P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
まばゆい光に瞼の裏を焼かれる。
私はギュッと目をつむり毛布を頭の上まで引き上げるが、朝が来たということを悟りゆっくりと体を起こす。
私はいつものように部屋を出て、他の子供たちとともに洗顔をし、歯を磨いた。
そしていつも通り食卓について、質素な朝食を朝のお祈りと同時に食べ始める。
何もつけられていないパンを牛乳で流し込む朝食を終え、普段通りそのまま自分の部屋へ帰った。
「さて、入校までは特に授業もないわけだし、ちびっ子たちと追いかけっこでもしようかしら」
私は寝間着から普段着に着替え、スリッパから運動靴へと履き替える。
部屋に置いてある鏡で白い髪の毛を整え、寝ぐせがないことを念入りに確認した。
「サクヤおねえちゃーん」
部屋の外からちびっ子たちの声が聞こえてくる。
私は身支度を整えると、ちびっ子たちの期待に応えるために部屋から外に出た。
「サクヤおねえちゃんにおきゃくさーん!」
部屋を出た私を出迎えたのは、数人のちびっ子を引き連れたマクゴナガルだった。
「案内ありがとうございます」
マクゴナガルは優しい笑顔をちびっ子たちに向けると、走り去るちびっ子たちに小さく手を振る。
意外な一面だったが、こちらに振り返る頃には昨日見た厳つい表情に戻っていた。
「夢じゃなかったかぁ……」
私は片手で顔を覆い、静かに首を振る。
「何をおかしなことを……準備万端ではありませんか。それでは向かいますよ」
マクゴナガルは私の手を取ると、そのまま孤児院の玄関の方へと私を引っ張る。
そしてそのまま私を孤児院の外へと連れ出した。
「あの、マクゴナガル……さん? 私そんなにロンドンには詳しくないんですけど、魔法の教科書なんてロンドンで手に入るんです?」
私は歩くのが早いマクゴナガルに少々歩調を合わせながら聞く。
「むしろロンドン以外のどこで揃えるというのです? ご安心なさい。ダイアゴン横丁で全て揃います」
ダイアゴン横丁、聞いたことのない通りだ。
私は首を傾げつつ、マクゴナガルについていく。
マクゴナガルはしばらくロンドンの街中を歩くと、『漏れ鍋』と表札が掛かっている小さな古びたパブに入る。
外見とは裏腹に中はそこそこ綺麗に掃除がされており、外から見るよりも店内は広く見えた。
「朝っぱらからお酒ですか?」
私は思ったことを率直に言う。
そもそも、パブとはこんな朝早くから営業しているものだっただろうか。
「この店の奥にダイアゴン横丁の入り口があります」
「ということはここは……」
魔法使いの店か。
「ええ、ここは魔法使いが営業しているパブです」
私の予想通りのことをマクゴナガルは言う。
マクゴナガルはそのままカウンターへと向かうと、そこにいるバーテンダーの男性と話し始める。
「やあマクゴナガル先生、こんな時間からお仕事かい?」
小柄でシルクハットを被ったバーテンダーはグラスを磨きながらマクゴナガルに声を掛ける。
マクゴナガルは私の方をちらりと見ると、静かに答えた。
「いえ、私の仕事はここまでです。この後はハグリッドに引き継ぐことになっています」
「ハグリッドに引き継ぎって……そのまま先生が案内してあげたらどうだい? 彼女も見知らぬ大男が案内じゃ怖がるんじゃないか?」
バーテンダーは私の方を見ながらそんなことを言っている。
マクゴナガルは少し考えているようだったが、やがてため息をついて話し始めた。
「案内するのが彼女一人なら私が案内をしていたかもしれません。ですが、ハグリッドがもう一人入校予定者を連れてきます。どうせ買うものは同じですから、そのままハグリッドに案内を任せようかと」
「もう一人の入校者……それってまさか……」
バーテンダーは何か心当たりがあるのか、目を見開いてマクゴナガルに尋ねる。
マクゴナガルは諦めたようにその入校者の名前をバーテンダーに告げた。
「……ええ、ハグリッドがそのうちハリー・ポッターを連れてこのパブにやってきます」
「やっぱりそうだ! 今日はいい一日になるぞ!」
バーテンダーは手を叩いて喜び、危うくカウンターに積み上げられていたグラスを割りそうになる。
