P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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日焼けと待ち合わせと私

 今日は天気も良く、空には雲一つない。

 遮るものが何もないため、太陽光はさんさんと地表へと降り注ぎ、周囲の墓石やレミリアの肌を容赦なく焼いている。

 身動きの取れないレミリアの肌は赤く爛れ、ところどころ黒ずみ始めている。

 すぐに灰になって消滅するものだと思っていたが、意外と長い時間耐えられるようだ。

 私はレミリアから少し離れると、杖を取り出して自分の脇腹に向ける。

 そして、瞬間的に強い魔力を脇腹へと巡らせた。

 

「あぐぅ……ぅ……」

 

 かなりの激痛が私を襲う。

 塞がりかけていた傷口が開き、赤い血が止めどなくあふれ始めた。

 

「ぅ……え、エピスキー」

 

 私は自分の脇腹へと治癒魔法を掛ける。

 先ほどはうんともすんとも言わなかった杖だが、今度は正常に魔法を発動させた。

 レミリアの意志で杖が使えなくなったのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

 

「なんだったのかしらね」

 

 私は清めの魔法で傷口周りの血を消失させ、傷口がよく見えるようにする。

 治癒魔法がよく効いているのか、傷口は既に塞がっていた。

 

「よし。後は──」

 

 私はレミリアを見ながら時間を停止させる。

 私の体内に残存する銀色の粉に掛けられた魔法を破壊できていれば、レミリアの時間も止まるはずだ。

 私はレミリアに近づき、時間が止まっているかを確かめる。

 そもそも大気に包まれていることで身動きがとれないレミリアだが、今度こそ完全に時間が止まっていた。

 

「よし、魔力的な繋がりは絶てたわね」

 

 私は時間停止を解除すると、改めてレミリアの前に立つ。

 そして、レミリアを見下ろしながら言った。

 

「死ぬまでここで観察したいところですが、私はロンドンに帰らせていただきますね。まだ目的を達成できていないので」

 

「──ッ!」

 

「吸血鬼ってどれぐらいで死ぬんです? ああ、透明マントがないのが悔やまれるなぁ」

 

 私はレミリアに目くらましの呪文を掛ける。

 そして、時間を停止させてから逃げるようにその場を後にした。

 

 

 

 

 ロンドンへと戻ってきた私は、先程までいたダイアゴン横丁のカフェのテラス席周辺の様子を窺う。

 私がレミリアと対峙し始めてからまだ数分しか経過していない。

 流石にまだ他の闇祓いなどの姿は確認できなかった。

 

「脱獄した死喰い人の誰かが様子を窺いにくると思っていたんだけど……」

 

 私は誰に言うでもなく呟くと、路地裏に隠れて時間停止を解除する。

 しばらくここで待機し、誰か知ってる顔が来ないか観察することにしよう。

 私は路地裏にあったゴミ箱に腰かけ、穴の開いた服に修繕魔法を掛ける。

 体内に銀の粉が残ってしまっているのが少し不安ではあるが、この前のように一つずつ取り除くわけにもいかない。

 体に不調が出る前にどうにか取り除く手立てを考えておかなければならないだろう。

 私は服を元通り修繕すると、鞄の中からサンドイッチを取り出して食べ始める。

 予想以上に危機的状況に追い込まれ、かなり体力を消耗した。

 少しでもカロリーを摂取して、回復に努めなければならない。

 私は半ば押し込むようにサンドイッチを口の中に詰め込むと、これまた鞄から取り出したかぼちゃジュースで胃袋の中に流し込む。

 作業のような食事になってしまうが、今は味を楽しんでいる余裕などない。

 私は周囲の魔力に神経を尖らせながら黙々とサンドイッチを食べ進めた。

 

 

 路地裏に隠れて一時間ほどが経過しただろうか。

 カフェの周りで闇祓いが調査をしているが、大通りにはいつも通りの活気が戻ってきていた。

 かなり距離を取っているので闇祓いたちの声は聞こえない。

 だが、表情を見る限りではそこまで切迫した雰囲気は感じなかった。

 

「あの様子じゃレミリアはまだ見つかってないわね」

 

 私は脇腹に軽く手を当て、具合を確かめる。

 もう違和感は感じない。

 流石命の水といったところだろう。

 治癒魔法ではここまで急激な回復は見込めない。

 

「さーて。もうひと暴れ──」

 

「やめなさいな」

 

 私が大通りに踏み出そうとしたその時、不意に後ろから声が掛けられる。

 聞き馴染みのあるその声に、私は特に警戒することもなく振り返った。

 

「お久しぶりです。パチュリー先生」

 

