P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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サクヤ・ホワイトと悪魔の教壇
採血と煙の臭いと私


「か弱き人間諸君。私は貴方達にこれっぽっちも期待をしていないし、貴方たちの将来のことなんて心底どうでもいいと思ってる」

 

 フランドールの声が静まり返った大広間に響く。

 各寮のテーブルからこちらを見上げる生徒達は、皆不安げな表情を浮かべていた。

 

「だけど、折角校長に就任したんだし、新しく校則を定めようと思うわ」

 

 私の横に立つフランドールは、口角を吊り上げる。

 

「この先、ホグワーツにおいて生徒間での暴力行為を全面的に許可する。気に食わない奴がいれば殴ればいい。意見が食い違ったら徹底的に痛めつけて言うことを聞かせればいい」

 

 教員用のテーブルに着席している教師陣は、フランドールに親の仇を見るかのような視線を向けている。

 私は今すぐにでも殺してやると言わんばかりの殺気を後頭部に受けながら、ここ数日のことを思い返していた。

 本当に、どうしてこんなことになってしまったのか。

 話は、二日ほど前に遡る。

 

 

 

 

 一九九七年、九月一日。

 高くも安くもないホテルの寝室で目を覚ました私は、ベッドから這い出ると扉を開けてリビングへと移動する。

 リビングでは美鈴がダイニングテーブルの横で立ったまま居眠りをしていた。

 

「美鈴さん? 眠いなら見張り変わりますよ?」

 

 私はヤカンに水を入れて火にかける。

 美鈴は私の声で目を覚ましたのか、ふがっと一度大きく頭を揺らすと、何度か瞬きしてから大きく伸びをした。

 

「いえ、そういうわけには……それに、そろそろ準備をしないといけなせんからね。妹様を起こしてきます」

 

 と、美鈴は眠そうに目を擦りながらフランドールが眠る寝室へと入っていく。

 そして、数分もしないうちにこれまた眠そうに目を擦っているフランドールを連れてリビングへと帰ってきた。

 

「うーん、やっぱり明るい時間に起きているのは慣れないわ」

 

「寝る時間をズラしても本能には勝てませんか」

 

 フランドールは眠そうな表情のままダイニングテーブルへと向かう。

 美鈴は手慣れた様子でフランドールにエプロンを掛けると、血液の入ったコップをそっとフランドールの口元に寄せた。

 

「また輸血パック? 成分製剤ってほんと不味いから私苦手なんだけど」

 

「今の時代全血製剤なんてそうそう手に入らないですからねぇ。でもご安心を。今日は輸血パックではありません」

 

 フランドールは血液の入ったコップを訝しげに見つめながら、そっと口をつける。

 そして少し口の中で転がし、ぱぁっと表情を明るくした。

 

「美味しい! ……これ、サクヤの血液ね」

 

 私は注射痕を隠すように手を後ろで組む。

 昨日の夜、寝る前に採血したものだ。

 

「フラン様が頼りですから。今日ばかりは力をつけて頂かないと」

 

 美鈴はコップをフランドールに握らせると、キッチンに回って朝食の準備を始める。

 フランドールはニコニコしながら私の血液を少しずつ飲み始めた。

 

「サクヤの血もすっかり飲み慣れたわね。でも大丈夫? 貧血になったりしてないかしら?」

 

「そんなに沢山抜いているわけじゃないので大丈夫だとは思いますけど……鉄分しっかり摂ってますし」

 

 フランドールが一日に摂取する血液は小さなコップに半分ほどだ。

 流石に毎日私の血液を飲ませるわけにはいかないが、二週間に一度程度ならよっぽど大丈夫だろう。

 私はキッチンの方へと回り込むと美鈴の横に立ち朝食の準備を手伝い始める。

 目玉焼きにベーコンとソーセージ、スライスしたトマト。

 簡単なブレックファーストだ。

 私と美鈴は作業を分担しながら手早く朝食を仕上げると、料理をダイニングテーブルへと配膳する。

 そして私たちも席につき、朝食を食べ始めた。

 

