P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
「よっと。ちょっと邪魔するわよ」
走行するホグワーツ特急の窓からコンパートメントに侵入した私たちは、ポカンとした顔でこちらを見つめる新入生の横に座る。
美鈴の言っていた通りコンパートメントの中には三人の少女が座っていた。
「えっと……あの」
「ん? どうかしましたか?」
美鈴はにこやかな笑顔を新入生に向ける。
フランドールは日光に焼かれないように窓のブラインドを下ろした。
「もしかして、乗り遅れたんですか?」
一番初めに我に帰った金髪の少女がフランドールの方を見ながら言う。
きっと、フランドールの背中から生えている羽に目を奪われているのだろう。
「はい。実はそうなんです。私はハッフルパフの最上級生のメイリン・ホーンです。貴方達は新入生? お名前は何て言うんです?」
美鈴の柔らかな笑顔に、新入生たちはほっと緊張の糸がほぐれる。
そして、文字通り振って湧いた非日常に目をキラキラとさせながら自己紹介を始めた。
「わ、私はソフィア、ソフィア・ロウルです」
ロウルと名乗ったブロンド髪の少女は青い目を輝かせる。
ロウル家と言えば死喰い人にもロウル家の人間がいたはずだ。
「私はジェシカ・パーキンソン。よろしくね」
続いて、艶やかな黒髪のストレートヘアーが特徴の少女が自己紹介する。
それにしてもパーキンソン家か。
「もしかしてパンジーの親戚?」
私が質問すると、ジェシカ・パーキンソンは胸を張る。
「ええ、そうよ。パンジーお姉ちゃんは私の従姉妹」
なるほど、パンジーの親戚か。
パンジーとは寮は違えどそこそこ仲も良かった。
私は少々懐かしく思いつつも三人目の少女に目を向ける。
三人目の少女は少し癖の入った黒みがかった茶髪だ。
ジェシカ・パーキンソンとは打って変わって恥ずかしそうに身を縮こませる。
「スカーレット・フリント……です」
「あなた、スカーレットっていうのね」
スカーレット・フリントという名前を聞いて、フランドールは目を輝かせる。
「美鈴、私この子にするわ!」
「まあ、その方が混乱しないのでありがたいですけど」
にしてもロウルにパーキンソン、そしてフリントか。
どうやら純血の家の子同士で集まっていたようだ。
「それじゃあ、ちょっと失礼して」
美鈴は自然な動作で新入生たちの首筋に手を伸ばす。
そして、そのまま一瞬のうちに新入生三人を気絶させた。
首筋に一瞬だけ魔力を叩きつけ、そのショックで気絶させたのだろう。
「お見事」
「まあ、文字通り赤子の手を捻るようなものですから」
美鈴は気絶させた新入生のうち、ソフィア・ロウルの頭から髪の毛を一本抜き取る。
私とフランドールもそれぞれジェシカ・パーキンソンとスカーレット・フリントから髪の毛を抜き取ると、私の調合した魔法薬の中に入れ、一気に飲み干した。
その瞬間、みるみるうちに私たちの身長は縮み、容姿や髪の色も変化していく。
いや、フランドールだけはそもそも身長が低いのでそれほど身長は変わらないが。
そして体の変化が落ち着いた頃を見計らって三人のトランクを漁り、ホグワーツの制服を身につけた。
「気絶させた新入生はどうします? 窓の外へ投げ捨てますか?」
美鈴はジェシカの首根っこを掴んで持ち上げる。
フランドールは少し考えたのち、トランクをひっくり返して中を空にした後、その中にスカーレットを突っ込んだ。
「可哀想だからホグワーツまでは連れていってあげましょうか」
「今後を考えると外に捨てられたほうが幸せかもしれませんけどね」
私もフランドールに倣ってジェシカをトランクに詰め込む。
そしてトランクの中に入っていた学用品を窓から投げ捨てた。
これがウィーズリー家の子供だったら発狂ものの行為だが、まあロウル家やパーキンソン家、フリント家なら買い直す程度の資産はあるだろう。
「さて、ここまでは順調ね」
新入生が入ったトランクを座席の下に押し込んだフランドールはホグワーツの制服を軽く正すとコンパートメントの席に座り直す。
容姿が完全に変わっているのでかなりの違和感があるが、そのふてぶてしい態度はまさしくフランドールだった。
「ここからホグワーツまではどれぐらいでしょうか」
美鈴の問いに私は先ほどまで着ていた服のポケットから懐中時計を取り出す。
今はちょうど正午を回ったところだった。
「まだ数時間は掛かりますね。ホグワーツ特急がホグズミード駅に着くのは歓迎会の一時間ほど前ですので」
私はコンパートメントの鍵を開けると、通路へ顔を出す。
いつもならこれぐらいの時間に車内販売のおばさんが回ってくるが、どうやらまだ最後尾の客車までは辿り着いていないようだった。