 そこには私が前に接触を試みようとしていた魔女、パチュリー・ノーレッジの姿があった。

 パチュリーはまるで警戒心を感じない足取りで私へと近づいてくる。

 私は敵意がないことを示すように両手を開いて見せた。

 

「まさか先生の方から出て来てくれるなんて思いもしませんでした」

 

「あら、そう。にしては随分な暴れようじゃない。まるで誰かを呼び寄せているみたいに」

 

「ええ、まあその通りではあるんですが……別に先生を呼んでいたわけではないですよ?」

 

 私がそう返すとパチュリーはキョトンとする。

 若干気まずい雰囲気の中、パチュリーは咳ばらいをしてから口を開いた。

 

「そ、そうなの。それじゃあ、一体誰を誘き出そうとしていたのよ。まさかレミリア・スカーレットではないでしょうね?」

 

「私は自殺志願者ではないですよ。好き好んで吸血鬼を相手にするほど物好きではないです」

 

 私は一呼吸置いてから、パチュリーに聞いた。

 

「ホワイトという魔女に聞き覚えはありませんか?」

 

 その名前を出した瞬間、パチュリーの眉がピクリと動く。

 どうやら知っている名前だったようだ。

 

「随分懐かしい名前が出てきたわね」

 

「ご存じでしたか」

 

「噂に聞いた程度だけどね。会ったことはないわ」

 

「私の祖母らしいんですよ。知ってました?」

 

 私がそう聞くと、パチュリーは少しの沈黙の後に頷いた。

 

「ええ、知っていたわ。シリウス・ブラックと一緒に貴方のことに関しては色々と調べたから。貴方とシリウス・ブラックが親族関係にあるってことが分かった時はかなり面白かったわよ」

 

「シリウス伯父さん、何か言ってました?」

 

「セレネ・ブラックとヴォルデモートとの間に娘がいたことにかなりショックを受けていたわ。でもそれと同時に、自分の親族であるからこそ自分が決着を付けなければという使命感に駆られていたわね」

 

「そうですか」

 

 シリウス・ブラックとハリーと私で三人暮らしがあり得たかもしれないと一時期後悔したこともあったが、どうやらその未来は存在しないものだったらしい。

 まあ、分かっていたことではあるが。

 

「で、そのホワイトと貴方の今の行動に何の繋がりがあるのよ」

 

 パチュリーはため息混じりに私に聞く。

 

「生きているなら、是非一度会って話がしたいなと。祖母は私の命を狙っているという話ですし。私の居場所を明確にアピールすれば、何かしらのアクションを起こすかなと」

 

 まあ、今のところ成果はないが。

 パチュリーは私の話を聞くと、頭を抱えるように呻いた。

 

「あのねぇ……まあいいわ。とにかく、これ以上騒ぎを大きくするのはやめなさい」

 

「でも、それじゃあ私のおばあ──」

 

「周囲を傷つけてまですることじゃないわ」

 

 パチュリーは左手を軽く腰に当てると、私の目を見ながら言った。

 

「貴方の復讐はもう終わったはず。そうでしょう?」

 

 その言葉に、私は目を見開く。

 復讐は終わった。

 そう、その通りなのだ。

 だが、事の真相を知らなければ、その言葉は出てこない。

 私が何も言えずにいると、パチュリーがため息交じりに口を開いた。

 

「ダンブルドアが貴方に殺されたと聞いた時、すぐに気がついたわ。ダンブルドアが貴方を騙していたんだろうってね。でなければ、貴方がダンブルドアを殺す理由がない」

 

「私がヴォルデモート卿の娘で、勢力争いのためにダンブルドアと魔法省を騙していた……と世間では言われていますけど……」

 

「シリウス・ブラックの死をダンブルドアから聞かされた時、ある程度の事情は聞かされたわ。それに、貴方のことはブラックを拾った時から調べていたし」

 

 まあ、よく考えればそうか。

 

「だからこそ、私はてっきり全てを知った上でダンブルドア側についたのだと、そう思っていたのだけど」

 

「ヴォルデモート卿が父親であると知った上で、裏切ったと?」

 

 私がそう確認すると、パチュリーは頷く。

 

「貴方がそんなに親族に執着をみせるとは思っても見なかったわ。むしろ淡白なほうだと思ったのだけど」

 

「私もそう思っていたんですけどね。手に入らないものだと関係ないものだと思っていたものが、少し手を伸ばせば触れられる距離にあったんです。ああ、私にも両親がいたんだなぁと」

 

 自然と笑みが溢れる。

 だが、その事実が判明した時には、それら全てを自らの手で破壊した後だったが。

 

