P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
「──ッ!?」
突如太ももに走った激痛に、私はつい膝を突いてしまう。
恐る恐る太ももを見ると、夥しい量の血液が太ももから溢れ出ていた。
「い、痛い……何がどうなって──」
「あらあら、そんなところでうずくまってどうしたの? 蜂にでも刺された?」
不意に後ろから声をかけられ、私は咄嗟に振り向く。
そこには、不気味な笑顔を浮かべたレミリア・スカーレットが立っていた。
「そんな……時間は止まっているはずなのに」
「そうね。確かに時間は止まっているわ。だからこそ、対策を講じる必要があった」
レミリアは礼服の袖を捲り、つけているブレスレットを私に見せる。
「魔力的に繋がりを持つことができれば、貴方の時間停止は無効化できる。ダンブルドアが教えてくれたわ」
それを聞き、私は太ももに走る激痛の正体を悟った。
「スナイパーね……私の体に、そのブレスレットと魔力的に繋がりのある弾を発射させて、私の体に埋め込んだ……」
「大正解。グリフィンドールに十点ってね。マグルの狙撃手を雇った甲斐があるわ」
魔力を帯びた攻撃ならまだしも、ただの物理攻撃である狙撃を避けることは不可能に近い。
私は這いずるようにしてレミリアから少し距離を取ると、ダンブルドアの棺を背にして座った。
「でも、おかしいわ……私は時間を動かしてない! マグルのスナイパーであろうと私に攻撃することは不可能なはず!」
レミリアはオーバーアクションに肩を竦めると、私を指差す。
いや、正確には私が背もたれにしているダンブルドアの棺を指差した。
「その棺と狙撃手の持っているライフルを魔力的に繋げておいたの。貴方がその棺に触れた瞬間、狙撃手の時間も動き出すように」
「そ、そんな……」
それは、まったくもって想定していなかった。
時間の止まっている物体を動かすことは不可能なため、私は動かそうと思ったものは無意識のうちに時間停止を解除している。
それを逆手に取り、時間の止まった世界に侵入してきたということなのだろう。
私は右手を傷口に当て、止血を試みる。
だが、動脈が傷ついているのか、一向に出血量が減ることはない。
どうする? どうしたらしい?
失血気味で朦朧とし始める思考の中、私は咄嗟に杖を掴んだ。
「させな──」
レミリアが動き出すよりも早く私は次元の狭間に身を落とす。
どこへ逃げればいいかはわからない。
だが、一秒でも早くレミリアのもとを離れなければ命はないだろう。
私は瞬間移動を使って先程まで滞在していたホテルの一室に転がり込む。
そして止血をするために傷口に杖を向けた。
「……いや、塞いじゃだめ」
大きく深呼吸をし、思いっきり歯を食い縛る。
そして自らの右足に向かって呪文を唱えた。
「ディフィンド」
バズン、と生々しい音と共に私の右足が切断される。
それと同時に傷口の断面に向かって治癒魔法を掛け、傷口を塞いだ。
「あああああああぁぁぁぁあああぁああぁぁ──ッ! ……はぁ、……はぁ」
切断された私の右足からは血が溢れ出るが、数秒後にはピタリと出血が止まる。
そう、右足が私の体から離れたことで、右足の時間が止まったのだ。
これで……ひとまず、安心のはず。
「……って、このままじゃ、本当に死ぬわね」
私は最後の力を振り絞って鞄の中を漁ると、賢者の石で生成した命の水を一気飲みする。
これで、失血死することはないはずだ。
私は少し安心すると、時間を止めたまま床に倒れ込み、意識を失った。
「逃がさない」
レミリアはサクヤの姿が消えたと同時に、羽を大きく広げて飛ぶ体勢に入る。
だが、次の瞬間周囲の景色が動き出したのを見て、苦々しい表情を浮かべた。
「……くそ! 思い切りが良すぎよ! トカゲじゃないんだから!!」
「お嬢様? どうしま──」
美鈴はいきなり怒り出した主人の方を振り向き、その後ろに大きな血溜まりがあるのを発見する。
「まさか、サクヤちゃんが?」
レミリアの様子がおかしいことにザワザワとし始めた参列者を横目に、レミリアは大きなため息をついた。
「そのまさかよ。まあ、逃げられたけ──」
その瞬間、レミリアの動作がピタリと止まる。
美鈴は目をぱちくりさせると、手をレミリアの目の前で何度か振った。
「あれ? もしもーしおねむですかー?」
だが、レミリアの反応はない。
まるで、時間が止まってしまっているかのように。
「──なるほど! これはマズイ!!」
美鈴の大声に、参列者たちのザワザワが大きくなる。
