P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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クローゼットと黒いスーツと私

 あと数日で夏休暇に入る七月の中旬。

 ハーマイオニーはグリフィンドールの談話室のソファーの上でじっと暖炉を見つめながら考え事をしていた。

 隣ではロンとシェーマスが難しい顔をしながらチェスに興じている。

 盤面を見るに、ロンは初めからかなりのハンデを負った状態でのプレイのようだ。

 

「ねえ、おかしいと思わない?」

 

「確かに。キングとクイーンとポーンだけでどうやって勝てっていうんだよ。しかも負けたら百味ビーンズをランダムに十粒一気喰いだぜ?」

 

「その代わりこっちが負けたらゴキブリゴソゴソ豆板一枚喰いなんだからどっこいどっこいだろ?」

 

「呆れた。そういう話じゃないわよ」

 

 ハーマイオニーは大きなため息をつくと、ロンの襟を掴んで自分の方へと引っ張る。

 そして小さな声で言った。

 

「教員たちよ。妙に少ないと思わない? さっき職員室に行ったらフィルチとビンズしかいなかったわ。それに、さっき慌ただしい様子で校長室に集まっていく先生たちを見たの」

 

「じゃあ校長室で何か会議でもやってるんだろ」

 

 ロンは興味なさげにポーンを指す。

 ハーマイオニーはロンの襟を離すと、もういいと言わんばかりに視線を暖炉に戻す。

 

「私の女の勘が言ってるのよ。何か良くないことが起きるって」

 

「そりゃいいや。僕の男の勘も言ってるよ。もう良くないことは沢山起きてるって」

 

 ハーマイオニーはロンの頭を引っ叩くとソファーから立ち上がる。

 そして、窓の外を見つめながら心配そうに呟いた。

 

「なにもないといいんだけど……」

 

 

 

 

「サクヤ・ホワイトの捜索を中止? そりゃまた……どうして?」

 

 ハグリッドの大きな声が騎士団の会議室に響き渡る。

 会議室の中央にはレミリア・スカーレットが座っており、皆が彼女に注目していた。

 

「いや……その……状況がかなり変わったの。今彼女に接触するのはかなり危険よ。問答無用で殺されかねない」

 

 レミリアは若干言葉に詰まりながらそう説明する。

 だが、議長を務めるスネイプが、静かに手を挙げて言った。

 

「それは今までも同じであろう? 奴の能力を鑑みるに、いつどのように殺されても不思議ではないのだ。奴はこの本部のことも知っている。ここにいる全員が、今すぐに死亡しても不思議ではない」

 

「それはまあ……そうなんだけど……」

 

 レミリアは表情を曇らせながら小声で呟く。

 この場にいる全員が、レミリアの態度に大きな違和感を抱いていた。

 普段なら、騎士団長であり議長でもあるスネイプを半ば無視するほどの勢いで勝手に会議を進めていく彼女が、今日は妙に大人しい。

 それに、強引に騎士団員のほぼ全員を集めたわりには、あまりにも主張に合理性がない。

 

「とにかく、状況が確認できるまで絶対にサクヤ・ホワイトには近づかないこと! いいわね?」

 

「その、『状況』というのはいつ、誰が確認するのです?」

 

 当たり前の質問をマクゴナガルが飛ばす。

 レミリアは、一瞬目を泳がせると、苦し紛れに言った。

 

「わ、私が良いと言うま──」

 

「もう正直に話してしまった方がいいのでは?」

 

 レミリアの言葉を遮るように小悪魔がため息交じりに言う。

 レミリアは小悪魔を黙れと言わんばかりに睨みつけた。

 

「やはり、何か事情が?」

 

 小悪魔の言葉を聞き逃さなかったスネイプが、レミリアに質問する。

 レミリアは何かを考えるように腕を組むと、やがて渋々と口を開いた。

 

「妹が……妹のフランドールがサクヤ・ホワイトに攫われたわ」

 

「い、妹?」

 

 ざわざわと、会議室内が騒がしくなる。

 殺人を繰り返してきたサクヤ・ホワイトだが、今まで誰かを人質に取るようなことはしなかった。

 そもそも、ここにいる殆どの者がレミリアに妹がいることすら今の今まで知らなかったのだ。

 

「事情をお伺いしてもよろしいですかな?」

 

 スネイプが静かに手を組み、レミリアをじっと見つめる。

 レミリアはそんなスネイプの視線に、観念したように話し始めた。

 