「それじゃあ、少しの間ゆっくりできるわね。サクヤとしても懐かしいんじゃない?」
癖のある黒髪を指先でくるくると弄りながらフランドールが言う。
私はコンパートメントの扉を閉めると、椅子に座り直した。
「懐かしいってほどではないですけどね。毎年乗ってましたし」
まあ今年の学年末には乗っていないので、ちょうど一年ぶりだろうか。
もう乗ることはないと思っていたが、人生何が起きるかわからないものである。
「もうこのままそれぞれの子供に成り代わって第二の人生始めちゃいます?」
美鈴は短くなった足を座席の下でパタパタさせる。
それはある意味では魅力的な提案かもしれないが、それをするなら外国に逃げていただろう。
「貴方達はいいかもしれないけど、吸血鬼の私には人間社会は流石に生きにくいわ」
「それを言ったら私もですけどね。人間食べたいですし」
美鈴はチラリと座席の下のトランクに視線を向ける。
きっと時間と場所が許せば新入生達は美鈴のお腹の中に収まっていたに違いない。
「正直一番の懸念点はそこなのよね。基本的にはホグワーツの中で缶詰状態になるから、人間を食べることは難しくなるし。血を吸うだけならまだしも、生徒を食べるわけにはいかないじゃない? 美鈴、貴方ちゃんと我慢できるわよね?」
「ま、本当にキツい時はホグズミードで誰か襲いますよ」
いや、それもどうかとは思うが。
まあ人質に取る予定の生徒達に手を出すよりかは随分とマシか。
その時、コンパートメントの扉がノックされる。
私がそっと扉を開けると、そこには車内販売のおばさんが立っていた。
「車内販売ですよ。お菓子はいかが」
「何か買います?」
私はフランドールと美鈴の方へと振り返る。
フランドールは車内販売が物珍しいのか、座席から立ち上がってパタパタとこちらに駆けてきた。
「魔法界のお菓子?」
「あれ? 普段食べないんです?」
「普段は美鈴が作ったお菓子ばっかりよ」
フランドールはあれやこれやとお菓子を少しずつ手に取ると、座席の上に放り投げていく。
そして空いている座席にお菓子の山を作ると、満足そうに席に戻っていった。
「えっと、十シックル──」
「あ、まだ買います」
私は追加でかぼちゃパイを二つと大鍋ケーキを三つ、そして蛙チョコを五つ手に取る。
その時、座席で早速百味ビーンズを開け始めていたフランドールがポケットからガリオン金貨を取り出し、車内販売のおばさんに投げ渡した。
「お釣りはいらないわ」
「いえ、足りませんけど」
フランドールがカッコつけた瞬間、間髪いれずに車内販売のおばさんが言う。
私は苦笑いを浮かべながら財布を取り出した。
「一ガリオンと三シ──」
「一ガリオン三シックル五クヌートですよね」
私は事前に計算していた金額をおばさんに渡す。
おばさんは少し目を丸くしていたが、すぐににこやかな笑顔に戻りコンパートメントの扉を閉めた。
私は座席に座り直すと大鍋ケーキに齧り付く。
フランドールは百味ビーンズに目を白黒させており、美鈴は逃げ出そうと暴れているチョコレートの蛙と格闘していた。
「けほっ、なにこれ……胡椒みたいな味がするんだけど」
「そのまま胡椒味なんじゃないですかね?百味ビーンズは本当に何でもありですよ。耳くそ味やゲロ味とかもありますし」
フランドールは少し顔を顰めると、百味ビーンズの箱を美鈴の方へと押し付ける。
美鈴は苦笑いを浮かべながらその箱を受け取り、口の中に流し込んだ。
「なんかこう普通に美味しいお菓子はないの?」
「それならかぼちゃパイなんてどうです? これは普通ですよ?」
「かぼちゃ系の甘みあんまり好きじゃないのよねぇ。ねえ美鈴、さっき食べてた蛙のチョコだけど……」
フランドールは今度は蛙チョコの箱に手をつけ始める。
箱を開けた瞬間に飛び出した蛙を器用に空中でキャッチすると、何の躊躇いもなく口の中に放り込んだ。
「あ、意外と両生類は抵抗無い感じですか?」
「本物の蛙を丸齧りしてるわけじゃないし」
フランドールはチョコレートをモグモグしながらおまけのカードを取り出す。
そして小さなため息をついた後、カードを私に渡した。
「ダンブルドアよ」
おまけカードの人物はダンブルドアだった。
カードの中のダンブルドアは笑顔を浮かべることなく私の方をじっと見つめている。
まるで、何かを訴えかけているかのような、そんな表情だ。
「謝らないから」
私はカードの中のダンブルドアに告げると、カードを空いている座席へ放り投げる。
そして、何事もなかったかのように二つ目の大鍋ケーキを食べ始めた。
ホグワーツ特急に乗り込んでから数時間が経過した頃だろうか。
コンパートメントの扉がノックされたかと思うと、こちらが返事をする前に扉が開かれる。
