P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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権力と策略と私

「な……え? なんで……」

 

 パチュリーと握手を交わしながら、私は呆然と後ろを見る。

 そこには確かに殺したはずのレミリアの姿があった。

 

「何故生きてるの? って顔してるわね。逆に聞きたいわ。なんで殺せたと思ったの?」

 

 私は咄嗟にパチュリーの手を振り解こうとする。

 だが、魔法で強化しているのか、私の右手は万力で固定されたかのように動かない。

 

「──ッ!」

 

 私はすぐさま時間を停止させる。

 そして左手でナイフを引き抜くと目の前に立つパチュリーに振り下ろした。

 だが、振り下ろしたナイフはパチュリーの皮膚に到達する寸前に停止する。

 視線を左手に向けると、いつの間にか真横に移動してきていたレミリアが私の左手を握りしめていた。

 

「観念なさい。ここに踏み込んだ以上、もう貴方に勝ち目はないわ」

 

 レミリアは力任せに私の持っていたナイフを奪い取り、壁に向けて投げる。

 投擲されたナイフは空気を切り裂く音と共に壁に根元まで突き刺さった。

 

「な、なんで……パチュリー先生……」

 

 パチュリーは握っていた右手をレミリアへ渡す。

 レミリアは私の右手首を掴むと、私の両腕を大きく開かせた。

 

「小悪魔」

 

「はいはーい」

 

 レミリアの合図と共に、本棚の陰から小悪魔と美鈴が姿を現す。

 小悪魔はいつも通りの笑顔で私に近づくと、一本の注射器を取り出し、私の首筋へと突き刺した。

 

「なっ!? やめ──」

 

「やめませーん」

 

 小悪魔は注射器内の液体を私の体の中へと注入する。

 私はなんとか抵抗しようと身を捩るが、小悪魔は私の動きに合わせて器用に注射器を動かし、最後まで内部の液体を私の体内に注入し切った。

 

「美鈴」

 

「はい」

 

 次に、小悪魔と入れ替わるように美鈴が近づいてきて、私の服の中を探る。

 そしてナイフなどの凶器と共に杖を抜き取ると、私の真紅の杖を胸ポケットへと収めた。

 

「小悪魔。これ効果が出るまでどれぐらいかかるの?」

 

「もう効いてるはずですよ。ほら」

 

 小悪魔は壁にかけられている時計を指差す。

 時間を止めているはずなのに、その秒針は小刻みに前進していた。

 

「話を聞いた時は半信半疑だったけど、無事効いたようね」

 

 レミリアは時計を確認し、掴んでいた私の両腕を離す。

 私は転ぶように前方に転がると、時間を停止させてその場で姿くらまししようとした。

 だが、姿くらましが発動することはなく、私はその場でバランスを崩して床に転ぶ。

 レミリアはそんな私を見てケラケラと笑った。

 

「あら、ダンスパーティーの練習? もう必要ないわよ」

 

「な、なんで……魔法的に繋がりを持たせても時間を停止させることはできるはずなのに」

 

 私は壁にかけられている時計を見上げる。

 だが、時計の秒針は先ほどと同じように前進を続けている。

 

「チェックメイトよ。ここまでやってきてしまった時点で、貴方に勝ちはない」

 

「ねえレミィ、褒めて褒めて! 私大手柄じゃない? 私、ちゃんとレミィの仇を討てたわ!」

 

 パチュリーは今までに見たこともないような笑顔で飛び回ると、レミリアに抱きつく。

 レミリアはそんなパチュリーの脇を抱えて持ち上げると、クルクルと回り始めた。

 

「別に私死んでないけど! ほんと流石だわ! やっぱり持つべきものは親友ね」

 

 私はその隙を突いて床から立ち上がり、壁沿いにある大きな両開きの扉に向かって走る。

 とにかく今は逃げるしかない。

 私は扉に体当たりをすると、そのまま力任せに扉を押し開けて図書館の外に出た。

 図書館の外は暗い階段だった。

 先ほどパチュリーは図書館が地下にあると言っていた。

 つまりこの階段の先が地上のはずだ。

 

「あ、諦めてたまるか……!」

 

 私は階段を駆け上がり、その先にある扉を開けて外に出る。

 そして扉の先にある通路を全速力で走り出した。

 それにしても、あまりにもパチュリーの様子が変だった。

 もしかしたらレミリアに魅了されているのかもしれない。

 吸血鬼の魅了はかなり強力だと聞く。

 きっとパチュリーはレミリアに魅了され、言いなりになっているのだろう。

 