マクゴナガルはだから言いたくなかったと言わんばかりに頭を抱えた。
「ですので、ハグリッドが来るまでの間、彼女に何か飲み物でもと思いまして」
「そういうことならサービスしますよ! お嬢ちゃん、何が飲みたいんだい?」
バーテンダーは意気揚々と私にオーダーを尋ねてくる。
「えぇっと……水?」
「水ぅ? そんな遠慮しないで……バタービールでいいかい?」
バーテンダーはバタービールと銘打たれた瓶からジョッキに琥珀色の液体を注ぐ。
ビールの名の通り白い泡が立つその飲み物は、見た目と名前からして酒であることに疑いようはなかった。
「あ、いや……私未成年なのでお酒は……」
「大丈夫大丈夫、バタービールにアルコールは入ってないよ」
ガン、とカウンターに置かれたジョッキを私は両手で受け取る。
私は手に持ったそれの臭いを少し嗅ぎ、アルコールの臭いがしないことを確かめると恐る恐る口をつけた。
「……甘い」
濃厚なバターの風味と、優しい甘さが口の中に広がる。
炭酸が効いているため程よい清涼感もあり、非常に飲みやすかった。
「ホグワーツの学生さんに一番人気はこれさ。きっとホグズミードでも……っと、それは三年生からだったな」
バーテンダーはうんうんと数回頷くと、マクゴナガルにもバタービールを勧める。
「私は甘いものはそこまで……とにかく、ハグリッドが来るまで彼女をお願いします」
「え? 帰っちゃうんですか?」
ここまで勝手に連れてきておいて?
そう続けたかったが、流石に口には出さなかった。
マクゴナガルは特に表情を変えずに、私に対して言う。
「申し訳ありません。この時期は学生の入校準備と新学期の授業の準備で大変忙しく……この時期に時間があるのはそれこそハグリッドぐらいなのです。魔法界でもめったに見ないような大男ですので、すぐにわかるでしょう」
マクゴナガルはそう言うと、バチンという破裂音と共に姿をくらます。
私は何故孤児院からその魔法でここまで来なかったのか疑問に思いつつ、カウンターの座面が高い椅子によじ登った。
「お嬢ちゃん悪く思わないでやってくれよ? マクゴナガル先生は副校長であり、変身術の授業の先生なんだ。この時期は本当に忙しいはずさ」
「そのハグリッドという方は忙しくないんですか?」
私は思ったことをそのまま口に出す。
バーテンダーは少し困ったような顔をしたが、素直に教えてくれる。
「ハグリッドは正式なホグワーツの教員じゃなくてな。ホグワーツにある森の番人をしてるんだ。授業は持っていないから、それの準備もない」
なるほど、と私は納得し、バタービールのジョッキに口をつける。
孤児院でジュースなどを飲む機会がないわけではなかったが、こんなに美味しいものを飲んだのは初めてだった。
「はっはっは! 気に入ったようだね。今日はめでたい日だ。全部自分のおごりでいいよ!」
バーテンダーの男性はそう言って陽気に笑うが、流石にそれは気が引ける。
私は遠慮がちにバタービールを飲みながら、扉口に大男が現れるのを待った。
一時間ほど待っただろうか。
店は入店当初と比べて人が入っており、ガヤガヤと低い声が店内に満ちている。
バーテンダーの男性も常連でありそうな客と談笑しており、私は邪魔にならないように隅っこの方で、残り一口ほどになったジョッキのふちを指でなぞっていた。
ハグリッドとやらはすぐに来るものだと思っていたが、あまりにも遅い。
いつになったら来るんだと、私はパブの扉の方へと目を向ける。
もうこのパブに来て数十回目の行動だったが、その瞬間ガチャリと音がしてパブの扉が開いた。
「お?」
入ってきたのは細身で眼鏡の冴えない少年と、扉を通るのがやっとなぐらいの大男だった。
一瞬大男の横に立っているから少年が細身に見えたのかと思ったが、どうやら本当に痩せているらしい。
孤児院で暮らしている私もよっぽどだが、そんな私より数段みすぼらしい服を着た少年は、大男に急かされるようにカウンターへと連れてこられる。
「お、今日の主役のご登場だ」
バーテンダーは先ほどまで話していた客を放り出してハグリッドのもとへ駆ける。
客の方も気分を害するどころか、バーテンダーの後を追うように椅子から立ち上がってハグリッドを取り囲んだ。
「お帰りなさいポッターさん! 本当にようこそお帰りで」
