P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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これにて賢者の石編終了です。次回から秘密の部屋編に入ります。


ハリー・ポッターと賢者の石と私

 結局朝になってもハリーたち三人は談話室に帰ってこなかった。

 私は談話室に人が降りてくる前に起き上がると、肖像画を押し開けて職員室へと走る。

 そして思いっきり職員室の扉をノックした。

 

「すみません! 大変なんです!!」

 

 私は精一杯声を張り上げる。

 しばらくするとフリットウィックが職員室の扉を開けた。

 フリットウィックは何事かと言わんばかりに私を見つめる。

 

「ミス・ホワイト、どうしたのですか?」

 

 私はフリットウィックを少々見下ろすような形になりながら、ハリーたち三人が立ち入り禁止の廊下に向かったまま帰ってこないということをフリットウィックに伝えた。

 

「ご安心なさい。ポッター、ウィーズリー、グレンジャーの三名は無事ダンブルドアが保護しました。今頃は医務室でしょう」

 

「あぁ……よかった……」

 

 私は大きく息を吐くと、へなへなと床に座り込む。

 そしてすぐさま立ち上がるとフリットウィックにお礼を言って医務室へと走った。

 職員室から医務室はそれほど離れていないため、すぐにたどり着くことができた。

 私は医務室の扉をノックすると、ポンフリーが出てくるのを待った。

 

「どなたです?」

 

 だが、医務室から顔を出したのはポンフリーではなくマクゴナガルだった。

 マクゴナガルは私を見て少々驚いたような顔をしていたが、すぐにいつもの表情に戻る。

 

「そろそろ貴方が来るような気はしていましたが……こちらへ」

 

 マクゴナガルは私が口を開く前に医務室に私を通してくれる。

 医務室の中にはダンブルドアとポンフリーに、ハリー、ロン、ハーマイオニーの姿があった。

 

「サクヤ!」

 

 ハーマイオニーは私の姿を見るや否や駆け寄ってきて私に抱きつく。

 何事かと思ったが、ハーマイオニーはそのまま私に抱きついたまま泣き出してしまった。

 

「ごめんなさい、私……私……」

 

 私はハーマイオニーの栗色の癖毛を優しく撫でる。

 

「いいのよ。貴方が無事でよかった」

 

 私はハーマイオニーの肩越しにハリーを見る。

 ハリーは私と目が合った瞬間、気まずそうに視線を逸らした。

 

「一体何があったの? 賢者の石は無事なの?」

 

 私はハリーに問う。

 

「賢者の石は無事だった。でも、クィレル先生が……」

 

 ハリーたちは談話室を出たあと、協力しあって仕掛けをクリアし、最終的にハリーのみが鏡のある部屋にたどり着いたらしい。

 だが、そこで見たものは夥しい量の血痕と誰か判別することすら困難な状態で死んでいたクィレルだった。

 ハリーが何もすることが出来ずにそのまま部屋で立ち尽くしているうちに、ダンブルドアが鏡のある部屋に到着したのだという。

 

「結局、サクヤの言う通りだった。僕は何も出来なかった……」

 

 ハリーは悔しそうに拳を握りしめる。

 

「でも、一体誰がクィレル先生を……まさか本当にスネイプが?」

 

「私がどうかしたか?」

 

 私が白々しくとぼけると、部屋の隅からぬっとスネイプが出てくる。

 

「私は昨日は一晩中職員室で学期末試験の採点を行なっていた。それはそこにいるマクゴナガル先生も確認していることなんだがね」

 

 まあ、スネイプが犯人でないことは分かっている。

 ヴォルデモートの手下だったのはクィレルで、そのクィレルを殺したのは私だ。

 

「わしが不在にしておる間にこのようなことが起こってしまったことは非常に遺憾なことじゃ。じゃが、結果としてクィレル先生の身を挺した活躍によって石は守られた。クィレル先生の死は無駄になっておらん」

 

 今まで黙っていたダンブルドアが皆に聞かせるように言った。

 ダンブルドアは項垂れるハリーの肩に手を置く。

 

「それに、結果はどうであれ自らの未来を自分で守ろうとしたその勇気をわしは深く評価しておる。気に病むことはない」

 

