P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

163 / 233
偽物と親友と私

 私は手のひらの上で鈍く光を反射している賢者の石を見ながら、取り敢えず命の水を一気飲みする。

 

「……ぷはぁ。味は普通の水ね」

 

 そして袖で口を拭うと、ボトルを鞄の中に投げ込んだ。

 それにしても、なぜこのような貴重なものがこの金庫内に?

 そもそも、入手しようと思って入手できるようなものではないはずだ。

 

「シリウス・ブラックはパチュリー・ノーレッジに従事していた。その時に石を貰って、自分の家の金庫に収めたのかしら」

 

 もしそうだとしたら、シリウス・ブラックはパチュリー・ノーレッジに拾われてからもこの金庫を訪れていたことになる。

 でも、そんな危険なことをするだろうか。

 シリウス・ブラックは表向きには死んでいたのだ。

 そんな男がノコノコと自分の実家の金庫を訪れるとは思えない。

 

「でもそれ以外に考えられないわよね。祖父のオリオン・ブラックが実はニコラス・フラメルと親友の仲で、賢者の石を貰ったとかならまだしも」

 

 まあ、その可能性はあまりにも低い。

 実際のところ、私と同じように非正規の方法で金庫を訪れたに違いない。

 何にしても、ここで再び石を入手できたのは非常に大きなプラスになる。

 命の水には老いを進めない効果のほかに、傷を癒す力がある。

 ここから先魔法省との戦いで大怪我を負う可能性だってゼロじゃない。

 回復手段が多いに越したことはないだろう。

 私は懐中時計の裏蓋を開けると内部の空間を魔法で弄り、賢者の石をその中に格納する。

 これでスラグホーンが爆発した時に失った賢者の石が手元に返ってきたことになる。

 今まで少し落ちていた時間停止の精度も元に戻すことができるだろう。

 

「なんにしてもこんな感じで思わぬ掘り出し物がまだまだあるかもしれないわね」

 

 私は何か掘り出し物がないか金庫の中を見回す。

 その時、金でできた燭台の裏に小さな額縁が挟まっているのを発見した。

 私は燭台をどかしてその小さな額縁を手に取る。

 その額縁には、一枚の写真が収められていた。

 

「これって……私?」

 

 写真の中には私が映し出されており、こちらを見てにこやかに手を振っている。

 いや、この写真は私のものではない。

 私の予想が正しければこの女性は……

 

「セレネ・ブラック?」

 

 私は額から写真を取り出すと、ひっくり返して裏を見る。

 そこには『セレネ・ブラック 成人記念』と深い緑色のインクで書かれていた。

 

「凄い。お母さんの写真だ。私にそっくりだ!」

 

 まさに瓜二つ。

 服装や髪型を真似すれば、見分けがつかないレベルで私と母はよく似ていた。

 私は母の写真をポケットの中に仕舞い込む。

 母の姿をこの目で見ることはないと勝手に思っていた。

 だが、あるところにはあるものだ。

 

「今も生きていたら、どんな生活を送っていたんだろう」

 

 母がもし生きていたら、私は初めから魔法使いの子供として育てられたに違いない。

 闇の魔術や魔法薬の英才教育を受けた状態でホグワーツに入学することになったかもしれない。

 もしそうならきっとスリザリンに入っていただろう。

 ハリーやロン、ハーマイオニーとは犬猿の仲になっていた可能性は高い。

 

「それはそれで楽しそうかも。……ハーマイオニー、今ごろニュースを見てびっくりしてるだろうな」

 

 ロンは日刊予言者新聞で私がダンブルドアを殺したことを知るだろうが、ハーマイオニーはきっとマグルのニュースで私の名前を見る方が早いだろう。

 今朝の私と全く同じように朝食の席で固まっているに違いない。

 私はあんぐり口を開けているハーマイオニーの姿を想像し、小さくクスクスと笑う。

 次にハーマイオニーやロンに会うことがあるとすれば、それは私が魔法省に捕まった時だろう。

 そう思うと、少し寂しい気持ちもある。

 だが、こんなことになってしまった現状、どんな顔で二人に会えばいいかわからない。

 

「さて、こんなところでしょうね」

 

 私は少しスッキリした金庫内を再度見回し、取りこぼしがないかを確認する。

 まあ、よっぽど大丈夫だろう。

 私は光源を消し去ると、左手に杖を握ったままグリンゴッツの受付前へと姿現しした。

 まだ時間を止めっぱなしということもあり、周囲は静寂で満ちている。

 だが、明らかに周囲の様子は変わっていた。

 

「少し優秀すぎるんじゃない?」

 

 グリンゴッツのエントランスには何人もの魔法使いが詰めかけており、その中には見知った顔もある。

 私がトロッコに乗っていた数十分の間に異変を嗅ぎつけ、グリンゴッツに集結したのか?