「だとすれば、そこに勝機があるはず。パチュリーの魅了を解くことができれば……」

 

 確か鞄の中に解呪のための魔法薬があったはずだ。

 私はポケットの中に右手を突っ込むとその中に入っている鞄を取り出した。

 

「って、あれ?」

 

 だが、ポケットから取り出した鞄は小さいままで、元の大きさに戻らない。

 

「……くそ、なんでっ」

 

 私は苛立ちと共に鞄をポケットに仕舞い直し、目の前の扉を力任せに開ける。

 扉の先は大きな洋館のエントランスに通じていた。

 私はすぐに周囲を見まわし、外に通じていそうな扉を目指して走り始める。

 

「姿現し防止の結界がどこまで張られてるかわからないけど……」

 

 私は扉を開け放ち、エントランスから飛び出す。

 扉の外は鬱蒼とした森だった。

 ここが世界のどこなのかはわからない。

 だが、ここがどこであれ逃げるしかないのだ。

 私は森の方へと走りながら追っ手が来ていないか洋館の方を振り返る。

 そして、視界に入ってきた予想外の光景に、つい足を止めてしまった。

 

「嘘でしょ……なんで──」

 

 月明かりに照らされて、先ほどまでいた洋館の全容が明らかになる。

 赤いレンガ造りの洋館は、その建物の大きさの割には窓の数があまりにも少ない。

 私はこの洋館を過去に見たことがある。

 私は、一年ほど前にダンブルドアと二人でここを訪れている。

 

「なんで……なんで……。だって、ここは……」

 

 ここは、レミリア・スカーレットが住む洋館だ。

 どうして、パチュリーの図書館がレミリアの洋館に繋がっているんだ?

 

「そう、ここは悪魔の住む館、紅魔館。貴方がここにくるのは二度目かしらね」

 

 洋館の扉が開き、レミリア、パチュリー、小悪魔、美鈴の四人が追いついてくる。

 一刻も早くここから逃げなければいけない。

 だが、私の両足は氷水に漬けたように自由に動かなくなっていた。

 

「不思議そうな顔ね。どうして大図書館を出た先が紅魔館に繋がっているのか。なんでだと思う?」

 

 私は、藁を掴むような気持ちでパチュリーの方を見る。

 パチュリーは私の視線に気がつくと、大きく肩を竦めた。

 

「別に、魅了を受けているわけでも、取引を持ちかけられたわけでもないわよ」

 

「じゃあ、なんで……匿ってくれるって……」

 

「一つ問題を出してあげる。ホグワーツを卒業した若き魔女、パチュリー・ノーレッジはここ百年近くどこで暮らしていたでしょうか?」

 

 私はパチュリーの言葉を聞き、最悪の答えが頭に浮かぶ。

 まさか、まさか……!

 

「そう。そのまさか。ホグワーツを卒業した私はね、卒業旅行中にレミィと出会った。それから百年間、私はずっとこの館の地下で生活していたのよ」

 

「パチェはスカーレット家の保有する地下大図書館の優秀な司書であり、私の一番の親友なの」

 

 レミリアは後ろからそっとパチュリーを抱く。

 パチュリーは少し驚いた顔のあとに、頬を赤らめた。

 

「でも、それじゃあ……初めから二人は繋がっていたというの?」

 

「おかしいと思わなかったの? なんで殺したはずのシリウス・ブラックがパチュリー・ノーレッジに拾われたのかって。誰も立ち寄らない叫びの屋敷で倒れている殺人鬼を百年引きこもりの魔女が拾うなんてどんな偶然?」

 

 レミリアはわざとらしく肩を竦めて見せる。

 

「答えは簡単。シリウスを拾ったのは美鈴よ。あの日、美鈴がホグワーツに居たの覚えてるかしら」

 

 確かにシリウス・ブラックを殺したあの日、私はホグワーツで美鈴に会っている。

 美鈴はヒッポグリフの裏取引のために処刑人に扮してホグワーツを訪れていたはずだ。

 

「あの日、美鈴がシリウスを抱えて帰ってきた時は何事かと思ったけど……ね、美鈴」

 

「まさか生きているとは思っていませんでしたからこっちがびっくりですよ」

 

 美鈴は私の杖を片手に持ったまま後頭部を軽く掻いた。

 

「シリウスの証言から、私は貴方が異常な生徒であることを知った。それで気になって調査してみたらもうびっくりって感じ。変な能力は持ってるし出生は特殊だし」

 