「昨晩、私の屋敷にサクヤ・ホワイトを追い詰めたの。もう殆ど捕まえたようなものだったんだけど、ちょっとした油断で逃げられて──」

 

「妹君を攫って、消えてしまったと」

 

 レミリアは、力無く頷く。

 

「そ、そいつは一大事だ! さ、サクヤ……あいつめ……どれだけ罪を重ねたら気が済むってんだ」

 

 ハグリッドが悔しそうに拳を握りしめる。

 それとは対照的に、マクゴナガルは口に手を当てて考え込み始めた。

 

「何にしても……三日……三日間時間を頂戴。その間にサクヤ・ホワイトから何か要求があるかもしれないし、何か情報を得ることができるかもしれない」

 

「それについては構いませんが……であるならば尚更人手を用いた方がいいのでは?」

 

 ルーピンの問いにレミリアは首を横に振る。

 

「組織を動かしたことを悟られたくない。私と私の部下だけなら可能な限り隠密に動くことができるわ」

 

 レミリアは隣に座る小悪魔の肩をポンと叩く。

 小悪魔はレミリアに叩かれた肩を手で軽く払った。

 

「何にしても三日後。三日後の会議までになんの進展もなかったら、私も覚悟を決めるわ。それで良いかしら、騎士団長」

 

「私からは何も言うことはない。ただ……」

 

 スネイプは騎士団員全員を見回してからレミリアに告げる。

 

「三日と言わず、人手が必要になればすぐにでも私たちは動く。それだけは忘れないでほしい」

 

「セブルス……」

 

 レミリアはスネイプの言葉に少し目を潤ませると、ガシガシと目を拭う。

 そしていつも以上に力強い表情で言った。

 

「頼りにさせて貰うわ。団長さん」

 

 

 

 

 

 

 闇市で朝食を取ったあと、私たちはフランドールが起きてくるまでボロ屋の中で軽く仮眠を取った。

 美鈴の話では、フランドールが起きるのは日が沈むと同時らしい。

 そして、その話の通り、辺りが暗くなり始めたと同時にクローゼットの扉がゆっくりと開いた。

 

「ちょっと寝心地悪すぎね。今日の朝はベッドで寝たいわ」

 

 フランドールは腰をポンポンと叩きながらクローゼットから這い出てくる。

 棺と似たようなものと勝手に思っていたが、そういえばフランドールの部屋には普通に天蓋付きのベッドが置かれていたことを思い出した。

 

「それでは、本日の朝はどこかホテルでも取りますか?」

 

「交渉次第じゃない?」

 

 美鈴は手慣れた様子でフランドールの服装を正す。

 フランドールは体を起こすように軽く伸びをすると、腰に手を当てて言った。

 

「それじゃあ、牧場のほうへ向かいましょうか。美鈴、案内」

 

「はい、こちらです」

 

 美鈴は私に目配せすると、ボロ屋の扉を開けて外に出る。

 そしてフランドールの歩くペースに合わせながら先導し始めた。

 私は美鈴とフランドールに挟まれるようにして薄暗い通りを歩く。

 美鈴は闇市とは反対方向へと進むと、私たちが占拠したのと同じようなボロ屋の扉を力任せにこじ開けた。

 

「な、なんだぁ?」

 

 扉のすぐ近くに座っていた男が驚愕の叫び声を上げる。

 美鈴はその男にニコリと微笑むと、有無を言わせぬ態度で言った。

 

「貴方たちのボスに話があります。キャビネットを使わせてもらいますね」

 

「いや、いやいやいや。ダメに決まってる!」

 

 男はすぐさま椅子から立ち上がると、部屋の隅にあるキャビネットの前に立ち塞がる。

 

「あんた見たことがある。スカーレットのところのメイドだ。それに……おい、まさかそいつサクヤ・ホワイトか?」

 

 男は私を指差しながら目を剥く。

 

「あんたのところはお得意様だが、ちょっと俺には判断ができん! 少し……少し待ってくれ。上と連絡を取るから」

 

 だからそこから動かないでくれよと念を押すと、男は壁際に掛けられていた受話器を手に取る。

 そして私たちの方をチラチラと見ながら受話器に向かって話し始めた。

 

「私ってほんと知名度ないのね」

 

 フランドールは少しつまらなさそうに床を蹴る。

 そんなフランドールを宥めるように美鈴は言った。

 

「これからいくらでも有名になるじゃありませんか。今日のところは、牧場の従業員に顔と名前を覚えてもらいましょうね」

 

