る?」
「私を誰だと思ってるんですか。縫合なんてしなくても元通りに出来ますよ」
小悪魔は杖を取り出すと、ダンブルドアの死体に向けて振る。
するとバラバラだったダンブルドアの死体がまるで逆再生でも見ているかのように一か所に集まっていき、元通りにくっついた。
「足りない部位は?」
「脳です。脳の一部が欠損していますね」
「脳……なるほど、それでか」
レミリアは一人納得すると、今度は呆然と立ち尽くしているスネイプに声を掛けた。
「一体何があったのよ」
スネイプは、少しの間レミリアの顔を見下ろすと、ハッと我に返ったように首を振った。
「サクヤ・ホワイトだ。奴がクラウチとダンブルドアを殺し、この場から逃げ去ったのだ」
レミリアはそれを聞くと、やれやれと肩を竦める。
そして少し呆れ顔で言った。
「そんなことは想像の範囲内よ。私が聞きたいのは、どうしてサクヤ・ホワイトがダンブルドアを殺して逃亡するような事態になっているかということなんだけど」
「それは……」
スネイプは修復されたダンブルドアの死体を見る。
「言えん。ダンブルドアには秘密にするようにと言われている」
「そのダンブルドアが死んだからこそ聞いているんだけどねえ……。まあ、その話はあとでいいわ。とにかく、この惨状を引き起こしたのはサクヤで間違いないのね」
レミリアの問いに、スネイプは頷く。
レミリアは何かを考えるような仕草を見せてから、顔を上げて小悪魔に命令した。
「魔法大臣と闇祓いを呼びなさい。ダンブルドアの死は秘密にしておけるようなものでもないわ」
「わかりました」
小悪魔は杖を引き抜くと、音もなくその場から消えるようにいなくなる。
スネイプはその姿を見届けると、今度はクラウチの死体の前でしゃがみ込んだレミリアに対して聞いた。
「スカーレット嬢はどうしてこの場所へ? ここにバーテミウス・クラウチが移動させられてきたことは一部の人間しか知らないはずだが」
「マグルのおじいちゃんを何の加護も無しに放り出すわけないでしょ? ダンブルドアのバイタルに何か異常があったら私に連絡が来るように魔法を掛けていたの。大怪我を負ったり何者かに殺されそうになった場合、すぐに駆け付けられるようにね」
まあ、その結果がアレだったわけだけど。と、レミリアはすっかり綺麗になったダンブルドアの方を見る。
「ダンブルドアの心臓がいきなり止まったからてっきり死の呪文でも喰らったのかと思ったんだけど……この様子だと違うわね。さっき見た限りじゃ、胸にある刺し傷は魔法ではなく物理的な刃物によって開けられたものだった。心臓を一突きされてから、魔法で死体をバラバラにした。そんなところかしら。っていうか、貴方この場に居たんでしょう? 実際のところどうなのよ?」
レミリアの問いに、スネイプは考える。
そして結論が出たのか、決意を固めた目でレミリアを見た。
「……ダンブルドア亡き今、私一人の力じゃホワイトは止められない。全てを話すことを約束しよう」
「ええ、そうしなさい。精々厄介ごとを私に押し付けるといいわ」
レミリアはそう言いながらも不敵に微笑んだ。
「なるほどねぇ。サクヤは元死喰い人で、ハリーを殺したのもサクヤで、サクヤはトム・リドルとセレネ・ブラックの娘で、本人はそのことを知らなくて、クラウチを父親だと思いこませていいようにこき使って、その嘘がバレて激怒したサクヤにダンブルドアは殺されたと。で、その肝心のサクヤは時間操作能力持ちときた」
「その様子だと、ある程度の情報は掴んでいたのか?」
スネイプから話を聞き終えたレミリアは、スネイプからの問いに曖昧に頷く。
「まあ、サクヤが変な能力を持っているということは薄々気が付いていたわ。じゃないとダンブルドアがあそこまで重用するとは思えないもの」
にしても……とレミリアはダンブルドアの顔を見る。
「割と自業自得じゃない?」
「ダンブルドアは最後までサクヤ・ホワイトの幸せを願っていた。それは事実だ。だからこそ、この場に来たのだ」
「……なるほどね。クラウチや貴方たちが何故こんなところにいるかが謎だったけど、そういうこと。貴方たち、クラウチの記憶を書き換えにきたのね」
