P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
「この先、ホグワーツにおいて生徒間での暴力行為を全面的に許可する。気に食わない奴がいれば殴ればいい。意見が食い違ったら徹底的に痛めつけて言うことを聞かせればいい」
大広間にフランドールの声が響く。
授業が本格的に始まる九月三日、ホグワーツの全校生徒は大広間に集められていた。
フランドールは校長席から生徒たちの反応を見回している。
にしても、暴力行為を全面的に許可?
私は横にいるフランドールを見る。
このような校則を増やすというのは事前に聞かされていない。
一体どのような意図があるのだろうか。
私はフランドールと同じように生徒を見回す。
グリフィンドールの生徒はフランドールの発言に憤っているように見える。
逆にスリザリン生は待ち望んでいた展開だと言わんばかりの表情でグリフィンドールやハッフルパフの方を笑いながらチラチラと見ていた。
「ただ……」
そんなスリザリンに釘を刺すようにフランドールは言う。
「自分が一方的に暴力を振える立場に立てるとは思わないことね。自分が相手に暴力を振えるように、相手もまた自分に暴力を振えるのだから」
報復を受ける覚悟がなければ暴力など振るってはいけない。
フランドールはそう言いたいのだろう。
「かといって、自分が暴力を振るわなければ攻撃されることはないかと言われれば、そんなことはない。世の中は理不尽な暴力に満ち溢れている。自分を守れる力を、互いに助け合う仲間を作りなさい」
大広間に生徒たちのざわめきが響く。
まあ、暴力が許可されたところですぐにホグワーツが大混乱に陥るかと言われればそんなことはないだろう。
学生が使える魔法なんてたかが知れているし、ホグワーツには優秀な癒者もいる。
多少の怪我人は出るだろうが、死人が出るほどではないはずだ。
「あ、そうだ。殺人自体も許容するけど、それ相応の覚悟を持ってやりなさいね。今のホグワーツでは法の支配が及んでいない。ある意味では外で殺人を犯すより危険な行為よ」
フランドールは最後に生徒たちにそう釘を刺す。
そして、一呼吸ついたあと、そのままの流れで言った。
「次に新しい先生を紹介するわ。サクヤ・ホワイト先生よ」
一瞬の沈黙。
そして次の瞬間にはフランドールに向けられていた視線が一斉に私の方を向いた。
「逃げた小悪魔先生に代わって魔法薬学の授業を担当するわ」
「嘘でしょ!?」
グリフィンドールのテーブルに座っていたハーマイオニーが大声を上げながら立ち上がる。
フランドールはハーマイオニーを見下ろすと、静かに言った。
「座りなさいグレンジャー。それとも何か文句でも?」
「あ、その……いや……」
ハーマイオニーはしどろもどろになりながらゆっくり椅子に座り直す。
そして、なんとも言い難い表情をこちらに向けたまま、小声でブツブツと呟き始めた。
「他は変化なし……あ、いや、強いて言えばお姉様が占い学の教授を辞めたことぐらいかしら。占い学はこれまで通り全クラストレローニー先生が教えるわ」
名前を呼ばれて、教員用のテーブルの端の方にいたトレローニーが肩をびくつかせる。
まあ、この人事に関しては随分前に決まっていたことのはずなのでトレローニーも準備は出来ているだろう。
「以上よ。残りの細かいことは校長補佐の美鈴に説明させる」
フランドールはどっかりと勢いよく校長用の椅子に腰掛ける。
私も前に出てきた美鈴と入れ替わるようにして椅子に座った。
「はいはーい。ご紹介に預かりました紅美鈴です! あ、こっちの言い方だとメイリン・ホンですかね? 気軽に美鈴先生と呼んでください」
美鈴は陽気な笑みを浮かべて生徒たちに手を振る。
四年生から上の世代は美鈴の姿を見たことがある生徒が殆どだろう。
美鈴は三大魔法学校対抗試合の時にレミリアの付き添いでよくホグワーツを訪れていた。
「いやぁフランドール様の我儘でこんなことになっちゃってほんと申し訳ない。あ、ちなみにフランドール様は去年まで占い学を受け持っていたレミリアお嬢様の妹様にあたるお人でしてね──」
「美鈴、さっさと本題に入りなさい」
「はーい」
美鈴は軽く後頭部を掻くと、改まって言う。
「例年通り禁じられた森には立ち入り禁止です。また、このような状況なので今年のホグズミード行きは中止します。抜け穴を使ってホグワーツの外に出ようともしないように。フランドール様は魔力の感知に長けています。もし出ようものなら──」
