P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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注射器と要求と私

 大広間を出た私たちは大広間横の階段を上り三階へと移動する。

 そしてそのまま廊下を少し歩き、校長室への入り口になっているガーゴイル像の前へとやってきた。

 

「アッサムミルクティー」

 

 マクゴナガルはガーゴイル像に向かって呟く。

 その瞬間ガーゴイル像は命が吹き込まれたかのように動き出し、脇へとぴょんと退いた。

 どうやら今のが合言葉だったらしい。

 ダンブルドアはお菓子の合言葉を好んだが、マクゴナガルは紅茶なのだろうか。

 

「この上です」

 

 マクゴナガルを先頭にしてフランドール、私、美鈴。

 そしてその後ろをスネイプとフリットウィックが続く。

 自動的に上昇する螺旋階段で上まで来た私たちは重厚な樫の扉から校長室へと入った。

 校長室は私の記憶にあるレイアウトから少し変わっていた。

 棚の上で忙しなく動いていた小物たちは無く、代わりに高そうなチェスのセットが置かれている。

 内装も少しずつマクゴナガルの趣味になっているのか、少しシックな雰囲気だ。

 変わらないものといったら歴代校長の肖像画だろうか。

 歴代の校長は皆奇妙なものを見る目で私たちを見つめていた。

 

「一体何事かね」

 

 歴代校長の一人がそんな声を上げる。

 私は無意識のうちにダンブルドアの肖像画に視線を向けたが、ダンブルドアは我関せずと言わんばかりに居眠りをしていた。

 マクゴナガルは歴代校長を半ば無視するような形でフランドールを来客用のソファーに案内する。

 フランドールは我が物顔でソファーの真ん中に腰かけると、興味ありげにキョロキョロと校長室を見回す。

 私はそんなフランドールの左隣にそっと腰かけた。

 

「美鈴、紅茶」

 

「流石に用意がありませんねぇ。マクゴナガル先生、ティーセットをお借りしても?」

 

 美鈴は部屋の隅に置いてあるティーセットの方へと歩いていく。

 そしてマクゴナガルの返事を待たずに紅茶を淹れ始めた。

 フランドールは美鈴が紅茶の準備を始めたのを確認すると、改めてマクゴナガルの方を向いた。

 

「さて、それじゃあお話しましょうか。まず私たちの要求だけど──」

 

 フランドールは一方的に要求を伝えていく。

 

「これよりホグワーツは私を中心として理事会や魔法省からの干渉を一切受けない独立した教育組織とするわ。授業体系や授業内容は今まで通り。教職員も、特に変更を加えずに行こうと思う。下手に交代させると余計な混乱を招きそうだし」

 

「既に大混乱だとは思いますけどね」

 

 私はフランドールの横でぼそっと呟く。

 フランドールは一瞬私の方に視線を向けたが、すぐに話を続けた。

 

「貴方たちは今まで通りに授業を進めてもらえばいい」

 

「授業には干渉しないと?」

 

「そそ。そこを邪魔しても私にメリット無いし」

 

 ただ、とフランドールは続ける。

 

「校則は好きに増やさせてもらうわよ。授業自体に興味はなくても、校長として教育方針を示すぐらいはやりたいしね」

 

 それを聞き、マクゴナガルの表情が一層険しくなる。

 マクゴナガルの横に佇むスネイプとフリットウィックも同様に深刻そうな表情でフランドールを見つめていた。

 

「それとこれは私個人の問題ではあるんだけど、一日に一回、生徒の血を吸わせること」

 

「──ッ、それは……」

 

「別に殺そうってわけじゃないわ。小さなゴブレットに一杯の血が飲めればいい」

 

「生徒である必要はないはずです。私たちの血ではダメなのですか?」

 

「大人の血は不味いのよねぇ。なに、別に首筋に咬みつこうってわけじゃない。注射器で少し血を貰うだけ。サクヤ」

 

 フランドールは不意に私の名前を呼ぶ。

 私はその意図を察すると、ポケットの中から献血用の注射器を取り出し、マクゴナガルに見せた。

 

「ちょっとチクっとしますが、怪我をするほどのものではありません。それに、ホグワーツの医務室なら抜き取られた血液もすぐに再生させることが出来るはずです」

 

 だからまあ、この要求が通らなかったら私の血をフランドールには飲ませればいいか。

 なんてことをぼんやりと考えつつ、私はマクゴナガルの回答を待つ。

 だが、フランドールはマクゴナガルの返事など待たずに言った。

 

