P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
「レイセン様だ」
「レイセン様……」
「おお、なんとお懐かしい」
屋敷しもべ妖精たちはキーキー声を発しながら私の周りへと集まってくる。
私はその様子を見ながら自分の失策を悟った。
うかつだった。
屋敷しもべ妖精は私が思っている以上に長生きな生き物だったようだ。
でも、よく考えればそうか。
ブラック家に仕えてくれていたクリーチャーは、少なくとも私の母親の時代から生きている。
「えっと……」
どうするのが正解だろうか。
私は小さく咳払いすると、屋敷しもべ妖精たちに言った。
「久しぶりね。元気そうでなによりよ」
「それはもう……にしても、レイセン様こそお変わりないようで。人間ではないという話は本当だったのですね」
人間ではない?
何を言ってるんだこいつらは。
まあ、ウサ耳があるから確かに人間っぽくはないが。
「っと、急いでいるんだった。いきなり押しかけて悪かったわね。料理を調達したくて厨房へ来たのよ」
「左様でございましたか! なんでもお申し付けください」
「なんでもいいわ。とにかく色々な種類を大量に持ってきて頂戴」
私の指示を聞いて屋敷しもべ妖精たちは慌ただしく働き始める。
私は厨房内に積まれた木箱の上に腰掛けると、その様子を見ながら情報を整理した。
どうやらこの髪の毛の持ち主はレイセンと言うらしい。
この様子では、レイセンは厨房内に頻繁に出入りしていたようだ。
「どんな人物だったんだろう……」
ホグワーツの部外者であることは確かだ。
だが、屋敷しもべ妖精から受け入れられているところを見るに、不審者というわけでもないのかもしれない。
もしかしたら隠し部屋に住み着いたことがダンブルドアあたりにバレ、正式にホグワーツで働き始めたのかも?
そんな妄想をしているうちに、厨房内に美味しそうな匂いが立ち込め始める。
私はその手際の良さに感心しながら、のんびりと料理が出来上がるのを待った。
ロンドンにある不死鳥の騎士団本部の会議室。
高層ビルの地下ということもあり窓が一切無い部屋の中で、多くの騎士団員が今後について話し合っていたその時だった。
一匹の守護霊のフクロウが会議室へと舞い降り、マクゴナガルの近くへと着地する。
そして、あえて皆に聞かせるようにマクゴナガルへ伝言を伝えた。
『サクヤ・ホワイトがホグワーツへと現れました』
ざわり、と会議室に驚愕と緊張感が走る。
マクゴナガルは書類を読むために掛けていたメガネを外し、守護霊に話しかけた。
「すぐにでも人手が必要ですか?」
『いえ、もうホグワーツにいない可能性の方が高いでしょう』
マクゴナガルは小さく安堵の息を吐くと、会議室を見回した。
「私は急ぎホグワーツへ戻ります」
「サクヤ・ホワイトがホグワーツにねぇ……寮に忘れ物でも取りに行ったのかしら」
会議室の中央にいたレミリアが冗談交じりに肩を竦める。
それを聞き、フリットウィックの守護霊はレミリアの近くへと飛びながら言った。
『接触したゴーストの話では、パチュリー・ノーレッジを探していたそうですぞ』
「パチュリー・ノーレッジを?」
パチュリー・ノーレッジという名前が出たことにより、会議室がまたざわつく。
さきほどまでヘラヘラとしていたレミリアも、パチュリー・ノーレッジの名前を聞いた瞬間表情をこわばらせた。
「サクヤ・ホワイトがパチュリー・ノーレッジに接触しようとしているだと?」
スネイプは唇に指を当てて考え込む。
いや、スネイプだけではない。
会議室の中にいる殆どのものがその二名が接触した際に何が起こるのかを想像した。
「……サクヤ・ホワイトの目的はなんでしょう。このタイミングでノーレッジ先生を探す理由とは……」
「なんにしても接触させない方がいいことは確かね」
マクゴナガルの呟きにレミリアが答える。
そして机に乗り出すようにしながら全員に問いかけた。
「ノーレッジにこのことを忠告しておきたいんだけど、彼女の居場所を知っている人いる? 連絡手段を持っているだけでもいいわ」
全員が一瞬キョトンとすると、互いに顔を見合わせた。
「……まあ、そうよね」
「その様子ですと、レミリアさんも彼女の居場所に関してはご存知ないんですね」