みすぼらしい少年はあっという間にパブ中の客に囲まれると、次々に握手を求められる。
「ドリス・クロックフォードですポッターさん。お会いできるなんて信じられないぐらいです」
「なんて光栄な……」
少年は戸惑いながらも握手に応えていく。
私はそんな少年を離れたところからじっと観察した。
「彼がハリー・ポッターか……」
ハグリッドを待つ間、私はバーテンダーからハリー・ポッターのことを少し聞いていた。
なんでも魔法界で最も恐れられた闇の魔法使いを、赤子だった彼が撃退したのだという。
それは確かに凄いことだとは思うが、あの様子だと本人にも覚えがないに違いない。
自分の知らないところで勝手に有名人になっているなんてどんな気分なのだろう。
なんにしても、私だったらあまりいい気はしないだろう。
十分以上ハリーは客に囲まれていただろうか、ハグリッドは客を掻き分けるようにしながら私の方へと近づいてくる。
私は如何にも気がついていない風を装い、バタービールの最後の一口を一気に煽った。
「やあ、初めまして。お嬢ちゃんがサクヤ・ホワイトで合ってるか?」
ハグリッドは精一杯優しい声色を作って私に話しかけてくる。
流石に無視を決め込む度胸も理由もないため、私はハグリッドの方を向いた。
「はい、そうです」
「そうか。ここからの買い物の案内をするルビウス・ハグリッドだ。んであっちで囲まれてるのが……」
「ハリー・ポッター、ですよね」
私はぽつりとそう呟く。
「ははん、流石に有名だな。ハリーも今年からホグワーツだ。同級生っちゅうやつだな。っと、そろそろ時間が……ちょっと待っとれよ」
ハグリッドはそう言うと、また人混みを掻き分けてハリーを引っこ抜くように連れてくる。
ハリーは客にもみくちゃにされて少しやつれて見えたが、よく考えたら元々だった。
「ハリー、紹介する。この嬢ちゃんが今日一緒に買い物に行く同級生だ。同じ寮になるかも知れんし仲良くな」
「よろしく」
私は愛想笑いを浮かべて一言ハリーにそう言う。
ハリーは疲れを見せながらも、少し照れ臭そうに微笑んだ。
「うん、よろしく。名前を聞いてもいいかい?」
「サクヤよ。貴方は?」
知ってはいたが、話の流れでハリーにそう尋ねる。
ハリーは少し驚いた顔をしたが、すぐに名乗った。
「僕はハリー。ハリー・ポッター」
「ふうん、よろしくハリー」
互いに挨拶を交わすと、ハグリッドがパチンと手を叩く。
「よし、挨拶も済んだところで早速ダイアゴン横丁へ行こう。これ以上ハリーを拘束されるわけにはいかんのでな」
ハグリッドは私とハリーを連れてそのままパブの奥へ進むと、壁に囲まれた小さな中庭に出る。
中庭にはゴミ箱や雑草が生えているだけで、特に何かがあるわけではなかった。
「ほれ、言った通りだったろう? おまえさんは有名だって」
ハグリッドは傘を取り出して壁のレンガを数えながら楽しそうにハリーに言った。
「でも、実感がわかないというか……」
ハリーは困ったような表情でそう答える。
バーテンダーから聞いた話だが、ハリーの身上は私とよく似ていた。
両親は既におらず、自分が魔法使いだということを一切知らされず今まで生きてきた。
ハリーも私と同じように、いきなり入校案内が来て、いきなりハグリッドが訪ねてきたのだろう。
「三つ上がって……横に二つ……」
ハグリッドはさっきからレンガの数を数えていたが、最終的に傘の先でレンガの一つを三回叩く。
「二人とも下がっとれよ」
次の瞬間、レンガの壁がクネクネと蠢き、瞬く間に大きなアーチ形の入り口へと変わっていく。
その先には石畳の道があり、魔法使いの町が広がっていた。
「ダイアゴン横丁にようこそ」
ハグリッドはいたずらっぽくニコッと笑う。
私とハリーはハグリッドに押されるようにしながらダイアゴン横丁へと踏み込んだ。
「さて、何を買うにしても、まずは金を取ってこんとな」
ハグリッドが先導となり、その後ろを私とハリーが追いかける。
立ち並ぶ店には今まで見たこともないようなものが売られており、大鍋に始まり箒やフクロウ、蝙蝠の脾臓など、ここが今までの世界とは全く違う常識で成り立っているのだということが分かった。
「グリンゴッツだ」
