P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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玉座と爆弾と私

「いいわよ。それじゃあ一緒に暮らしましょうか」

 

「──ッ!? サクヤちゃん、惑わされてはダメです!」

 

 美鈴の焦ったような声がホワイトの私室に響く。

 

「惑わされてはなんて随分な言い草だわぁ。親子の感動の再会だというのに」

 

 ホワイトはわかりやすく口を歪ませて笑う。

 まあ、自分で言っておいてアレだが、私も今すぐ一緒に暮らせるとは思っていない。

 だが、私がホワイトのことを理解し、私の命を狙う理由を取り除くことが出来たら……

 

「あ、やば。時間切れね」

 

 そんな呟き声と共にホワイトの姿が跡形もなく消えてなくなる。

 その瞬間、ホワイトの立っていた位置の空間が歪み、パンと弾けるような音が聞こえた。

 

「今のは?」

 

「妹様ですね。魔力だけを頼りにホワイトを破壊しようとしたのかと」

 

 なるほど、ホワイトは攻撃してこなかったのではない。

 魔力を探知されるのを恐れて攻撃できなかったのだ。

 美鈴はほっと溜息をつくと、構えを解く。

 そして呆れたように私を見ながら言った。

 

「サクヤちゃん、流石に見境が無さ過ぎですよ?」

 

「今すぐ実現するとは思っていませんよ。でも、将来的には……」

 

「……取り敢えず妹様と合流しましょうか。」

 

 美鈴は耳たぶを引っ張り元の姿に戻ると、ホワイトの私室のクローゼットから適用なサイズの洋服を取り出して身に着ける。

 私も同じように耳たぶを引き、元に戻った身長に合わせて服を見繕って身に着けた。

 

「あ、意外とぴったり」

 

 長袖のシャツにすらっとしたズボン、その上から真っ白なローブを身に着ける。

 白いローブを着る魔法使いは珍しいが、きっとマグルの医者が着るような白衣の代わりなのだろう。

 

「うわ、ホワイトだ」

 

 美鈴は私の姿を見てケタケタと笑う。

 まあ、ただでさえホワイトに似ている私がホワイトと同じような服を着たら殆どホワイトのようなものだ。

 私はホルスターを腰に巻きなおし、ローブで隠す。

 拳銃のような単純な機械ならホグワーツ内でも十分動くはずだ。

 私は姿見の前でおかしなところがないか確認すると、美鈴と共にホワイトの部屋を出る。

 そして、大広間に向けて廊下を歩き始めた。

 

 

 

 

 

「スカーレット・フリント」

 

 フリットウィックの甲高い声が大広間に響く。

 フリットウィックに名前を呼ばれた少女が新入生の列から抜け出し、大広間前方にある椅子の前へと移動する。

 そして、椅子の上に置かれている組み分け帽子を手に取ると、ゆったりと椅子に腰かけ、足を組んだ。

 少女は、組み分け帽子をひっくり返したり引っ張ったりしながら軽く弄る。

 そして、少し勿体ぶったあと、そっと頭の上に乗せた。

 

「ふむ……、ふむ?」

 

 組み分け帽子は体を捩らせ、難しい顔をする。

 そして、数秒固まったのち、危機迫る表情で叫んだ。

 

「あ、アズカバンッ! 今すぐこいつを──」

 

 その瞬間、少女は頭の上の帽子を力任せに握り締める。

 組み分け帽子は抵抗するように身を捩らせたが、やがて力尽き、動かなくなった。

 組み分け帽子が各寮以外を叫ぶという異常事態に、大広間全体にざわめき声が響く。

 少女は組み分け帽子を床に投げ捨てると、尊大な笑みを浮かべた。

 

「一体何ごとですか!」

 

 教員用の長机の中央、校長が座る椅子に腰かけていたマクゴナガルが立ち上がり、急ぎ足で机を回り込む。

 その時、組み分けの様子を怪訝な顔で見つめていた小悪魔が、急に顔色を変えて姿を消した。

 

「あ……まあいいか」

 

 少女はぼそりと呟くと、椅子から立ち上がる。

 そして、両腕を大きく広げてニコリと笑った。

 

 その瞬間だった。

 