そして、レミリアが仕掛けた罠の詳細を知っている魔法使いたちが大慌てで壇上へと集まってきた。
「一体何が──ッ!」
先頭を走ってきたスネイプは大きな血溜まりとぴくりとも動かないレミリアを見て絶句する。
美鈴は静かに日傘を畳むと、壇上に集まってきた全員に対して言った。
「ひとまず、お嬢様を移動させましょう。マクゴナガル先生は式の続きをお願いします」
「ええ、それがよいでしょう」
マクゴナガルは参列席のほうをチラリと見る。
少し遅れて息を切らせて走ってきた小悪魔は、レミリアの状態を確認すると杖を取り出し、レミリアの体を宙へ浮かせた。
美鈴は小悪魔がレミリアを持っていったのを見送り、壇上に上がる。
そして参列者に対しにこやかな笑顔で言った。
「すみません、うちのお子ちゃま夜行性でして。どうやら演説中に寝ちゃったようです」
美鈴のあまりの笑顔に、参列者たちも釣られて笑みを浮かべる。
スネイプは壇上の血液を綺麗に消失させると、小悪魔の後を追った。
『もう目も開いてますし、もしかしたらこちらが見えているかもしれませんね』
ぼんやりとくぐもった声が聞こえる。
女性の声だ。
『見えてるわけないでしょ。向こうは水中にいるんだから』
『それでも、ぼんやりとは見えてるはずです。それに音だって』
目の前に立っている人物は、コツコツと私の入っている容器のガラスを叩いた。
私は真っ直ぐ手を伸ばす。
『ほら、反応してますよ。こっちを認識してるんです』
『そりゃ、生きてるし、それに五感も正常に働いてるんだから反応ぐらいするわよ』
そう、私は生きている。
私は生きて──
意識が覚醒する。
「──っ……痛」
右足が酷く痛む。
無理はない。自分でやったこととはいえ、太ももから先を切断したのだ。
それに、まだ最低限の止血しか施していない。
私は傷口の断面にしつこく清めの呪文を掛け、消毒を行う。
そして鞄の中から命の水を取り出し、傷口にゆっくり掛けた。
これで傷口が壊死することはないだろう。
私はダンブルドアが義手を作ったのと同じ魔法を自らの右足にかける。
杖から飛び出した銀色の液体は私の右足にまとわりつき、太ももから先の部位へと形を変えた。
「この魔法便利すぎでしょ」
私はゆっくり義足の膝を曲げ、上手く動くことを確認する。
接合部がかなり痛むが、歩けないよりかはマシだ。
それに、足は関節が少ない分、義手を作るより簡単だ。
私は何度も足を曲げ伸ばししてから、慎重に立ち上がる。
そして時間の止まった室内をグルグル歩き回り、義足の調子を確かめた。
「歩けはするけど……走るのは厳しいわね」
私は時間停止を解除すると、切断した右足を鞄の中に放り込む。
私の鞄の中は時間が止まっているため、魔力的に繋がっているレミリアの時間も止まったはずだ。
これで少しの間時間稼ぎが出来るだろう。
私は血で汚れた室内を魔法で綺麗にすると、姿くらましでホテルの客室を後にした。
「これ、本当に生きてますよね?」
ダンブルドアの葬式会場近くの民家の中で、美鈴が停止しているレミリアを観察しながら呟く。
小悪魔はレミリアに対して何度か杖を振るうと、確信めいた表情で頷いた。
「完全に時間が止まってますね」
「時間が止まっている?」
小悪魔の後を追って一緒に民家に入ったスネイプがレミリアを見ながら言う。
「サクヤ・ホワイトに魔弾を撃ち込み、時間停止を無効化するところまでは成功したんでしょう。ですが、その後サクヤに逃げられ、魔弾を撃ち込んだ部位の時間を止められたんでしょうね」
小悪魔はスネイプの袖を掴み、レミリアの肌に触れさせる。
その瞬間、スネイプはレミリア同様に時間が止まり、室内で停止した。
「親は向こうか。だとしたら……」
小悪魔は今度は杖をレミリアの手首へと向け、切断呪文を放つ。
小悪魔の放った切断呪文はレミリアの手首をいとも簡単に切断した。
その瞬間、レミリアとスネイプは同時に動き出す。
レミリアは自分の手首が切断されていることを確認すると、傷口から溢れる血液をコウモリに変えて止血を施した。
「……ああ! もう! まんまと逃げられたわ!!」
レミリアは悔しそうに地団駄を踏む。
小悪魔は切断した右手を魔法で宙に浮かべると、器用に空中でブレスレットを外して地面へと落とした。
レミリアはブレスレットが地面に落ちたのを確認し、右手を手首へと再接合する。
そして接合面をコウモリで覆い、次の瞬間には傷痕がわからないほど綺麗に治癒させた。
「それではスカーレット嬢、作戦は……」
レミリアと共に動き出したスネイプがレミリアに問う。
レミリアは小さく首を横に振りながら言った。
