P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
「セブルス、それは本当かね?」
もう太陽もすっかり落ちて、満月が見え始めた頃、ハグリッドの小屋でお茶をしていたファッジはスネイプの報告を聞いて目を剥いていた。
「ルーピンが嘘をついていなかったらですが。まあいくら奴でもそんな笑えない冗談は言わないでしょう」
「ブラックが叫びの屋敷で殺された? それに殺したのがあの孤児院の生き残りの少女? にわかには信じられない話だ」
ファッジはそう言うが、既に外に出る準備を進めていた。
「とにかく、急いで叫びの屋敷に向かおう。既に死んでいるにしても、長く放置していいものでもない」
「そうじゃな。ハグリッド、君はホグワーツにいる先生方にこのことを伝えて回って欲しい。セブルスはそのままワシらと一緒についてきてもらえると助かる」
「もとよりそのつもりです」
スネイプはそう言うと小屋の外へと出て行く。
それを見て、危険生物処理委員会の老人はゆっくりと立ち上がった。
「どうやら面倒ごとのようですな。ワシはこれで失礼させてもらいましょう」
老人はそう言うとローブを着込んでハグリッドの小屋を出て行く。
だが、美鈴はファッジたちについて行く気満々のようだった。
「そういうことなら私がいた方がいいですね。死体の処理は専門なので」
「……まあ、そうかもしれんな」
ファッジは迷うように目を泳がせるが、美鈴の言葉に同意する。
ファッジは美鈴がレミリアの従者であることを知っている。
知っているからこそ、ファッジは美鈴に強く出れないのだった。
ファッジ、ダンブルドア、スネイプ、美鈴の四人はハグリッドの小屋を出ると、そのまま校庭を横切ってホグズミードへ向かう。
そしてまっすぐ叫びの屋敷に向かうと、扉に打ち付けられた板を魔法で破壊し、中に踏み込んだ。
「……上ですね。血の匂いがします」
中に入った瞬間、一番後ろを歩いていた美鈴が階段の上を見上げる。
「私が先頭を歩きます。後ろをついてきてください」
「いや、女性に前を歩かせるわけには──」
「レディファーストですよ。それに、この中では私が一番丈夫です」
美鈴は心配するファッジにウインクすると、足音を忍ばせて階段を上っていく。
そして扉の前で立ち止まると、ほかの三人に目で合図をして静かに扉を押し開いた。
「……なんということだ。本当に奴が死んでいる」
部屋の中には血溜まりのなかに倒れ伏しているシリウス・ブラックがいた。
美鈴は水溜りでも踏むかのように血溜まりに踏み込むと、ブラックの髪を掴んで体を起こし、壁を背もたれにして座らせる。
「シリウス・ブラックで間違いないですか?」
美鈴はブラックの手首を掴みながらファッジに聞く。
ファッジは少し顔を顰めながら頷いた。
「ああ、間違いなくブラックだ。まさかこんなところで呆気なく死ぬとは……」
「となると、ホワイトがこいつを殺したというのも本当の話かもしれませんな」
「ああ、ミス・ホワイトにも話を聞かねば。何にしても大手柄だ」
ファッジは嬉しそうに顔を綻ばせる。
美鈴は血がつくことも気にせずブラックを持ち上げると、肩に担ぎ上げた。
「さて、本人確認が済んだのならこの死体は私が貰っていきますね」
美鈴は言うが早いかそのまま部屋を出て行こうとする。
「いやいや、確かに死体がブラックのものであるということは確認したが……」
ファッジは美鈴を引き止めようとする。
だが、美鈴もそんなファッジに食いさがった。
「最近新鮮な死体が少なくて困ってるんですよ。ここはお嬢様の顔に免じて……ね? お願いしますよ。人助けだと思って」
「ふむ、いいんじゃなかろうか、コーネリウス。もう確認は取れたのじゃ。それなら、彼女の主人に死体を譲ってもこちらとしては損は無かろう」
美鈴の言葉に同調するようにダンブルドアがファッジに言う。
だが、その言葉に反応したのはファッジではなくスネイプだった。
「驚きましたな。てっきり私に検死を依頼するものとばかり思っていたのですが」
「そうしたい気持ちもある。じゃが、折角の機会じゃ。彼女の主人に恩を売っておくのも悪くなかろうて」
美鈴はそれを聞いて申し訳なさそうに頭を掻いた。
「いやはや、うちのお嬢様がご迷惑を。でもそう言って頂けるとこちらも心置きなく死体を持ち帰れるというものです」
美鈴は三人に対し深く頭を下げると、ブラックの死体を担いだまま姿くらましをする。
ダンブルドアはそれを見届け、床に広がった血溜まりを魔法を使って綺麗に消し去った。
パチュリーの魔法具を使って紅魔館の庭に姿現しした美鈴は、地下にある図書館に向かって全速力で走り出す。
廊下を駆け抜け階段を飛び降りると、扉を半分蹴り開けるようにして図書館に飛び込んだ。