その瞬間、大広間の壁に設置されている石像の頭部が大きな音を立てて爆発し、近くに座っていた生徒たちの悲鳴が上がる。
私の横では、フランドールが面倒くさそうに燭台に握った拳を向けていた。
「こんな感じで爆破されちゃいますからねー。その代わり、一ヶ月に一度私がホグズミードに買い出しに行きますので各寮の監督生は生徒が欲しいもののリストをまとめて私に提出するように。クィディッチの寮対抗杯は例年通り開催しますのであしからず」
その発表にまばらではあるが歓声が上がる。
一部のクィディッチバカにとってクィディッチは学校が占拠されていることより大事なことだ。
「以上! 臨時朝礼を終わります。生徒の皆さんはそれぞれ授業が行われる教室へと向かうように」
美鈴はそう締めくくるとフランドールの下へと歩いていく。
生徒たちはしばらく周囲の様子を伺うようにキョロキョロしていたが、やがて席を立ち、それぞれの教室へ固まって移動し始めた。
「さて、我々も授業に向かいますか」
フリットウィックのそんな独り言を皮切りに、教師たちも席を立ち、大広間から移動していく。
私もそれに合わせて立ち上がると、横に座るフランドールに言った。
「それじゃあ、私は地下の教室へと向かいます」
「ええ、頑張ってね」
フランドールはヒラヒラと手を振るう。
私は新しくフランドールが増やした校則の意図を聞こうかと思ったが、今聞くことでもないと考え直し、そのまま大広間を後にした。
見慣れた教室、見慣れた黒板、見慣れた大鍋。
立ち位置を変えるだけでここまで違和感があるとは。
私が受け持つ一番最初の授業は今年入った新入生に対するものだった。
ホグワーツでは基本的にOWLレベルは各学年を二つに分けて授業を行い、NEWTレベルからは受講する生徒が少なくなるので学年まとめて授業を行う。
つまり一年生から五年生までで十クラス、六年生と七年生で二クラス、計十二クラスの授業を同時並行で行うことになる。
改めて考えるとホグワーツの教師は大変だ。
あらゆる事情を抜きにしても、マクゴナガルが「二つの授業を同時に受け持つなど不可能」と言うのも頷ける。
まあ、校長としての業務を行いながら変身術の授業も受け持っていたマクゴナガルは十分化け物並の処理能力ではあるのだが。
私は教卓の上に資料と教科書を広げ、改めて教室にいる生徒たちを見る。
一年生たちはチラチラと私の方を見ながら、時折近くにいる生徒たちと囁き合っていた。
私は手元にある名簿に目を落とす。
今日はグリフィンドールとスリザリンのクラスか。
「出席を取るわ。呼ばれた者は返事をするように」
私はなるべく緊張を表に出さないようにしながら名簿を上から読み上げていく。
知っている名前が三人ほど見受けられたが、どうやらあの純血三人組は無事組分けを受けれたらしい。
私は生徒が全員揃っていることを確認すると、一度ぐるりと生徒たちを見回す。
そして一呼吸置いたのちに静かに口を開いた。
「まずは入学おめでとう。そして、災難だったわね。こんな年に入学してしまうなんて。初めまして、サクヤ・ホワイトよ」
クラスにいる生徒たちは皆黙って私の顔を見つめている。
マグル育ちの生徒以外は、新聞などで少なからず私の顔を見たことがあるはずだ。
「私が今ここに立って魔法薬学の授業を受け持っているのは私としても予想外の事態ではあるんだけど……まあ文句は生徒を置いて逃走した魔法薬学の教師に言ってちょうだい」
と、前置きはこんなところだろうか。
私は一度肩を竦めて見せると、優しげな笑顔を浮かべながら言った。
「でもまあ、引き受けたからには、しっかり授業は行うわ。貴方達には、この一年で魔法薬学という分野の基礎を学んで貰う。この授業では杖を振って呪文を唱えたりはしない。どちらかと言えば、お料理教室に近いかしら。はい、お料理好きな人?」
私の問いかけに、恐る恐る手を挙げる女子が何名か手を挙げる。
私はその生徒たちに対して笑顔で頷きながら言った。
「きっと良い薬師になるわ。そうねぇ、イメージが掴みにくいと思うから、まずは簡単な実演からいきましょうか」
私が一年生の時に一番最初に受けた授業では、おできを治す薬を調合した。
それに倣ってこの授業でもその薬を作らせる予定ではあるが、その前に生徒の心を掴むのに時間を使ってもいいだろう。