しばらくダイアゴン横丁を歩いていると、ハグリッドが不意に立ち止まる。
私はハグリッドの背中にぶつかりそうになるが、何とか踏みとどまった。
「グリンゴッツ?」
私はハグリッドの陰から抜け、建物の全体を見る。
周りの店と比べてひときわ高くそびえる白い建物に、ピカピカに磨かれた銅製の扉が備え付けられている。
「世界一安全な銀行だ。ここから盗もうなんて狂気の沙汰だわい」
ハグリッドが扉に近づくと、扉の横に待機していたゴブリンのようなものが恭しく扉を開ける。
おとぎ話に出てくる化け物のようだが、真紅と金色のきっちりとした制服を着ているあたり、正式な銀行員なのだろう。
扉を抜けた先は広々とした大理石のホールだった。
どこを見回しても多数のゴブリンが忙しなく仕事をしており、帳簿に何かを書き込んだり、秤でコインの重さを量ったりしている。
「さて」
ハグリッドは私とハリーのほうに向きなおった。
「ここでちょいと二手に分かれるぞ。まずサクヤ、おまえさんは向こうのカウンターに行ってマーリン基金の手続きと一時金、帳簿を受け取ってくるんだ。なに、ゴブリンからの質問に答えとれば後は向こうが勝手にやってくれる。俺とハリーは金庫のほうに用がある。サクヤが手続きしている間にちょちょいと行ってくるから心配せんでくれ」
ハグリッドはそう言って長細いカウンターの一つを指さす。
確かにそのカウンターにはマーリン基金受付と書かれた札が置かれていた。
「待ち合わせ場所を決めとこう。どっちかが先に用を済ませたら扉の横で集合だ」
ハグリッドはそう言うと、ハリーを連れてずんずんとカウンターの方へと行ってしまった。
一人残された私は、恐る恐る受付にいるゴブリンに話しかける。
「あのぅ……マーリン基金の受付に来たんですけど……」
ゴブリンはキラキラした目で私を観察した後、かしこまった口調で話し始める。
「どうぞお掛けください。事前申し込みはお済ですか?」
事前申し込み。
そんな話は聞いていないが、マクゴナガルのあの言いぶりからして、きっと既に申し込まれているだろう。
「サクヤ・ホワイトです」
「ホワイトさんホワイトさん……サクヤ・ホワイトさんですね。それではこちらの用紙に必要事項のご記入を」
ゴブリンはそう言って私の前に一枚の羊皮紙と羽ペンを差し出す。
私はその用紙に書かれている通りに名前や住所、体の特徴などを記入していった。
「ではこちらでお預かりします。これからマーリン基金の説明を致しますが、よろしいですか?」
何がよろしいのかよくわからないが、説明を聞かないわけにもいかない。
私は小さく頷いた。
「マーリン基金とは、魔法使いマーリンが身寄りのない子供のために設立したものです。貴方がホグワーツを卒業するまでの七年間、就学に必要なお金はマーリン基金から支払われます。貴方は事前に一年分の金貨を受け取り、使った分だけこちらの帳簿にご記入ください」
そう言ってゴブリンは金貨の入った小袋と、一冊の帳簿を取り出す。
「金貨の補充と帳簿の点検のために、年に一度はグリンゴッツへお越しください。もっとも、一年より早く金貨を使い切ってしまった場合でも、こちらに来てくだされば金貨の補充は致します。もちろん、帳簿の方も確認致しますので、不要な買い物は控えるように」
私はカウンターに置かれた帳簿をぺらりとめくる。
なんてことはない、普通の帳簿だ。
「金貨や帳簿に魔法は掛けられておりませんので、不正しようと思えばいくらでも不正できるでしょう。ですが、このマーリン基金は寄付で成り立っている慈善事業です。それをしっかりと自覚して、お金は使うように」
私の内心を見透かすように、ゴブリンが言う。
だがゴブリンは少し目元を緩めて付け加えた。
「最後に、お菓子などの嗜好品やちょっとした娯楽品は就学に必要なものと定めてあります。それでは良いホグワーツ生活を」
ゴブリンは帳簿と金貨の入った小袋を私の方へと押しやると、さっさと仕事に戻ってしまう。
「ありがとうございました」
私がお礼を言うと、ゴブリンは羽ペンを持っている手を小さく上げて返事を返してくれる。
私は帳簿と金貨の入った小袋をポケットに仕舞ってカウンターを離れる。
そして待ち合わせ場所である出入り口の扉の横へと移動した。