 私はハーマイオニーの背中をさすりながら考える。

 ダンブルドアはどこまで事の真相をわかっているのだろうか。

 まあ流石に本当にクィレルが石を守ったとは考えていないだろう。

 だが、あくまで表向きには、クィレルの扱いは賢者の石を守った英雄ということにしたいようだった。

 まあ、そう考えるにはクィレルの死体に矛盾が多すぎるが。

 もし本当にクィレルが賢者の石を守ったのだとしたら、賢者の石を変化させたナイフで殺されているのはおかしい。

 賢者の石に興味がない第三者が石を盗もうとしたクィレルを殺したと考えれば、あのような死体でも説明が付く。

 つまりは、少し考えれば真実にかなり近いところまでは推測ができるということだ。

 

「とにかく、三人に怪我がないようで何よりよ」

 

 まあ、クィレルや賢者の石の話題にはあまり触れない方がいいだろう。

 ヴォルデモートは魔法で人の心が読めた。

 それと同じことをダンブルドアが出来ないと考えるのは不用心というものだ。

 つまり、ダンブルドアに怪しまれてはいけない。

 ダンブルドアにとって私は、危険な冒険に行きそびれた普通のグリフィンドール生でないといけないのだ。

 

「でも、次は置いてけぼりは嫌だからね?」

 

 私はハリーの顔を見て微笑む。

 ハリーは私の顔を見て頬を掻いた。

 

「うん。ごめんね、サクヤ」

 

 私はハーマイオニーから離れると、ハリーの方へと向かう。

 そしてハリーに右手を差し出した。

 

「仲直りの握手」

 

「……うん」

 

 ハリーは私が差し出した右手を握る。

 私もハリーの右手を力強く握り返した。

 

 人を殺した手で、握り返した。

 

「友情とはこの世で最も美しいものの一つじゃ。さあ、大広間へ朝食を取りにお行き」

 

 ダンブルドアは優しく微笑むと、私たちを医務室から追い出しにかかる。

 きっとこの後職員を集めて今後のことを話し合うのだろう。

 できればその話し合いを盗み聞きたかったが、生憎時間は止められても分身をすることはできない。

 諦めてハリーたちと朝食を取りに行くことにしよう。

 

「結果としては、向かって正解だったのかもね」

 

 私は少し前を歩くハリーに言う。

 

「いや、どうだろう。実際僕たちは間に合わなかったし、間に合っていたところでクィレル先生を助けられたかどうかはわからない」

 

「答えにくかったら答えなくてもいいんだけど、クィレル先生はどんなふうに殺されていたの?」

 

 今後この話題が出たときに、うっかり口を滑らせないためにも認識を揃えておくことは大切だ。

 ハリーは少し迷っていたが、最終的には話してくれた。

 

「はじめ見たとき、クィレルだってわからなかったんだ。顔面がぐちゃぐちゃで真っ赤に染まっていたから……顔には大きなナイフが刺さっていたよ」

 

「顔にナイフが?」

 

「うん。それでどうしていいかわからなくて立ち尽くしているうちにダンブルドアが来たんだ。ダンブルドアはクィレルの様子を確認すると、もう死んでいるって教えてくれた。それと同時に、石は無事だって」

 

 ダンブルドアはクィレルを観察したときにナイフが賢者の石を変化させたものであると気が付いたのだろう。

 

「それで、石はどこに?」

 

「僕にもわからない。結局最後の部屋にはクリスマス休暇の時に見た『みぞの鏡』が置いてあるだけで、その他には何も置かれていなかった。グリンゴッツで見た小包はなかったんだ」

 

「ということは、その鏡がどうも気になるわね……」

 

 これは嘘ではなく、本当に気になっている。

 なぜ私はあのタイミングで賢者の石を手に取ることができたのだろうか。

 いや、私は賢者の石を手に取ったのではない。

 私はいつの間にかナイフを握りこんでいたのだ。

 あの鏡は鏡に映った者が欲したものを現実にする力でもあるのだろうか。

「そういえば、その……『みぞの鏡』だっけ? 一体どういう魔法具なの? 休暇明けにちらっと聞いたけど詳しくは教えてもらってないし」

 

「えっと、そうだっけ? あの鏡は自分の望みを映し出すんだ。でも、ただそれだけで、その望みを叶える力はないってダンブルドアは言っていたよ」

 

「なるほど。ダンブルドアが仕掛けた守りがどういうものかわかったわ」

 

 少し元気を取り戻したのか、ハーマイオニーが私の横から口を挟んだ。

 

