P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
ヴォルデモート卿の遺体を魔法省から取り返した次の日の朝。
私は墓場を挟んで、闇祓いが展開している山の反対側の山の斜面から、望遠鏡で墓場の様子を窺っていた。
闇祓いたちは私と同じように双眼鏡を構え、墓場をじっと監視している。
あの様子では私が現れない限り意地でもあの場を離れないだろう。
「仕方ない。レイラを投入しますか」
私は時間を停止させると、隣に立っているレイラにポリジュース薬を飲ませる。
数秒もしないうちにレイラの容姿はみるみる私そっくりに変化した。
「……うん、大丈夫そうね」
私はポリジュース薬による変身が完全であることを確かめると、レイラの服に変身術を掛け簡素な黒いワンピースへと変化させた。
「さてと、それじゃあレイラ、手筈通りにね」
「はい。かしこまりました」
レイラはとろんとした表情のまま無機質な返事をする。
私は今一度服従の呪文を重ね掛けし、レイラを連れて墓場の前へと付き添い姿現しをした。
「じゃあよろしく」
「かしこまりました」
レイラはまた無機質な返事をすると、墓場に向けて歩き始める。
私はそれを確認すると、先ほどまでいた山の中腹へと姿現しし、時間停止を解除した。
「さてさて、魔法省はどんな罠を仕掛けてくるかなっと」
私はロンドンの百貨店から無断で借りてきた望遠鏡を覗き込む。
私の姿そっくりのレイラは指示通りに墓場の前をしばらくうろうろとする。
だが、すぐに大きなあくびを一つし、そのまま地面に横たわって居眠りを始めてしまった。
「寝るように命令はしてないし、何かの薬品かしら」
それか、あの周辺に対象を眠らせる魔法がかけられていたか。
なんにしても魔法省にも多少は良心というか、人の心が残っているようで一安心だ。
もしこれがレミリアだったら、凄まじい量の地雷を仕掛けて墓場ごと爆破してきてもおかしくない。
「まあ、もしかしたらシックネスが何か働きかけたのかもだけど」
なんにしてもあとは居眠りを始めたレイラを魔法省が逮捕し、この場から撤退するのを待つだけだ。
レイラに飲ませたポリジュース薬の効果時間はそれほど長くはない。
魔法省もすぐに逮捕した私が偽者であると気がつくはずだ。
そうなれば、記憶処理はされるだろうがレイラはすぐに釈放されるだろう。
そんなことを考えていると、レイラのすぐ近くに黒いローブを着た何者かが現れる。
服装からして魔法省の人間ではない。
こちらの角度からでは顔は見えないその何者かは、現れた瞬間地面で眠りこけるレイラに駆け寄った。
「え? まさかこっちの味方?」
だが、黒ローブの人物がレイラのもとへと辿り着く前にその間にシャックルボルトが割り込み、黒ローブを蹴り倒した。
そこから先はお粗末なものだ。
黒ローブはいいところなくシャックルボルトにやられると、そのまま増援で駆けつけた闇祓いたちに拘束される。
そして遅れて姿現ししてきたロバーズ闇祓い局長につけていた仮面を剥ぎ取られた。
「って、なんだ。ドラコか」
黒ローブの正体は私の同級生のドラコ・マルフォイだった。
ドラコは眠りこけているレイラに対し必死に何かを叫んでいる。
十中八九、今回の話がどこかで耳に入って私を助けに来たんだろう。
闇祓いたちもおおよその事情を察したのか、呆れた顔でドラコを見ていた。
そこからしばらくして、闇祓いたちはドラコとレイラを連れて墓場から姿くらましする。
墓場を挟んで反対側の山の中腹にいた闇祓いたちも、どこか清々しい顔で姿くらまししていった。
私はしばらく墓場の周辺を観察しながら待機する。
そして、頃合いを見計らって墓場の前へと姿現しした。
「ドラコ、大丈夫かしら」
ナルシッサから貰った通行証を片手にひとり呟く。
シャックルボルトやロバーズの様子を見る限りではあまり深刻そうな雰囲気でもなかった。
きっとこってり絞られて釈放されることだろう。
そんなことを考えているうちに、墓場の景観が大きく変わる。
先ほどまではかなり荒れ果てた墓場のように見えていたが、掛けられていた偽装魔法の内側に入ったのだろう。
今目の前に広がる墓場は随分と手入れが行き届いていた。
「管理人がいるのかしら」
もしくは墓場を維持する魔法が掛けられているのか。
私は通行証に描き込まれた地図を頼りに墓場の中を歩く。
そう広い墓場でもないため、私の母の墓はすぐに見つけることができた。
「セレネ・ブラック……ここね」
ブラック家の伝統なのか、黒い墓石に名前が彫り込まれている。
