P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
路地裏でパチュリーを見送った私は、時間を停止させてその場で変装を始めた。
変装と言ってもポリジュース薬を使った本格的なものではなく、髪の色を変えたり眼鏡をかけたりする程度だ。
魔法使いを騙すならまだしも、マグル相手ならこの程度の変装で十分なのである。
髪の色をブラウンに変え、ハリーのような丸メガネを掛ける。
これだけで見た目が随分地味になるからファッションとは面白い。
変装を終えた私は時間を止めたままロンドンの少し外れの方にあるホテルの前へと姿現しする。
リアフォードホテル……全世界に展開しているホテルグループだ。
私はホテルの建物の陰に隠れると時間停止を解除する。
そしてホテルのエントランスへと入っていった。
受付にいた女性を魔法で錯乱させてチェックインを済ませた私は、ベッドの上に服を脱ぎ捨て、変装を解いてバスルームへと向かう。
そしてバスルームの扉の時間を停止させて固定すると、シャワーカーテンを引いて蛇口を捻った。
「……はぁ」
熱いお湯が私の頭の先から体を伝いバスタブへと落ちていく。
私はそれを肌で感じながら、今日の出来事を振り返った。
「なんというか、冷静に考えるとどうかしてたわね」
祖母に会いたかったというのは本心だが、自分の命を危険に晒してまで会いに行くのはどうかと思う。
それも、会えるという確証すらないじゃないか。
「結果だけ見れば収穫はあったけど。今後こういうことはないようにしないと」
私はホテル備え付けのシャンプーやボディーソープで体を清めると、真っ白でフカフカなタオルで全身を包み込む。
そして洗面台にあるドライヤーで髪を乾かし、鞄の中から新しい服を取り出して身に着けた。
「三日か」
ベッドの上に脱ぎ捨てた服を鞄の中に放り込み、そのままベッドの上に横になる。
三日程度ならこのままこのホテルで時間を潰してもいい。
待つのがもどかしいのであれば、自分の時間を遅くして体感時間を早めるという手もある。
その気になれば、体感時間三秒後には現実時間の三日後だ。
「まあでも、少し情報を整理する時間は必要かも」
私に祖母がいるという話を聞いたのは今日の朝だ。
一応パチュリーにも確認を取ったので信憑性は高くなったが、情報源はあのピーター・ペティグリューだ。
どこまで本当の話かわかったものじゃない。
「少しでも詳しい人に話を聞ければいいんだけど。でも魔法界でも一部の人間しか知らない人物となると話を聞くだけでも難しいわね」
アズカバンから脱獄した死喰い人連中は勿論知っているだろうが、現在どこにいるかわからない。
かといって魔法省や不死鳥の騎士団のメンバーで私の祖母を知っている者は殆どいないだろう。
「オリオン・ブラックの浮気相手……自分の子供をヴァルブルガ・ブラックに産ませたって話だけど、本当なのかしら」
こういう時、クリーチャーが生きていれば色々と話を聞けたのだが──
「あ、クリーチャー」
私はベッドから起き上がると、鞄の中を覗き込む。
そういえばクリーチャーを埋葬するのを忘れていた。
生前あれだけお世話になったのだ。
丁重に埋葬してあげなければ失礼というものだろう。
「そういえばブラック家の人達のお墓ってどこにあるのかしら」
流石に全員同じ場所というわけではないだろうが、ある程度同じ墓地にまとまっているはずだ。
というか、シリウス・ブラックもそこに埋められている可能性が……
「いや、それはないか。家族と仲が悪そうだったし」
もうブラック家の生き残りは私一人だ。
つまりもう墓の場所を知っている人間は誰一人いない可能性が高い。
「……。どうしようかしら」
私は鞄を閉じると、ベッド横の机の上に放り投げる。
そしてベッドに横になり、目を閉じた。
その瞬間だった。
「あ」
私はあることに思い至り、ベッドから飛び起きる。
「別に本家の人間じゃなくてもいいじゃない」
そう、ブラック家本家の人間の生き残りは私一人しか存在しないが、分家の人間はまだ生きている。
そしてその中には居場所がはっきりしている人間もいるのだ。
「ナルシッサ・マルフォイ。ドラコのお母さんってたしかブラック家の人間よね」
ドラコの母のナルシッサは私の従伯母にあたる。
少し遠い親戚にはなるが、ブラック家本家の人間が埋葬されている墓地の場所ぐらいは知っていてもおかしくはない。
私はポケットから懐中時計を取り出すと、今の時間を確認する。