「私は家族の温もりが欲しかっただけ。ただそれだけだったのに。ダンブルドアはクラウチが私の父親であると嘘をついて私を利用したんです。父親であるクラウチの罪を軽くする代わりに、ヴォルデモート卿を滅ぼすのを手伝えって。まあ、その前からダンブルドア側についてはいたんですけど」

 

「クラウチを追って死喰い人側に貴方が逃げるのを恐れたのでしょうね。本気で逃走を始めた貴方を捕えるのは至難の業でしょうし」

 

「そんなことはないですよ。ダンブルドアは両面鏡の破片で私の能力を封じていましたから」

 

 私は人差し指でこめかみの辺りをトントンと叩く。

 

「原理はシリウス・ブラックが私の時間停止能力対策に用意していた魔法と同じです」

 

「魔力的な繋がりを持たせていたというわけね。ダンブルドアは時間操作の影響を受けていなかった」

 

「ええ。それもあって私はダンブルドアに協力する以外の選択肢が取れなかったわけですけど」

 

 まあ、周囲のものの時間を細かく操れるようになった今、相手が時間操作の影響を受けなくとも身動きを封じたり、酸素を吸えなくしたりすることが可能だ。

 相手がレミリアのような生命力の高い生命体でない限り、殺すことは容易だろう。

 

「まあ、何にしてもよ」

 

 パチュリーはずいっと私に顔を近づける。

 

「復讐は済んだのだから、どこか遠くの国にでも逃げなさい。これ以上罪を重ねるべきではないわ」

 

「あ、そうだ。そのことでパチュリー先生にお願いがあったんでした」

 

 私はパチュリーに対して頭を下げる。

 

「どうか私を弟子にしてくれませんか?」

 

「どうか私を匿ってくれませんかの間違いでしょ」

 

 パチュリーは冷ややかな視線を私に投げかけながらも、仕方がないと言わんばかりに腕を組む。

 

「まあいいわ。貴方の能力については興味深くもあるし。それに、貴方ならすぐに助手として使い物になりそうだしね」

 

 ただし、とパチュリーは付け加える。

 

「私も時間操作の能力に対しては対策をさせてもらうわよ」

 

「そんな人を猛獣扱いしなくても……」

 

「猛獣の方がまだ可愛いわ。鋭い牙や爪程度では私に傷一つつけることは叶わないでしょうけど。流石に時間を止める能力というのは厄介よ。私のところで匿って欲しいなら、それが条件」

 

 まあ、それに関しては譲歩するしかないだろう。

 今思えば、ヴォルデモート……私のお父さんは何も対策をせずに私を側に置いていたのか。

 開心術で私の心の内を読んでいたのだとしても無防備だ。

 いや、違う。

 私が実の娘であるから信頼されていたのか。

 

「何にしても、今すぐというわけにはいかないし、それまではどこかに身を隠しておきなさいな」

 

「どうしてです? 何か準備が?」

 

「私の住処には侵入者用のトラップが幾重にも設置されているわ。その設定を書き直さないと住処を少し移動するだけで命を落とす可能性もあるし」

 

 命を落とす可能性もあるというのは冗談でもなんでもないのだろう。

 あのパチュリー・ノーレッジの住処だ。

 どのようなトラップが設置されていても不思議ではない。

 

「だからまあ……そうね。三日後。三日後の二十時に迎えに行くわ」

 

 三日後か。

 まあ三日ぐらいなら状況が大きく変化することもないだろう。

 

「待ち合わせ場所はどこにしますか?」

 

「貴方の家でいいわよ。場所は知ってるし」

 

「私の家……ブラック邸ですね」

 

 ブラック邸は現在時間を止めてある。

 魔法省が目をつけていたとしても立ち入ることは出来ないはずだ。

 

「二十時になったら時間を止めてブラック邸に移動しなさい」

 

 パチュリーはローブのポケットを漁ると、小さなコインを私に渡してくる。

 私はすぐにそのコインの正体を察した。

 

「このコインの時間の停止を解除しておけばいいわけですね」

 

「話が早くて助かるわ。このコインと対となるコインを私は持っている。止まった時間の中で待ち合わせするのが一番安全よ」

 

「……ですね。わかりました」

 

 私はポケットの中にコインを滑り込ませる。

 

「では、三日後。ブラック邸で」

 

「ええ、それまでに死ぬんじゃないわよ」

 

 パチュリーは軽く左手を挙げると、音もなくその場からいなくなる。

 私は一度カフェテラスの様子を窺ってから、その場を後にした。




設定や用語解説

魔道具を魔力で焼き切る
 今回は呪いではないためこのような対処ができたが、これがシリウスが使ったような魔力的繋がりを持たせる呪いだとこうはいかない。

Twitter始めました。
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