P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
フォークが落ちる甲高い音が部屋に響く。
画面の向こうにいるニュースキャスターは、私がいかに凶悪で、危険な存在かを単調な口調で繰り返し読み上げている。
私はそのニュースを見ながらも、思考を巡らせていた。
このニュースはおかしい。
確かに私はグリモールド・プレイスの自宅で五人殺した。
だが、死体は私が所持している。
身元がわからなくなるほど損傷させてない。
それにサクヤ・ブラックという名前。
確かに私にはブラック家の血が流れているが、今まで一度も名乗ったことのない名前だ。
何故ホワイト姓でもなくリドル姓でもなく、ブラック姓なのか。
その答えも、すぐにニュースキャスターが教えてくれた。
『また、容疑者と見られているサクヤ・ブラックは数年前にイギリスを震撼させた殺人鬼、シリウス・ブラックの親族であると見られており、彼女もシリウス・ブラック同様危険な思想を持っている可能性が高いとされています』
ああ、なるほど。
シリウス・ブラックといえばマグルの世界でも指名手配されていた。
そのため、シリウス・ブラックと絡めてしまった方がマグルに与えれるインパクトが大きいと考えたのだろう。
私は左手に持ったナイフでベーコンを切り分け、フォークで口の中に運ぶ。
サラはしばらくテレビに釘付けになっていたが、ハッと我に返り恐る恐る私の方を見た。
「……お名前、なんておっしゃるんでしたっけ?」
「サクヤですよ。サクヤ・ホワイトです」
サラはそれを聞き、少しだけ表情を和らげる。
「そ、そうですよね。名前と顔が似ているだけの赤の他人──」
「ブラックは母の旧姓です」
だが、すぐにまた表情を固くした。
いや、表情が固くなるのを通り越して、次第に恐怖の色が浮かび始める。
まあ、それが普通だ。
五人も殺したばかりの殺人鬼を、一晩隣の部屋で寝かせていたのだから。
私はプレートに残ったビーンズを丁寧に平らげると、サラの淹れた紅茶で喉を潤す。
そして小さく息をつき、椅子から立ち上がった。
「それじゃあ、私はそろそろ行くわ」
私はサラの横を通り過ぎると、玄関へと続く扉に手を掛ける。
「あ、そうだ」
「は、はい!」
びくりと肩を震わせるサラに、私は笑顔で言った。
「一晩泊めてくれてありがとね」
私は扉を開け、サラの部屋を出る。
そのまま階段を降りて行き、薄暗いパブの店内に差し掛かったところで時間を停止させた。
さて、非常に動きにくくなった。
私の報道がどのレベルで行われているかわからないが、もう素顔のまま表を歩くのは避けた方がいいだろう。
私の容姿は良くも悪くも非常に目立つ。
イギリス人に金髪は少なくないが、私ほど真っ白な髪を持つ人間は少ない。
白い髪というだけで、人々はある程度警戒の目を向けるだろう。
「あ、そうだ」
私は一昨年の夏のことを思い出し、鞄の中を漁る。
そういえば、私は一昨年の夏不死鳥の騎士団の活動の一環としてダーズリー家の横でマグルを演じていた。
そのときの変装を再現するのが一番早いだろう。
私の白い髪さえ染めてしまえば、殆どの人が私を私であると気が付かないに違いない。
私は杖を取り出すと、杖先を髪に向ける。
そして魔法を掛け、毛先から根本まで茶色に染めた。
「あとは伊達めがねを掛ければ……うん、完璧ね」
あっという間にプリベット通り四番地に住むブラウン家の一人娘の出来上がりだ。
私は鞄の中から手鏡を取り出し、全身を確認する。
茶色の髪にやぼったい眼鏡。美少女であることは隠しきれないが、少しニュースで見ただけの他人の顔など覚えているやつなんていないだろう。
私は鏡に映る赤い瞳をパチクリさせると、ニコリと笑って見せる。
「う〜ん、茶色の髪に赤い瞳は合わないわよね……ん?」
赤い瞳?