「パチュリー様! ブラックを回収してきました!」
美鈴はパチュリーとレミリアがいる机まで大急ぎで走ると、机の上にブラックを横たわらせる。
パチュリーは突然目の前に血まみれのブラックを置かれて少々眉を顰めた。
「あら、早かったわね」
「いや、そんな勢いで持ってこられても。それに何で机の上に置くのよ。血で本が汚れるでしょ?」
パチュリーは慌てて近くにあった本を魔法で本棚に戻す。
だが、美鈴はそんなことお構いなしに続けた。
「そんなこと気にしてる場合じゃ……早くしないと手遅れになりますよ!」
それを聞いてレミリアが肩を竦める。
「手遅れ? 何言ってるの。流石にそんなに早く腐敗しないわ」
「違います! これまだ生きてるんです!」
「生きてる?」
パチュリーは首を傾げながらブラックの体に触れる。
すると、刺されてからかなりの時間が経っているにも関わらず、ブラックの体は確かに温かかった。
「──ッ、美鈴、そこの水差し取って」
美鈴は近くの棚に置かれている水差しを手に取り、パチュリーの前に持っていく。
パチュリーはポケットから赤色の宝石を取り出すと、水差しの中に落としクルクルとかき混ぜ、中の水をコップに注いだ。
「パチュリー様、多分ですがもう水を飲む力は……」
「大丈夫よ」
パチュリーはそう言うとコップに手をかざす。
するとコップの中の水が一滴残らず消え去った。
「胃の中に直接転送したわ。これで取り敢えず死ぬことはないでしょう」
パチュリーはほっと息をつくと、ブラックの体を調べ始める。
レミリアと美鈴はその様子を横でじっと観察していた。
「凄いわ。傷口がギリギリ止血できる程度には塞がれてる。きっと意識を失う寸前に自分に魔法をかけて治療したんだわ」
「そんなこと可能なんです?」
「不可能じゃない。それに魔法使いは無意識に魔力を使ってしまうことがある。もしかしたら無意識で治療したのかも」
パチュリーが手を振るうと、ブラックの服や体についていた血が綺麗さっぱり無くなる。
そして、それと同時に胸と首にあった傷口がピッタリと塞がり、痕すら残さず消え去った。
「よし、あとは命の水が体力を回復させれば意識が戻るはず。何にしてもお手柄よ美鈴。私もレミィも是非ともシリウス・ブラックに話を聞きたいと思っていたの」
パチュリーにそう言われて美鈴は恥ずかしそうに頭を掻く。
「いやぁ、ブラックから僅かな気の流れを感じた時は顔に出ないようにするのに苦労しましたよ。何にしても間に合ったようで何よりです。ただ、急いでいたこともあってお嬢様の権威を全面に出して押し切るような形になってしまいましたが」
「まあそれに関しては後でファッジとダンブルドア宛にお礼の手紙でも出すわ。ブラックの肉が美味しかったとでも書けば死を偽装できるし」
レミリアはそう言うとブラックの頬を指でつつく。
パチュリーは魔法でブラックが着ている服を新品同然にすると、水差しの中に入っている石を回収した。
「何にしても、意識が戻るまで一晩は掛かると思うから、どこかの客室にでも寝かせておきなさい」
「かしこまりました!」
美鈴はわざとらしくレミリアに敬礼すると、ブラックを担いで図書館を出て行く。
レミリアはブラックを担いだ美鈴の後ろ姿を見送りながらパチュリーに言った。
「とんだ拾い物になったわね」
「まさか生きてるとは……しぶとい奴。まあ、それぐらい生に執着してないとアズカバンで正気を保ってはいられないか」
パチュリーは小さく息をつくと、先程座っていた椅子にどっかりと座り込む。
「何にしても、私はファッジとダンブルドアへの手紙でも書いてくるわ。ブラックの意識が戻ったら教えて頂戴」
レミリアはそう言うと図書館を後にする。
パチュリーはレミリアの後ろ姿を見送ると、小さいため息と共に本棚から本を一冊呼び寄せた。
目が覚めた時、ブラックは室内が赤を基調として統一されている洋室のベッドに横になっていた。
ブラックはゆっくり体を起こすと、呆然とした表情で周囲を見回す。
「ここは……一体……」
室内に置かれている家具は素人目に見ても高価な一級品だとわかる風格を醸し出しており、しばらく逃亡生活を送っていたブラックに縁があるものとは思えない。
ブラックは混乱しながらも、意識を失う前の記憶を思い出した。
「確か私は、孤児院の事件を調べてて……ホワイトにその事を話すために叫びの屋敷に──」
その瞬間、ブラックは切り裂かれた首元に手を当てる。
だが、そこには切り傷どころか、傷痕さえ残っていなかった。
「胸にも傷がない……悪い夢だったのか?」
だが、夢にしては残酷なほどリアルで、実感を伴うものだった。
ブラックは自分の体を弄り、杖を探す。
だが、普段杖を差している場所に杖は存在しなかった。