「というわけで、毎晩生徒を一人校長室へと連れてくること。性別や年齢は問わないわ」

 

 これは決定事項であると言わんばかりにフランドールは話を終わらせる。

 マクゴナガルは何か言いたいことがありそうな様子だったが、ぐっと言葉を呑み込んだ。

 

「ホグワーツに要求することはこのぐらいかしらね。まあ貴方たちと生徒は魔法省に対する人質だから多くを要求するつもりはないわ。本命はそこじゃないし」

 

「あ、紅茶どうぞー」

 

 張り詰めた空気を壊すようなタイミングで美鈴が紅茶を運んでくる。

 フランドールは美鈴からティーカップを受け取ると、ゆっくりと口に運んだ。

 

「いい茶葉ね。相当拘ってる」

 

 フランドールは澄んだ赤い紅茶を見つめながらほっと息をつく。

 

「貴方が紅茶に拘るように、私も血には拘りがある。それだけの話だわ」

 

 私も美鈴から受け取った紅茶に口をつける。

 確かに美味しい紅茶だ。

 ここ一か月逃亡生活中に飲んだ紅茶の中では一二を争うほどには美味しい。

 

「さて、あとは魔法省への要求の方だけど……」

 

 フランドールはティーカップ片手につらつらと自分の要求を語り始める。

 フランドールの要求は主に二つだ。

 一つは現イギリス魔法省の解体。

 そして二つ目は、フランドールを中心に置いた新政権の樹立だ。

 

「この要求が呑まれない場合、ホグワーツにいる子供たちを順番に殺していく」

 

 フランドールの冷たい視線がマクゴナガルを突き刺す。

 数秒の沈黙の後、マクゴナガルはいつもの厳格な表情で言った。

 

「わかりました。貴方の要求は魔法省にお伝えします」

 

「よろしくね」

 

 フランドールは上機嫌な様子でティーカップを傾ける。

 

「校長業務の引き継ぎは少しずつやっていくとして……あ、そういえば組分けが途中だったわね。組分けが終わってない生徒たちはまだ大広間?」

 

「だと思いますけど」

 

 私の視線に、マクゴナガルは頷く。

 フランドールは紅茶を飲み干すと、ソファーから立ち上がった。

 

「なら、組分けの続きをしに行きましょうか。新入生も宙ぶらりんなままだと不安だろうしね」

 

「貴方の存在が一番の不安要素ですがね」

 

 マクゴナガルの後ろで黙って話を聞いていたスネイプが憎まれ口を叩く。

 

「ほんとですよフラン様。子供達が可愛そうだとは思わないんですか?」

 

 それに呼応するように、美鈴がフランドールに軽口を叩いた。

 そんな軽口に対しフランドールは肩を竦める。

 

「可愛そうだとは思うけど、別に危害を加えているわけじゃないし。大目に見て欲しいところだわ。まあ、魔法省が要求を呑まなければ殺すけど」

 

「その時は私にお任せくださいね。子供を惨殺するのは得意ですよ! 昔とった杵柄ですので」

 

「嫌よ。手当たり次第に食い散らかしそうだし」

 

 美鈴は不満ありげに頬を膨らます。

 そんなフランドールと美鈴のやり取りに、マクゴナガルの頬に一筋の汗が流れた。

 

「まあまあ、そんなに脅さないでくださいよ。これから一緒に教鞭を取っていく仲じゃないですか。フランさんが校長になるんですよね? だったらもう少しフレンドリーに……」

 

「うーん、まあそうね。それじゃあフレンドリーな態度で組分けに臨みましょうか」

 

 フランドールは分かりやすくニコリと笑う。

 そしてその貼り付けた笑顔のまま校長室の扉を開けた。

 

 

 

 

 

「というわけで、新しくホグワーツ校長に就任したフランドール・スカーレットよ。貴方たちのホグワーツ入学を心より歓迎するわ」

 

 大広間に戻ってきた私たちは早速組分けを再開する。

 フランドールは大広間に残っていた新入生たちの前に立つと、激しく暴れ回る組分け帽子を握り締めながら言った。

 

「組分けの方法は先ほど歓迎会の説明の通り。貴方たちには椅子に座って、この組分け帽子を被ってもらう。あとは、組分け帽子にお任せってわけ。サクヤ」

 

 フランドールは私の方に組分け帽子を投げ渡してくる。

 私は組分け帽子にチラリと視線を落とした後、そっと帽子を被った。

 

『もう遠慮せんわい。アズカバン!』

 