私は一度目をこすり、再度鏡を覗き込む。
そこにはいつも通りの青い瞳を持った私が写り込んでいた。
「……気のせいか」
何にしても、瞳の色はもっと地味なものに変えた方がいいかもしれない。
瞳の色を変える呪文も知ってはいるが、目に掛ける魔法は何かあった時にリスクが大きい。
失明した時に他人に頼れない今、ここは素直に最近話題のカラーコンタクトとやらを雑貨屋で探した方がいいだろう。
私は時間を止めたままロンドンの大通りを歩き、化粧品を取り扱っている雑貨店へと入る。
そしてまっすぐカラーコンタクト売り場へと行き、手頃なカラーコンタクトの箱を手に取った。
「今更だけど、目に異物を入れるのって怖いわね」
カラーコンタクトの入った箱をひっくり返し、取り扱い説明書を読んだ私は、少し迷った後に箱を棚に戻す。
めがねも掛けているし、そこまで目立ちはしないだろう。
「何にしても、今は情報を集めた方がいいわね」
マグルの世界で指名手配されているということは、魔法界でもニュースになっているはずだ。
だとしたら、私が向かうべきはダイアゴン横丁だろう。
日刊予言者新聞の今日の朝刊を入手するのが一番手っ取り早いはずだ。
私は時間を止めたまま漏れ鍋の前へと姿現しする。
そして扉を開けて店内の中へ入り込み、新聞を読んでいる客を探した。
「お、あったあった」
漏れ鍋は宿屋としても営業しているパブだ。
それ故に宿泊客が朝食を取れるように、朝早くからカフェとしても営業している。
文化人の朝の日課といえば、紅茶に新聞と相場が決まっているものだ。
私はカウンターで新聞を読んでいる客から新聞を引ったくると、カウンターに腰掛けて新聞を捲る。
そこには私の予想通り、一面にデカデカと私の写真が掲載されていた。
『殺人鬼サクヤ・ホワイト逃亡。魔法界の英雄の裏の顔』
日刊予言者新聞の記事には私と例のあの人が親子関係にあることや、私がダンブルドアを殺害して逃亡したこと、私と例のあの人との間で、権力争いがあったのではないかという考察が記事にされていた。
まあ、真実を知らないものに権力争いだと思われるのも無理はない。
普通に考えたら、ヴォルデモートと私との間で仲違いがあり、魔法省とダンブルドアを騙して味方につけ、ヴォルデモートを打ち倒したように見えるだろう。
そして邪魔な父親を排除したあとは、闇の魔法使いとの戦いに疲弊した魔法省とダンブルドアを裏切り、そのどちらも排除することで私がイギリス魔法界を支配する立場を得る。
うーん、日刊予言者新聞の予想した筋書き通りなのだとしたら、私は相当な悪女だ。
書き方の煽り文句的に、私と死喰い人の残党が合流するのを恐れているのだろう。
このように書いておけば、逃亡している死喰い人たちはヴォルデモートへの信仰心が高ければ高いほど私の味方にはなり得ない。
むしろ積極的に私の命を狙ってくるはずだ。
「……あー、今のうちに実家の財産全部引き出しておこうかしら。魔法省が何をどうしようともグリンゴッツの金庫をどうこうできるとは思えないけど、念のためね」
グリンゴッツは魔法省とは関係のない組織だ。
ゴブリンたちからしたら、金庫を借りているものが闇の魔法使いかどうかなんて関係ないのだ。
だから私自身が無事にグリンゴッツまで辿り着けば、どんな情勢だろうとも金庫を開けることができるはずではある。
だが、生憎私はブラック家の金庫の鍵を所持していない。
持っているとしたらパチュリー・ノーレッジだが、どこにいるかもわからない師に会いに行くよりもゴブリンに服従の呪文を掛けて金庫まで案内させ、時間停止を用いて金庫内に侵入したほうが手っ取り早く確実だ。
私は新聞を元の位置に戻すと、グリンゴッツ前へと姿現しする。
まだ少し朝早いが、ゴブリンにはあまり関係ないらしくいつものようにグリンゴッツの門の前には小綺麗な格好をしたゴブリンが二人控えていた。
「おはよう諸君」
私は冗談交じりに偉そうな口調で時間の止まっているゴブリン二人に挨拶する。
そしてそのままグリンゴッツの大理石をブーツの踵で踏み鳴らしながらカウンターへと近づき、受付にいるゴブリンの時間停止を解除した。
「ブラック家の金庫に用事があるのだけれど、案内してもらえるかしら?」
ゴブリンは不思議そうな顔でパチクリと瞬きをすると、すぐに私の正体に気がついたのか慌てて逃げようとする。
だが、座っている椅子の時間自体は停止しているため、椅子を後ろに引くことが出来ず実質的に拘束具のようになってしまっていた。