私は薬棚から魔法薬の材料をかき集めると、目分量で取り分けて試験管の中に放り込む。
そして火にかけていた大鍋からお湯を掬い、試験管の中に注いだ。
「さて、何が出来ると思う?」
試験管にコルク栓をし、数回振るう。
これで、魔法薬は完成だ。
私は中身が黄緑色に変色した試験管を試験管立てに置き、コルク栓を抜く。
そしてクラスを見回し、比較的背の高い男子生徒へと近づいた。
「えっと……な、なにか……?」
私は硬直して動けずにいる男子生徒の髪の毛に手櫛を通す。
「髪の毛一本貰うわよ」
そして指の間に絡んだ髪の毛の一本を教卓へと持ち帰り、試験管の中に入れた。
「これで完成。飲んでみたい人?」
私は教室中を見回すが、当然返事をする生徒はいない。
分かりきっていることではある。
だからこそ、私と比較的背の近い男子生徒を選んだというのはあるが。
私は髪の毛が完全に溶けたことを確認してから試験管に口をつけ、一気に飲み干す。
その瞬間私の身体はぐにゃりと変形し、十秒も掛からないうちに男子生徒の姿へと変化した。
これは、パチュリー・ノーレッジの書籍に記載されていたポリジュース薬のレシピだ。
既存のレシピとは裏腹に、どこででも手に入るような材料を適当に組み合わせるだけで完成する。
まったくもってふざけたレシピだが、試験管の中で行われていることを説明しようとすると途端に高度な知識が必要になる。
だが、ここにいる生徒たちにそれを理解させる必要はない。
ただなんとなく、なんか凄いと思わせることができればそれでいいのだ。
私は耳たぶを引っ張り、元の姿に戻る。
そして、憧れと好奇心、そして少しの怯えの色が見える生徒たちに向かって言った。
「もっとも、このレシピは今世紀で最も優れた知識を持つ魔女が完成させたかなり特殊なもの。今の貴方達では何が起こったのかすら理解できないでしょう。でも──」
私は一呼吸置き、生徒たちに言った。
「七年間、真面目に授業に取り組めば、魔法薬学の真髄……その入り口までは辿り着けるかもね」
さて、掴みはこんなものだろう。
私はチョークを握り、黒板に今日調合するおできを治す薬の材料とレシピを書き込んでいく。
その後、簡単に秤やナイフなどの道具の使い方を教え、あとは自由に調合させることにした。
生徒たちは黒板や教科書を見ながら少しずつ魔法薬の調合を進めていく。
そんな中、どうすればいいかわからないと言った様子でオロオロと周囲を見回す生徒が三人ほどいた。
私たちがホグワーツ特急の中で変装したソフィア、ジェシカ、スカーレットの三人だ。
三人ともスリザリンの制服を着ており、三人固まってまっさらな机を囲んでいた。
「あ、そうか」
彼らの教科書や大鍋は私たちが窓の外に捨ててしまったんだったか。
「ソフィア・ロウル、ジェシカ・パーキンソン、スカーレット・フロント。三人とも前に来なさい」
私が名前を呼ぶと、三人はギクリと肩を震わせ、三人ピッタリ固まった状態で教卓の前へと歩いてくる。
そしてもじもじとしながらジェシカが口を開いた。
「あの、先生……私たち気がついたらトランクの中が空で……」
「でしょうね。私が窓の外に中身を捨てたもの」
私はそのまま三人を教卓の前で待たせると、教室の裏にある準備室から予備の教科書と道具の一式を取り出す。
そして、三人に一人ずつ貸し与えた。
「学用品は改めて手配するから、しばらくこれを使ってなさい」
「あ、ありがとうございます」
三人は鍋の中に教科書と道具を放り込み、逃げるように自分の机へと戻っていく。
美鈴に彼女ら三人の学用品の手配も頼まなければならないだろう。
ホグズミードで全て手に入ればいいが、そうでなかったら外部に手配する必要がある。
「それは少しリスクだなぁ……」
可能な限り外部から人や物資を入れたくはない。
私はため息を吐きつつ、生徒たちの悪戦苦闘を見守った。
設定や用語解説
純血三人組
トランクの中から救出され、無事組分けを受けることが出来た。全員閉所恐怖症に陥った。
パチュリー・ノーレッジの変身薬
ポリジュース薬と効果が似ているだけで中身は全くの別物。サクヤ曰く、ふざけたレシピ。
Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
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