この墓石の下に私の母が眠っているのだ。
「……お母さん、お墓参りが遅くなってごめんね」
私はそっと墓石に触れる。
墓石は夏の日差しに照らされてほんのりと温かみを帯びていた。
「さて、お父さんの方も埋葬しますか」
本当にヴォルデモート卿が私の父親なのか疑問は残るところだが、お母さんと恋仲だったことには違いない。
私は母親の墓のすぐ横に魔法で穴を掘ると、中に棺を設置し、その中にヴォルデモート卿の遺体を横たわらせた。
「ごめんね。そして、ありがとう。貴方の望み通り、私は幸せになってみせるから」
棺に蓋をし、その上から土を盛る。
そして最後にお母さんと同じ意匠の墓石を設置した。
『偉大なる闇の帝王、ここに眠る』
「自分の名前、あまり好きではないみたいだし。こっちの方がいいわよね」
私は墓石に対して微笑みかける。
そしてお母さんと同じように花束を供えた。
「さて、それじゃあ帰りますか」
私は最後に両親の墓を目に焼き付ける。
次にここに来るのは全て終わってからだ。
私は時間を停止させ、孤児院の自分の部屋へと姿現しする。
そしてベッドに横になり、天井を見上げた。
「あ、クリーチャー埋葬するの忘れてた」
私はベッドから起き上がり、急いで墓場へと姿現しした。
お父さんとクリーチャーを埋葬した日から一晩明けた次の日。
今日はついにパチュリーとの約束の日だ。
私は孤児院の自分の部屋を見まわし、忘れ物がないかを確かめる。
きっと、この部屋に帰ってくることはもうないはずだ。
「あ、そうだ。あのキャビネットだけは回収しとかないと」
私は孤児院の自分の部屋を出ると、階段を降りて一階の廊下を歩く。
そしてセシリアの私室の扉を開け、部屋の中に入った。
「セシリアさん……いや、モモヨさんが本名なんだっけ?」
私は部屋の隅にある姿をくらますキャビネットを魔法で小さくすると、鞄の中に仕舞い込む。
対となるキャビネットが設置されている研究室の場所は覚えているため、キャビネットがなくても研究室に入ることはできる。
だが、セシリアの研究室に直通しているキャビネットをそのまま放置しておくわけにもいかないだろう。
「パチュリー先生の弟子になったら、セシリアが研究していた蓬莱の薬の研究を一緒に進めるのも悪くないかも」
私の実の母親はセレネ・ブラックかもしれないが、育ての親はセシリアだと言っても差し支えない。
「セシリアさん……私は、本当に貴方を殺してしまったのでしょうか」
時間を止めなければあのような殺し方はできない。
もし私が殺したとして、その理由はなんだ?
一番考えられる可能性としては、時間操作の能力がセシリアにバレたとかだろうか。
セシリアが魔法使いだったことはもう疑いようがない。
だとしたら、私が時間操作の能力を持っていることに気がついていた可能性が高いだろう。
「もしかしたら、セシリアさんは私に自分が魔法使いだとカミングアウトしたのかも。その時、私の時間操作能力に触れてしまったとか」
もしセシリアが時間操作能力の詳細を掴んでいたとしたら、私はセシリアを殺すだろうか。
「……殺す気がする。セシリアが魔法使いだったら余計に」
セシリアがただのマグルだったら記憶を消すだけに留めるかもしれないが、魔法使い相手ではそれは確実な方法ではない。
忘却呪文は魔法によって破ることができる。
忘却させた記憶というものは本当に消え去っているわけではない。
記憶の奥底に封じ込められているだけなのだ。
「だから、セシリアが魔法使いで、尚且つ私の能力の詳細を掴んでいたとしたら、セシリアを殺す動機としては充分。でも、院長や孤児院の子供達まで殺す必要はないわよね」
まだ何かある。
「もし私が私に対して忘却呪文を使ったのだとしたら、私の頭の中に答えがあるのかもしれない。自分の記憶を弄るのは怖いけど、今度挑戦してみようかしら」
この記憶が掘り起こしていいものなのかはわからない。
そもそも、孤児院で殺人を行ったのは私ではないかもしれない。
それに、私の記憶はそもそもセシリアによって改ざんされている可能性が高い。
そのへんも含めて記憶の修復が必要だろう。
「ま、向こうでの生活が落ち着いたらぼちぼちやっていきますか」
私は一度セシリアの部屋を見回すと、セシリアの部屋を出る。
そしてセシリアの部屋の扉に魔法で鍵を掛けた。
私の手の中で、機械式の懐中時計が微かな音を立てて時を刻んでいる。
私は小刻みに前進するブルースチールの秒針をじっと見つめながらその時を待った。
「五十八、五十九、六十」
時計の針が二十時ちょうどを指したその瞬間、私は時間を停止させる。
