P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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ガラスの棺と炭化と私

「蓬莱の薬を研究し地上へ堕とされた十六夜百夜。ヴァルブルガ、オリオンともにびっくりするほど似ていないセレネ・ブラック。魔法薬のスペシャリストのホワイト、私室を研究室へ繋げ蓬莱の薬を研究していたセシリア……全員同じ人物なんじゃない?」

 

「いや、それを軽率だと言ったのフラン様ですからね?」

 

 美鈴の冷静なツッコミが研究室に響き渡る。

 

「十六夜百夜とセシリア、ホワイトが同一人物だというのは私も考えたことですが、セレネ・ブラックもですか?」

 

 私の問いにフランドールは頷く。

 

「セレネの産まれた時期と百夜が月から追放された年がぴったり重なる。もし十六夜百夜とホワイトを同一人物だと考えるならホワイトはセレネと同い年よ。セレネの実の母親というのは無理があるわ」

 

 まあ、それは確かにそうだ。

 

「それに、ホワイトとセレネは親子に間違われるほどには似ていた。だとしたら、考えられる可能性はかなり限られる」

 

 フランドールは指を二本立てる。

 

「ホワイトとセレネが同一人物だったか、ホワイトとセレネが双子だったか」

 

「可能性として高いのは同一人物ですかね。今の魔法界に双子を忌避する文化はありませんし、その時ブラック家にはすでにシリウスという長男がいたわけですから、跡目争いの火種にもなりにくい」

 

「むしろ純血の家系としては子供が増えるのは喜ばしいことのはず。まあ、月から地上へ堕とされた百夜が産まれた瞬間から立ち上がって話し始めたりしたなら気味悪がって家から追放するかもだけど」

 

 まあ、確かにそんな気味の悪い子供が産まれたらコッソリ処分するかもしれない。

 だが、気になることもある。

 

「同一人物……というのは少し不自然かもしれません。ホワイトとセレネは間違いなく血の繋がりがあると囁かれるほど姿が似ていたそうですが、同じ場所に二人が揃うことがなかったら普通は親子ではなく同一人物であるという噂が立ちますよね」

 

 だが、実際にはホワイトがセレネの実の母親なのではないかという噂が立った。

 

「つまり、二人が一カ所に揃うようなことがあったということではないでしょうか」

 

「それじゃあ、やっぱり双子なのかしら。双子のうちの一人が月人である十六夜百夜の転生先。で、セレネはそのままホグワーツへ入学。ホワイトのほうは前世の知識を用いて魔法界の闇に消えたとか」

 

「それも少しおかしいかと」

 

 フランドールの考えに美鈴が反論する。

 

「だってホグワーツの隠し部屋で十六夜百夜の名前が出てくるということは、少なくともホワイトはホグワーツへ通っていたことになります。ブラック家から双子が入学したという情報はなかったはずです」

 

 確かにそうだ。

 レイセンはホグワーツで十六夜百夜と出会っている。

 

「転生した先が双子で、十六夜百夜が二人生まれたという可能性はどうかしら」

 

「可能性としてはなくは無さそうですけど……」

 

 まあ、これに関しては結論は出ないか。

 

「この、レイセンという人物に会えないでしょうか。彼女に会って話を聞ければ詳しい情報がわかるはず」

 

「それは少し脱線しすぎ。そこまでしてホワイトの出生を探る必要はないわ。それがわかったところでこちらが凄まじく有利になるわけでもないし」

 

「でも──」

 

「気になるのはわかるけどね。これ以上は本人に直接聞きなさい。今は貴方の能力を復活させる方が先決よ」

 

 フランドールの言っていることは正論だ。

 たとえセシリアとホワイト、セレネの三名がみな同一人物で、月の民である十六夜百夜の生まれ変わりなのだとしても、それで何かが変わるというわけではない。

 私がレミリアから狙われているという事実も、魔力と能力を失ったという事実も、何も変わらない。

 

「で、何か足掛かりにできそうな研究資料はあった? こっちはさっぱりだけど」

 

 私は整理した資料を流し読みするが、殆どが蓬莱の薬に関する難解な資料ばかりだ。

 私に飲ませた薬の資料はおろか、ダンブルドアをマグルにした薬やスラグホーンに飲ませた薬の資料もなさそうだった。

 

「足掛かりどころか手掛かりすら……美鈴さんは?」

 

「特に気になるものはないですね。他の部屋も見て回りますか」

 

 私たちはキャビネットが置かれている部屋から繋がっている部屋を順番に調べていく。

 だが、キャビネットの置いてある部屋と比べると、その他の部屋には資料らしい資料が見当たらない。

 どちらかというと、実験用の機材や実験体を管理するスペースでしかないように見えた。

 

