P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
ホグワーツが夏休暇に入ったその日の夜。
ロンドンにそびえ立つ高層ビルの地下に広がる不死鳥の騎士団の会議室に多くの騎士団員が集まっていた。
会議室の中央には議長を務めるスネイプの姿があり、その隣にキングズリー、反対にはレミリアが座っている。
「なんというか、非常に言い出しにくいことなんだけど……」
レミリアは難しい表情で会議室にいる騎士団員たちを見回す。
そして大きくため息を一つ吐くと、半ば諦めたかのように言った。
「調査の結果が出たわ。詳細な居場所まではわからないけど、取り敢えずサクヤ・ホワイトがどの辺にいるかは確認できた」
それにしてはレミリアの表情は暗い。
多くの騎士団員の疑問を代弁するように、スネイプがレミリアの横から質問を飛ばした。
「流石の調査力ではありますが……言い出しにくいとは? 妹君の安否も不安が残るところではありますが」
「妹も無事。多分元気よ。ただ……ちょっと、いや、かなり不味い事態になっていると言わざるを得ないわ」
レミリアの言葉に、会議室内が団員たちの囁き声で騒がしくなる。
「レミリア嬢がそこまで言うとは……一体何が?」
アーサーの質問に、レミリアは言葉を詰まらせるように黙り込む。
だが、意を決したかのように顔を上げて答えた。
「妹が……フランドール・スカーレットがフェンリール・グレイバックを傘下に加えたという情報を掴んだの」
「なるほど、グレイバックを配下に……え?」
ルーピンがポカンと口を開く。
いや、ルーピンだけではない。
会議室の中にいる殆どの者がレミリアの言葉を理解できずにいた。
「妹君はサクヤ・ホワイトによって攫われた……という話ではなかったですかな?」
「もしそうだったらどれほどよかったか」
フリットウィックの言葉に、レミリアはぼそりと呟く。
「それはあくまで推測よ。意識が戻った時にはもういなかったんだから」
レミリアは少し目を細めながら言った。
「まだ情報が足りない。あの子が何をしようとしているのか。サクヤ・ホワイトとどのような関係か」
「では、まだ静観しろと? そういうことですかな?」
スネイプの問いに、レミリアは首を振る。
「いえ、むしろ積極的に動き出さないといけないと思うわ。どういう経緯かはわからないけど、少なくともサクヤ・ホワイトと私の妹は協力関係にある。だとしたらもう四の五の言ってられないわ」
では、そういうことでしたらと、スネイプは今後の方針や早急に対処しないといけない問題を議題に挙げ、話し合いを始める。
レミリアはその会議に時折口を挟みながら、今後どのように動くべきか思案を始めた。
そろそろホグワーツは夏休暇に入っただろうか。
私はポケットから懐中時計を取り出すと、今の時刻を確認する。
今の時間は午後の十時二十七分。
朝が早い者ならもうベッドに潜り込んでいてもいい時間帯だ。
私は懐中時計の竜頭を軽く巻き上げ、ポケットの中に仕舞い直した。
「でも、大丈夫なんですかね。ホワイトの研究室に直接乗り込むだなんて」
私は窓の外を流れていくロンドンの町並みをガラス越しに眺める。
私の右隣りでは、美鈴が慣れた様子で車を運転していた。
「大丈夫だと思いますよ? ホワイトって別に武闘派ってわけじゃないですし。それにこっちにはフラン様がいますからね」
「マスターキーと呼んで頂戴。私に開錠出来ない扉は無いんだから」
羽の関係で後部座席のど真ん中に座っているフランドールが自信満々に胸を張る。
「天岩戸でも地獄の門でも、なんならパンドラの箱だって開けちゃうわよ」
「パンドラの箱は開けないでくださいね」
私はフランドールの冗談に苦笑いする。
なんにしても、魔法と能力が使えない今、戦闘面では二人を頼るしかない。
私はベルトに挟み込んでいる拳銃をシャツ越しに触る。
これを撃つのは最後の手段にしたほうがいいだろう。
私とフランドールと美鈴の三人は、グレイバックから車を拝借しホワイトのアジトに向かっていた。
運転手は美鈴。
運転している様子を見るに、かなり運転には慣れているようだった。
まあ、レミリアの活動範囲は魔法界だけではない。
マグルと付き合っていくには、車の運転ができる部下の一人や二人は必要だということだろう。
「まあ何かしら凶悪な罠が仕掛けられている可能性は否めませんが、それに関してもフラン様に先頭を歩いてもらえば問題ないです」
「私を弾避けに使おうだなんて、とんだ不良従者だわ」
フランドールはやれやれと肩を竦める。
だが、実際吸血鬼の頑丈さは尋常じゃない。
何か罠が仕掛けられていた時に、一番ダメージが少ないのは確実にフランドールだろう。
