P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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突如始まる過去編。全三回です。


side B シリウス・ブラック、おぜうに拾われる1/3

「美鈴は上手くヒッポグリフを逃したようね」

 

 ロンドンのどこかの森にひっそりと佇む紅く窓の少ない洋館。

 その地下に広がる広大な図書館の床に描かれた魔法陣を消しながら、百年を生きる魔女、パチュリー・ノーレッジは机の上に置いた魔法具に語りかけた。

 

『それは何より。で、ちゃんと捕捉出来てるんでしょうね? そのまま逃げられちゃいましたじゃ話にならないわよ?』

 

「術にはちゃんと掛かったわ。一晩もしないうちに自然と紅魔館の庭に降り立つと思うわよ」

 

 パチュリーは床の魔法陣を消し終わると、魔法具の前にどっかりと座り込む。

 パチュリー自身ダンブルドアとそう変わらないほどの歳だが、人間の身体を捨てているためその姿は少女そのものだ。

 だが、ぐったりと椅子に座り込むその様子からは、とても若いという単語は連想できなかった。

 

「あ、そういえばレミィ。貴方に追跡を頼まれていたシリウス・ブラックだけど、今日の昼にホグズミードに無事たどり着いたそうよ」

 

 パチュリーはゆっくり体を起こすと、魔法具に向かって話しかける。

 

『結局ブラックは何がしたかったのかしらね。孤児院の事件を調べていたみたいだけど……少し前まではホグズミードの叫びの屋敷に潜伏していたかと思えば、急にロンドンに移動して魔法省やマグルの警察に侵入。数か月うろうろしていたかと思えばまたホグズミードに帰るなんて』

 

「まあでも、ここを調べているわけではないみたいだし、私としてはもうどうでもいいけどね」

 

 パチュリーは机の上に置かれていた水晶玉を引き寄せる。

 その水晶玉の中では、叫びの屋敷のベッドで横になっているブラックの姿があった。

 

「アズカバンを脱獄したと聞いた時は相当警戒したけど、孤児院を襲った後は大した事件も起こしていないし」

 

『その事件だけどねパチェ、ブラックが調べていたから気になって私も調べてみたの』

 

「調べてみたって……どうやってよ?」

 

『勿論、マグルの探偵を使ってよ。未解決事件の解決は探偵に任せるに限るわ』

 

 パチュリーはそれを聞いて大きなため息をつく。

 

「推理小説の読みすぎ……で、何かわかったの?」

 

「この事件を人間が起こすのは不可能、ということが分かったわ」

 

 突如パチュリーの後ろから声が聞こえたかと思えば、手に魔法具を持ったレミリアが立っていた。

 どうやら魔法具で話しながら地下の方に下りてきたらしい。

 レミリアは机を挟んでパチュリーの対面に座る。

 そして調査結果が書かれた書類を机の上に置いた。

 

「孤児院を襲った犯人はその時孤児院にいた全員をほぼ同時に殺している。まあ、数人程度なら誤差として片付けることもできるんだけど、流石に三十二人となると奇妙と言わざるを得ない。それに、かなり不思議なことも起こってる」

 

 レミリアは書類に印刷されている写真を指さしながら説明する。

 

「ほら、この死体。返り血が布団の裏にしか付いてないの。首をナイフで切ってから布団を掛けたとしてもこうはならないわ。こうするには、布団を掛けた状態で首を切らないといけない。そんなの、普通の人間には不可能でしょう?」

 

「普通の人間にはね。でも、ブラックは魔法使いだわ。魔法を使えば不可能なことはない」

 

「そう、ロンドン警視庁もそう判断して、魔法省に捜査を依頼した。警視庁にも魔法使いの存在を知っている人間がいるからね。シリウス・ブラック関連の事件と聞いて魔法省はすぐに闇祓いを派遣した」

 

 レミリアはそう言うと、今度は日刊予言者新聞を机の上に広げる。

 