何故クラウチだけがアズカバンから出され、魔法省の地下深くへと移動させられたのか。
スネイプはレミリアの問いに対し何も答えなかったが、その沈黙こそが何よりの答えだった。
「サクヤがこの場に現れなければ、サクヤは偽りの父親と共に幸せに暮らせていたと。そういうことね」
サクヤにとって何が一番幸せか、それはこの場にいる誰にもわからない。
だが、ダンブルドアからすれば、その結末が許容できる中では一番いいものだったのだろう。
嘘はつき通せば真実になる。
だが、それは最後までつき通せたらの話だ。
「ダンブルドアも、そういうことなら私にも話してくれればよかったのに」
レミリアはつまらなそうにそう呟く。
その時、バタバタという足音と共に多くの魔法使いが地下牢のある空間へと傾れ込んできた。
「これは……」
先陣を切って入ってきたスクリムジョールは、綺麗に整形されたダンブルドアの死体を見つけると、しゃがみ込んで首筋に指を当てる。
そしてダンブルドアが本当に死んでいることを確認し、ひどく顔を歪ませた。
「まさかそんなことが……本当にサクヤ・ホワイトがダンブルドアを?」
スクリムジョールは立ち上がると、レミリアとスネイプに向けて問う。
「状況からしておそらくは……」
「おそらく? スネイプ、君はダンブルドアと共に魔法省を訪れていたのだろう?」
スクリムジョールの問いに、スネイプはチラリとダンブルドアの方を見る。
その様子にレミリアは大きなため息をつくと、スクリムジョールに対して言った。
「もうこの際秘密にしておく必要もないでしょう? サクヤが完全に敵に回ったんだから」
「秘密? なんのことだ?」
秘密という単語を聞いて、スクリムジョールは少し怪訝な表情になる。
そんなスクリムジョールに対し、レミリアは肩を竦めながら言った。
「いや、私も今知ったんだけどね。サクヤ、時間を止めれるんですって」
「……なんだと?」
スクリムジョールは時間を止められるという話を聞き、口に指を当てて考え始める。
そして、すぐに顔を青く染めた。
「もし、その話が本当なのだとしたら、サクヤ・ホワイトの今までの行動にかなりの違和感が出てくる」
「まあ、そうでしょうね。そんな強力な力があるのだとしたら、ハリーと共に例のあの人に捕まった時、難なく脱出できてないとおかしいし」
レミリアはクラウチやダンブルドアの死体を調査、回収し始めた闇祓いたちを横目に、スクリムジョールに言った。
「その辺の話も含めて、紅茶でも飲みながらゆっくり話をしましょう。ダンブルドアからも是非話を聞きたいしね」
レミリアはポケットの中に手を突っ込むと、小さな黒い石が嵌められた指輪を取り出す。
そしてそれを見せつけるように右手の親指に嵌めた。
レミリア、スネイプ、スクリムジョールの三人は魔法省地下一階にある応接室へと移動すると、向かい合うようにしてソファーに腰掛ける。
レミリアは机の上を見て眉をぴくりとさせると、後ろを振り向き何かに気が付いたかのようにため息をついた。
「そういえば調査のために地下牢に残したんだったわ」
「紅茶をご所望ですかな?」
スクリムジョールはレミリアの些細な態度に気がつき、席を立つ。
そして近くにある棚からティーセットを取り出すと、いそいそとお茶の準備を始めた。
「気が利くじゃない」
「あまり味に期待されても困るがね。昔はよく淹れたが、今では家族サービスでぐらいしか淹れていないのでな」
「まあこの際味には期待しないわ。うちの従者と同じレベルを求めるのは酷だもの」
レミリアは少し上機嫌そうな表情になると、ソファーに深く背中を預ける。
そして親指から指輪を外し、手のひらの上で転がした。
その瞬間、レミリアの横にダンブルドアの姿が浮かび上がる。
スネイプはその光景を見て、目を皿のように見開いた。
「ご機嫌いかがダンブルドア。随分顔色が悪いじゃない」
レミリアは現れたダンブルドアに対して茶化すように言う。
ダンブルドアは軽く周囲を見回すと、空いているソファーの一角へとちょこんと座った。