「こうやって三人で朝食を食べるのも最後かもしれないわね」

 

 フランドールは私の血液で口のまわりを赤くしながら、ナイフとフォークを振るう。

 美鈴は鮮やかな手捌きで目玉焼きを切りながら言った。

 

「まあ、確かに向こうに行ったらなんやかんやバラバラに食事を取ることが多くなりそうではありますけど。それこそフラン様次第なのでは?」

 

「大広間での朝食の時間は私には早すぎるわ。っと、そうだ。食事中に話す内容ではないかもしれないけど、アレの調合は終わってるのよね?」

 

 フランドールに問われ、私はポケットの中から泥のような液体が入った小瓶を三つ取り出す。

 そしてそれを机の上に並べた。

 

「まあ、なんとかなりました。基本的にポリジュース薬は人間が人間に変身する時に用いる魔法薬なので」

 

「一度実験しておいた方がいいかしら。予備はある?」

 

 私は一度席を立つと、隣の部屋に置いていた予備の魔法薬を手に取る。

 そしてその中に自分の髪の毛を入れると、軽く匙でかき混ぜてから二人の前に差し出した。

 

「パチュリーの調合法を改良して作ったものです。人間以外が服用しても大丈夫なようになっているはずですが」

 

「まあ、私としてはニンニクが入ってなければなんでもいいけどね」

 

 フランドールと美鈴は魔法薬の入った小瓶を手に取ると、軽く打ち付けて喉に流し込む。

 すると、数秒もしないうちにフランドールと美鈴の外見が私と瓜二つへと変化した。

 

「っと、成功ですね」

 

 私は二人の周囲をクルリと回って不自然な箇所がないか確認する。

 特に心配していたのはフランドールの羽だが、背中から突き出していた枝のような羽は綺麗さっぱりなくなっており、白く滑らかな肌が服の隙間から覗いていた。

 

「羽も綺麗になくなっていますし……あとそうだ。能力や魔力の方はどうですか?」

 

 フランドールは右手を部屋の隅にあった花瓶へと向ける。

 そして絞るように右手を握りしめた。

 

「うん。問題ないわ」

 

 フランドールの右手に合わせるように花瓶は砂状に変化し、棚の上で崩れ落ちる。

 

「精度も出力も問題なさそうね。美鈴は?」

 

「特に違和感はないですねー。身長が低くなったので変なところで躓きそうですが」

 

「それに関しては慣れてください。本番はさらに身長が低くなるんですから」

 

 ま、それはそうか。と美鈴は耳たぶを引っ張る。

 その瞬間、美鈴の姿がみるみるうちに元に戻った。

 

「実用性も大きな変化は無し。実はサクヤちゃんって天才なのでは?」

 

「何言ってるんですか。学年一位を舐めないでください」

 

 私は腰に手を当てて胸を張る。

 フランドールも美鈴と同じように耳たぶを引っ張りながら言った。

 

「流石はパチュリーの弟子になり損ねた女ね」

 

「あ、やっぱり弟子に欲しがってくれてはいたんですね。それを聞いて少し安心しましたよ」

 

 パチュリーが私と懇意にしてくれたのは私の能力の詳細を探るためだということには気がついている。

 だが、だとしてもパチュリーは私に対してサービス精神が豊富すぎた。

 

「お嬢様もそうですけど、パチュリー様も身内にはあまあまですから。というか、パチュリー様は何度かサクヤちゃんの助命をお嬢様にしているはずですよ?」

 

「え、じゃあ本当にパチュリー・ノーレッジの弟子ルートがあったんですか?」

 

「出生が政治的に利用価値がありすぎて却下になりましたけど」

 

 そう言って美鈴は肩を竦める。

 まあ、レミリアの目的からして、ヴォルデモートの娘という肩書はなんとしても利用したかったに違いない。

 私は机の上に並べた魔法薬の小瓶をポケットの中に仕舞い直し、椅子に座り直す。

 そして皿の上に残った料理を胃袋の中に詰め込む作業を再開させた。

 