「さ、サクヤ・ホワイト!?」
「そんなにびっくりしなくてもいいじゃない。私はただ、母の家の金庫からお金を引き出しに来ただけなんだから」
私はクスクスと笑うと、ゴブリンに杖を向ける。
ゴブリンは少しでも逃げようと体をバタつかせるが、時間の止まっている椅子はピクリとも動かなかった。
「インペリオ、服従しなさい」
私が服従の呪文を掛けた瞬間、ゴブリンはトロンとした表情になる。
「ブラック家の金庫に案内しなさい」
「はい。こちらでございます」
そして、命令した通りに私をトロッコへと案内した。
ゴブリンの案内でトロッコに乗り込んだ私は、出発と同時に時間停止を解除する。
グリンゴッツのトロッコは魔法で制御されている。
下手に時間を停止したまま動かせば、線路上で停止しているトロッコに正面衝突しかねない。
私とゴブリンを乗せたトロッコは物凄い速度で複雑に分岐を曲がり、地下の奥の奥へと進んでいく。
ブラック家の金庫に入るのは初めてではない。
一度、ダンブルドアと共に分霊箱の探索のために訪れたことがある。
ブラック家の金庫にはかなりの金貨が貯め込まれていたはずだ。
トロッコはしばらく地下の洞窟を進んでいたが、甲高いブレーキ音と共に急停止する。
どうやら目的の金庫に辿り着いたようだ。
「はい、お疲れ様。もう自由にしていいわよ」
私はゴブリンの服従の呪文を解くと同時に時間を停止させ、金庫の目の前に立つ。
そして杖を手に取り、金庫内……それも少し空中に向かって体を瞬間移動させた。
「よ、とと……うわっと」
金庫内は真っ暗で、足の置き場がないほど山のように金貨が積まれているため、私は着地の瞬間金貨に足を取られバランスを崩す。
そのままひっくり返りそうになるが、なんとか姿勢を立て直し転倒することだけは回避した。
「さてさて」
私は気を取り直し、魔法で光源を作り出して周囲を照らす。
当たり前の話だが、金庫内は私が最後に訪れた時と全く変わった様子はなかった。
「実家様様ね」
これだけの金貨があれば、一生遊んで暮らせるかもしれない。
そう思わせるだけの物量が、私の目に飛び込んでくる。
私は鞄の中から大きな革で出来た巾着袋を取り出すと、その中に手当たり次第にガリオン金貨を詰め込んでいく。
普段使いするわけではないので、取り敢えず鞄の中で散らばらなければそれでいいだろう。
「ガリオン金貨は純金だし、最悪マグルの国でも換金できるのが強みよね」
まあ、魔法界とマグルの世界では金の価値が大きく違うため、あまり大きな額を換金するとすぐに足がついてしまう。
魔法界では金の価値はマグルの世界と比べてかなり低いのだ。
金庫の中で一時間ほど作業を行い、金庫内の金貨をあらかた鞄の中に収めた私は改めて金庫の中を見回す。
この金庫の中には金貨のほかにも様々な調度品や書物が保管されている。
金庫に入れているということは、そこそこ価値のあるものなのだろう。
「でも、一つ一つ価値を確かめているほど暇じゃないし……まあ時間なんていくらでもあるんだけど」
別に億万長者を目指しているわけではないし、分霊箱を探しているわけでもない。
ぱっと見で価値がわかるものだけでいいだろう。
私は宝石やブレスレットなど、小さいものを中心に鞄の中に放り込んでいく。
だが、とある一つの宝石を手に取った時、ふと違和感を感じ私は手をとめた。
「……これって」
他の宝石は綺麗にカットがなされているのに、この宝石だけは荒くカットがしてあるのみでほぼ原石に近い。
それに何かに埋め込まれているわけでもない。
財産として金庫に収めておくにはあまりにも不完全で、不自然な状態だった。
「まさか」
私は鞄の中から水の入ったボトルを取り出すと、その中に宝石を入れる。
するとその瞬間、水が沸騰したかのように泡立ち、それが治まると同時に淡い光を放ち始めた。
「間違いない。これ賢者の石だわ」
私が偶然手に取った石は、錬金術の到達点である賢者の石だった。
設定や用語解説
サクヤ・ブラック
セレネ・ブラックとトム・リドルは結婚していないため、実はサクヤ・ブラックが一番正しい名前だったりする。だが、実を言うとサクヤ・ホワイトもサクヤ・ブラックも正式な名前ではなく、真名は別にある。
シリウス・ブラック
サクヤがダンブルドアを殺したことにより、次第に無実であったことが公表されるだろう。
Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。