 いや、それにしてはあまりにも早すぎるご到着だ。

 それに、皆の視線は一箇所に注がれている。

 まるで誰かを取り囲んでいるような……

 

「って……え?」

 

 私は闇祓いたちが取り囲んでいる人物に視線を向け、そして固まってしまう。

 そこには、涙目で地面にへたり込んでいる私の姿があった。

 

 

 

 

「……私だわ」

 

 私は取り囲んでいる闇祓いたちの隙間を縫うようにして人集りの中心へ向かう。

 そして、その中心にいる人物の前にしゃがみ込むと、じっとその姿を観察した。

 透き通るような白い髪に、宝石のような青い瞳。

 顔立ちの特徴も似ているだとかそういうレベルではない。

 私は鞄の中から手鏡を取り出すと、自分の顔をじっと見つめる。

 今は変装中のため髪色は違うが、顔は変化させていない。

 どこかに違いがないか必死になって探さないといけないレベルには、そこにいる人物は私そのものだった。

 

「お母さん?」

 

 私は、ポケットの中から先ほど手に入れた母親の写真を取り出す。

 そしてその写真と比べてみるが、目の前の人物は母親よりかは私に似ている。

 それに、母は私が赤子の頃に死んだ。

 母親のはずはない。

 だとすれば……だ。

 

「偽者の私ってことね」

 

 それ以外には考えつかない。

 何者かが変身術やポリジュース薬で私に変装し、グリンゴッツを訪れたということか?

 愉快犯? いや、それにしては表情に余裕がない。

 無視するか?

 

「……いや、まあ罠だとしてもすぐに時間を止めて殺せばいいか」

 

 この偽者の正体は確かめておいた方がいい。

 私は浮遊魔法で偽者を宙に浮かせると、そのままグリンゴッツの外まで移動させる。

 そして少し遠くの路地裏へ着地させ、時間停止を解除した。

 

「──のこれはだからふざけているわけじゃ……サクヤ!!」

 

 世界に音が戻ってくると同時に偽者は物凄い速度で喋り始める。

 だが、すぐにキョトンとした表情になると、私の顔を見つめ、そして途端に表情を明るくして抱きついてきた。

 私は咄嗟のことに混乱したが、なんとか偽者の腕を掴みそのまま投げ飛ばす。

 

「きゃあ! いったぁ……」

 

 偽者は受け身も取らずに地面を転がると、こちらを警戒することもなく打ちつけた尻を摩り始める。

 私はそんな偽者に杖を突きつけた。

 

「まって、待って! ストップ!」

 

 形勢はこちらが圧倒的に有利だが、その偽者は一切怯むことなくこちらに対し右手をビシッと突きつける。

 

「安心して。私は敵じゃない……というか、私よ私。ハーマイオニー」

 

 そして、在学中に嫌というほど目にした杖を私に見せつけてきた。

 私はその杖を奪い取り、マジマジと観察する。

 間違いない、ハーマイオニーの杖だ。

 

「え? 本当にハーマイオニー?」

 

「ええ、私は間違いなくハーマイオニー・グレンジャーよ」

 

「いや、どこからどう見ても私にしか見えないけど」

 

 私は怪訝な表情で偽者を見つめる。

 偽者は左手に付けていた腕時計をチラリと見てから答えた。

 

「あと一分でポリジュース薬の効果が切れるわ。私だってわかったら杖を返してよね」

 

「うん。本当にハーマイオニーだったらね」

 

 私は油断なく杖を突きつけながら、右手で懐中時計を取り出す。

 そしてその秒針がグルリと一周するのを待った。

 

 

 

 

 秒針が一周回りきるよりも前に、目の前の偽者に変化が訪れた。

 真っ白な髪は次第に色付き、クネクネとクセがついていく。

 背も縦に引き伸ばしたのように少し高くなり、顔つきもいつもの凛々しいハーマイオニーの顔になった。

 

「じゃじゃーん。というわけで、本当の本当にハーマイオニー・グレンジャーよ」

 

 ハーマイオニーはローブを翻すとグルリと一周回ってみせる。

 私はそんな楽しそうな様子のハーマイオニーのお腹をハーマイオニーの杖でつっついた。

 

「痛! 何するのよ」

 

「なんであなたがここにいるのよ。それも私の格好で、尚且つ闇祓いに囲まれるような形で」

 

 私は大きなため息と共にハーマイオニーに杖を返す。

 ハーマイオニーは私から杖を受け取ると、いそいそとローブの内側に仕舞った。

 うん、杖を仕舞う位置もハーマイオニーと同じだ。

 

「勿論、あなたに会いにきたに決まってるじゃない」

 

「私に? なんで?」

 

「なんでって……」

 

 もしかして、ハーマイオニーは私がダンブルドアを殺したことを知らないのか?

