P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
「だから、ひと騒ぎ起こしに来ました」
「は……え?」
トンクスは、何が起こったかわからない様子で両腕を上げる。
だが、本来腕がある位置には何もない。
トンクスの両腕は、上腕の真ん中で綺麗に両断されていた。
「あ、あああぁぁぁぁ……ぅぐ」
それを知覚した瞬間、激しい痛みがトンクスの脳内を支配する。
止血のために杖を持とうにも、取り出すための腕がトンクスにはなかった。
「あはははは、すみません。こっちも心苦しいところではあるんですが」
サクヤは赤い瞳をギラつかせてケタケタと笑う。
「他の二人なら、もう少しやりやすかったんだろうなぁ」
「──っ、ぁ……」
トンクスは今まで、サクヤがヴォルデモートの娘で、ダンブルドアを殺して逃亡したという事実に現実感を持てていなかった。
だが、今確信した。
ダンブルドアを殺したのは、確実にこいつだと。
サクヤは顔に笑顔を張り付かせたまま、テーブルの上に置かれたティーカップを手に取る。
そして、ティーカップの中の赤い液体を静かに口にした。
「早く他の二人を呼んで治療した方がいいですよ。聖マンゴに持っていけば綺麗に付くはずです」
「──ぃ、一体何が目的?」
トンクスは歯を食いしばりながら顔を上げる。
サクヤはそんなトンクスの叫びが聞こえていないのか、澄ました顔で鞄の中を漁り始める。
その瞬間、トンクスの脇にドーリッシュとウィリアムソンが現れ、すぐにトンクスを連れて付き添い姿くらましをした。
「おい! 大丈夫か!? くそ、出血が酷い……」
ドーリッシュは杖を取り出し、すぐさま止血を始める。
トンクスは霞んでよく見えない目を凝らし、周囲を見回して言った。
「……ここは?」
「聖マンゴのエントランスだ。ウィリアムソンが癒者を呼びに行ってる」
ドーリッシュはトンクスの両腕からの出血が止まったことを確かめると、今度は痛みを和らげる魔法をトンクスへとかける。
トンクスは魔法による鎮痛効果を感じながら、小さく呟いた。
「間違いない。あいつだ。サクヤがダンブルドアを殺したんだ」
「は? 何言って──」
「野放しにしてはダメ! 一刻も早く捕まえないと!!」
「んなこと分かりきってることだろうが! おーい! お癒者さん早く来てくれぇ!!」
ドーリッシュは半狂乱状態のトンクスを羽交しめにし、大声で癒者を呼ぶ。
トンクスは腕のない体でドーリッシュを投げ飛ばすと、残っている腕を使って服の中を探り始めた。
「……ああ、クソ! ステューピファイ!」
ドーリッシュは地面に倒れ込んだ体勢のまま、トンクスに失神呪文を掛ける。
トンクスはなんとか取り出した杖を口に咥えたところで失神し、そのまま地面に倒れた。
トンクスには少々申し訳ないことをしてしまった。
私は再び静かになったダイアゴン横丁の大通りを見回しながら心の中でトンクスに詫びる。
だが、素直に捕まるわけにも、このまま無視されるわけにもいかないのだ。
私は周囲に時間操作を施すと、先程鞄の中から取り出したサンドイッチを頬張り始める。
次は誰が来るだろうか。
きっと先ほどのトンクスたちは闇祓いの先遣部隊だろう。
通報が本当であるかの確認に来たに違いない。
トンクスが負傷したことで、今度は本隊がやってくるはずだ。
「まあ、闇祓い程度じゃ私の相手にはならないけどね」
私は余裕綽々で二つ目のサンドイッチを口の中に放り込む。
騒ぎが大きくなれば大きくなるほどいい。
私のおばあちゃんの耳に入る程度に。
「うふふ、おばあちゃん。私はここにいるわよ?」
その瞬間、金属の潰れる衝撃音が私の頭上で発生する。
私が上を向くと、ひしゃげた小さな金属の塊が私の頭上で浮いていた。
「やっぱり狙撃手を用意してきたか」
私は弾が飛んできた頭上に目を凝らす。
目には見えないが、きっと遙か上空から狙撃されたに違いない。
魔法界の事情に明るいマグルの狙撃手か、はたまたライフルを扱える魔法使いか。
二名一組になって、箒で上空を飛んでいるのだろう。