「つまり、賢者の石を使いたいものには自分が賢者の石を使っているところしか映らないけど、賢者の石を見つけたいだけの人には賢者の石を見つけだした自分が映りこむ。つまりは賢者の石が隠してある場所から賢者の石を見つけ出す自分が映るってことよ」

 

 賢者の石を見つけたいだけの人にしか、賢者の石の隠し場所はわからない。

 確かに、それならば悪意を持って賢者の石を狙うものには一生賢者の石は見つけられないだろう。

 でも、だとしたらどうして私は石を手にすることができたのだろうか。

 

「つまりクィレルを殺した闇の魔法使いは、結局賢者の石を見つけられずに引き返したってことなのかな?」

 

 ロンが少し唸りながら思考を巡らせている。

 

「でも、引き返すとなるとハリーたちと鉢合わせていないとおかしいんじゃない? 誰かとすれ違った?」

 

 私が聞くと、三人とも首を横に振った。

 

「姿くらましを使ったんじゃないかな?」

 

 ロンがそう言うが、ハーマイオニーがすぐさま否定した。

 

「ホグワーツの敷地内では姿あらわしも姿くらましも使えないわ」

 

 姿あらわし、姿くらましの二つの魔法は基本的にセットとして扱われる。

 簡単に言ってしまえば姿くらましというのは瞬間移動のようなものだ。

 ホグワーツでは防犯の観点からか、敷地内全体で姿くらましも姿あらわしも出来ない。

 

「だとしたらハリーが立ち入り禁止の廊下に入る前には既に逃げていたということかしら」

 

 私はそんな予想を皆に伝える。

 姿くらましが使えないとしたらそう考えるのが自然だろう。

 そんなことを話しているうちに、私たちは大広間にたどり着く。

 

「なんにしても、石を狙ったのが誰なのかは謎のままになってしまったわね。スネイプではなさそうだし……」

 

 私はグリフィンドールの机に座ると、大皿に盛られていたソーセージを自分の皿によそった。

 

「本当にスネイプじゃないのかな?」

 

 ハリーは未だにスネイプを怪しんでいるようだった。

 まあ、それは仕方がないだろう。

 裏切者がスネイプではなくクィレルだと知っているのはこの四人の中では私だけなのだから。

 

「でも、スネイプは昨日は一晩中職員室にいたんでしょう? それはマクゴナガルも確認しているみたいだし」

 

 ハーマイオニーはブツブツと呟きながら頭を捻っている。

 まあ、私としてはハリー達には勘違いしていてもらう方が都合がいい。

 いつか裏切者がクィレルであったと知る日がくるかもしれないが、それは別に今でなくてもよいだろう。

 私は自分の皿に山のように積んだソーセージの一つを、フォークで突き刺した。

 

 

 

 

「さて」

 

 ダンブルドアはハリーたち四人が医務室を出ていったのを確認すると、改めてスネイプとマクゴナガルの方を見た。

 

「それにしても、一体誰がクィレル先生を……それに賢者の石が無事なのも気になります」

 

 マクゴナガルが少し目を伏せながら言う。

 ダンブルドアはそんなマクゴナガルの肩に手を置くと、スネイプに目配せした。

 

「ミネルバ、実は先ほどの話で、あの子たちに伏せたことがある。セブルス」

 

 スネイプは医務室の奥にあるカーテンをめくる。

 そこにはダンブルドアが鏡の部屋から持ち帰ったクィレルの死体がベッドに寝かされていた。

 

「セブルス、確かなんじゃな?」

 

「はい、校長」

 

「なにがです?」

 

 マクゴナガルはスネイプの方を見る。

 スネイプは試験管一つを持ち上げながら言った。

 

「検死の結果なのですが……クィレルの体からユニコーンの血液が検出されましてな」

 

「っんな!?」

 

 マクゴナガルは目を見開いて驚いた。

 

「ハグリッドがこの前の職員会議で言っておったじゃろう。禁じられた森にいるユニコーンが何者かに襲われておるとな。検死の結果が確かなら、その犯人はクィレル先生だったということになる」

 

「そんな……でも、一体何故?」

 

 そう、マクゴナガルが驚くのも無理はない。

 確かにユニコーンの血には強い蘇生の力がある。

 だが、それと同時にその血を飲んだものは呪われるのだ。

 よほど死にかけていない限り、ユニコーンの血を飲む理由などない。

 

「クィレル先生が何か重い病気であったという話は聞いておらん。だとしたら、クィレル先生は何故ユニコーンの血を、それもハグリッドに断りもなしにユニコーンを襲って摂取したんじゃろうな」