 大広間にいる全員が、全身の骨の中心を虫が這いまわるような、我慢しがたい感覚に襲われる。

 今すぐにでもこの場を離れないと命は長くはない。

 この場に居る全員が本能的にそう感じたが、足に全く力が入らない。

 明らかな異常事態。

 そんな中、少女はゆっくりと椅子に座り直し、耳たぶを軽く引っ張った。

 それをきっかけに、少女の髪の色は抜け、肌の色は一層白くなる。

 口から覗く犬歯が鋭く尖り、背中からは枝のような羽が伸び始めた。

 

「全員動かないで。ホグワーツは、只今をもってフランドール・スカーレットが占拠した」

 

「なんだと!?」

 

 いち早く状況を把握したスネイプが椅子から立ち上がる。

 その瞬間、スネイプの目の前にあったゴブレットが音を立てて破裂した。

 

「動くなと言っているでしょう?」

 

 スネイプはフランドールを睨みつけると、ゆっくり椅子に座り直す。

 そしてマクゴナガルに目配せをした。

 

「どういうことか、お話をお伺いしても?」

 

 フランドールの近くまで歩いてきていたマクゴナガルが、その場から一歩も動くことなくフランドールに問う。

 フランドールはマクゴナガルのほうに顔を向け、軽く肩を竦めながら言った。

 

「どういうもなにも、そのままの意味よ。この学校は私が占拠したわ。生徒を殺されたくなければ、私の言うことを聞きなさい」

 

 マクゴナガルはフランドールから視線を外さないようにしながら、言葉を選ぶようにゆっくり口を開く。

 

「何か要求がおありなのですね?」

 

「話が早くて助かるわ」

 

 フランドールは椅子から立ち上がると、マクゴナガルに近づいていく。

 マクゴナガルはじっとフランドールを見つめていたが、フランドールが手が届くほどの距離まで近づいたその瞬間、並の魔法使いでは追えないほどの速度で杖を抜いた。

 だが、マクゴナガルの手がフランドールの方を向いた時には、マクゴナガルの手の中に杖は無かった。

 マクゴナガルは自分の手の中に杖がないことに気がつくと、そのまま視線をフランドールに向ける。

 杖は、フランドールの手の中に収まっていた。

 フランドールはマクゴナガルの杖を優しい手つきで触ると、手に持って軽く振る。

 その動きに合わせて杖からはバチバチと激しく火花が散った。

 

「あはは。魔法少女フランちゃーん!」

 

 フランドールは杖を片手に楽しそうにくるくる回る。

 マクゴナガルはその場から動くに動けないといった様子で佇んでいた。

 フランドールはピタリと動きを止めると、杖を生徒たちの方へ向ける。

 そして、笑顔のまま唱えた。

 

「アバダ・ケダブラ」

 

 心臓を突き刺すような冷たい声が大広間に静かにこだまする。

 だが、フランドールの構えた杖から呪文が放たれることはなかった。

 

「なーんてね。杖を使った魔法は使えないわ」

 

 フランドールはマクゴナガルに近づき、手に杖を持たせる。

 

「でも、魔法なんて使わなくても皆殺しにできる。変な気は起こさないことね、ミネルバ・マクゴナガル」

 

「一体何が目的ですか」

 

「魔法界の征服♡」

 

 ゾクリ、とマクゴナガルの背筋に寒気が走る。

 

「魔法省にも色々と要求を聞いてもらうけど、まず手始めにホグワーツを掌握することにしたの。私に歯向かうものを皆殺しにすることは簡単だけど、それだと私が支配する人間が減るじゃない? 滅びゆく国の支配者になる気はないし、だったら人質を取って言うことを聞かせるほうがいいなって」

 

 フランドールはマクゴナガルの肩をポンポンと叩く。

 

「取り敢えず、校長は私と交代ね。私に逆らったら生徒を一人ずつ殺すわ」

 

「そんなこと認められるわけ──」

 

「そう。じゃあ認めなくていいわ」

 

 フランドールは生徒の方へ真っ直ぐ手を伸ばす。

 

「ま、待ちなさい!」

 

 マクゴナガルの慌てた声に、フランドールは生徒の方へ手を向けたまま視線だけをマクゴナガルに戻す。

 マクゴナガルは苦悩の表情で、声を震わせながら言った。

 

「校長職を譲るにしても、色々と決めなければならないことがあるはずです。込み入った話になるでしょうし、校長室へと移動しませんか?」

 