「それじゃあ、初めから全部わかってて……でも、なんのために……そんなに前から私のことが殺人犯だとわかっていたのなら、もっと早い段階で捕まえることも出来たはず。それこそシリウス・ブラックを拾った段階で──」

 

「得体の知れない能力者相手に無策で突っ込むほどバカじゃ無いわ。貴方の能力を調べるためにこっちもかなりのリスクを負ったんだから。バグマンの記憶を改竄して三代魔法学校対抗試合の審査員に私とパチェを無理矢理抜擢させたり、炎のゴブレットにかけられている魔法を無理矢理改竄して貴方の名前が出てくるように細工したり」

 

「それやったの全部私だけどね」

 

 レミリアの腕の中で、パチュリーが端的に指摘する。

 

「グリモールド・プレイスにあるブラック邸を貴方に与えたのだって監視のためよ。全部、全部私の手のひらの上」

 

「でも、だとしたらなんでシリウスが死んだ時点で……私がハリーを殺した時点で私を捕らえなかったんです?」

 

「なんでって……そうねぇ。折角だし教えてあげるわ」

 

 レミリアはパチュリーから離れると、動けずにいる私の方へと近づいてくる。

 

「この状況をうまく使えば、魔法界での私の地位を不動のものにできると確信したから。でも、貴方の動きは少々予想外だったわ。私の筋書きでは貴方たちがあの洞窟から帰ってくるのは三十分ほど後の予定だった。ダメじゃない、台本通り動いてくれないと。そんなことだから実の父親を自らの手で殺すことになるのよ」

 

「ど、どういう意味よ」

 

「どうもこうも、本当だったら洞窟から帰ってきた貴方たちは服従の呪文で操られたクラウチと遭遇するはずだったの。そこでクラウチから真実を聞かされるってわけ。貴方の本当の父親はヴォルデモート卿だってね。クラウチの言葉で疑心暗鬼に陥った貴方は、魔法が使えなくなったダンブルドアの心を読み、それが真実であると知るの。まさかあのダンブルドアが嘘をついていたなんて。私を騙し、実の父親を殺す手助けをさせていただなんて。怒り狂った貴方はその場でダンブルドアを殺し、愛しの父親と合流する。ね? 素敵な台本でしょう?」

 

 レミリアは私の目の前でケラケラと笑う。

 

「そ、そんなこと……一体何が目的で……」

 

「何が目的……そうね。端的に言ってしまえば名声のためよ。ヴォルデモートを討ち滅ぼし、ダンブルドアを裏切り寝返ったヴォルデモートの娘を捕らえた功績を足がかりに、私はイギリス魔法界の実権を握るはずだった。そこまでくればもう私の邪魔をするものはいない。名声も十分。私は吸血鬼初の魔法大臣として、未来永劫崩れることのない独裁政権を築く予定だった。んだけど……」

 

 レミリアはガックリと肩を落とす。

 

「まさかクラウチに会う前にヴォルデモートを殺してしまうなんて。流石に予想外だったわ。もう私の予定はガッタガタよ。ヴォルデモートを殺した功績も貴方に取られちゃうし、ダンブルドアも生きてる。ホグワーツ防衛の功績だけじゃ、魔法省の実権を握るには弱いわ。折角手間暇かけてダンブルドアを弱体化させたのに、その苦労も台無しよ」

 

「ダンブルドアを弱体化?」

 

「そうよ? 貴方がダンブルドアを間違いなく殺せるように杖腕を吹き飛ばしたり魔力を奪ったり。そのお陰で、なんの苦労もなくダンブルドアに復讐できたでしょう?」

 

「そ、それじゃあ、スラグホーンに毒を盛ったのは──」

 

 レミリアの口がニヤリと歪む。

 私はその不気味な笑みに思わずたじろいだ。

 

「苦労したわ。ダンブルドアを弱体化させるって言ってもそれはごく自然に行われなければならない。正直小悪魔がいなかったらここまでスムーズに事は運ばなかったでしょうね」

 

「対象の杖腕だけを正確に破壊することだけに特化させたかなり特殊な魔法薬。実に上手くいったと思わない? それに、魔法使いから魔力を奪う魔法薬。どんなに偉大な魔法使いも、一口飲むだけでただのマグルに大変身ってね。うふふ。やっぱり私って天才だわ」

 

 美鈴の横に立っていた小悪魔が妖艶に微笑む。

 パチュリーはそんな小悪魔にジトっとした視線を送った。

 

「こんな奴の手を借りなくても、私が全部なんとかしてあげたのに」

 