「見て。死体だわ」

 

 数ある部屋の一つを調べている最中、フランドールがガラスの棺のようなベッドを指差す。

 ガラスの内側では真っ黒に炭化した人間の死体が横たわっていた。

 私はこの焼死体を知っている。

 いや、この死体は焼けてはいるが、死因は焼死じゃない。

 これは、私が殺した人間だ。

 

「まだ新しいですね。焼かれたのはつい最近のように見えます」

 

「そうね。でも、この研究室自体はもう何年も使っていないようにも見える」

 

 美鈴はガラスの棺を拳で割ると、中の死体の検死を始める。

 私は一瞬口篭ったが、二人に本当のことを話そうと口を開いた。

 

「その人を殺したのは私です」

 

「サクヤちゃんが?」

 

 私は初めてここを訪れた時の出来事を二人に話して聞かせる。

 二人は私の話を最後まで聞くと、興味深そうに死体を見つめた。

 

「炎で焼かれても死なない人間ですか。興味深いですね」

 

「命の水の効果なのかしら。それとも、何か違う薬品?」

 

 賢者の石から生成される命の水には確かに驚異的な回復効果がある。

 だが、燃え続ける体を回復させ続けるほどの効果はなかったはずだ。

 

「まあでも、そういうことなら焼死体の新しさにも納得いきますね。サクヤちゃんが初めてここを訪れてからそんなに時間は経ってないわけですし」

 

 私は黒く炭化した死体を見下ろす。

 今では面影がないが、この中で燃えていたのは十歳ほどの女の子だ。

 一体どういう経緯でこの中で燃え続けることになったのか、今となってはわからない。

 だが、少なくとも治療のためというわけではなさそうだと私の直感が告げていた。

 

「手がかりになりそうなのは最初の部屋にあった資料ぐらいですかね」

 

 私はベッドの周辺を調べながら呟く。

 まあ、そもそも放置されているように見える研究室に少しでも資料が残されているだけで儲けものなのだが。

 

「もっととんでもない罠が仕掛けられているかと思ったけど、拍子抜けなほど無防備ね」

 

「ホワイトにとっては、ここはもう完全に放棄した施設なのかもしれませんね」

 

 でもだとすると、ホワイトの研究室は別に存在しているということだ。

 もし研究室が紅魔館にないのなら、もう探し出すことは不可能だろう。

 

「そういえば、ホワイトはホグワーツではどうしてたの?」

 

「どう、とは?」

 

「部屋よ。お姉様と同じ部屋?」

 

 確かに気にしたことはなかったが、小悪魔の正体がホワイトだった場合、レミリアが同室を許可しているとは思えない。

 それにホワイトはホグワーツで魔法薬学の教授を務めている。

 私室がある可能性は確かに高いだろう。

 

「確かに……ホグワーツに私室を持っている可能性は高いですね」

 

「でしょ? もしここを完全に放棄しているとしたら、貴方に注射した魔法薬の研究資料はそこかもしれないわ」

 

 ホグワーツは魔法界でグリンゴッツの金庫の中よりも安全だと言われている。

 様々な防護魔法に隠蔽魔法、それに魔法界でも随一の魔法使いが教授を務めているのだ。

 ダンブルドアが死した今、以前ほど安全とは言えないかもしれないが。

 研究室を構える場所としては、これ以上の場所はない。

 

「もし研究室がホグワーツにあるとしたらこれ以上に厄介なことはないですね。ホグワーツ城を瓦礫の山にするだけならフラン様なら夜飯前ですけど、研究資料目当てで忍び込むとなるとそういうわけにもいきませんし」

 

 学生の身分である私なら潜入もそこまで難しくはないと一瞬思ったが、流石に退学処分になっているだろう。

 時間停止が使えた時期ならまだしも、魔法も使えない今の状況ではそう簡単な話ではないはずだ。

 

「ホグワーツに侵入するのとホワイトをとっ捕まえて情報を吐かせるの、どっちが楽ですかね」

 

「どちらにしろ一度しっかり計画を立て直した方がいいわ」

 

 ただ、ホグワーツに潜入するとしたら夏休みが終わる前のほうがいいだろう。

 生徒が皆実家に帰っている休暇中は相対的に警戒の度は低くなる。

 それに学校を離れる教員も多いはずだ。

 

「さて、こんなところかしらね。ホテルに戻りましょうか」

 

 フランドールはガラスの棺をそっと撫ると、キャビネットのある部屋へと続く扉のドアノブに手をかける。

 その瞬間、弾かれたように手を引っ込めると間髪入れずに扉を蹴り開けた。

 