「途中までは順調だったんだけどね。空間転移魔法で逃げられたわ」
「あれ? 空間転移しても弾丸に込められた魔法で捕捉できるって話でしたよね?」
そう、レミリアの作戦はかなりの完成度だった。
そもそも、パチュリー・ノーレッジがダンブルドアの葬式に参加するという情報からレミリアの罠だ。
パチュリーがダンブルドアの葬式に参列するか定かではないが、サクヤ・ホワイトを釣る餌にはできる。
そのような判断で日刊予言者新聞に記事を掲載させたのだ。
事実、サクヤはその餌に釣られて式場を訪れた。
だが、時間を操るサクヤを相手に、正面から戦っても勝ち目は薄い。
だからこそ、レミリアは更に何重にもトラップを張った。
サクヤが触りそうなあらゆる物を魔力的に結びつけ、マグルの狙撃手が持つ狙撃銃へと繋げる。
サクヤがそれらに触れた瞬間、狙撃銃を通して狙撃手の時間停止が解除され、それを合図にサクヤ・ホワイトへレミリアの持つブレスレットと魔力的に繋がった弾丸を撃ち込む。
サクヤの体内に弾を撃ち込んでしまえばあとはこっちのものだ。
時間を操る能力さえ無効化できれば、あとは赤子の手を捻るようなものだとレミリアは考えていたのだ。
だが、結果としてレミリアはサクヤを取り逃した。
サクヤが姿現しを使えることは知っていた。
だからこそ、弾丸にはサクヤがどこへ逃げようと追跡できるよう、魔法が仕込んでおいた。
「サクヤ・ホワイトと弾丸が一緒になっていたらね。簡単に摘出できないように弾丸は人体に入った瞬間粉々に砕けるようにもした。でも結果として私の時間を止められたということは……」
「右足を切断した。そういうことですか」
小悪魔の言葉に、レミリアは頷く。
「あの短時間で破片全ての摘出は不可能。それを考えると足を一度切り離したんでしょうね」
「いやいやサクヤちゃん……トカゲじゃないんだから」
「それもう私が言ったわ。それに、今現在全く魔力を探知できない。もしかしたら切断した右足ごと魔法で弾丸を消失させてしまったのかも」
あまりの思い切りの良さに、美鈴は頭を抱える。
レミリアは不意打ちで気絶させておけばよかったと若干後悔しつつも気持ちを切り替えるように手を叩いた。
「まあ、逃げられたもんはしょうがないわ。もう移動してるだろうけど、一番初めに移動した場所までは捕捉できてるし。美鈴、地図」
レミリアは美鈴に地図を広げさせると、ポケットの中から小さな魔法具を取り出す。
その魔法具はレミリアの手を離れると、地図上を滑るように動き地図のある一点を指し示した。
「……カーディフの港町ね。位置的にリゾートホテルがある場所かしら」
「カーディフだな?」
スネイプは地図を覗き込むと守護霊を呼び出して外へ放つ。
レミリアは手首についた自分の血を綺麗に拭うと、大きなため息をついた。
「まあ、今はダンブルドアの葬式に参加しましょうか。敵討のためだとはいえ、彼の葬式を利用するような形になっちゃったし」
行くわよ、とレミリアは小悪魔と美鈴に声を掛ける。
美鈴は慌てて地図を畳むと、日傘を持ってレミリアの横に立った。
小悪魔は部屋の隅で気絶している民家の主であるマグルに杖を向ける。
そして黒く真っ直ぐな指揮棒のような杖を一振りしてマグルの記憶を消去した。
設定や用語解説
ダンブルドアの葬式会場
ダンブルドアの葬式会場には無数に罠が張り巡らされており、ダンブルドアの棺を始め、参列者が座っている椅子から会場の地面に落とされたガリオンコインなど、様々なものが狙撃手と魔力的に結びついていた。
まんまとサクヤに逃げられるレミリア
実は姿くらましはできないように細工がなされていた。本来ホグワーツに掛けられているような姿現しを妨害する魔法は時間停止と共に無効化されるが、今回はレミリアのブレスレットに妨害魔法が施されていたため、時間が止まった世界でもブレスレットから数メートルの範囲では姿現しが使えない。ただ、サクヤはパチュリー・ノーレッジの書籍で学んだ魔力式多次元量子ワープを使ったため逃げることができた。
時間が停止するレミリア
サクヤが切断した太ももを鞄の中に入れたタイミングで時間が停止した。サクヤの所持している鞄の中に広がる世界は時間が停止しているため。小悪魔が親がどうとの発言をしていたが、もし魔力的繋がりの親がレミリアのブレスレットだった場合、逆に鞄の中に入れた太ももの時間が鞄の中で止まらなかった。
あまり痛がっていないサクヤ
脳内麻薬がドバドバ出ているせい。
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