P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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欠員と羊皮紙の束と私

「だから、何度も説明している通りです。ホグワーツは七年制。そして授業は学年ごとに行われております。他の授業と兼任など不可能です」

 

 ホグワーツの新学期が始まって二日目の朝。

 ホグワーツの一階に位置している職員室の中でマクゴナガルの声が響く。

 

「でも、だからと言って外から教師を呼ぶなんてことは容認できないわ。今の状況わかって言ってるわよね?」

 

「その『今の状況』とやらを作り出した張本人は貴方ではありませんか。スカーレット校長先生」

 

 マクゴナガルは毅然とした態度でフランドールに言う。

 フランドールは何かを言い返そうと口を開きかけたが、上手く言葉が出てこないのかモニョモニョと言葉にならない声を上げた。

 一体何の話をしているか、その答えは至極単純だ。

 魔法薬学の授業を受け持っていたホワイトが逃げたことで、教師が一人足りなくなったのだ。

 

「そ、それなら貴方が授業を受け持てばいいわ! マクゴナガル副校長。校長職を離れて暇になったでしょ?」

 

「私は既に変身術の授業を受け持っております。他の先生方も同様です。外から教師を招くほか無いと思いますが?」

 

 マクゴナガルの言い分は理にかなってはいる。

 教師が足りなくなったから、外から新しい教師を招きたい。

 確かにそれ以外に今の状況を解決する方法はないだろう。

 だが、その行為はあまりにも大きなリスクが伴う。

 外に私たちの仲間はいない。

 ホグワーツがフランドールによって占拠されたという情報は歴代校長の肖像画を通じて既に魔法省、ひいてはレミリアのもとまで伝わっているだろう。

 だとすると、新しく来る教師は確実に魔法省の息がかかった人間、もしくはパチュリーの変装である可能性が高い。

 新しい教師には授業を行って貰わないといけないため、おいそれと排除することも出来ない。

 特にパチュリーの変装だった場合、それだけで今の状況を崩されかねないのだ。

 

「それは……わかってるけど……」

 

 フランドールは助けを求めるように美鈴に視線を飛ばす。

 だが、美鈴にその視線の意味が通じなかったのか、ニコリと微笑んだだけだった。

 

「タイム!」

 

「え?」

 

 フランドールは大きな声でそう宣言すると、ダッシュで職員室から出ていく。

 後に取り残された教師陣と私たちは互いに顔を見合わせ、しばしの休憩だと言わんばかりに自分たちの机へと戻っていった。

 

「タイムって……どこに行ったんだと思います?」

 

 フランドールの机の横で私は美鈴に話しかける。

 美鈴は大きな欠伸を一つした後、フランドールの椅子に腰掛けながら言った。

 

「さあ。森にいるケンタウルスにでも助言を求めに行ったんじゃないですかね?」

 

「ケンタウルス? なんでまた……」

 

「お嬢様は度々ケンタウルスを訪ねにホグワーツを訪れてましたけど……まあでも妹様は面識はないはずです」

 

 私が頭を捻っていると、職員室の扉がバンと勢いよく開く。

 そこには先程とは打って変わって不敵な笑みを浮かべたフランドールが立っていた。

 

「タイム終わり! 再開するわよ」

 

 フランドールはパンパンと手を叩きながら椅子に座っている美鈴を引きずり下ろし、自分が腰掛ける。

 予想よりに早くフランドールが帰ってきたこともあって、ホグワーツの教師たちは小さくため息を吐きながらフランドールの机の周りに集まってきた。

 

「それで、外から教師を呼ぶということに了承してくださいますね?」

 

「それには及ばないわ。ホグワーツには優秀な人材がまだいることを思い出したの」

 

 優秀な人材? 私は頭の中でホグワーツの職員の顔を思い浮かべる。

 授業を受け持っていない職員は確かに少数ながらいる。

 マダム・ポンフリーや図書室司書のピンスがそうだ。

 だが、どちらも授業を受け持てるほど暇には見えない。

 あと残るはフィルチだが、フィルチが魔法薬学に秀でているという話は聞いたこともなかった。

 

「なにポカンとしてるのよ。貴方よ。サクヤ・ホワイト」

 

 フランドールは考え込む私の肩をポンと叩く。

 なるほど。私か。

 って……え?