「杖もない。それに、服が新品同然になっている。……もしかして、ここはあの世で、私はもう死んでいるのか?」
「あー、死んでいるならこの食事はいらないですかね?」
ブラックの背後から突如声が掛かり、ブラックは咄嗟に振り返る。
そこには銀色のお盆にスープとサンドイッチを載せた赤い髪の東洋人の女性が立っていた。
顔を見る限り、まだ成人していないか、成人したてほどの年齢に見える。
「おはようございます。シリウス・ブラックさん。夕食をお持ちしました」
女性はスラリとしたデザインのメイド服を軽く翻すと、机の上にサンドイッチとスープを並べる。
「君は一体……。それにいつのまに背後に?」
「ん? いや、普通に扉を開けて入ってきただけですけど」
女性は自分の背後にある扉を指さす。
だが、ブラックには扉を開けた音どころか、女性が入ってくる音すら聞こえなかった。
「まあとにかく、生きているなら夕食食べちゃってください。傷は治しましたけど体力はまだ本調子じゃないんですから」
女性はお盆を器用に人差し指の上に載せて回しながらソファーに腰掛ける。
その様子はメイドというよりかはメイド服を着ただけの用心棒に見えた。
ブラックは一瞬サンドイッチの方を見たが、再び女性の方に向く。
「ここは一体どこなんだ? 君は……ここの使用人か職員か?」
ブラックはいつでも犬に変身して飛び掛かれるように身構える。
赤髪の女性はそんなブラックを見ていたずらっぽく笑った。
「逆にどこまで覚えてます? 貴方の記憶は正常ですか? 意識ははっきりしてますか? 叫びの屋敷で貴方を発見したときは、もう死んでいるものだと思ったのですが、まさか生きてるとは……」
女性はやれやれと肩を竦める。
「そうだ……私は叫びの屋敷で刺されて……君が助けてくれたのか?」
「いえいえ、私は貴方を運んだだけで。特に大したことは……まあ感謝されるのは嫌いじゃないんで存分に私を崇め奉ってもらっていいですが──」
「何故私を助けた? 君は、その……私がどういう人物か知っているだろう?」
ブラックは不可解な顔を女性に向ける。
「勿論知ってますよ。脱獄犯ですよね? 逆に誰とも知らない一般人だったら助けてませんよ。そこまでお人好しじゃありませんから。よかったですね、脱獄犯で」
この女性はブラックが脱獄犯だと知っているにも関わらず、いや、ブラックが脱獄犯だからこそ助けたのだという。
ブラックはまったく状況が飲み込めず、先程の質問を繰り返すしかなかった。
「ここは一体どこで、君は一体誰なんだ?」
「そうですねぇ……地獄、とでも言っておきましょうか」
女性の笑みがいたずらっぽいものから、急に不気味なものへと変わっていく。
まるで女性そのものがこの世のものではないかのように。
ブラックには、今目の前に立っている女性が先程までと同一人物とはとてもじゃないが思えなかった。
「何が地獄よ。失礼な」
だが、そんな空気を壊すように部屋の中に二人の少女が入ってくる。
一人は薄いピンクのドレスに青みがかった銀髪、背中には大きな蝙蝠の羽が生えている。
もう一人は薄い紫色のローブを身に纏っており、深い紫髪が特徴的だ。
吸血鬼と魔法使い、ブラックは二人の見た目からそう判断した。
「目が覚めたようね、シリウス・ブラック。ここは吸血鬼の住む素敵な館、紅魔館。決して地獄ではないわ。そして、私がこの館の主人であり夜の絶対的支配者であるレミリア・スカーレットよ」
レミリア・スカーレットと名乗った少女は誇らしげに胸を張る。
「その自己紹介はどうかと思うけど」
「うるさいわねパチェ。……ゴホン。そしてこっちの魔女が私の友人でありお抱え魔法使いのパチュリー・ノーレッジ。で、こっちのメイドが紅美鈴」
「パチュリー・ノーレッジだと?」
三人のうち、一人の名前にブラックは敏感に反応する。
その様子を見て、レミリアは少しつまらなさそうな表情をした。
「なんでよ。そこは「……レミリア・スカーレットだと!?」と驚くところでしょう? 名前ぐらいは聞いたことあるんじゃない?」
「いや、知らない……」
「あ……そう」
レミリアは分かりやすく肩を落とした。
設定や用語解説
レミリアの知名度
占いに詳しい人間か、イギリス魔法界の政治に詳しい人間は知っているが、一般人からの知名度は低い。
パチュリーの知名度
魔法の研究を行っている者からしたら神様のような存在だが、一般人からしたら蛙チョコのおまけカードに出てくる妙に見た目が若い魔女ぐらいの知名度。ブラックはパチュリー著書を参考に忍びの地図を作ったためよく知っていた。
Twitter始めました。
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