「ま、まあなんにしても魔法薬はこの通り完成してます。効果の程も確かめてもらった通りです。問題なく使用できるかと」

 

「うん。上出来よ」

 

 フランドールはナプキンで口の周りを拭うと、椅子から立ち上がり窓の外を見る。

 

「魔法薬の準備も大丈夫。雨も降ってない。完璧な朝ね」

 

 そして、私たちの方へ振り返りながら言った。

 

「予定通り、十時にホテルを出るわ。準備をしておきなさい」

 

 

 

 

 

 正式な手続きを踏んでホテルをチェックアウトした私たちは、ホテルの前でタクシーを拾うと運転手を気絶させて運転席横のトランクルームに押し込む。

 そして美鈴の運転のもと車を走らせ、人の気配が殆どない麦畑のど真ん中へとやってきた。

 

「この辺なら大丈夫そうですかね」

 

 トランクルームから運転手を引っ張り出し、運転席に座らせ直しながら美鈴が言う。

 フランドールは日傘で器用に太陽光から身を隠しながら空を見上げた。

 

「できればもう少し雲が出てた方がいいんだけど……こればっかりは贅沢は言えないわね」

 

 雨が降ると行動不能になるし、とフランドールは苦笑いする。

 

「さて、準備がよければ行くわよ。あんまりのんびりしていると追いつくのに時間が掛かりすぎちゃうし」

 

 私はポケットから懐中時計を取り出し今の時間を確認する。

 午前十一時五分。

 ほぼ計画通りの時間帯だ。

 私は懐中時計を仕舞い直すと、フランドールから日傘を受け取る。

 反対にフランドールは私の腰に腕を回すと、そのまま脇に抱えて持ち上げた。

 

「美鈴は左手ね。繋いでいるだけでいいでしょ?」

 

「あんまり速く引っ張らないでくださいね。普通に千切れ飛ぶので」

 

「腕の一本ぐらいすぐ生えるでしょ?」

 

「吸血鬼と一緒にしないでください」

 

 フランドールはケラケラ笑いながら宙に浮かぶ。

 そしてそのまま物凄い速度で大空へ向かって加速した。

 

「う……ぐっ……あぁぁあああ!」

 

 あまりの加速に、私の視界から色彩が消え、そのままブラックアウトしそうになる。

 フランドールは私の悲鳴に気がついたのか、慌てて加速をやめ、そのままの速度で更に上昇し始めた。

 

「ごめんごめん。でもぱっと見わからない高さまで上がっちゃわないと目立つから」

 

「い、いえ。逆にすみません……」

 

 私は日傘を落とさないようにしっかりと握り直す。

 というか、よく日傘が壊れなかったものだ。

 私は軽く頭を振るうと、視線を下に向けた。

 

「美鈴さんは大丈夫ですか?」

 

「ん? まあこれぐらいなら全然大丈夫ですよ」

 

 美鈴はフランドールから手を離すと、そのままふわりと浮き上がりフランドールの横に並ぶ。

 そして目の上に手のひらを当て、キョロキョロと周囲を見回し始めた。

 

「さてさて、ホグワーツ特急はどのへんを走るんでしたっけ?」

 

「確かルート的にはもう少し東のはずですけど……多分魔法で普通の電車に偽装されているはずなんですよね。でも、汽車自体は普通に石炭で走っているので立ち上る煙の臭いまでは消せないはず」

 

「なるほど……フラン様、感じます?」

 

 フランドールはスンスンと周囲の臭いを嗅ぐ。

 そして少し首を傾げた。

 

「特にそれっぽい臭いはしないわね」

 

「まあ、まだ出発したばかりですし。今のうちにもう少し東に移動しておきましょうか。線路が見える位置まで移動して大丈夫だと思います」

 

「それもそうね」

 

