P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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グングニルと反射神経と私

「不死鳥の騎士団を継いだのはセブルス・スネイプ。あのスネイプよ」

 

「……へぇ」

 

 それは、なんというか、あまりにも予想外だ。

 ハーマイオニーが不信感を持つのにも頷ける。

 

「私が到着した時には、スネイプを中心にしてサクヤをどうやって捕まえるかっていう話し合いをしていたわ。私はその会議には参加していないんだけど、フレッドから聞いた話だとサクヤがヴォルデモートの娘で、ずっとダンブルドアや魔法省を騙してて……それにその、能力のことも聞いたわ」

 

 まだ頭の中がぐちゃぐちゃしているのか、ハーマイオニーは思いついた端から言葉を口にしているように見える。

 

「でも、おかしいわよね? サクヤがそんなことするはずないし……でも、その時気がついたの。きっとスネイプは不死鳥の騎士団を乗っ取ろうとしてるんじゃないかって。自分が所属している陣営が負けたから、その復讐のためにダンブルドアを殺したのよ」

 

 あー、なるほど。

 ようやくハーマイオニーの考えが見えてきた。

 つまるところハーマイオニーは、スネイプのことを全くと言っていいほど信用してないのだ。

 だからこそ、私が犯した殺人を、全てスネイプのでっちあげだと思い込んでいる。

 

「何か食べましょうか」

 

 私はテーブルに置いてあった呼び鈴を鳴らし、店員を呼ぶ。

 ハーマイオニーはそれを見て慌ててメニュー表を手に取った。

 

「ご注文は如何いたしますか?」

 

「えっとあのその二人分の紅茶とこのスコーンを──」

 

「サイドメニューの上から下まで全部ね」

 

 私がそう注文すると、店員はポカンとした表情になる。

 そして少し考えた後、心ここに在らずといった顔で言った。

 

「それならスコーンとパンケーキは紅茶のセットということにすると少しお得ですよ」

 

「じゃあそれで」

 

 ハーマイオニーは食い気味に答えると、店員を追い返す。

 私とハーマイオニー間にしばらく静寂が流れる。

 私はハーマイオニーの顔をしばらく見つめた後、静かな口調で言った。

 

「ありがとうハーマイオニー。私のことを信じてくれているのね」

 

「あ、当たり前じゃない。親友でしょう?」

 

 ハーマイオニーは照れくさそうに頬をかく。

 私は笑みを浮かべたまま、ハーマイオニーに告げた。

 

「でも、盲目的で盲信的になってしまうのが貴方の悪いところよ。それと、後先考えないのもよくないわ。私に扮して街を歩くなんて、捕まえてくださいと言ってるようなものじゃない。なんでそんな真似を?」

 

「それに関しては私の目論見通りよ。サクヤが時間を止められるっていう話を聞いたから、普通に探しても絶対に見つからないと思ったの。だったら、サクヤから声をかけてもらう方が確実でしょ? 自分にそっくりの偽物がいたら、たとえ時間を止めている最中でも声を掛けたくなると思って……」

 

 うん、なるほど。

 ハーマイオニーのその考えは何も間違っていない。

 現に私は私に扮したハーマイオニーに声を掛けてしまった。

 もし普通にハーマイオニーがダイアゴン横丁を歩いているだけだったとしたら、声は掛けてなかっただろう。

 私は得意げな表情のハーマイオニーの鼻を指で突く。

 ハーマイオニーはキョトンとした表情になりながらも、ニコリと微笑んだ。

 

「安心してサクヤ! ひとまず私の家に来るといいわ。お父さんもお母さんもきっと歓迎してくれると思うし、私がそのまま一度ホグワーツに戻ればそこまで怪しまれないはず。それまでの間に味方を増やして、スネイプの野望を打ち破り──」

 

 

 

「ハリーを殺したのは私よ」

 

 私は、はっきりとハーマイオニーに告げた。

 

「……え?」

 

「ハリーを殺したのは私。誰の命令でもなく、私の意思で殺した」

 

「な、え? ……なんで?」

 

 ハーマイオニーは理解が追いついていないのか、少しぼぅっとしたかと思うとへらりと笑う。

 

「じょ、冗談よね?」

 

「冗談じゃないわ。というか、私の能力について聞かされたなら不思議に思わなかったの? 時間を止められるなら、どうしてその能力でハリーと逃げなかったんだろうって」

 

「そんな、ありえないわ! だって理由がないじゃない!」

 

 ハーマイオニーは表情を歪めて声を荒げる。

 その声を聞いて、紅茶を運んできた店員がびくりとした。

 私は店員にアイコンタクトで紅茶を運んできても大丈夫だと語ると、笑顔で紅茶を受け取る。

 店員は少し不安そうな表情を私たちに向けると、小さくお辞儀をして店の奥に戻っていった。

 