私たちを乗せた車は片側三車線ある幹線道路を走っていたが、ゆっくり速度を落としてロータリーへと入っていく。
そしてそのまま一面ガラス張りの巨大な建物の前で停車した。
「ん? ここは……」
私は車から降りると、その巨大な建物を見上げる。
この建物、どこかで見たことがあるような……
「美鈴、研究室の詳細な場所は聞いているでしょうね? 流石にこの大きさの建物からホワイトの研究室を見つけ出すというのは骨が折れるわよ?」
「え? あー、ここ全部がそうなんじゃないんですか?」
美鈴はポカンとした顔でフランドールを見つめ返す。
フランドールはそんな美鈴に対し眉間に皺を寄せながら言った。
「そんなわけないでしょう? こんな隠蔽魔法も何もかかってないマグルのビルがそのまま全部研究所なわけないじゃない」
「でも、ほら。もう使われていないみたいですし」
美鈴は建物の入口を指差す。
そこには粉々になったガラス片と共に、もう機能していなさそうな自動扉が見えた。
確かに現役で使われている建物なら、修理が間に合わなかったにしても何らかの処置は行うはずだ。
それに、非常灯などの常時光っていなければいけないようなものも消灯している。
「まあここでこうしていても仕方がないですし、中へ入りましょう」
「むしろ敵の一人でも出てきてくれたら助かるんだけど」
フランドールを先頭にして私たち三人は廃ビルの中へと入っていく。
確かにフランドールの言う通り、警備員の一人でも出てきてくれればそこからいくらでも情報が引き出せる。
むしろ完全に無人だった場合、ホワイトの研究室を探し出すのにかなりの時間を要するだろう。
私はエントランスで立ち止まると、何か手掛かりになるものがないか周囲を見回した。
だが、経年劣化で荒れている以外には、特におかしな点はない。
このような廃ビル特有の、不良がたむろした痕跡もなかった。
「いや、もしかして……見えてないだけ?」
魔法界の施設は魔法によって巧妙に隠されていることが多い。
魔力を持たないものには廃ビルに見えるように魔法が掛けてある可能性も──
「いや、普通に廃ビルですよ。多分見えている景色もかわらないと思います」
「そうね。それにこの建物からはびっくりするほど魔力を感じないわ。マグルから身を隠すには魔法を掛けるのが一番だけど、魔法使いから身を隠すのだったら逆に魔法を使わない方がいいってわけね」
「あ、そうですか」
フランドールはエントランスの奥に設置されているエレベーターの側へ歩いていき、ボタンを押す。
だが、当たり前のようにボタンが点灯することはなかった。
電気は完全にきていないようだ。
「まあ、分かってはいたことだけど」
「どこから探ります?」
「しらみ潰しってわけにはいかないし……困ったわね」
「何か見取り図のようなものがあるといいんですけど……」
私はエントランスに設置されている受付の中を覗き込む。
だが、中は綺麗に片付けられており、見取り図はおろか書類の一つも落ちていなかった。
「手掛かりになりそうなものはないですね」
「ならまず最上階へいきましょうか」
フランドールは強引にエレベーターの扉をこじ開けると、中へと入っていく。
そしてそのまま飛び上がり、エレベーターの箱の天井を破壊した。
「そのまま飛んで上がるわ。先に行って通路を確保しておくから美鈴は咲夜を抱えてついてきて」
そう言うが早いか、フランドールは真上へと飛び上がり姿が見えなくなる。
私はその光景を見ながら美鈴に言った。
「なんというか、フランドールさんああいうところはお姉さんに似てますね」
「吸血鬼という生き物がそういう性格なのかもですけどね。さて、私たちも行きますか」
私たちはフランドールと同じようにエレベーターの中に乗り込む。
上を見上げると、天井が大きくひしゃげており、その奥に続くエレベーターシャフトが見えた。
「それじゃあ、ちょっと失礼……」
美鈴は後ろから私の脇を抱えると、箒も無しに宙へと浮かび上がる。
そしてそのままフランドールが開けた穴から箱の外に出ると、そのままエレベーターシャフトを上昇し始めた。
「箒なしで空を飛べるんですね」
「私からしたらなんで空を飛ぶのに箒が必要なのか理解に苦しみますけどね。サクヤちゃんも少し練習したら飛べるようになると思いますよ?」
「いや、でも私今魔力ないですし……」
「それに関しては早急になんとかしないといけませんね」
美鈴は上昇する速度を少しずつ落とし、途中に空いた穴からエレベーターシャフトの外に出る。
エレベーターシャフトの外は先ほどのエントランスと比べ、少し内装の雰囲気に高級感が感じられた。
「きっと所長室ね」
通路の奥の方からフランドールの声が聞こえてくる。
どうやら既に奥へ進んでいるようだ。
私と美鈴さんも通路を進み、開け放たれている扉から室内に入る。