 

「え、ちょ」

 

「魔法薬学はサクヤに教えさせるわ。学生レベルの魔法薬学なら十分に教えられるでしょうし」

 

 教師たちの視線が一斉に私の元へと集まる。

 マクゴナガルは私の顔を数秒見た後に、小さく首を振りながら言った。

 

「彼女はホグワーツを卒業すらしていません。魔法薬学のNEWTすら取得していないものが教師などと──」

 

「問題ないはずよ。なにせ、お姉様や小悪魔が教師として教鞭を振るっていたんですもの。二人ともホグワーツの卒業生ではないし、NEWT試験も受けていないわ」

 

 それに、魔法薬の調合の腕は折り紙つきだしね、とフランドールは続ける。

 

「貴方たち、六年間もサクヤの授業を受け持ってきたんだから彼女の優秀さはわかっているはずよ。サクヤなら問題ないわ」

 

 授業を行うのに問題があるかないかで言われたら、まあ問題はない。

 ホグワーツ卒業レベルの魔法薬学は確かに身につけているし、今在学している誰よりも上手に魔法薬を調合できる自信はある。

 だが、それと実際に私が教鞭を振るうのは話が別だ。

 マクゴナガルもそのような代案を出してくるとは思ってもみなかったのか、少々困り顔でスネイプの方を見る。

 スネイプはマクゴナガルとは打って変わって、いつも通りの冷笑を浮かべていた。

 問題が起きたらせせら笑ってやるから自由にやりたまえと言わんばかりだ。

 

「というわけでこの話はこれでおしまい! サクヤは明日から授業が始められるように色々準備しておくこと!」

 

 フランドールはなんとかなってよかったと言わんばかりに安堵の表情を見せると、大欠伸しながら職員室を出ていく。

 美鈴はそんなフランドールの後ろ姿を見ながら苦笑いを浮かべた。

 

「まあ、外から教師を呼ぶリスクを考えたら最善の策だとは思いますけどね。あまりにも突然ですけど」

 

「え、私本当に同級生の授業を受け持つんですか?」

 

「妹様がああ言った以上、そういうことになるでしょうね」

 

 私が魔法薬学の教授をする。

 まあ、確かに不可能ではない。

 魔法薬学は得意分野ではあるし、魔力を失っている今の状態でも問題なく授業を進めることができる。

 闇の魔術に対する防衛術や呪文術の教授をしろと言われるよりかは実現性も高い。

 問題があるとすれば、前任者から何も申し受けを受けてないことと、授業の開始が明日であるということだろうか。

 私は大きなため息を吐くと、真っ直ぐマクゴナガルの近くへと移動する。

 そして、マクゴナガルに向かって頭を下げながら言った。

 

「マクゴナガル先生、基本的な授業の進め方を教えてください」

 

「貴方に先生と言われる筋合いはありません」

 

 マクゴナガルは私を見下ろしながらピシャリと言った。

 まあ、どの面下げてと言ったところだろう。

 

「で、ですよね」

 

「しかしながら、どうやら貴方がホグワーツの授業を受け持つことは既に決定事項のようです。であるならば、私としてもホグワーツの生徒が高いレベルの授業を受けられるように最大限努めなければなりません」

 

 私はマクゴナガルの顔を見る。

 マクゴナガルは相変わらず厳格な表情を崩していなかったが、その表情にはどこか優しさが見え隠れしていた。

 

「昼食後、小悪魔先生が残した資料を全てかき集めて私の部屋に来なさい」

 

「は、はい。お世話になります」

 

 私はぺこりとマクゴナガルに頭を下げる。

 そしてお昼までにそれほど時間がないことに気がつき、急いで小悪魔……ホワイトが使用していた部屋へと走った。

 

 

 

 

 その日の午後一時。

 私はマクゴナガルの部屋でホワイトの部屋からかき集めた授業に関する資料を広げていた。

 マクゴナガルは無言で私の広げた羊皮紙の束に目を通していく。

 そしてトントンと羊皮紙の端を揃え、ふうと息をついた。

 

「なんとも彼女らしい」

 

「というと?」

 

 マクゴナガルは自室の椅子に座り、改めて羊皮紙を捲る。

 そしてそのうちの一枚を私に見せながら言った。

 

「残されている資料の殆どが生徒が提出した課題で、彼女自身が執筆したものがありません」

 

「新学期の始めだから……ですかね?」

 

「だとしてもここまで資料が少ないのはかなり特異なことです。きっと全て頭の中だけで管理していたのでしょう」

 

 いや、それはきっと違う。

 彼女の研究室を見る限り、ホワイトは割としっかり研究成果を紙媒体に残すタイプだ。

 きっといつでも逃げ出せるように重要な書類は全て持ち歩いていたのだろう。

 私が学生時代に使っていたような、空間拡大呪文が掛けられた鞄を使えば難しいことではない。

 

「だとしたら、引き継ぎ資料は無し……」

 

「年度の始めであることが唯一の救いでしょうね。基本的には、魔法省が定めたカリキュラムに従い授業を組み立てると良いでしょう」

 

 マクゴナガルは机の引き出しから羊皮紙の束を取り出す。

 そしてその羊皮紙の束を杖でつつき、二つに分裂させた。

 

