P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
魔法省へと戻ったロバーズは、はやる気持ちを抑えながら同行した役員に別れを告げ、闇祓い局が管理をしている拘置所へと向かう。
優秀なシャックルボルトのことだ。
既に各種手続きを済ませサクヤ・ホワイトを牢屋に収容している頃だろう。
ロバーズは決められたルートを辿り拘置所へと煙突飛行する。
そして拘置所の事務所に顔を出し、シャックルボルトが既に到着していることを確認した。
「結構結構大変結構。やはり優秀だなあの男は」
ロバーズは上機嫌でひとしきり感心すると、事務員にサクヤ・ホワイトが拘置された牢の場所を聞く。
事務員は先ほど処理したばかりの書類をロバーズに見せた。
「つい先ほどのことなので……まだシャックルボルト氏も戻られてないほどです」
「そうか。ちょうどいい」
そのまま尋問してやろう。
ロバーズはそう心の中で呟き、牢が立ち並ぶ廊下へと足を踏み入れる。
サクヤ・ホワイトを収容する牢は特別製だ。
内部に存在しているありとあらゆるものが拘置所の職員が身につけているブレスレットに魔力で紐付けされている。
サクヤ・ホワイトが少しでも時間を止めようものならすぐに察知することが出来るようになっていた。
ロバーズは廊下の一番奥にある扉を開け、更に奥へと伸びる通路を進む。
そして特別製の牢の中へと足を踏み入れた。
「相変わらず手際がいいな君は」
ロバーズは牢に入ると同時にシャックルボルトへ声を掛ける。
シャックルボルトはロバーズの方を振り向くと、軽く姿勢を正した。
「逃げられでもしたらたまったものじゃありませんからね。サクヤの……サクヤ・ホワイトの厄介さは闇祓いの中では自分が一番理解しているつもりです」
「ふむ、全くもってだな」
ロバーズはシャックルボルトを挟んで部屋の奥、床に固定された椅子にガチガチに拘束されているサクヤ・ホワイトを見る。
サクヤ・ホワイトは薬がよく効いているのか、はたまた図太いだけか、そのような状態でも気持ちよさそうに寝息を立てていた。
「憎たらしいほどによく寝ているな」
「起こしますか?」
「冷や水を浴びせかけてやりたいところだが……その程度じゃ起きんだろうな。解毒薬を」
ロバーズの指示でシャックルボルトはポケットの中に入っていた解毒薬をサクヤ・ホワイトの口の中へと流し込む。
するとその瞬間、サクヤ・ホワイトは小さな呻き声をあげながらゆっくりと顔を上げた。
「……ぁー、んー?」
サクヤ・ホワイトは目をショボショボさせながら首だけを回して周囲を見回す。
そして自分が拘束されていることに気がつき、シャックルボルトとロバーズの鼓膜が破れんばかりの悲鳴を上げた。
「きゃあああああああ! え? 何!? 誰!? ここどこ!? なんで私拘束されてるのよーっ!?」
身を捩り、涙を浮かべながらのたうち回るサクヤ・ホワイトを見て、ロバーズはほくそ笑む。
だが、対照的にシャックルボルトの表情は固くなった。
「観念することだなサクヤ・ホワイト。好き放題おいたをするのも終わりだ」
「さ、サクヤ・ホワイト? え?」
サクヤ・ホワイトは目をパチクリさせるとシャックルボルトとロバーズを交互に見る。
「私がサクヤ・ホワイト? あ、なるほどー……」
そして深呼吸を何度か行い、急に笑顔になった。
「いくら私が美人だからってサクヤと見間違えるなんて。ロンドン市警もおっちょこちょいなんだから」
サクヤ・ホワイトはニコニコしながら身を捩る。
「残念だけど私はサクヤ・ホワイトじゃないわよ? 私はレイラ・オックスフォード。確かにサクヤと同い年で同じぐらい容姿端麗だけど、間違えるほど似てるとは思わないんだけどなぁ」
それを聞き、シャックルボルトとロバーズは顔を見合わせる。
レイラは小さく鼻を啜ると、ロバーズに向けて言った。
「で、私はいつお家に帰れるの?」
時は少し戻ってサクヤがマルフォイ邸を後にした直後。
マルフォイ邸から孤児院へと姿現しした私は、ナルシッサから受け取った羊皮紙を分析する。
何かしらの追跡魔法や魔力的な繋がりが持たされていたらたまったものじゃない。
だが、私の予想に反しナルシッサから受け取った通行証には通行証以上の魔法は掛けられていなかった。
「杞憂……だったかしらね」
私は通行証を鞄の中に仕舞い込む。
もし私が気がついていないだけで何かしらの追跡魔法が羊皮紙に掛けられていたとしても、鞄の中に入れてしまえば無効化は出来る。