室内は机やソファーなどといった家具こそなかったが、部屋の作りからして偉い人の執務室であったことは想像に難くなかった。
「ここも手掛かりはなし……か」
美鈴は壁や床をコンコンと拳で叩きながら言った。
どうやら隠し部屋を探しているらしい。
私は一度部屋の中をぐるりと見回すと、床から天井までガラス張りになっている窓際へと近づき外の景色を見下ろした。
「……あっ」
そして、あることに気がつく。
私は、この景色を見たことがある。
それもそんなに昔のことではない。
私はつい最近この景色を見た。
「まさか……でも、だとすると」
私は窓を覗き込み、高度感を確認する。
私が見た景色はもっとずっと下だ。
「フランドールさん、美鈴さん。私の予想が正しければ、ホワイトの研究室はもっと下です」
「予想? 何か思い当たる節があるの?」
フランドールの問いに私は頷く。
「私は、一回ここへ来たことがある」
私の記憶が正しければ、この建物の中にイザヨイ・モモヨ……孤児院の職員で私の育ての親であるセシリアの研究室があるはずだ。
「でも……え? そんな……でももしそうなら……イザヨイ・モモヨとホワイトは同一人物。もし、同一人物だとしたら──」
セシリアの正体は、ホワイトということ?
さぁ、と血の気が引いていくのがわかる。
つまり私はホワイトに育てられていたのか?
だけど、孤児院の皆が死んだあの夜、確かにセシリアも死んでいた。
いや、死んでいるように見えただけで実は死んでいなかった?
ホワイトは、あの夜孤児院で何が起きたのか知っているのか?
「大丈夫?」
不意に声をかけられ、私は咄嗟に前を向く。
そこには私の顔を覗き込んでいるフランドールの姿があった。
「と、とにかく下に降りましょう。実際に確かめてみるまでは私の記憶違いということもありえますので」
フランドールと美鈴は顔を見合わせる。
だが、すぐに互いに頷きあうと、エレベーターのある方へと歩き出した。
一階ずつ階層を下げながら私の記憶にある研究室を探す。
ここへ来たのはつい最近のため、まだ記憶は新しい。
探し始めて一時間もしないうちに私たちは私の記憶の中にある研究室の入り口に辿り着いた。
「この扉……それに通路から見える製薬会社のロゴ。間違いない。ここです」
私がそう断言すると、フランドールが私の前に出る。
そして私の顔を見て静かに頷き、ゆっくり研究室の扉を開けた。
研究室の中は私の記憶のままだった。
大きな机にはコンピュータが置かれ、その前にはプリンターで印刷したのであろう書類が乱雑に置かれている。
部屋の隅には多数の薬品が収められたガラス棚。
それに私が初めてこの部屋に来たときに通ってきたキャビネットも記憶のままの場所に鎮座していた。
「ここです。間違いない。セシリアの研究室……」
「セシリア?」
美鈴の問いに私は頷く。
「孤児院の職員です。私の育ての親でもある。彼女の部屋に置かれていた姿をくらますキャビネット。その対になるキャビネットが置かれていた場所がここでした」
私は部屋の隅にあるキャビネットを指差した。
「でも、もしここがホワイトの研究室だとすると……」
「孤児院で貴方を育てていたセシリアの正体はホワイトだった。その可能性が出てくるわけね」
私は無言で頷いた。
「でも、それを否定する材料はどこにもないというか、むしろそれが一番自然なんじゃないですかね? 母親が死に、独りになった赤子を親族が引き取る。よくある話だと思います」
美鈴の言うことはもっともだ。
確かにそれが自然な流れだし、セシリアが魔法使いだったことにも、このような研究室に繋がるキャビネットが部屋に置かれていたことにも納得がいく。
結局のところ私が納得していないというだけなのだ。
「……とりあえず研究室を探りましょう。私の能力を戻す手掛かりが見つかるかもしれませんし」
「そうね。でも私も美鈴も魔法薬に関しては門外漢だからあまり期待はしないで」
フランドールはそう言うと、机の上に散らばった書類を捲り始める。
私の頭の中は未だセシリアやイザヨイモモヨ、ホワイトという単語がグルグルとしていたが、とりあえず手を動かし研究成果を探り始めた。
設定や用語解説
美鈴の飛行術
ヴォルデモートが使っていたような箒を使わない飛行術とは全くの別物。
イザヨイ・モモヨ
サクヤがホグワーツの隠し部屋で見つけた日記帳に書かれていた人物。サクヤはセシリアとイザヨイ・モモヨが同一人物であると考えているが……
Twitter始めました。
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活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。