 

 ダンブルドアはじっとクィレルの死体を見つめる。

 マクゴナガルは冷静さを取り繕っていたが、動揺を隠しきれていなかった。

 

「ここから先はあくまでワシの推測じゃが、賢者の石を狙っておったのはクィレル先生じゃろう。そしてクィレル先生が石を狙った理由じゃが……クィレル先生はヴォルデモートと繋がりがあったのじゃろうな。いや、クィレル先生が直接ユニコーンの血を摂取していたということは、ヴォルデモートが寄生していた可能性すらある」

 

「そんな、一体いつから……」

 

「機会があるとするなら、去年の夏でしょうな」

 

 スネイプが冷静にそう言った。

 マクゴナガルと違い、スネイプはダンブルドアの推測を聞いても全く動揺を見せなかった。

 

「クィレル先生にヴォルデモートが寄生していたのだとしたら、色々なことに辻褄が合う。じゃが、ここから先が問題じゃ。石を盗みに入ったクィレルは、最終的に鏡のある部屋までたどり着いた。そして、そこで何者かに殺されたのじゃ」

 

 ダンブルドアはクィレルの横に置かれたナイフを手に取った。

 ナイフに付いていた血は既に綺麗に洗い流されている。

 

「このナイフがクィレル先生に突き刺さっとった。そして驚くべきことに、このナイフは賢者の石でできておるのじゃ」

 

 ダンブルドアはナイフに埋め込まれている血のように赤い石を指で撫でる。

 

「では、クィレルを殺した者は一体……」

 

「そこが最大の問題なのじゃよ。少なくとも、ホグワーツの職員ではなし、ハリーたちでもない。誰ともわからない第三者が鏡のある部屋まで侵入した挙句、賢者の石を手に取り、その賢者の石でクィレル先生を殺した。そしてそれが目的であったと言わんばかりに賢者の石をクィレル先生に突き刺したまま姿をくらました」

 

 ダンブルドアは刀身に施された装飾を見ながら言う。

 

「石を鏡から取り出せておるし、実際に賢者の石をその場に残しておると言うことは賢者の石が目的ではないのじゃろう」

 

「では、一体何が目的で……」

 

「クィレルが賢者の石を盗むのを阻止しに来た。そう考えるのが自然でしょうな」

 

 スネイプが肩を竦めながら言った。

 

「そんな馬鹿な……一体誰が?」

 

 マクゴナガルは口を押さえる。

 ダンブルドアはナイフを懐に仕舞いこんだ。

 

「まあ、それについては今後少しずつ調べていくしかないじゃろう。それと、表向きはじゃがクィレル先生は石を盗もうとした何者かと戦って殺されたこととする。魔法省にはそうフクロウを飛ばすのじゃ。生徒達には、多くは話さん。仮に話したとしても、無駄に不安を煽るだけになるじゃろうからな。話はこれで終わりじゃ」

 

 ダンブルドアはそう言うと医務室を出ていこうとする。

 それをスネイプが呼び止めた。

 

「校長。今後の石の守りはどうするおつもりですか?」

 

「このナイフに関しては詳しく調べたあと、砕いてしまうつもりじゃよ。実はもうニコラスとの話し合いは済んでおる。ニコラスは長い一日を終えて眠りにつく準備を進めておるところじゃよ。幸い、身の回りの整理するだけの命の水の貯蓄はあるようじゃ」

 

 そう言い残し、ダンブルドアは医務室を出ていった。

 医務室の中では手際よくクィレルの死体の処置をしているポンフリーと、動揺を隠しきれていないマクゴナガル、そしてクィレルの死体を見つめながら物思いに耽るスネイプが取り残された。

 

 

 

 

 結局のところ、生徒たちにはクィレル先生は持病が悪化して聖マンゴ魔法疾患障害病院に入院したと伝えられた。

 きっとクィレルが死んだと知っているのは私たち四人と教師陣だけだろう。

 教師陣がクィレルの死の謎をどこまで掴んでいるかはわからない。

 だが、今のところ教師陣の私を見る目は変わってはいない。

 この件と私はまだ結びついてはいないはずだ。

 

「でもびっくりだよな。まさかグリフィンドールとスリザリンが同点なんてさ」

 