会議室の机の端の方にいたルーピンがレミリアに問う。
レミリアはその問いに対して肩を竦めて答えた。
「対抗試合の審査員で一緒になったぐらいよ。教師としては入れ替わりだし。今どこで何をしているかなんて全くわからないわ」
というか、わかってたら真っ先に味方につけるっつーのとレミリアは付け加える。
「だから通告しようにも……」
レミリアは話の途中で押し黙ると、手元の資料を捲る。
そして、ニヤリと微笑んだ。
「いい方法を思いついちゃったわ」
食料の調達を終えた私は屋敷しもべ妖精たちにお礼を言うと、ボロが出る前に厨房を後にした。
これでとりあえずホグワーツに用事はない。
パチュリー・ノーレッジの痕跡も、これ以上は発見できないだろう。
私はひとまず先ほどの隠し部屋へと入ると、ポリジュース薬の効果が切れるまで部屋の中で待機する。
そして容姿が元に戻ったところで着用していたスリザリンの制服をクローゼットへ戻し、動きやすいパンツルックの私服に着替えた。
「さて、どうしようかしら」
わかったことと言えば、パチュリー・ノーレッジが卒業旅行に出かけたという情報ぐらいだ。
だが、その手がかりを追おうにも、既に百年ほど前の話である。
そんな昔の目撃情報なんて集まるわけがない。
「まったく、どうやって探せばいいのよ」
私は軽く頭を抱えながら隠し部屋の扉を開け、地下通路へと出る。
そして玄関ホールに向かって歩き始めた。
闇雲に探しても見つからないことは確かだ。
「彼女の書籍を辿るのは……無理ね。裏から読めるようになるまでに結構な数の本を読んだけど、居住地に関する情報はなかったし」
出版社をあたってみる……のもあまり意味はないか。
そのような場所にパチュリーが自分に繋がる手がかりを残しているとは思えない。
「何かいい方法は……あ」
玄関ホールへと向かう階段の途中で、私はあることを思い出す。
「……なんにしても、定期的に情報を仕入れるしかないわね」
私は玄関ホールへ出る前に時間を止めると、姿くらましでホグワーツを後にした。
ホグワーツの臨時休暇が明けると同時に、大広間にて全校生徒に対してダンブルドアの死が改めて伝えられた。
マクゴナガルは犯人の名前を敢えて口にはしなかったが、記事にもなっているため、説明など無くとも全員が理解している。
何より、グリフィンドールのテーブルに、嫌でも目立つ白い髪の少女がいないことが何よりの証拠だった。
あまりにも衝撃的な事件なため殆どの生徒が心ここに在らずと言った感じだったが、容赦なく学期末試験は行われる。
そして、学期末試験が終わればすぐにでも夏休みだ。
「夏が近づいて来てるわね……」
イギリス西部、カーディフにある窓から海が見えるホテルのテラスで、港を行き来する船をぼんやりと眺めながら呟く。
私が感傷に浸っていると、一匹のフクロウが私の真横へと降り立ち、掴んでいた新聞を私の足元へと落とした。
日刊予言者新聞の配達フクロウだ。
「ご苦労様」
私はテラスのテーブルに置かれていたサラミを一切れ摘むと、フクロウの嘴に咥えさせる。
そしてポケットの中から硬貨を取り出し、フクロウの足につけられた革袋の中に入れた。
フクロウは新聞の代金が支払われたのを首を回して確認すると、サラミを咥え直して大空へと羽ばたいていく。
私はテラスのテーブルに置いていたワイングラスを手に取り、軽く口に含んでから新聞を広げた。
「……っと、ついに来たわね」
お目当ての情報が記事になっているのを確認し、私は室内へと引っ込む。
そしてソファーに深く腰掛けると、改めて一面を読んだ。
「まあ、ここまでは予想通り」
記事の内容はダンブルドアの葬儀に関してだ。
イギリスではそもそも葬式に大勢の人が集まることはない。
親族や親しい友人だけで執り行われるのが殆どだが、ダンブルドアに限っては話は別だ。
どれほどの親族がいるかは知らないが、彼との別れを惜しみたい魔法使いはイギリス中にいることだろう。
記事には、ダンブルドアの葬式が執り行われる場所と日付が記載されている。
今から三日後、ゴドリックの谷で行われるらしい。
葬式の喪主はマクゴナガルで、施主はレミリアの様だ。
その他にも、参加予定者の名前が記事には列挙されている。