「来年の六月までに魔法省の定める学力基準に到達させることが私たちの仕事であり、使命です。貴方が行う授業が生徒たちの将来を大きく左右することになります」

 

「まあ、こうなった以上真面目に授業は行いますよ」

 

「その言葉が信用に足るとでも?」

 

 マクゴナガルはジトっとした目で私を見る。

 

「まあ、確かに今の私はテロリストの一味ですけど、そこまで信用ないですか?」

 

「それもありますが、ここ数年の貴方の授業中の態度を鑑みての発言です。ホグワーツの成績は学期末試験の結果のみで判断されるからこそ貴方は学年一位の座についていましたが、授業態度を考えると──」

 

「まあ、ハーマイオニーが一番ですね」

 

 それに関してはぐうの音も出ない。

 彼女ほど優等生という言葉が相応しい人間もいないだろう。

 

「そもそもです。貴方の能力を考えればその学期末試験の結果も貴方本来の実力であるのか怪しいところではありますが」

 

「低学年の頃はしっかり不正してましたよ」

 

 あっけらかんとした態度で答えると、マクゴナガルは呆れたと言わんばかりにため息をつく。

 そしてそのまま私の顔をぼんやりと見つめ、改まった様子で言った。

 

「サクヤ、貴方は本当に……なぜダンブルドア先生を……」

 

「ダンブルドアが私を裏切ったから。それにつきます」

 

「ダンブルドア先生が?」

 

「マクゴナガル先生がどのような話を聞かされているかわかりませんけど……実は私、ダンブルドアを殺すほんの十分ほど前まではヴォルデモートが自分の実の父親であると知らなかったんです」

 

 私はマクゴナガルに渡されたカリキュラムの資料に目を通しながらつらつらと語る。

 

「この際マクゴナガル先生には全て話してしまいますか。信じるも信じないも先生次第ということで」

 

 私はマクゴナガルの部屋にある時計をチラリと見る。

 まだ夕食までは時間がある。

 今までの顛末を簡単に説明するだけの時間は十分にあるだろう。

 私は魔力と能力を失ったことは伏せつつ、入学から今に至るまで何があったのか、レミリアの目的、そして小悪魔の正体についてマクゴナガルに話して聞かせる。

 マクゴナガルは最後まで黙って私の話を聞くと、若干手を震わせながら呟いた。

 

「そんな話を信じろと?」

 

「いえ。ですが、マクゴナガル先生には知っておいて欲しくて」

 

 私が犯した罪の全てを。

 

「私、マクゴナガル先生のことは母親のように慕ってますから」

 

「私も、貴方のことは実の娘のように思っていました」

 

 過去形か。

 まあそうだろう。

 

「なんにしても、私がダンブルドアを殺した理由はそういうことです。あいつは、私を騙して実の父親を殺させた。確かに私の父親であるヴォルデモートは討ち滅ぼすべき悪だったかもしれません。ヴォルデモートを殺すのに私の時間を操る能力が有効だったのも理解しているつもりです。でも、だとしても──」

 

 私はいつの間にか強く握り締めていた拳をそっと開く。

 そして、マクゴナガルの目を見ながら言った。

 

「何も知らない子供を騙し、親を殺させるのは話が違うと思いませんか? ヴォルデモートが父親であると説明し、その上で私に協力を仰ぐ。それが本来あるべき形ではないですか?」

 

「そうだとしても、あのような復讐の仕方はするべきではなかった」

 

「……わかっています。わかってはいるんです」

 

 あの時ダンブルドアを殺さなかったら。

 きっとまた違った未来が私の前に広がっていただろう。

 そんなことはわかっている。

 

「なんにしても、話はわかりました。真相はどうであれ、あの戦いにレミリア・スカーレットとその周辺人物が大きく関わっているという話も理解しました。ホグワーツで起こったあの戦いは、全てレミリア・スカーレットによって仕組まれた可能性が高いことも」

 

「レミリアは確実に魔法界での影響力を強めています。彼女の動向にはどうか気をつけてください」

 

 私はポケットから懐中時計を取り出し、今の時間を確認する。

 もうそろそろ夕食の時間だ。

 私はホワイトの部屋から持ってきた羊皮紙と、マクゴナガルから受け取った羊皮紙をまとめて鞄の中に入れる。

 そしてマクゴナガルに小さく頭を下げ、マクゴナガルの部屋を後にした。




設定や用語解説

森にいるケンタウルス
ホグワーツの敷地内に広がる禁じられた森の中には様々な動物や種族が暮らしている。ケンタウルスのそのうちの一つ。

魔法薬学の教授サクヤちゃん
魔法薬の調合には魔力は要らないからこその人事。

Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
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