 私の横で残念そうにロンが溢す。

 私たちは今、大広間で行われる学年末パーティーに出席していた。

 机の上には新入生歓迎会の時と同じように空の皿が並べられている。

 きっとダンブルドアの掛け声とともに料理が出現するようになっているのだろう。

 本来優勝した寮の装飾で彩られる大広間は、今は特に装飾がなされていない。

 グリフィンドールとスリザリンが同点なので飾りつけは半々になるんじゃないかとハーマイオニーは予想をしていたが、どうやら飾りつけをしない方向で決着がついたようだった。

 

「クィディッチの寮対抗杯はグリフィンドールが優勝したんだから、こっちの優勝も僕らにしてくれればいいのに」

 

 そう、賢者の石のゴタゴタの後、すぐにクィディッチの最終戦があった。

 ハリーの調子は絶好調とは言えなかったが、何とかレイブンクローを抑え込み、グリフィンドールは悲願の優勝を果たしたのだった。

 

「まあ、学業面とはっきり分けてあることはいいことだと思うわよ? ハリーも「クィディッチの成績はグリフィンドールが一番だったけど、授業の成績が悪いから優勝はスリザリン」だなんて言われたら納得できないでしょう?」

 

 まあ、そうだけど……とハリーは不満げにスリザリンのテーブルの方を見る。

 スリザリン生もこの結果に不満げな表情を浮かべていた。

 

「また、一年が過ぎた!」

 

 ダンブルドアが立ち上がり、大声を張り上げる。

 ガヤガヤとうるさかった大広間がシンと静まり返った。

 

「皆がご馳走にかぶりつく前に、少々ワシの戯言に耳を貸してもらおう。皆、今年も勉学に励み、様々なことを頭に詰め込んだことじゃろう。じゃが、新学年を迎える前に君たちの頭が綺麗さっぱり空っぽになる夏休みがやってくる」

 

 ダンブルドアは皆の顔をぐるりと見回す。

 

「じゃが、その前に寮対抗杯の表彰を行わねばならんの。点数は次の通りじゃ。四位、ハッフルパフ三五二点。三位、レイブンクロー四二六点。そして……グリフィンドールとスリザリンが五二二点」

 

 本来ならここで一位の寮が沸き立つ場面だ。

 だが、大広間には拍手一つ起こらない。

 過去二つの寮が同一一位になったことがないわけではないが、少なくともここにいる生徒からしたら初めての経験だった。

 

「結構結構、グリフィンドールとスリザリンの諸君、非常によくやった。じゃが、最近の出来事も勘定に入れなくてはなるまいて」

 

 シンと静まり返った大広間に、朗々とダンブルドアの声が響く。

 生徒はダンブルドアの次の言葉をじっと待った。

 

「駆け込みの点数が一つある。つい昨晩の出来事じゃ。とある生徒が、危険を冒そうとする友人を止めるためにその友人に立ち向かった。たとえ自分が嫌われようともその友人の身を案じた優しさと勇気を評し……ワシはサクヤ・ホワイトに、グリフィンドールに十点を与えたい」

 

 数秒の沈黙の後、爆発でもしたような歓声と拍手が大広間に響く。

 横にいたロンは私の背中をバンバン叩き、ハーマイオニーは私の横で飛び跳ねていた。

 

「やったぞ! これでグリフィンドールが一位だ!」

 

 監督生のパーシーが力強くガッツポーズをし、横にいるウッドと拳を突き合わせている。

 スリザリン以外の他の寮も、スリザリンの七年連続優勝が阻止されたことでグリフィンドールと同じぐらい喜んでいる。

 スリザリンだけは、悔しそうにダンブルドアを睨んでいた。

 

「おほんおほん。さて、ワシとしたことが大広間の飾り付けを忘れておった」

 

 ダンブルドアが手を叩くと、大広間に真紅と金の横断幕が掛かる。

 その中央にはグリフィンドールの象徴であるそびえ立つライオンが描かれていた。

 それと同時に、机の上に様々な料理が出現する。

 私はその料理を眺め、そして呟いた。

 

「私としてはこっちが大事」

 

 

 

 

 

 学年末パーティーの次の日には試験の結果が発表された。

 学科試験の一位は当然のようにハーマイオニーだった。

 中には百点満点のテストで百二十点を取っている科目もある。

 私はというと、わからないところはハーマイオニーの試験を写したこともあり、学年で二番だった。

 ハリーとロンも学科試験の成績は悪くなく、イースター休暇から現在にかけて図書室で猛勉強した成果がしっかりと成績に表れていた。

 そして、驚くべきことに実技試験の一位は私だった。

 時間を止めて直前に納得いくまで試験科目を練習した結果が評価にここまで反映されるとは。

 総合成績こそハーマイオニーが一番だが、これから先は頭のいい生徒として扱われてしまうかもしれない。

 だが、この試験は卒業後の評価にも関わってくる可能性がある。

 手を抜くわけにもいかなかった。

 