「パチェは最後の砦だって言ったでしょう? 実際最後の最後で十分過ぎるほどの働きをしてくれたし」

 

 レミリアはパチュリーに向かってウィンクを飛ばす。

 レミリアのウィンクにパチュリーは頬を赤くし、対照的に小悪魔は呆れたように肩を竦めた。

 

「まあそんな感じで、このまま魔法界は平和になって、私たちは骨折り損……では終わらなかった。貴方はダンブルドアが記憶処理を行う前にクラウチに接触し、結果的に私の筋書き通りに弱体化したダンブルドアを殺した。蘇りの石でダンブルドアの死を察知した時は、シメたと思ったものよ。ヴォルデモートを殺すという手柄は取られたけど、貴方を捕まえるという功績は得ることができる。だから、少しでも手柄が大きくなるように貴方には色々罪を被せた。魔法省やダンブルドアを騙し、権力のために実の親すら殺した極悪人。本当はもう少し泳がせて罪を膨らませる予定だったけど、流石にここまでやられたらね」

 

 レミリアは左手に巻かれている包帯を右手で掻く。

 

「本当はパチェを囮に使うようなやり方で捕らえたくはなかったんだけど、私にもプライドがあるし、やられっぱなしっていうのは性に合わないわ。もう、お遊びは終わり。貴方はレミリア・スカーレットという偉大な花を咲かせるための養分となって朽ち果てるの」

 

 レミリアは真っ直ぐ私の肩に向かって手を伸ばす。

 私は咄嗟に逃げようとしたが、私が身を引くよりも速くレミリアが私の肩を掴んだ。

 

「つーかまーえた」

 

 レミリアは私の顔を覗き込んでニッコリと笑う。

 私はその顔を見て体を震わせることしかできなかった。

 レミリアの爪が私の肩に食い込み、血が滲む。

 私はその痛みで我に返ると、レミリアから逃れるために体をよじろうとした。

 

「逃がさないわ」

 

 だが、レミリアはそのまま私を持ち上げ、地面に叩きつける。

 背中に強い衝撃が走り、肺の空気が全部口から吐き出された。

 

「カハッ──はっ……はっ……」

 

 私は過呼吸気味になりながらレミリアを見上げる。

 レミリアは白い包帯でぐるぐる巻きの顔を歪ませると、これ以上愉快な事はないと言わんばかりに笑い始めた。

 

「アハハハハハ! 無駄よ、無駄。無駄無駄無駄無駄! 絶対に逃げられないわ! 精々私の魔法界征服の足がかりになりなさい!」

 

「いや……いやぁ!! 誰か! 誰か助けて……誰か……」

 

 こんなところで死にたくない。

 こんなところで……

 時間停止は……全く発動しない。

 それどころがまるで魔力がなくなってしまったかのように体の内側から魔力を感じない。

 

「誰かぁぁぁああああ!」

 

「あははははははははは!」

 

 

 

 

 

 

「あ、お嬢様?」

 

「なによ美鈴。今いいところなんだけど」

 

「少々、お暇をいただきますね」

 

 ポキリ、と小枝の折れるような音が周囲に響く。

 私が咄嗟に音のした方を振り向くと、そこには真っ二つになった私の杖を持っている美鈴の姿があった。

 真紅の杖の断面からは、生糸のように細い金色の毛が見えている。

 

「金……髪……?」

 

 その瞬間だった。

 

『キャハハハハハハハハ!!!』

 

 どこからともなく子供の無邪気な笑い声が聞こえたかと思うと、杖の断面から魔力が溢れ出し小さな手の形へと変化する。

 それを見て、レミリアは分かりやすく顔を青くした。

 

『ぎゅっとして──』

 

「全員ここから逃──」

 

『どかーん!!』

 

 杖から生えた手が握られたその瞬間、レミリアの頭が木っ端微塵に吹き飛んだ。




設定や用語解説

レミリア・スカーレットとパチュリー・ノーレッジの関係
 東方projectという作品を少しでも知っている人、あるいは前作、前々作を読んでいる人にとっては周知の事実だが、この世界の住民にとってはアメリカとロシアの大統領が裏で繋がっていて大親友の仲ぐらいには衝撃的な事実。

シリウスの死体を死刑執行人(美鈴)が回収
 実はサクヤは三年性の時にファッジからこの情報を耳にしている。だがその時はシリウスを殺した直後でまだ混乱していたこともあり、完全に聞き逃してしまっていた。

杖に使われている吸血鬼の髪の毛
 数年越しの伏線回収

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活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
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