これを取り出すのは墓場についてからでいいだろう。
私は時間停止を解除すると、自分の部屋のベッドに腰掛ける。
「さてと、多分魔法省にあるとは思うけど……」
先ほどのナルシッサとの会話で、私は重要なことに気がついた。
そう、私の父親、ヴォルデモート卿の遺体を埋葬していないと。
父親の遺体はホグワーツ城の塔の上で魔法省の役人に引き渡した。
魔法省としても手柄の証明としてヴォルデモート卿の遺体は確保しておきたいはずだ。
「勝手に埋葬してはいないはず……でも聖マンゴじゃないし死体安置所なんてあるかしら」
アズカバンには死んだ囚人を入れておくための安置室が設置されていた。
聖マンゴも病院という性質上死体安置所はあるだろう。
だが、ただの行政機関である魔法省に遺体を保管しておけるような設備があるとは思えない。
少なくとも人の出入りがあるような場所では保管しないだろう。
「だとすると地下にある隠し牢か、神秘部かしらね」
神秘部には何度か踏み込んだことがあるが、あそこなら死体の一つや二つ安置されていても不思議ではない。
「まあ、魔法省の知っていそうな人に聞くのが一番早いわね。魔法大臣……いや、魔法法執行部長あたりでいいかしら」
今の魔法法執行部長はパイアス・シックネスだったか。
地下一階にある魔法大臣室には何度も入ったことがあるが、地下二階で降りたことは殆どない。
シックネスとも魔法省で何度かすれ違った程度だ。
まあ、この際どんな人物かなんてあまり関係ないか。
「適当に近くのレストランで腹ごしらえして、それから魔法省へ向かいましょうかね」
私はクローゼットから薄手のTシャツとジーパンを取り出し、着替えを始める。
そして時間を停止させると、ロンドン駅近くの路地裏へと姿現しした。
ロンドン駅近くのファーストフード店で腹ごしらえをすませた私は、そのまま店のトイレの中に入り時間を停止させる。
そして魔法省の地下一階、大臣室の前へと直接姿現しした。
本来なら魔法省へは煙突飛行か定められた隠し経路を通らなければ入ることができない。
だが、時間さえ止めてしまえばこちらのもの。
やりたい放題好きなように移動出来てしまう。
「今の所、これへの対策は出来ていないようね。まあ、いくら物理的に入り口を固めても姿現ししてしまえば意味ないし、姿現しを無効化しようにも時間が止まった世界では意味がない」
やりようがあるとすれば、棺と自分を魔力的に繋げて、その中に隠れるぐらいだろうか。
まあ、何にしてもこのような公共施設には対策の施しようがないのだろう。
「不用心……というわけではないのでしょうけど、危機感は足りないわね。私がその気になれば──」
私は小さく笑うと、階段を使って地下一階から地下二階へと移動する。
そして扉の上につけられた表札頼りに魔法法執行部長の執務室へと入った。
魔法法執行部長の執務室は魔法大臣室と同じような作りだが、魔法大臣室と比べると来客をもてなすことが少ないのか調度品や装飾が簡素だ。
だが、部屋の奥に設置されている机はかなり立派なもので、それなりに歴史を感じる。
そして、その机の奥にパイアス・シックネスはいた。
栗色の長い髪を後ろに流し、顎には髭を蓄えている初老の男性。
きっとそれなりに歳をとっているのだとは思うが、色白の肌に気力に満ちた表情はどこか若々しさすら感じさせた。
この男性がパイアス・シックネスで間違いない。
魔法省の中で何度か挨拶を交わしたことがある。
どこかコーネリウス・ファッジに似た雰囲気を持つ、人当たりの良い人物だったはずだ。
「さてと。まずは武装解除かしらね」
私は魔法法執行部長室の扉を閉めると、内側から鍵を掛ける。
そして部屋の中にシックネス以外の人間がいないことを確かめると、時間停止を解除した。
時間停止を解除した瞬間、シックネスは羊皮紙から顔を上げることなく羽ペンを羊皮紙の上で滑らせ始める。
私はその仕事ぶりをしばらく眺めると、そっと声を掛けた。
「シックネス部長、少々お時間よろしいですか?」
私が声をかけた瞬間、シックネスは肩を震わせて視線を上げる。
「おっと、私としたことが。入室に気が付かないほど書類に熱中するなとよく補佐に言われているのだ……が……」
シックネスは私と視線を合わせると、何度か目をパチクリさせる。
そして大慌てで懐の杖を引き抜いた。
その瞬間、私はもう一度時間を停止させる。
そしてシックネスが引き抜いた杖を奪い取り、世界の時間を止めたままシックネスの時間停止のみを解除した。