 フランドールは値踏みするようにマクゴナガルを見つめる。

 そして、悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。

 

「やっぱり一人ぐらい殺しておこうかしら」

 

「フランさん、あんまりマクゴナガル先生を虐めないでくださいよ」

 

 この場に居る殆どの者に聞き馴染みのある声が大広間に響く。

 その声に、大広間にいる殆どのものが入り口へと顔を向けた。

 

 

 

 

 

 美鈴と共に大広間へと入ってきた私は、大広間の扉をそっと開け中へと入る。

 そこには想像した通りの光景が広がっていた。

 大広間にいる全員が爆発寸前の爆弾でも見るかのような目でフランドールを見ている。

 私のすぐ隣にいる生徒ですら、私が大広間に入ってきたことに気がついていないようだった。

 

「校長職を譲るにしても、色々と決めなければならないことがあるはずです。込み入った話になるでしょうし、校長室へと移動しませんか?」

 

 フランドールのすぐ前にいるマクゴナガルが苦し紛れと言わんばかりの表情でフランドールに告げる。

 フランドールは少し悩むような表情を見せると、にっこり笑って言った。

 

「やっぱり一人ぐらい殺しておこうかしら」

 

「フランさん、あんまりマクゴナガル先生を虐めないでください」

 

 静まりかえった大広間に私の声が響く。

 その瞬間、皆我に返ったかのように私の方を向いた。

 

「さ、サクヤ・ホワイト……!?」

 

 今まで一言も喋れずにいたのであろう生徒たちは私の顔を見ながらざわめき声を出す。

 私はそんな視線を無視してフランドールへと近づいた。

 

「先生方が素直にフランさんに従うのなら、生徒は殺さない。そういう話だったじゃないですか」

 

「軽い冗談に決まってるじゃない」

 

 フランドールはため息交じりに肩を竦める。

 私はフランドールの横に立つと、マクゴナガルに対して言った。

 

「お久しぶりですね。マクゴナガル先生」

 

「ミス・ホワイト……これは一体……」

 

「話は校長室で……ですよね? とにかく、一旦生徒たちを談話室へ。でも、ホグワーツを脱出しようとはしないでくださいね? フランさんの能力はホグワーツの敷地内全体をカバーできるほど効果範囲が広いですから」

 

「敷地内の外に出たものは頭を爆破するわ。文字通りね」

 

 フランドールは軽く手を握って見せる。

 その瞬間、生徒たちの目の前にあった金属製の皿が一斉に真っ二つに割れた。

 金属製の皿が、まるで陶器のようにである。

 生徒たちが一斉にパニックに陥るかと思ったが、悲鳴は一つも上がらない。

 いや、声を出すだけの余裕がないだけか。

 

「フランさんの手に掛かれば、冗談でもなんでもなくホグワーツにいる全員を即座に皆殺しにできる。生徒たちのためにも、変な気は起こさないでください」

 

 マクゴナガルの頬を一滴の汗が伝う。

 

「……校長室へ向かいましょう。他の教職員は──」

 

「その辺は任せるわ」

 

 マクゴナガルは一度大きく深呼吸すると、毅然とした表情で教員用の長机へと戻る。

 そして他の教員たちに向けて言った。

 

「スネイプ先生、フリットウィック先生は私と一緒に来てください。フーチ先生はグリフィンドール生を、ベクトル先生はレイブンクロー生を、スプラウト先生はハッフルパフ生、バブリング先生はスリザリン生をそれぞれ談話室で待機させるように。それ以外の先生たちは職員室で待機をお願いします」

 

「組み分けがまだの新入生は……」

 

「大広間にて待機を。ハグリッド、新入生の付き添いは任せましたよ」

 

 マクゴナガルの言葉に、ハグリッドは何度も頷く。

 

 マクゴナガルはひとまずほっと息をつくと、スネイプとフリットウィックに目配せした。

 

「……では、参りましょうか」

 

「案内よろしく」

 

 マクゴナガルが先頭になる形で私たち六人は歩き出す。

 そしてそのまま大広間を後にした。




設定や用語解説

組分け帽子「アズカバン!」
こんなヤバいやつ本来幽閉しておかなければいけないという意味でのアズカバン。本質的にはレイブンクロー。ちなみに美鈴はスリザリン。

Twitter始めました。
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活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
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