 いや、そんなはずはない。

 もしそうだとしたら私に会うためにこんな周りくどい方法は取らないはずだ。

 

「と、取り敢えず落ち着いて話が出来る場所に移動しましょう」

 

 ハーマイオニーはキョロキョロとあたりを見回すと、私の手を引いて歩き出す。

 時間が止まっていない中で出歩くのは少々危険に感じたが、最低限変装はしているため少しの間なら大丈夫だろう。

 ハーマイオニーは私の手を引きながらズンズンとダイアゴン横丁の通りを進んでいく。

 私はそんなハーマイオニーの後ろ姿を見ながら口を開いた。

 

「ハーマイオニー、私が何をしたか知らないわけじゃないんでしょう?」

 

「知ってるわ。知ってるからこそ今ここにいるのよ。っと、ここがいいわ。ここに入りましょう」

 

 ハーマイオニーはキョロキョロと周囲を見回すと、こぢんまりとしたカフェに入っていく。

 

「いらっしゃいませ。二名さまですか?」

 

「ええ、見ての通り。奥の席使っていい?」

 

 そして店員に無理を言って店の奥の入り口から見えにくい位置のテーブルを指定した。

 

「ええ、ごゆっくりどうぞ」

 

 店員は私たちを奥の席に案内すると、にこやかな笑顔と共に店の奥へと戻っていく。

 私はそんな店員の後ろ姿を見送った後、テーブルの横にあるメニューを手に取った。

 

「さっき朝食食べたばっかりなんだけどねー。太っちゃうわ」

 

「笑えない冗談だわ」

 

 ハーマイオニーはそうは言いつつも顔にはほんのり笑顔が浮かんでいる。

 私はメニューを上から下まで頼んだら幾らになるか計算しながらハーマイオニーに聞いた。

 

「で、どんな情報を耳にしたら私に変装してグリンゴッツで闇祓いに囲まれるようなことになるのよ」

 

「そのことなんだけど……」

 

 ハーマイオニーは店員が奥に引っ込んでいるのを確認してから、少し小声で話し始める。

 

「昨日の夕方頃だったかしら。ロンからふくろう便が届いたの。急いで不死鳥の騎士団本部まで来てくれって」

 

「ああ、あの無駄に豪華な高層ビルね」

 

「うん。その手紙には大事なことは何も書かれてなかったんだけど、不死鳥の騎士団本部で聞かされたの。サクヤがダンブルドアをその……」

 

「殺したって?」

 

「……そう」

 

 ハーマイオニーはその言葉に少し怯む。

 

「私にはどうしてもその話が本当の話だとは思えなくて……なにか裏があるんじゃないかって」

 

「……なるほど」

 

 私がダンブルドアを殺したのには何か裏がある。

 ハーマイオニーがそう思うのも無理はないのかもしれない。

 

「どうしてそう思ったの?」

 

 私は自分の予想の答え合わせをするために、ハーマイオニーに聞く。

 ハーマイオニーはもう一度店内に人がいないことを確認してから言った。

 

「だって、サクヤがダンブルドアを殺したのを誰も直接見てないんだもの。スネイプが勝手にそう主張してる可能性もあるし」

 

 ハーマイオニーは声が大きくならないように気をつけながら話を続ける。

 

「ダンブルドアが死んだ今、誰が不死鳥の騎士団のリーダーを継いだと思う?」

 

「レミリアとか?」

 

 私がそう聞くと、ハーマイオニーは深刻そうな顔で言った。

 

「不死鳥の騎士団を継いだのはセブルス・スネイプ。あのスネイプよ」




設定や用語解説

賢者の石
 賢者の石単体で無限に命の水を作り出せるわけではない。賢者の石とは高性能な触媒なだけで、命の水の生成にはかなりの魔力が必要。賢者の石とは言ってしまえば触媒付きの大容量魔力タンク。

きっとスリザリンに入っていただろう
 サクヤが無駄に足掻かなければ、サクヤはスリザリンに入っていた。

ポリジュース薬
 対象の髪の毛さえあればほぼ完ぺきに変装することが出来る魔法薬。その効能はダンブルドアさえも騙すほど。

不死鳥の騎士団の本部
 現在はマグルの資産家が保有している高層ビルの地下に拠点を構えている。



Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。