「ひっ! す、すぴゅ〜、え? 杖が!?」
シックネスは自分の杖腕を見て軽くパニックに陥る。
そして自分の服を何度か弄り、絶望した表情になった。
「杖が……サクヤ・ホワイト……」
シックネスは視線を上げて私の顔を見る。
私はシックネスの杖をこれ見よがしに振って見せると、シックネスの杖をズボンのポケットに入れた。
「お久しぶりですね。シックネス魔法法執行部長さん」
「お、お久しぶりでございます」
シックネスは椅子から立ち上がろうと少し椅子を引く。
私はそれを見てシックネスに杖を突きつけた。
「立ち上がらないでください。姿くらましする兆候を見せたら殺しますよ」
「──ッ! そ、それだけはどうか……」
シックネスは恐怖に顔を歪め、深く椅子に座り直す。
そして目を瞑り大きく深呼吸をすると、今度はまっすぐ私の目を見た。
「用件は何かね。何が目的だ? 私をどうする気だ?」
「……」
私はそのまっすぐな視線が気に入らなかったので、シックネスに開心術を仕掛ける。
シックネスはすぐに私の侵入に気がついたのか、慌てて目を逸らした。
「……まあ、大した用じゃないんですけどね。私のお父さんの遺体を引き取りに来たんです」
「父親の遺体?」
シックネスは私の言葉が理解出来ていないのか、ポカンとした表情になる。
「ヴォルデモート卿の遺体ですよ。魔法省が管理しているはずです」
そこまで口に出してようやく理解したのか、シックネスはハッとする。
そして、そのまま困惑したように言った。
「確かに、君の父親の遺体は魔法省が管理している。今は神秘部の死の間に保管されているはずだ」
「神秘部に?」
「ああ」
シックネスは謎に力強く答える。
そして少し迷ったように視線を泳がせると、意を決して言った。
「遺体をどうするつもりかね? 何かこう恐ろしい儀式に使うんじゃ──」
「いや、埋葬するつもりですが」
私は素直にシックネスの問いに答える。
シックネスはそれを聞き、目を瞑って椅子の背もたれに寄りかかった。
「埋葬……ああ、そうか。埋葬ね」
シックネスは机の引き出しに手を掛ける。
私はその行為を止めようと咄嗟に杖を振りかぶったが、シックネスが次に放った一言でその手を止めることになった。
「正直安心したよ。君にも親を尊ぶ心はあるのだね」
シックネスは机の引き出しから一枚の羊皮紙を取り出す。
そしてその羊皮紙にしばらく羽ペンで何かを書き込むと、私に見せてきた。
「神秘部の死の間に入るには魔法大臣の許可と共に、私の引率が必要だ。そうだな……先進魔法研究所の職員がいいだろう。彼らは魔法が関わっているものには何でも飛びつく。大臣もよくご存知のはずだ」
シックネスが見せてきた羊皮紙は、死の間への入室許可願いだった。
羊皮紙にはシックネスのサインと共に、誰のかわからない人の名前も記入されている。
そしてその下には魔法大臣のサイン欄も準備されていた。
「そこまですんなり話が通ると逆に怖いんですけど。え? 私の隠れファンとかですか?」
「君の父がしたことも、君がしたことも許される行為ではない。だが、亡くなった親を尊ぶ子供の心を無下には出来んだろう」
シックネスは羊皮紙を持って椅子から立ち上がる。
私は突きつけていた杖をゆっくり下ろすと、改めてシックネスと向き合った。
「さて、私はこの羊皮紙を大臣室に持っていこうと思うが……ついてくるかね? それとも、この部屋で大人しくしておいてくれるかな? 信用ならないというなら、服従の呪文を掛けてもいいが……」
「……大人しく待ってます。その代わり、信用していますからね?」
私は真っ直ぐな視線をシックネスに向ける。
シックネスは不敵な笑みを浮かべながら肩を竦めた。
「まあ、君の気持ちを裏切った瞬間殺されるのは目に見えているからね。私の身の安全のためにも密告するようなことはしないさ」
シックネスは羊皮紙を軽く振り、部長室から出ていこうとする。
私はシックネスがドアノブに触れる直前に時間停止を解除した。
シックネスはそのままドアノブを捻り、部屋の外へと歩いていく。
私はその後ろ姿を見送ると、部長室の壁の隅へ座り込んだ。
設定や用語解説
パイアス・シックネス
原作ではヴォルデモートに操られていたため嫌なやつな印象しかないが、今作では気のいい面白おじさん。魔法の才能はからっきしだが、人望と真面目な性格もあってとんとん拍子で出世した。
Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。