新聞社としてはどれほど大きな葬式になるかというインパクトが記事に欲しかったのだろうが、私にとってはそれが一番知りたい情報だった。
「パチュリー・ノーレッジ……あった」
私は参加予定者の名前の中にパチュリーの名前を見つけ、小さくガッツポーズを取る。
パチュリー・ノーレッジを探してイギリス全土を奔走したところで、巧妙に身を隠している彼女を見つけられるとは思えない。
だったらどうするか。答えは簡単だ。
彼女が現れそうな場所で待ち伏せしておけばいい。
「ゴドリックの谷に埋葬されるというのも予想通りね。カーディフにホテルをとった甲斐があるわ」
ここからゴドリックの谷までそこまで距離はない。
まあ、姿現しを使えばイギリスのどこにいようがゴドリックの谷まで一瞬だが。
私は新聞を折りたたむと鞄の中に放り込む。
何にしても、あと二日はカーディフでバカンスを楽しむ余裕があるだろう。
ダンブルドアの葬式当日。
私はホグワーツの制服に着替えると、フードを深く被りホテル備え付けの姿見の前に立つ。
フードを被るだけで、私の白髪はかなり目立たなくなった。
ポリジュース薬の備蓄はさほど多くはない。
節約できる場面では節約していかなくてはならない。
私はポケットの中から懐中時計を取り出すと、現在時刻を確認する。
午前十時ジャスト。ダンブルドアの葬式が始まる時間だ。
「そろそろね」
私は時間を停止させ、ゴドリックの谷へと姿現しする。
視界が開けたと同時に、かなりの数の参列者が私の目に飛び込んできた。
「凄い人……ゴドリックの谷ってマグルも住んでるわよね? 大丈夫なのかしら」
まあ、大丈夫だからこそここで葬式を行なっているのだろうが。
周囲を見回してみると、マグルのパトカーが近くに駐車してあるのが見える。
だが、その中に乗っている警察官はみんな目がトロンとしており、既に何らかの記憶処置を受けた後のようだった。
「っと、ノーレッジ先生を探さないと」
私は人混みの中心へ歩き始める。
ここで立ち尽くしている魔法使いたちは、きっと式場から溢れた参列者たちだ。
その証拠に、少し歩くと何百もの椅子が整然と並べられた広場へと出る。
その椅子には魔法省のお偉いさんやホグワーツの理事と思わしき老人たち、そしてダンブルドアと関わりがあるであろう様々な年齢の人物が座っていた。
その中にはホグワーツの生徒の姿もある。
私は無意識にロンとハーマイオニーの姿を探したが、生憎見つかったのは祖母の横に座るネビルだけだった。
椅子に取り囲まれるようにして、広場の中心には大理石の台が設置されており、その台の上には黒い礼服姿のレミリア・スカーレットの姿がある。
口を開き、何かを訴えかけるような仕草で固まっているところを見るに、今まさに大演説中なのだろう。
レミリアの横にはきっちりとした黒いスーツ姿の美鈴が立っており、レミリアが太陽光に晒されないように大きな日傘を持っていた。
私は椅子の間に作られた通路を進み、大理石の台の上に上がる。
そしてレミリアの横に立つと、目の前の参列者からパチュリーの姿を探した。
「……ぱっと見いないわね。まだ到着していないとか? どう思う?」
私は真横で固まっているレミリアに問う。
勿論、時間が止まっているためレミリアが答えることはない。
「にしても、ほんと……これだけの人が参列するなんて、ダンブルドアは人気者よね」
何百という椅子を埋め尽くし、それでも足りずに溢れた参列者が何百人といる。
全員が真剣な表情で台の上のレミリアに注目していた。
「……ここにいる人たちは勘違いをしてる。ダンブルドアは人格者なんかじゃない。教え子を騙し、親を殺させたクズよ」
私はレミリアの後ろに設置された棺に目を向ける。
棺は硬く閉ざされており、ダンブルドアの姿は見えなかった。
そういえば、私はダンブルドアの体をみじん切りにした。
この棺の中のダンブルドアの死体はどうなっているのだろう。
バラバラの死体がそのまま入れられているのだろうか。
それとも魔法で何らかの修復がなされているのだろうか。
私は少し気になり、ダンブルドアの棺に手を伸ばす。
そして棺に手を触れた瞬間、私の太ももに激痛が走った。
設定や用語解説
カーディフ
イギリス西部にある港町。
Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。