「念の為、周囲の窒素の動きを停止させておいて正解だったわね」
そう、私がテラス席に座った瞬間から私を取り囲むように薄い窒素の壁を作っていた。
魔法的な攻撃は防げないが、物理的な攻撃にはこれ以上の防御もない。
例え隕石が相手でも、時間が止まった物質を貫通するのは不可能だ。
二発、三発と続けて私の頭上から金属の潰れる音が響く。
私は時間を停止させると、鞄からファイアボルトを取り出して真っ直ぐ上空へと飛翔した。
しばらく垂直に飛行すると、空の真ん中に小さな黒い点が見え始める。
近づくにつれてその黒い点は段々人の形を成していき、最終的には二人の人影になった。
一人は確実に魔法使いだ。
必死の形相で箒を握りしめており、可能な限り箒を安定させようとしているのが見てとれる。
もう一人は先程私を撃った狙撃手だ。
金髪の長髪を後ろで一つに束ねている女性で、服装や装備を見る限りは映画に出てくる狙撃手そのものだ。
足を箒に器用に絡ませ、両手で真下に向けて長いライフルを構えていた。
「高い建物のないダイアゴン横丁なら狙撃されることはないと思っていたけど……よーやるわ」
私は半ば感心しながら狙撃手の持っているライフルのマガジンを引き抜く。
そして狙撃組の横へ移動し、時間停止を解除した。
「箒の二人乗りは危険だって授業で習わなかった?」
「──ッ!」
狙撃手は私の姿を確認すると同時にライフル振り上げ私へと向ける。
私はそんな狙撃手に向かってライフルのマガジンを振ってみせた。
「弾ならここよ」
私はそのままマガジンを後ろに放り投げる。
ライフルのマガジンは重力に従ってまっすぐ地表へと落ちていった。
「任せろ!」
魔法使いらしき男が片手で箒を急旋回させながら杖を引き抜く。
私は時間を停止させると、男に近づき杖を奪い取った。
そして元いた位置まで下がり、時間停止を解除する。
男は私に魔法をかけようと杖を振りかぶるが、すぐに杖が手元にないことに気がついた。
「探し物はこれかしら」
私は先程のマガジン同様、杖も投げ捨てる。
魔法使いは落ちていく杖を儚げな目で見送ると、両手でがっしりと箒を握りしめた。
「ほ、箒までは取らないよな?」
「あ、それいいわね」
私は杖を片手にゆっくり二人へ近づく。
その様子を見て魔法使いは大慌てで騒ぎ出した。
「いや待て待て待て! 話せばわかる!」
「姿くらましで逃げればいいじゃない」
「空中で姿くらまし出来るほど器用じゃない!」
大騒ぎする男とは対照的に、狙撃手は冷めた目で一瞬地表を見下ろす。
ここから落ちたらどうなるか考えているのだろうか。
「スカイダイビングはしなくてよさそう」
ボソリと狙撃手が呟く。
その瞬間、私のすぐ側で爆発音が鳴り響いた。
「え!? なに!?」
「──なッ!?」
私は爆発音が鳴り響いた方向を見る。
かなりの爆発音だったが、爆風は全く感じなかった。
既に爆発音が鳴り響いた場所には何もない。
『止めなさいッ!!』
「──ッ!」
私は咄嗟に時間を止める。
その瞬間、私の目の前に弾丸が出現した。
いや、出現したのではない。
この私の親指よりも太い弾丸は、今まさに私に向かって飛来してきていたのだ。
あと少しでも時間を止めるのが遅ければ、私の頭は粉々に吹き飛んでいた。
「一体どこから……」
私は地表を見回すが、それらしい人物は見つからない。
いや、何もない空に浮かぶ狙撃手を見つけるならまだしも、隠れる場所が無数にある地上の狙撃手を見つけるのは不可能に近いだろう。
私は背中に冷たい汗が流れるのを感じながら、改めて魔法使いと狙撃手のコンビに目を向ける。
魔法使いの方は何が起こったかわからないと言わんばかりに目を白黒させていたが、狙撃手の方は鋭い目つきでライフルを私に向けて構え直していた。
私が背後に気を取られた一瞬の隙をついて私を撃とうとしていたのだろう。
「空からの狙撃なんてアホらしいと思ったけど、私を上空に誘い出すための罠だったのね」
だとすれば、かなりハイリスクハイリターンな作戦だ。
とくに囮役の二人は死ぬ可能性が高い。
魔法省はそこまで切羽詰まっているのか?