 フランドールはキョロリと周囲を見回し、東に向けてゆっくり飛び始める。

 美鈴はポケットから地図を取り出すと、地面と地図を見比べ始めた。

 

 

 

 

 三十分ほどが経過した頃だろうか。

 遥か下方でミニチュアのようにしか見えない線路をじっと見つめていたフランドールが、ピクリと体を動かす。

 そして何度か臭いを嗅ぎ、確信したように頷いた。

 

「来たわ。アレよ」

 

 私は日傘を持ったまま首だけを地上に向ける。

 そこには、豆粒ほどのサイズの貨物列車が走っているのが見えた。

 

「ディーゼル機関車のように見えるけど、臭いからして確実に蒸気機関だわ」

 

「じゃあ準備しましょうか」

 

 美鈴は手に持っていた鞄から遮光カーテンを引っ張り出し、私ごとフランドールに巻きつける。

 そしてカーテンの隙間から日傘を引っこ抜くと、畳んで紐で体に固定した。

 傘を差したままでは急降下することは出来ない。

 だとしたら、全身を遮光性のある布で包んでしまった方がいい。

 

「どこか熱く感じる部分はありませんか?」

 

「大丈夫よ。美鈴、先行なさい」

 

「了解しました!」

 

 美鈴は自由落下するように列車に向けて降下していく。

 フランドールは少し遅れて美鈴の後を追うように急降下した。

 数秒に渡る浮遊感。

 フランドールは列車の屋根ギリギリで速度を落とし、そのまま客車の屋根へと着地した。

 

「私たちはここで待ってるわ」

 

「それじゃあ、ちょっと探してきますね」

 

「後ろの客車から探す方がいいと思います。新入生はその辺に固まりやすいので」

 

 両親との別れを惜しんだ結果、コンパートメントの争奪戦に出遅れ、空いているコンパートメントを求めて後ろへ後ろへ移動していく傾向がある。

 美鈴は私に対し親指を立てると、屋根の上を滑るように飛行し後方へと移動していった。

 

「ちょうどよく三人組が見つかるといいんですけど」

 

「見つからないと困るわ」

 

 私とフランドールは遮光カーテンに包まりながら美鈴が戻ってくるのを待つ。

 しばらくそのまま待機していると、列車の後方から美鈴が飛んできた。

 

「見つけました。新入生の三人組です」

 

「どのへん?」

 

「サクヤちゃんの予想通り最後尾の客車にいました」

 

 私たちは互いに頷き合うと、客車の屋根の上スレスレを飛行して最後尾の客車へと移動する。

 美鈴はヘアゴムで長い髪をまとめると、屋根から身を乗り出すようにしてコンパートメントの窓ガラスを叩いた。

 

「すみませーん。ちょっと開けてください」

 

 屋根から身を乗り出していた美鈴は、そのまま列車の側方へと消える。

 どうやら、何も知らない新入生は美鈴のことを怪しむことなくコンパートメントの中に招き入れてしまったようだ。

 

「私たちも行きましょうか」

 

 フランドールは私を抱きかかえ、走行中の列車の側方へとゆっくりと降りる。

 そして開け放たれた窓ガラスからコンパートメントの中に侵入した。




設定や用語解説

成分製剤
 血液の一部の成分だけを抽出したもの

全血製剤
 血液の全ての成分が入っているもの

パチュリーが改良したポリジュース薬
 子供でも集められる材料で子供でも調合できるようなレシピになっている。試験管に決められた材料を目分量で入れ、軽く振ったら出来上がり。効能は数年持続するため、元の姿に戻るには耳たぶを引っ張る。

サクヤが更に改良したポリジュース薬
 パチュリーのトンデモレシピを更に改良し、人間以外にも使用できるようにしたもの。

パチュリー・ノーレッジの弟子ルート
 パチュリーの研究成果を読み解けているのは現状サクヤ・ホワイトただ一人。パチュリーからしたら喉から手が出るほど欲しい人材。

Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
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