「これは事件が起こった次の日の日刊予言者新聞。ほら、ここ読んでみて。『被害者や現場に魔法の痕跡はまるでなく、犯人は魔法を使わずあえて刃物のようなもので被害者を切りつけたと見て捜査を進めている』。そう、魔法省の調べでは犯人は魔法を使っていないの」

 

「つまり、警視庁の調べでは魔法を使わないと犯行は不可能。でも、魔法省の調べでは魔法は使われていないと」

 

「その通り。これに関しては警視庁と魔法省の連携不足だわ。互いが互いの調べた情報を共有してないから、こういったことが放置されてしまう。……ところでパチェ、魔法を使った後に残る痕跡を完全に除去することって可能なの?」

 

 レミリアがそう言うと、パチュリーは静かに首を横に振った。

 

「時間によるわ。どんな呪文が使われたのか分からなくする魔法はある。でも、それも魔法だから何かしら魔法が使われたという痕跡は残ってしまうわ。勿論、時間が経てば魔法の痕跡というのは薄くなっていく。三日も経てば完全に消えてしまうでしょうね」

 

「パチェでも痕跡を消すことはできないの?」

 

「……私ならできる。魔法で魔法を消すのではなく、魔法の痕跡を魔法具に吸収させていけば限りなく痕跡を薄くすることが可能よ。それこそ、一時間もしないうちに完全に消え去る程度には。でも、その方法は私しか知らないし、公開する予定もない」

 

「じゃあ、その魔法具を使えば犯行自体は可能ってわけね」

 

 レミリアはいたずらっぽい笑みをパチュリーに向ける。

 パチュリーは水晶玉を覗き込みながら答えた。

 

「私ならこんなリスクしかない方法は取らないわ。普通に殺して、マグルの犯行に見せかける。こんな手の込んだ犯行、「私はこういうことができる人間です」と誇示しているだけじゃない」

 

「確かにそうね。でも、だとしたら犯人はどうしてこんな手の込んだことを?」

 

 レミリアにそう言われて、パチュリーは少し考え込む。

 

「そうね……例えばだけど、犯人にとって、そうするのが自然なことだったとしたらどうかしら。私たちから見たら手の込んだ犯行だけど、犯人にとってはこれが一番やりやすい犯行だとしたら……」

 

「なるほど。確かにそう考えたら色々見えてきそうね」

 

 レミリアは口元に手を当ててしばらく黙り込む。

 パチュリーはそんなレミリアをちらりと見ると、また水晶玉を覗き込んだ。

 

「同時に殺された三十二人、布団の裏側に返り血、魔法の痕跡がない……」

 

 水晶玉に映るブラックは長旅の疲れもありベッドの上でぐっすり寝ている。

 だが、不意にピクリと動いたと思うと、起き上がって服装を正した。

 

「ねえ、パチェ。もし犯人が時間を止めれるとしたら──」

 

「レミィ、ブラックが動き出したわ」

 

 パチュリーにそう言われて、レミリアは水晶玉を覗き込む。

 そこにはベッドに腰かけてホグワーツの生徒と何かを話し込んでいるブラックの姿があった。

 

「ブラックがホグワーツの生徒と接触している? もしかして、ホグズミードで服従の呪文でもかけたのかしら……パチェ、これ音は聞こえないの?」

 

「無理よ。マグルの人工衛星に魔法を掛けて望遠と透視の能力を持たせてあるだけだもの。流石に音までは聞こえないわ」

 

「使えない……」

 

 レミリアにそう言われて、パチュリーは少しむすっとする。

 だが、レミリアはそんなことなどまったく気にせず水晶玉を覗き込んでいた。

 

「このホグワーツ生、どこかで見たことあると思ったら、孤児院の生き残りじゃない」

 

「ああ、サクヤ・ホワイトね。妹さんの髪の毛が使われた杖を持ってる子でしょう? それにしても、吸血鬼の髪の毛が使われた杖と相性がいいなんて、変わった子よね」

 

「まあ、若いうちに殺して血を吸おうとは思ってるけどね。ああいう色素の薄い子供って、結構血が美味しいの。そのための死の予言も既にしているし。……問題があるとすれば、それより先に……例えば今この場で死んでしまうことだけど」