 ロンドンに帰る日の朝には女子寮はすっかり空っぽになり、ベッドの横にはトランクやスーツケースが山積みになった。

 学年が変わると女子寮の部屋も変わる。

 その為このタイミングで一度部屋の中を空にしないといけない。

 今は女子寮の一番上の部屋だが、九月にはそこに新入生が入ってくるのだろう。

 

「サクヤはこの夏はどうするんだ? 孤児院に戻るの?」

 

 ロンドンに向かって走るホグワーツ特急のコンパートメントの一室で、ロンが百味ビーンズを吟味しながら私に聞いた。

 私は少し考えた後、返事をする。

 

「そうね。基本的には孤児院にいると思うわよ。他に行くところもないし、ダイアゴン横丁も近いしね」

 

「ハリーは?」

 

「ダーズリーの家に戻るよ。せいぜいダドリーと仲良くやるさ」

 

 ハリーは諦めたように笑う。

 それを聞いてロンは身を乗り出した。

 

「なら、みんなうちに泊まりにおいでよ。勿論夏休み全部ってわけにはいかないだろうけど」

 

 ロンの家にお泊まりか。

 孤児院の貧しい食事に飽きたらそれもアリかもしれない。

 

「ええ、特に用事がなければお邪魔しようかしら」

 

「うん。何か楽しみがないとやってられないからね」

 

 ハリーは嬉しそうにそう返した。

 私は本を読んでいるハーマイオニーを覗き込む。

 

「ハーマイオニーは?」

 

「ん? うーん……」

 

 本の内容に夢中になっているのか、ハーマイオニーは生返事をする。

 私はハーマイオニーの読んでいる本の表紙を見た。

『実用魔術と理論の狭間で パチュリー・ノーレッジ著』

 ハーマイオニーお気に入りの魔法使いの著書のようだ。

 

「またノーレッジの本?」

 

「またって何よ?」

 

 ノーレッジという名前に、ハーマイオニーは敏感に反応した。

 ハーマイオニーは本から顔を上げて私を見る。

 

「いや、一度借りて読んだけど単調な書き口と難解な内容ですぐに眠たくなってしまったから……何かそういう魔法でも掛かってるんじゃない?」

 

「失敬な」

 

「で、ハーマイオニー。君もどう?」

 

 ロンはようやく顔を上げたハーマイオニーに聞く。

 ハーマイオニーはキョトンとした表情で首を傾げた。

 

「なんの話?」

 

「夏休みに僕の家に泊まりに来ないかって話さ。もしかして、何も聞こえてなかったのかい?」

 

 ロンは呆れたと言わんばかりに肩を竦めた。

 

「ああ、えっと……両親次第ね」

 

「じゃあそのうちフクロウで手紙を送るよ。そのままそのフクロウで返事を頂戴」

 

「うん。わかったわ」

 

 ハーマイオニーは言うが早いがまた本に視線を落とす。

 私も窓の外に視線を向けた。

 青々と茂った草原の中をホグワーツ特急は真っ直ぐ進んでいく。

 ホグワーツに入学が決まった時はどうなることかと思ったが、一年過ぎた今となってはそれが日常になった。

 魔法界で生きていく覚悟が出来たわけではないが、このまま魔法使いとして生きるのも悪くはないだろう。

 まあ、マグルの生活も捨てがたいのは確かだが。

 

「ん? ……んふふ」

 

 自然とマグルという単語が出てきたことに、私は一人笑ってしまう。

 これは孤児院で子供たちに口を滑らせないようにしなければ。

 私は窓の外に広がる草原を眺めながら、込み上げる笑いを噛み殺した。




設定や用語解説

二つの優勝杯
 ホグワーツには二つの優勝杯がある。一つは学業や生活態度の点数で競う寮対抗杯。もう一つはクィディッチの寮対抗杯

サクヤへの点数
 今回グリフィンドールとスリザリンは同点のため、ハリーとロンとハーマイオニーに点数を上げてしまうとあまりにもオーバーキルになってしまう。故に今回ダンブルドアはサクヤのみに点数を与えた。

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