そして椅子に掛けていた白いローブを羽織ると、孤児院の私の部屋の中で姿くらましした。
空間に体を捩じ込むような感覚が私の全身を襲う。
あまり気分のいいものではないが、この感覚にももうすっかり慣れてしまった。
私はグリモールド・プレイスにあるブラック邸へと姿現しすると、玄関の扉を開けて玄関ホールへと入る。
明かりの灯っていない玄関ホールは薄暗く、どこか寂しさすら感じさせた。
「一時期は不死鳥の騎士団の本部としても使われていたのよね。今思えば凄い話だわ」
ヴォルデモート卿の妻が育った家をヴォルデモート卿の敵対組織が拠点にする。
そうなった経緯は複雑なようで、ある種の必然でもあり。
「いや、ほぼ必然か。パチュリーが私にこの家を与えたのはシリウス・ブラックを助けた後だもの」
当初の思惑では、私の監視のためにこの家を与えたのだろう。
今では正式に私の家だが、シリウスが生きていた頃は真の所有者はシリウスだったに違いない。
「ブラック家最後の生き残り。サクヤ・ブラック……なんてね」
私がブラックの姓を名乗ることはないだろう。
だが、私の中には確かにブラック家の血が流れているのだ。
「っと、感傷に浸るのも程々にしないとね」
私はポケットの中に入っているコインを握り込む。
そのまましばらく待っていると、私の目の前に薄い紫色のローブを羽織った魔女……パチュリー・ノーレッジが音もなく現れた。
「二十時ジャスト。時間に正確すぎて少し引くわ」
パチュリーはそう言いながら私に対して肩を竦める。
「五分ぐらい先延ばしにしたほうがよかったですか? お望みとあらば、きっちり五分時間を進めますけど」
「時は金なり。無駄に時間を消費するほど愚かなこともないわ」
パチュリーは私に対して右手を伸ばす。
私はその意図を察し、その右手にそっと手を重ねた。
次の瞬間、私はすでに巨大な図書館の中に立っていた。
天井は見上げるほど高い。
そしてその天井に届きそうなほどに背の高い本棚には隙間なく本が並べられている。
おそらく、イギリスのどこの図書館よりも蔵書数が多いに違いない。
「もう時間停止を解いてもいいわ」
パチュリーの言葉に、私は時間停止を解除する。
いつもなら時間停止を解除した瞬間周囲に音が溢れるが、この空間は驚くほど静寂に包まれていた。
「なんというか、不思議な空間ですよね。異次元か何かですか?」
「ここのことを言ってる? 単に地下にあるだけ」
ああ、なるほど。
どうりで窓がないわけだ。
私はパチュリーの言葉に妙に納得すると、彼女の後ろについて歩き始める。
パチュリーは本棚の間を縫うように歩いていく。
しばらく歩くと、図書館の壁と共にホグワーツの大広間に置かれているような長机や暖炉、大きな両開きの扉が見えてきた。
机の上には本が乱雑に積まれており、そのうちの何冊かは開かれた状態で置かれている。
そして机の上には本だけではなく、飲みかけの紅茶や羊皮紙、羽ペンなども転がっていた。
きっと、ここがパチュリーの職場のようなものなのだろう。
「そしたら、居住スペースは地上部分にある感じですね」
「どうしてそう思うの?」
パチュリーは右手を机の方へと向ける。
すると机の上に置かれていた本たちは一人でに本棚へと戻っていった。
「いや、自分の家の地下に図書館を作ったんだと思っただけで」
「まあ、地上は居住スペースにはなってるけど……」
パチュリーは一通り机の上を片付け終わると、改めて私の方を振り返る。
そして私の顔をじっと見ながら無表情で言った。
「なんにしても、ここまでお疲れ様。これであなたの逃亡生活は終わりよ」
「はい。これからよろしくお願いします」
私はパチュリーに対して小さく頭を下げる。
パチュリーはそんな私に対し、右手を差し出した。
「よろしく」
私は頭を上げ、照れくさそうにその手を握り返す。
パチュリーは私の手を意外なほど力強く握ると、今まで見たこともないような笑顔で言った。
「レミィ。サクヤを捕まえたわ」
「やっぱりパチェは頼りになるわ。こんなことならもっと早くこうしておくべきだった」
突然後ろから声が聞こえ、私はゆっくり振り返る。
そこには全身を白い包帯で覆っているレミリア・スカーレットの姿があった。
設定や用語解説
レイラのことがだいぶどうでもいいサクヤ
死んだら死んだで、自分の過去を知る人間が一人減るからヨシ!ぐらいで考えている。
埋葬され忘れたクリチャー
セレネを挟んでヴォルデモートの反対側に埋葬されました。
Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。