現在時刻は正午を少し過ぎたぐらいだ。
人の家を訪ねるのに遅い時間ではない。
「けどまあ、明日でいいか」
遅い時間ではないが、流石に今日は疲れた。
それに大きな怪我をしたこともあり、体も本調子ではない。
私は懐中時計をポケットの中に仕舞うと、周囲の空気の時間をところどころ止める。
こうすることで空気の循環はしつつ、外部からの侵入を防げるはずだ。
「あ、体内に残留している銀色の粉も除去しないと。どうしようか……な……」
まあ、そういうことは明日考えよう。
私は部屋の冷房を強めに設定すると、シーツを頭の上まで引っ張り上げた。
次の日の朝。
ベッドから起き上がった私は軽くシャワーを浴びると、化粧代わりに変装を施し直す。
そして、朝食を取りにホテル一階にあるレストランへと足を運んだ。
なんだかこの感じ、凄く懐かしく感じる。
そういえば、在学中もグリフィンドールの談話室から大広間に食事を取りにいってたっけ。
私は皿に溢れんばかりの食事を盛ると、テーブルについてナイフとフォークを持つ。
そしてまだ寝ぼけている体を起こすように、少しずつ料理を口の中に運び始めた。
「うん、やっぱり美味しいわ」
高級ホテルなだけはある。
ホグワーツで出てくる朝食とは方向性の違う美味しさだ。
私は料理を口に運びながら昨日のことを思い出す。
そういえば今日はブラック家の人間が埋葬されている墓場を探しに行くんだったか。
「そういえばドラコの家には初めて行くわね。確かウィルトシャー州の外れだったかしら」
私はポケットの中から鞄を取り出すと、中を漁り始める。
そして四年生の時にドラコから貰った手紙を引っ張り出した。
クィディッチワールドカップに誘われた時のものだ。
「えっと何々……うん、書いてあるわね」
私は便箋に書かれている住所を確認し、そのまま便箋をポケットの中に入れる。
朝食を食べ終わったら身支度を整えてウィルトシャー州へと向かおう。
私は皿に残ったベーコンを丸めてフォークで突き刺し、口へと運んだ。
部屋へと戻ってきた私は姿見の前に立ち、魔法で染めた髪の色を白く戻す。
そして掛けていたメガネを外すと、手櫛で軽く髪を梳いた。
「少し長くなってきたかしら」
前髪だけでも切った方がいいだろうか。
そういえば在学中はよくハーマイオニーに切ってもらっていたっけ。
私は少し長くなった髪を軽く整えると、時間を停止させる。
そして鞄の中からファイアボルトを取り出し、ホテルの窓を開け放った。
「さて」
ファイアボルトに跨り、ステップに足を掛ける。
そのまま室内でふわりと浮上し、窓の外へと飛び出した。
マルフォイ邸には行ったことがないので、姿現しで向かうことはできない。
いや、ざっくりと近くに移動することが出来るかもしれないが、バラけてしまう可能性が高いだろう。
そんなリスクを冒すぐらいなら、箒で飛んでいったほうがいい。
私は一気に上空まで飛び上がると、ウィルトシャー州に向けて飛び始めた。
空中で固まっている鳥に注意しながら一時間ほど飛行しただろうか。
私は地図上で目星をつけていた敷地の広い学校を発見し、地上へと箒の先端を向ける。
そして地上の建物がよく見える高さで滞空し、住所を頼りにマルフォイ邸を探し始めた。
「魔法使いの家だから多分隠されているわよね」
スリザリン特有のマグル嫌いを考えると、マグルの街からは離れていると考えていい。
「ドラコは何か手掛かりになりそうなこと言ってたかしら」
確か、かなり庭は広い。
それこそクィディッチの練習が出来るレベルで。
「こんなことなら一度ぐらい遊びに行くべきだったわ」
私は時間停止を解除すると、探知魔法を周囲に走らせる。
するとひっそりと脇に伸びる馬車道に魔力の残滓が残っているのを発見した。
「ビンゴ。多分この奥ね」
私は再度時間を止め、石畳で舗装された馬車道を辿っていく。
馬車道は人里から少し離れた森の奥へと続いており、十分も歩く頃には周囲を見回しても木々しか見えないほど森は深くなっていった。
魔法使いの家を隠すには十分すぎるほどの森だ。
さらにしばらく歩くと、いきなり森が開け、かなり広い空間へと出る。
視線を上げると、そこには鉄の柵で囲まれた大きな屋敷が立っていた。
「うん、ほぼ間違いないわね」
私は目の前の建物がマルフォイ邸であると確信し、時間停止を解除する。
そして鉄の門を開くために門の取っ手に手を掛けた。
「目的を述べよ!」
その瞬間、鉄の門の一部が歪み、曲線的な模様が人の顔へと変貌する。
私は門に掛けられてる魔法に妙に感心すると、門に対して言った。