「嘘よ……そんなこと。冗談にしても笑えないわ」

 

 ハーマイオニーは手元の紅茶のカップをじっと見つめながら呟く。

 

「嘘じゃないわ。まあ、貴方の予想はある意味では当たっているとも言えるけど。スネイプの言っていることは半分しか合ってないわ。私がダンブルドアと魔法省を裏切ったんじゃない。私がダンブルドアや魔法省に裏切られたのよ」

 

「どういうこと?」

 

「そうねぇ……結構時間かかるけどいい?」

 

 私の問いにハーマイオニーは頷く。

 私は紅茶で乾いた喉を潤すと、少しずつ、少しずつ私の今までを話し始めた。

 

 物心ついた時から私は時間を止めることが出来こと。

 

 ある日、一匹のフクロウが孤児院の窓に突っ込んできたこと。

 マクゴナガルが私の部屋まで来て、半ば強制的にホグワーツ入校が決まったこと。

 ハグリッドの引率のもと、ハリーと一緒に学用品を買ったこと。

 ホグワーツ特急でロン、ハーマイオニーと出会ったこと。

 学校でも時間停止をちょこちょこ使い、結構ズルをしていたこと。

 半分妄想のような考察で死地に飛び込もうとする三人を止めるために、時間を止めて賢者の石を取りに行ったこと。

 

 

 そこで、ヴォルデモートに出会ったこと。

 

 

「それじゃあ貴方は一年生の時から例のあの人の配下に……」

 

 ハーマイオニーは口をワナワナと震わせる。

 私は無言で紅茶を口に運ぶと、真面目な表情を作った。

 

「それが、違うのよねぇ。勧誘は受けたけど」

 

 私は引き続きハーマイオニーに話して聞かせる。

 そう、私はあの時ヴォルデモートの勧誘には応じなかった。

 あの時ヴォルデモートの仲間になっていたら違う未来があっただろうか。

 というか、その時に自分の娘であると言ってくれれば仲間になったのに。

 私は内心少しムスッとすると、話の続きを始めた。

 時間停止のことがバレたことで、クィレルを殺したこと。

 依代がなくなったヴォルデモートが逃走したこと。

 結果的には賢者の石を守ったことになったこと。

 

「それじゃあ、サクヤが向かってなかったら、その……例のあの人が復活していてもおかしくなかったってことじゃない」

 

「まあ……そうなるわね」

 

「でもおかしいわ。私は確かに貴方に全身金縛り術をかけたわ。貴方も朝まで寝ていたって──」

 

「時間を停止させて魔法の効果が切れるのを待ったのよ。賢者の石が守られている部屋までも時間を止めて行ったから、貴方たちが出ていって三十分後にはまたグリフィンドールの談話室へ戻ってきてたわよ」

 

 そこから先も、ロックハートに攫われて秘密の部屋でバジリスクを殺した話や、無実のシリウス・ブラックを身勝手な理由で刺し殺した話、そして三大魔法学校対抗試合の最後の課題でヴォルデモートの復活に立ち合い、なし崩し的に死喰い人になった話、シリウス・ブラックが実は生きており、それがきっかけでハリーとブラックを殺す羽目になった話などをハーマイオニーに聞かせる。

 初めこそ私の冒険譚を目を輝かせながら聞いていたハーマイオニーだったが、シリウス・ブラックのくだりに入ったあたりから表情に余裕が消える。

 そしてセドリック・ディゴリーを操って殺し、ハリーを騙して予言を入手することに成功したが、ブラックの邪魔が入り結果的に二人とも殺したことを話した瞬間、ハーマイオニーは無意識に椅子を少し引いた。

 

「そ、それじゃあサクヤは本当にハリーを……」

 

「うん、まあ。それに関しては間違いなく私が自分の意思でやったことだし。今更言い逃れする気はないわ」

 

 ブラックやハリーを殺したのは私の罪だ。

 これに対して後悔がないわけではない。

 だが、あの時の私の判断は間違ってはいなかった。

 意図せずしてではあるが、私はあの時お父さんの敵を二人も排除したのだ。

 

「で、その後なんだけど──」

 

 私が話を再開させた瞬間、脳の奥が一瞬チリリとする。

 その時、体を伏せたのはほぼ本能によるものだろう。

 頭を伏せた瞬間、私の頭上を魔力の塊で出来た赤い槍が飛翔し、反対側の店の壁をバターのように溶かして消えていった。

 あの魔力で出来た槍には見覚えがある。

 レミリア・スカーレットだ。

 私は咄嗟に時間を止めると、槍が飛んできた方向へ歩き出す。

 店の中を進み大通りへ出ると、そこには小悪魔が差している日傘の下で今まさに槍の投擲を終えた姿勢で立っているレミリアの姿があった。

 

「まったく、油断も隙もあったもんじゃないわね」

 