私は目の前に迫っていた銃弾の横に回り込み、銃弾の時間停止を解除する。
銃弾は一気に速度を取り戻すと、激しい音と衝撃波を伴いながらさらに上空へと消えていった。
「……余裕こいてる場合じゃないか」
私は先程と同じように時間停止能力を用いて背後に窒素の壁を作る。
この壁さえあれば、物理的な攻撃で不意打ちをもらう可能性はゼロに近くできる。
私は今度は杖を取り出し、箒に乗っている魔法使いに向かって失神呪文を掛けようと振りかぶる。
「あれ?」
そして無言呪文で失神魔法を放とうとしたが、杖を勢いよく振っても失神魔法は放たれなかった。
「おかしいわね。ステューピファイ!」
私は今度は普通に発音して失神魔法を試みる。
だが、私の杖から魔法が放たれることはなかった。
「……? 反抗期?」
少し前から疑問ではあった。
この杖には今現在敵対しているレミリア・スカーレットの髪の毛が使われている。
レミリアと敵対した結果、杖が使えなくなるんじゃないかと少々懸念はしていたのだ。
だが、いまの今までは全く問題なく呪文が使えていた。
だからこそ、切り離された髪の毛は本人と意思を共有していないと思っていたのだが……。
「もしかして、この杖で居場所を特定されたりしてる?」
いや、そんなことはないはずだ。
そもそも、杖に使われている髪の毛がレミリアとなんらかの魔力的繋がりを持っているのだとしたら、私の時間操作の影響をレミリアは受けないはずだ。
だが、実際のところそんなことはなかった。
私は一度杖を懐に仕舞い直し、懐からナイフを取り出す。
そして魔法使いの手の甲に一度ずつ突き刺し、時間停止を解除した。
そして、間髪入れずに魔法使いの肩を思いっきり蹴飛ばす。
「いっ──」
両手への鋭い痛みと、突然の衝撃に箒を操作していた魔法使いはなすすべなく箒から滑り落ち、地面へと落下していった。
魔法界の箒は安全にための魔法が掛かっているため、乗り手がいなくなったとしてもすぐに墜落することはない。
だが、乗り手がマグルの場合、墜落しないというだけで操縦することは不可能だ。
私は箒の上に取り残された狙撃手の女と対峙する。
狙撃手は操縦するものがいなくなった箒から落ちないように、片手でしっかり箒の柄を掴み直した。
「私も落とすか?」
狙撃手は無表情とも言える顔で私に問う。
「いえ、貴方にはまだ聞きたいことがあるわ」
私は血のついたナイフを片手で弄りながら、狙撃手に質問した。
「貴方の雇い主は誰? 魔法省? 吸血鬼? それとも、ホワイト?」
「……」
私の問いに、狙撃手は無言で返してくる。
まあ、素直に答えるわけないか。
私の背後で鋭い金属音が鳴り響く。
どうやら地上にいるもう一人の狙撃手が私に対して弾丸を撃ち込んでいるようだ。
まあ、そっちは後回しでいいだろう。
「私の能力はね、実は凄く応用が利くの」
私は窒素の壁を作る要領で、狙撃手周辺の大気の時間を操作する。
動きを止めた大気というのは、それだけで最強の拘束具となりうるのだ。
狙撃手もそれに気がついたのか、体を揺らし始める。
だが、首から下の大気を固定しているため、全くもって動かすことが出来ていなかった。
私は狙撃手へと近づき、握っている箒を足で蹴り折る。
これで、最低限浮いていることも出来なくなったはずだ。
「私が能力を解除すれば、貴方は地球と情熱的なハグを交わすことになるでしょうね」
私は狙撃手に対しにこやかに笑う。
「もう一度聞くわ。貴方の雇い主は誰?」
「話すと思うか?」
「話さなければこちらが離すだけの話よ。徹底的に拷問してもいいけど、痛いのは嫌いでしょう?」
私は、わざとらしく肩を竦めて見せる。
「魔法界のいざこざに貴方のようなマグルを巻き込んでしまったことは本当に申し訳ないと思うわ。仕事を受けた貴方も貴方だけど。でも、本質的には関係ない話でしょう? 別に、貴方がここで死ぬ必要なんてないわ。正直に話してくれるなら、貴方の記憶を抹消してあげることも出来る。そうすれば、誰も貴方が雇い主を話したことに気がつかないわ」
狙撃手は無表情を崩さずにじっと私の顔を見続ける。
どうやら、話す気はないようだ。
時間を止めてじっくり拷問してもいいが、そんな気分でもない。
「あっそ。じゃあね」
私は狙撃手が何も話す気がないことを悟ると、狙撃手の周辺の大気に掛けていた時間停止を解除する。
狙撃手は、そのまま重力に従って地面へと落下していった。
その時だった。
ダガンという大きな破裂音と共に、私の脇腹に鋭い痛みが走る。
私は何が起こったのか一瞬理解できず、唖然としたまま視線を落とした。
服にじんわりと血が滲んでいく。
シャツを捲って傷口を確認すると、周辺にはキラキラとした金属粉が無数に付着していた。
「──ッ!?」
私は咄嗟に下を見る。
そこには、落下しながらも私に向かってライフルを構えている狙撃手の姿があった。
設定や用語解説
窒素の壁
待機中に存在している窒素の時間を部分的に止めることで形成される薄い壁。物凄く薄いが、時間が止まっているため物理的な攻撃に対しては鉄壁の強度を誇る。
箒を操縦している魔法使い
モブ。多分生きてる。
Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。