そこには顔に若干の疲労の色が見えるハーマイオニーが立っていた。
胸にはホグワーツ首席のバッジが光り輝いている。
「貴方達新入生? そろそろホグワーツに着くから早く制服に……って、もう着替えているわね」
ハーマイオニーは私たちのコンパートメントを見回すと、やれやれと頭を抱える。
「ちょっと浮かれ過ぎね。歓迎会のご馳走が入らなくなるわよ? それに散らかし過ぎ。列車を降りる前にきちんと片付けておくこと。わかったわね?」
「はーい」
美鈴は楽しそうに片手を挙げて返事をする。
ハーマイオニーは軽く頭を抱えると、そのままコンパートメントの扉を閉めた。
「ハーマイオニー、首席に選ばれたのね。男子の首席は誰かしら」
ロン……は首席という柄ではないが、監督生ではある。
成績はどうであれ、首席に選ばれる可能性は十分あるだろう。
あと可能性があるとしたらレイブンクローのアンソニーだろうか。
マルフォイがホグワーツに残っていたら首席の可能性もあったかもしれないが、マルフォイは今年からダームストラングへの編入が決まっている。
墓場での一件が許されていたら今頃スウェーデンにいることだろう。
「ハーマイオニーの言う通りそろそろホグワーツです」
私は窓のブラインドを開け、空を見上げる。
もうすっかり日は落ちており、辺りは薄暗くなっていた。
「日傘は……必要ありませんね」
「降りるときは手ぶらでいいのよね?」
「はい、大丈夫です。最終的にホグワーツの寮まで届きます」
私はケーキの食べカスで少し汚れたローブを軽くはたく。
ホグワーツ特急はゆっくりと速度を落としていき、最終的にホグズミード駅へ停車した。
「人の波に乗りましょう。その方が目立たないはず」
「フラン様、逸れないでくださいね?」
「一番心配なのは貴方なんだけど」
フランドールは大きく肩を竦める。
美鈴は、いやいやと手を振りながら言った。
「私はほら、ホグワーツには何度か来たことがありますから」
私たちは逸れないようにピッタリくっつくと、コンパートメントの扉を開けて人混みに揉まれる。
私たちが駅のホームに降り立つと、聞き覚えのある大声が聞こえてきた。
「イッチ年生! イッチ年生はこっちだ。これで全員か? 逸れるなよ?」
ハグリッドだ。
手に持ったランタンで新入生たちの顔を照らしながら周囲を見回している。
「よし。これで全員だな。俺についてこい。しばらく歩くぞ」
ハグリッドを先頭に新入生たちは真っ暗な細道を進んでいく。
私も一年生の時、この道を通ったんだっけ。
周囲は暗くハグリッドの持つランタンの灯り以外はほぼ何も見えないので思い出の景色も何もない。
だが、もうすぐなはずだ。
角を曲がったその瞬間、細かった道は一気に開け、湖の畔へと出る。
そして大きな湖の向かい側には今となっては孤児院よりも見慣れた巨大な城が聳え立っていた。
「四人ずつボートに乗って!」
ハグリッドの指示で新入生たちは湖に浮かぶボートへと乗り込んでいく。
私もそれに続こうと前に出たが、前を歩いていたフランドールがピタリと立ち止まった。
「……沈まないわよね?」
「水はお嫌いで?」
私はひと足先にボートに乗り込むと、フランドールの手を軽く引く。
フランドールは湖の上で不安定そうにユラユラ揺れるボートに躊躇していたが、やがて渋々と言った表情でボートに乗り込んだ。
私たちを乗せたボートは滑るように湖を進み、ホグワーツ城直下の洞窟へと入っていく。
洞窟の中には一年に一度しか使われないのであろう船着場があり、私たちを含めた新入生達はそこへと降り立った。
「さあ、こっちだ。みんな忘れ物はねぇな?」
ハグリッドは船着場をぐるりと見回して降り損ねている新入生がいないことを確かめるとゴツゴツした岩の道を登っていく。
そしてホグワーツ城の裏手、ちょうど私がリータ・スキーターを殺した場所の近くまで登ってくると、裏口である大きな樫の扉をノックした。
「フリットウィック先生、イッチ年生をお連れしました」
設定や用語解説
新入生純血三人組
全員代々スリザリンの家系。親同士の繋がりでホグワーツに入る前からの仲。
ホグワーツ首席
最優秀生徒というわけではなく、生徒の総まとめ役みたいなポジション。生徒会長に近い。男子と女子で一人ずつ選出させる。
マクゴナガルじゃなくフリットウィック
マクゴナガルが正式に校長に就任したことにより、フリットウィックが副校長に就任した。
Twitter始めました。
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活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。