「わしはてっきり、お主に殺されるものとばかり思っておったのだがのう」
「随分なこと言ってくれるじゃない。私は善良な吸血鬼よ。そんな極悪非道なことしないわ」
レミリアはそう言って少し頬を膨らませる。
紅茶を淹れていたスクリムジョールは、いきなり応接室に出現したダンブルドアに紅茶のトレイをひっくり返しそうになるが、なんとか持ち堪えて机まで運んできた。
「な、なぜダンブルドアがここに? いや、ゴーストか?」
「蘇りの石よ。聞いたことない?」
スクリムジョールはティーカップに紅茶を注ぎながら、必死に何かを思い出そうと首を捻る。
そして何かを思い出したのか、怪訝な表情をした。
「いやいや、あれはおとぎ話だろう? では何か? 透明マントやニワトコの杖も実在しているとでも?」
スクリムジョールのその言葉を聞き、半透明のダンブルドアが朗らかに笑う。
「実在しておるとも。わしはそのうちの二つを過去所持しておった。透明マントと、ニワトコの杖じゃ」
「え? マジ? それ早く言いなさいよ。そして遺産として私に譲渡しなさい」
「吸血鬼は杖を使わんじゃろう? それに、杖の方はわしの右腕とともに消えてしまった」
「でもマントはまだあるんでしょう?」
ダンブルドアは小さく頷く。
「じゃがの、あのマントはお主よりも必要としておるものがきっとおる。それに、死から隠れてコソコソするなぞ、お主らしくないんじゃないか?」
レミリアはダンブルドアの言葉に少し耳を赤くすると、誤魔化すように羽をパタパタした。
「え、ええもちろんよ。私は夜を支配する偉大で強大な吸血鬼だもの」
「蘇りの石だけで満足して欲しいところじゃな」
「これを見つけたのは私の方が早かった! 貴方にとやかく言われる筋合いはないわ!」
レミリアはスクリムジョールの淹れた紅茶を一口のみ、ふうと息をつく。
そして、茶番はここまでと言わんばかりに真面目な表情になった。
「そこのスネイプから大体の話は聞いたけど、私は是非貴方の口から詳しい話を聞きたいわ。貴方とサクヤ・ホワイト、そしてヴォルデモート卿の話をね」
ダンブルドアはお腹の上で指を組むと、大きく息をつき、天井を見上げる。
「そうじゃの。わしが死んだ以上、話しておかねばなるまい」
そして、いつになく真剣な表情で口を開いた。
その時だった。
『ダンブルドアさーん。三十二番でお待ちのアルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドアさーん。審判の順番が回ってきましたので法廷までお願いしまーす』
そのような女性のほんわかした声が聞こえたかと思うと、ダンブルドアの体が宙に浮き上がる。
「あ、どうやら順番のようじゃ」
「いやちょっと待ち──」
浮き上がるダンブルドアをレミリアが捕まえようとするが、実態のない霊体に触れるはずもなく、ダンブルドアの体はそのまま天井を突き抜けて天へと昇っていってしまった。
「……レミリア嬢、今のは?」
「死後の審判でしょうね。審判が始まってしまったら数時間は呼び出せないわ」
レミリアは大きなため息をつくと、気が抜けたようにソファーにぐでっともたれかかる。
「なんにしてもサクヤ・ホワイトの指名手配はしておいたほうがいいわ。シリウス・ブラックの時のようにマグルの大臣にも話しておいた方がいいわね」
「もとよりそのつもりだ。だが、その前にサクヤ・ホワイトに対する情報がもう少し欲しい。もし本当に時間停止などという能力を持ち合わせているのだとしたら真っ向から対峙していい相手ではない」
それもそうか、とレミリアはスネイプの方を見る。
「それじゃあ、とりあえず知っている限りの全てを大臣に報告しなさいな」
そして半ば投げやりにそう言った。
設定や用語解説
一方その頃サクヤは
シャワー浴びて自宅のベッドで就寝中。
ニワトコの杖
スラグホーンの爆発により右手と一緒に粉々になってしまった。
透明マント
ダンブルドアが所持。
Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。