「ナルシッサ・マルフォイに用事があってきたの。あの人の娘が来たと伝えればわかるはずよ」
鉄の門に浮かび上がった顔は一瞬眉をピクリと動かすと、パッと門を開けてくれる。
門の奥は先程までの道中と比べると明らかに手入れがなされている。
私は道中に設置されている石像などを眺めながら馬車道を歩き、屋敷の玄関までやってきた。
玄関の扉には蛇を象った細かい彫刻が施されており、かなりの年季も感じられる。
マルフォイ家自体かなり昔からある家系なのだろう。
私が玄関の扉に歴史を感じていると、そんな玄関の扉が細く開く。
そしてその隙間からブロンドの髪を持つ女性が顔を覗かせた。
「……サクヤ・ホワイト?」
「あ、はいそうです。お初……ではないかもですが、こうして挨拶させていただくのは初めてかもしれませんね」
私はにこやかな笑顔をナルシッサに向ける。
ナルシッサは扉の隙間から顔を覗かせたまま言った。
「どのようなご用件でしょうか。生憎、主人は仕事に行っております。ドラコは入学準備で出かけておりますし……家には私しかおりません」
「いえ、大丈夫です。私は、貴方を訪ねてきたのですから」
「……私を? ドラコや主人ではなく?」
ナルシッサとしても予想外の答えだったのだろう。
ナルシッサは周囲を素早く見回してから玄関の扉を開ける。
そして私を屋敷の中へと招き入れた。
「こちらへ」
ナルシッサは私のことを警戒しながらも屋敷の中を先導し、私を客間へと案内する。
客間には高そうな机とフカフカのソファーが置かれており、天井からは煌びやかなシャンデリアがぶら下がっていた。
まさに絵に描いたかのようなお金持ちの家だ。
私はナルシッサに勧められるがままにソファーへと腰かける。
ナルシッサは私の正面のソファーに座ると、じっと私の顔を見た。
「……似てますか?」
「え? あ、その……」
そんな私の唐突な問いに、ナルシッサはしどろもどろになる。
開心術を使ったわけではない。
だが、私の母親と親戚の関係なのだとしたら、自然と母親であるセレネ・ブラックと私を見比べるだろうと思ったのだ。
ナルシッサは隠すように小さく深呼吸すると、改めて口を開く。
「正直、瓜二つですわ。貴方のお母様……セレネ・ブラックを最後に見たのは、貴方と同じぐらいの歳の頃でしたから」
「同じぐらい……というと?」
「セレネはホグワーツ卒業と同時に世間から姿をくらませました。そう、例のあの人の配下になったのです」
卒業と同時に死喰い人に……まあ、珍しい話ではない。
あの頃のスリザリン生の中には在学中から闇の魔法使いと繋がりを持っている生徒も少なくなかったそうだ。
「そして、お父さんとお母さんは恋に落ちたと……」
「二人の間にロマンスがあったかどうかは定かではありませんが……ですが、あの子が例のあの人に気に入られたというのは納得のいく話です。あの子は学校一の美女で、頭も良く、魔法の才能もありましたから」
ナルシッサはふと視線を上げると、私の顔を見て苦笑する。
「そういう意味でも、貴方と貴方のお母様は良く似ています」
「えへへ」
私とお母さんが似ている……か。
今まであまり言われたことのない言葉だったために、私はついつい照れ臭くなってしまう。
本当ならもう少し母親の話を聞きたいところではあるが、そろそと本題に入った方がいいだろう。
ナルシッサもそのつもりだったのか、先ほどまでの柔らかな笑みに若干の緊張が走る。
「……それで、本日のご用件は──」
ナルシッサが重たそうに口を開いたその時、客間の扉が開いて一匹の屋敷しもべ妖精がティーセット片手に入ってきた。
「奥様、紅茶をお持ちしました」
「準備を済ませたらすぐに立ち去りなさい」
ナルシッサは小さく息をつくと、屋敷しもべに命令する。
私はそんな屋敷しもべを横目に本題に入った。
「ブラック家の人間が埋葬されている墓地を探しておりまして」
「墓地?」
私は魔法で容量を拡大しているポケットから鞄を取り出すと、さらにその中からクリーチャーの遺体を引っ張り出した。
設定や用語解説
ウィルトシャー州
ロンドンの西側にある州。のどかな雰囲気な街が広がっている。
空中で固まっている鳥に注意する
時間が止まっていると、空を飛ぶ鳥や虫はかなりの脅威となりうる。気が付かずに衝突すると、痛いでは済まされない。
屋敷しもべ妖精
まだ自由になれていないドビー。
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