 私はどうしたものかと、レミリアの前に仁王立ちする。

 攻撃をされたのだ。反撃するのが基本だろう。

 だが、吸血鬼に対する有効な攻撃手段とは一体なんだろうか。

 

「とりあえず死の呪いを試してみるか」

 

 私は杖を抜き、少し距離を取って死の呪いをレミリアに向けて放つ。

 時間の止まっている世界を飛翔した死の呪いの閃光は、次第に速度が遅くなるとやがてレミリアの目の前でピタリと静止した。

 時間を動かした瞬間、速度を取り戻した死の呪いがレミリアに直撃するはずだ。

 私は路地裏に身を隠し、時間停止を解除する。

 これだけ至近距離から急に出現した呪いを避けられるものなどいないだろう。

 そう思っていた。

 

「──ぅわあぶな!」

 

 レミリアは、そう口にする前にはすでに死の呪いの回避を済ませていた。

 ほぼゼロ距離から飛翔する死の呪いを、まるで初めから飛んでくるのがわかっていたかのような速度で回避する。

 

「おお、ナイス回避です」

 

 横に立つ小悪魔は無理に回避したせい変な姿勢になっているレミリアを見下ろしながらパチパチと拍手する。

 

「すぐに反撃が来るとは思ってたけど、時間を操れる相手と戦うってこういうことよね」

 

 レミリアはグイッと体を起こし、軽く服を整えた。

 

「というか吸血鬼に死の呪いって効くんです?」

 

「どうかしら。相手の魔力次第じゃない? 私みたいな最強無敵純血吸血鬼はどんな呪文も効果が薄いけど、実際に死の呪いを受けたことはないし」

 

「今度試してみます?」

 

「嫌よ。死んだら怖いし」

 

 レミリアは冗談交じりに肩を竦めると、真っ直ぐ私のいる方向を見る。

 隠れているつもりだったが、どうやらバレバレだったらしい。

 私はもう一度時間を停止させ、レミリアへと近づいていく。

 ほぼゼロ距離からの呪いすら避けるのだとしたら、魔法での攻撃はあまり有効だとは言えないだろう。

 私は今度はナイフを引き抜き、レミリアの心臓目掛けて思いっきり振り下ろした。

 

「ふんっ! ……うぬぬぬぬぬぬぬ!」

 

 だが、ナイフの切先は全くと言っていいほどレミリアの皮膚に刺さらない。

 まるでダンプカーのタイヤにナイフを突き立てているかのような、そんな感覚だった。

 吸血鬼とは、こんなに頑丈な皮膚を持っているのか。

 力任せに攻撃しても相手に傷一つつけることは出来ないだろう。

 だとしたら、時間操作能力を応用するだけだ。

 四年生の時、ドラゴンの首を飛ばした時のことを思い出す。

 時間が止まっている生物に死の呪いは効かないが、切断魔法や爆破呪文で破壊することは出来る。

 時間を止めている世界では、全ての生物が箪笥や扉といった非生物な存在と変わらなくなるのだ。

 私は賢者の石が嵌め込まれた懐中時計を右手で握り込むと、左手の杖を振りかぶる。

 そしてレミリアの首から下の時間をごく僅かな時間だけ動かし、それによって生じた歪みに対して切断魔法を掛けた。

 

「さて」

 

 私は浮遊魔法でレミリアの頭部を持ち上げる。

 どうやら切断はうまくいったようで、レミリアの頭部は胴体を残して宙に浮いた。

 

「よし。しっかり切れているわね」

 

 私は先ほどとは違う路地へと隠れて、時間停止を解除する。

 その瞬間、少し浮いていたレミリアの頭が首の上に落ち、そのまま首の上でバウンドし地面に向かって落ちる。

 私はレミリアの死を確信したが、頭のないレミリアの体は、レミリアの頭部が地面に落ちる前に一人でに動き、落下中の頭部を両手でキャッチした。

 

「うわ、あぶな」

 

 レミリアは緊張感のない声色でそう言うと、胴体と頭部の断面をピッタリと合わせる。

 そして何度か首を回し、調子を確かめた。

 どうやら、死に至るどころかダメージらしいダメージも負ってないようだ。

 その様子を見て、私は察する。

 ああ、こりゃ無理だ……と。

 呪いは避けられるし、物理的に肉体を破壊してもあまりダメージがあるようには見えない。

 しっかりと準備しなければ殺し切ることは難しいだろう。

 私はレミリアを殺すことを諦め、また時間を停止させる。

 そして嫌がらせに小悪魔が持っている傘を破壊し、その場から逃亡した。




設定や用語解説

スピア・ザ・グングニル
 レミリアの有り余る魔力をそのまま槍の形にして投擲する技。魔法使いが使うような繊細な魔法ではないので、魔力の消耗はかなり多いがその分威力も凄まじい。

Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
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