「そうね。千里の道も一歩からって言うし。ピラミッドだってはじめの一段を積まなければ絶対に完成しないわ」

 

 そうしているうちに話がついたのか、男が受話器を置く。

 そして、クローゼットの扉を開けながら言った。

 

「ボスがあんたらに会われるそうだ。中に入ってきてくれだとよ」

 

「はいはい。命拾いしたわね」

 

 フランドールは男に促されるままクローゼットの中に入っていく。

 どうやら牧場とやらはここから少し離れているらしい。

 ここはあくまで入り口でしかなく、牧場までは姿をくらますキャビネットで向かうようだ。

 フランドール、私、美鈴の順番でキャビネットを潜り抜ける。

 キャビネットを抜けた先は白い壁紙に白いタイルと、魔法界とは思えない内装が広がっていた。

 さながら、どこか大きな研究所か、製薬工場を思わせる。

 私は内装と建物の作りを見て察する。

 これを作り上げたのは魔法界の人間ではないと。

 

「お待ちしておりました」

 

 私が内装に目を奪われていると、通路の先に立っていた一人の男が話しかけてくる。

 私はその男に見覚えがあった。

 

「グレイバック?」

 

 そこに立っていたのはヴォルデモートの配下の人狼の一人であり、人狼全体のまとめ役を務めていたフェンリール・グレイバックだった。

 魔法界で見た時はボロボロの黒いローブを着込んでいた彼だったが、今はスラっとした黒いスーツに黒いシャツ、天井の照明の光が反射するほど磨かれた革靴を履いている。

 そして、指や首は悪趣味なほど多くの装飾品で彩られていた。

 さながら、マフィア映画に出てくる幹部マフィアのようである。

 

「久しぶりだなぁ、ご息女さまよぅ。ついに捕まったか? なるほどなるほど、大体読めたぜ」

 

 グレイバックは私の顔を見ながらヘラヘラと笑う。

 

「そいつをここの母体にして欲しいんだろ? なぁそうだろぉ? ひひひ、スカーレットのお嬢様はやることがえげつないねぇ」

 

「いや、違うわよ」

 

 フランドールは呆れたようにツッコミを入れる。

 グレイバックはフランドールの方を見て一瞬キョトンとすると、美鈴に聞いた。

 

「この見るからに只者じゃない嬢さんは?」

 

「フランドール・スカーレット様です。レミリアお嬢様の妹君ですよ」

 

 グレイバックは美鈴の説明を聞いて少々目を丸くする。

 

「あんたのとこのお嬢様とはそれなりに長い付き合いだが、妹がいるとは初耳だぜ。以後お見知り置きを、フランドールお嬢様」

 

 グレイバックは恭しく一礼してみせる。

 少し小馬鹿にするような態度だったが、フランドールは特に気にしていないようだった。

 

「で、そうじゃなかったらどうだってんだ? 全く状況が読めねぇ。話が長くなるなら、部屋を用意させるが……」

 

「それが良いわね。私もあまり手荒なことはしたくないし。貴方とはじっくり話し合いたいと思ってるわ」

 

 手荒なことと聞いて、グレイバックの表情が少し固くなる。

 

「そいつは穏やかじゃねぇなぁ。わかった。おい! 客間の準備だ!」

 

 グレイバックは奥に控えていた男性に指示を飛ばす。

 男性はグレイバックの指示を聞き、大慌てで通路の奥へ走っていった。

 

「それじゃあ、じっくり話を聞かせてもらおうじゃねぇか」

 

 グレイバックはゆったりとした動きで通路の奥へ私たちを案内し始める。

 フランドールは特に警戒することもなくグレイバックの後ろに続いて歩いて行った。

 

「あの、大丈夫ですかね?」

 

 私はその後を追いながら美鈴に尋ねる。

 

「人狼如きが吸血鬼に何か出来るとは思えませんし」

 

 まあ、それもそうだとは思うが。

 私は若干の不安感を抱きながらグレイバックとフランドールの後を追った。




設定や用語解説

久々登場のロンとハーマイオニー
 期末試験も終わり夏休みを待つ身の二人。

サクヤの捜査に待ったを掛けるレミリア
 レミリア視点だと、フランドールがどのような動機でサクヤを助けたのか全くわからないのでかなり慎重に動いている。

見張りの男
 グレイバック傘下の人狼。趣味はお菓子作り。

フェンリール・グレイバック
 ヴォルデモートの傘下に入っていた人狼のまとめ役。死喰い人というわけではなく、あくまで協力関係。

Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
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