 

 ブラックとサクヤは互いに座りながら何かを真剣に話し込んでいる。

 その様子を見るに、服従の呪文が掛けられているようには見えなかった。

 

「でも、脅されている様子はないし、表情を見るに対等な立場で話をしているようにも見える。もしかして、ブラックが孤児院の事件を調べていたのと何か関係があるのかしら」

 

 パチュリーがそう言った瞬間、急に事態が動き出す。

 サクヤが急に、それこそ瞬間移動かのような速度で立ち上がったかと思うと、ブラックから血が噴き出し床に倒れ伏した。

 サクヤの手には血で染まったナイフが握られている。

 

「パチェ、今の見た?」

 

 レミリアは食い入るように水晶玉を覗き込む。

 パチュリーも驚愕のあまり目を見開いてた。

 

「私の目が正しければ、一瞬でこの少女が立った瞬間、ブラックが死んだように見えたんだけど、レミィにはどう見えた?」

 

 人間の動体視力には限界がある。

 対して吸血鬼であるレミリアなら、空を飛ぶハエの羽の動きですら見ることが可能だ。

 

「パチェ、一瞬どころじゃないわ。私の目にはホワイトが動いたようには見えなかった。つまり短い時間どころじゃない。まるで時間でも止まったかのような──」

 

 レミリアはそこまで言うと、ハッと目を見開いた。

 

「もしかして、孤児院を襲った犯人って……」

 

「ちょっと待って。それじゃあ、この少女が自分の住んでいる孤児院の人間を皆殺しにしたっていうの?」

 

「でも、そう考えるのが一番自然じゃない? 今のを見るに、ホワイトが時間を止めてブラックを殺したようにしか見えなかった。あの孤児院の犯行も、時間を止めて行ったのだとしたら全ての事象に説明がつく。私たちから見たら相当な手間を掛けないと出来ない犯行だとしても、ホワイトにとってはああなるのが自然なことだったのよ」

 

 パチュリーはレミリアにそう言われて、水晶玉に映るサクヤの姿をじっと見る。

 時間を止める魔法というのは、まだ魔法界に存在していない。

 魔法の技術は魔法界で一番だと自負しているパチュリーでも、時間を止める魔法を使うことはできなかった。

 もし、水晶玉の向こうに映るこの少女が時間を止める能力を持っているとしたら、それはきっと研究の末に習得したものじゃない。

 この少女が持っている天性の才能というやつだろう。

 水晶玉の向こうでは、部屋の中に数人のホグワーツ生と一人の男性が増えており、ブラックの死体を見ながら何かを話しているのが見える。

 しばらくそのまま話をしていたが、やがてブラックの死体を残して部屋を出ていった。

 

「……ブラックの死体、是非とも回収したいわ。色々調べたいこともあるし」

 

 パチュリーはブラックの死体を眺めながらぽつりと呟く。

 

「回収するにしても、今すぐというわけにはいかないでしょ。今ファッジがホグワーツに来ているし、きっと死体を調べに来るはず。死体が忽然となくなっていたら余計な混乱を与えてしまうわ」

 

「まあ、そうよね」

 

 レミリアは少し気を落とすパチュリーを見て、小さくため息をつきながら言った。

 

「わかった。なら美鈴に回収させましょう? 死刑執行人としてホグワーツにいるわけだし、死体を回収してもそこまで違和感はないはず」

 

「そうね。そうしましょうか」

 

 パチュリーは少し表情を明るくすると、机の上の魔法具に話しかけ始めた。




設定や用語解説

この話
 この話は自分用の設定資料として二年ほど前に執筆したものを公開したもの。

シリウスを警戒するパチュリー
 殺人鬼がアズカバンを脱獄してロンドン市内を彷徨き回っている。パチュリーは自分を探しているのではないかと不安になりその動向を監視していた。

サクヤの犯行を目撃したレミリアとパチュリー
 全てはここから始まったと言っても過言ではない。

Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
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