「──ッ!? いつの間に!」

 

 フランドールの蹴りによって扉が開いた瞬間、凄まじい熱気が私の肌を焼く。

 何故今まで気が付かなかったんだろうか。

 キャビネットが設置されていた部屋は炎に包まれており、既に火の手が部屋全体に回っていた。

 

「火のまわりが早すぎる。自然な火災じゃないわ」

 

「サクヤちゃん、私の後へ。フラン様──」

 

「言われなくても!」

 

 フランドールは両手を体の前で重ねると、ゆっくりと開きながら炎で形作られた剣を出現させた。

 

「レーヴァテイン……」

 

 フランドールはそう呟くと炎の剣を部屋に向けて振るう。

 その瞬間、美鈴の陰に隠れている私が窒息しそうになるほどの熱気が押し寄せたかと思うと、すぐに周囲が暗くなった。

 

「一体何が……」

 

 一瞬にして闇に包まれたため暗順応に時間が掛かる。

 私は美鈴にぴったりくっつくようにしながら、じっと扉の方向を見つめた。

 

「流石フラン様」

 

「雑に酸素を燃やし尽くしただけよ。それより美鈴、サクヤを頼んだわ」

 

 フランドールは再度扉をゆっくり開きながら部屋の外へと歩いていく。

 私は美鈴の陰から顔の半分だけを出すと、じっと部屋の外に目を凝らした。

 

「出てきなさい! いるのはわかってるわ」

 

 部屋の奥でフランドールの声が響く。

 私は小声で美鈴に囁きかけた。

 

「何者ですか?」

 

「人間ではないですね……私の予想が正しければ──」

 

 美鈴は扉の奥、先ほどまで燃え盛っていた部屋へと歩き出す。

 私は美鈴の後ろに隠れながら恐る恐るキャビネットのある部屋へと足を踏み入れた。

 部屋の中にあったものは残らず炭化しており、一本歩くごとにシャリシャリとした炭を踏み潰す音が響く。

 そんな部屋の中央には仁王立ちをしているフランドール。

 そしてそんなフランドールの前には半透明で白っぽい人影がふわふわと宙に浮いていた。

 私はその正体を知っている。

 在学中、ほぼ毎日どこかしらで目にしていた存在だ。

 

「ゴーストね」

 

 フランドールの声が部屋に響く。

 そんな声に呼応するように、ゴーストは顔を歪ませて笑った。

 

「戻ってくると信じてた。お前はきっと戻ってくるって。戻って狂って狂って狂って狂って」

 

 甲高い笑い声が焼け焦げた研究室に響く。

 

「焼いてやる。焦がし尽くしてやる。私と同じように。お前が私にしたことをッ!!!」

 

 私は薄暗い部屋の中、ゴーストの姿を観察する。

 女性……いや少女と呼ぶのが適切なほど若い容姿に、白いワンピース。

 ゴースト故に色は薄いが、髪の色はハーマイオニーによく似た栗色。

 だが、ハーマイオニーほど癖っ毛ではなく、サラリとしたストレートな髪が腰まで伸びていた。

 

「よくわからないけど、やめた方がいいわ。熱いし」

 

 フランドールはゴーストと対峙しながら肩を竦める。

 ゴーストはフランドールのそんな態度に腹を立てたのか、眉を吊り上げた。

 

「お前らがそれを言うかぁああああ!!」

 

 少女のゴーストが両手を大きく広げた瞬間、手のひらから灼熱の火柱が上がる。

 私はその熱量と眩しさに顔を腕で覆いながらその炎の正体を考えた。

 何かの魔法だろうか。

 いや、ゴーストが魔法を使っているところなど見たことがない。

 そもそもゴーストという存在は大きく現実に干渉する力を持っていない。

 精々周囲の気温を少し下げたり、そよ風を起こしたり、トイレを水浸しにする程度だ。

 だが、目の前にいるゴーストはかなり強力に現実に干渉している。

 熱量からして、あの炎は幻覚ではない。

 正真正銘本物の炎だろう。

 フランドールは先ほどと同じように炎の剣を生成すると、まっすぐゴーストに向かって構える。

 そして、不敵な笑みを浮かべて言った。

 

「だから、熱い思いをするわよ。貴方がね!」

 

 フランドールは地面を蹴り込み、光の軌跡を残しながらゴーストへ肉薄する。

 そして炎の剣をゴーストに向けて振り下ろした。




設定や用語解説

レヴァーテイン
フランドールの技の一つ。吸血鬼の膨大な魔力を使って剣のような形の炎を生成する。

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https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
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