「馬鹿なこと言ってると破り捨てるわよ?」

 

『あー、はいはい。グリフィンドールグリフィンドール』

 

「グリフィンドールなんだ……」

 

 美鈴は意外そうな顔をこちらに向けてくる。

 私もこの組分け結果には少々驚いていた。

 私が一年生の時に組分けを受けた時は、組分け帽子はグリフィンドールだけは適性がないと言っていた。

 私がグリフィンドールに組分けされたのは、私がグリフィンドールがいいとごねたからだ。

 私は組分け帽子を右手で掴み、フランドールに返す。

 フランドールは今度はマクゴナガルに組分け帽子を手渡した。

 

「んじゃ、私はここで見てるから後はよろしく」

 

 フランドールはそう言うと、教員用のテーブルの中央に位置する校長の椅子に深く腰掛ける。

 マクゴナガルはそんなフランドールに対して警戒するような視線を向けたが、やがて粛々と組分けを再開させた。

 

「とりあえずなんとかなりそうですね」

 

 私は校長用の椅子に座るフランドールの隣へと移動する。

 フランドールは淡々と行われる組分けをつまらなさそうに見ながら言った。

 

「魔法省は要求に応じるかしら」

 

「世論次第じゃないですか? 多分魔法省としては絶対に要求には応じてこないと思いますよ」

 

 フランドールが要求しているのは、実質的にはイギリス魔法界の崩壊だ。

 今までの体制を全て破壊し、吸血鬼を中心にした全く新しい体制を築き上げようとしているのである。

 そんなこと、あのスクリムジョールが呑むとは思えない。

 むしろ闇祓いの部隊をホグワーツに送り込んでくるはずだ。

 

「もし魔法省が要求に応じなかったら、本当に生徒たちを殺すんです?」

 

 私が問うと、フランドールは視線をこちらに向ける。

 

「サクヤはどうして欲しい? やっぱり同級生や後輩たちが死ぬところは見たくない?」

 

「まあ、そりゃ見たくはないですが……」

 

「だったら、ギリギリまで引き延ばしてあげる。魔法省が折れるまで、私はホグワーツの校長職に居座るわ」

 

「ギリギリ……というのはいつまで?」

 

 フランドールはまた視線を組分けに戻す。

 そして少し考えた後、呟くように答えた。

 

「来年の学期末……今の最上級生が卒業するまで。それが、魔法省に与えるタイムリミットよ」

 

 今の最上級生……つまりは、私の同級生が卒業するまで。

 魔法省に残された時間は十ヶ月と少しということか。

 

「それ以上ってなると七年生の就職に支障が出るし、新入生も入学できなくなるじゃない? 流石にそれはねぇ……」

 

「確かに……って、え?」

 

 予想外の答えに、私はついつい素っ頓狂な声を上げてしまう。

 フランドールはぼーっとした表情で組分けを眺めていたが、すぐにハッとし慌てだした。

 

「ち、違うから! そういうんじゃないわ! あのその……ほら! 要求さえ呑めばホグワーツの生徒には手出ししないという意思表示の一環というか……」

 

 フランドールはしばらく手をバタバタと振って否定していたが、やがて大きなため息をついて組分けに視線を戻した。

 

「私たちの目標はイギリス魔法界の征服よ。そしてそれはもう後戻りできない段階に来ている。私も、そして、貴方もね」

 

「まあ、今更社会復帰できるとは思っていませんけど……いや、世界征服が実現したらある意味社会復帰出来たと言えなくもないですが」

 

 私は大広間の中央で行われている組分けに視線を戻す。

 最後の一人の組分けが終わったのか、新入生たちは教員に連れられて逃げるように大広間を後にした。

 

「組分けの儀式が終わりました」

 

 組分け帽子を抱えたマクゴナガルがこちらへと近づいてくる。

 フランドールは椅子からぴょんと降りると、小さく咳払いをしてから言った。

 

「ご苦労。で、この後の流れは?」

 

「通常通りなら明日から授業が始まりますが、現状そういうわけにもいかないでしょう」

 

「そうね。新学期の授業は明後日からにしましょうか。明日は一日今後の体制について話し合うことにしましょう」

 

「話し合うってよりかは、フラン様が一方的に要求を押し付けるだけになりそうですけどね」




設定や用語解説

サクヤの組分け
本質的にはスリザリン。ただレイブンクローの素質もある。ハッフルパフの素質は潜在的なもの。グリフィンドールに関しては全く適正無し。

Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
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