「……」
私はキョロキョロと周囲を見回し、あまり視線がないことを確認して時間を止める。
今まで忙しなく動き回っていたゴブリンたちが、ぴたりと止まった。
「さてさてさて……」
私は磨かれた大理石の床に座り込むと金貨の入った小袋をひっくり返す。
袋の中に入っている金貨の数を数えようと思ったが、小袋の容量とは比べ物にならない量の金貨が大理石の床に積みあがる。
「いやこんなに入らないでしょ」
どうやら袋自体に魔法が掛けてあるようだった。
私は数百枚ある金貨の山を五枚ずつ数えながら袋に戻していく。
この金貨一枚でどれほどの価値があるかはわからないが、一年で使い切ることはなさそうだと思った。
「百九十……百九十五……二百」
どうやら金貨はぴったり二百枚。
多いのか少ないのかよくわからない。
そもそもこの魔法の世界の物価がどれほどなのかも知らなかった。
私は小袋を仕舞うと、大理石の床から立ち上がり、先程と同じ体勢を取る。
そして時間停止を解除した。
途端に私の周囲に音が満ちる。
ゴブリンはまた忙しなく仕事を始め、コインを落とす音や羽ペンを動かす音が聞こえ始めた。
「あの、お仕事中すみません」
私は扉の横に立っているゴブリンに話しかける。
「どうされましたか?」
ゴブリンは私の方に向き直ると、丁寧な口調で対応してくれた。
「私魔法界のお金に関してあまり詳しくないんですけど……どんな単位なんです?」
私が暮らしているロンドンのお金の単位はポンドだ。
もちろん二ポンド硬貨から下はペンス含め全部硬貨だが、こんな金貨は見たことがない。
ゴブリンはゴホンと咳払いすると、説明を始めた。
「金貨、銀貨、銅貨の三種類がありまして、金貨がガリオン、銀貨がシックル、銅貨がクヌートです。一ガリオンが十七シックル、一シックルが二十九クヌートとなっております」
「はぁ……なんだか中途半端ですね」
数字が中途半端なため、非常に計算がしにくい。
「この通貨制度が制定された当初は一ガリオン二十シックル、一シックル三十クヌートだったのですが、金や銀の価値が変動致しまして。それに合わせて少しずつ調整を加えていった結果現在の通貨単位になっております」
なるほど、本位貨幣だとこういうことが起こるのか。
私はゴブリンにお礼を言うと、じっとハグリッドが戻ってくるのを待つ。
三十分ほど待っただろうか、ホールの奥から歩いてくるハグリッドとハリーの姿が見えた。
「すまん、待たせたな。おまえさんの方は問題なかったか?」
「はい、大丈夫です」
重そうな鞄を背負っていきいきとしているハリーと比べて、ハグリッドの顔色は少々青ざめている。
金庫で何があったのかはわからないが、あまり調子がよさそうではなかった。
設定や用語解説
ウール孤児院
ハリー・ポッターの作中に実際に登場する孤児院です
漏れ鍋
ロンドンに位置するパブで、ダイアゴン横丁の入り口となっている
バタービール
魔法界の子供たちに人気の飲み物。アルコールが入っていないわけではないが、物凄く弱いため実質入っていないのと同じ
マグル
魔法使いじゃない普通の人間のこと
ハリー・ポッター
ハリー・ポッターシリーズの主人公。赤子の頃、名前を呼んではいけないあの人を撃退し、魔法界で英雄扱いを受ける。マグルの普通の家庭に育てられたため、本人は何も知らない
グリンゴッツ
ダイアゴン横丁にある魔法界の銀行
マーリン基金
ホグワーツに入学する恵まれない子供たちのための基金。主に生活費や学用品を購入するという名目で資金が提供されている。実は原作にも似たようなものが登場しているし、重要な登場人物が似たような扱いを受けている
魔法界のお金の価値
この作品では一ガリオンが五ポンド、一ポンドが二百円という設定
顔の青いハグリッド
グリンゴッツの地下は坑道が張り巡らされており、ジェットコースターのようにトロッコが張り巡らされている。物凄い動きをするため、ハグリッドの顔が青いのはただの乗り物酔い
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活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。