P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
フランドールがホグワーツを占拠して一週間ほどが経過した。
今のところ魔法省からのアクションは無く、日刊予言者新聞にもホグワーツのことは報道されていない。
だが、間違いなく今のホグワーツの現状を魔法省は認識しているはずだ。
ホワイトには逃げられているし、歴代校長の肖像画を通じて魔法省にはこちらの要求を伝えている。
きっと今頃魔法省の会議室では昼も夜もなく終わらない対策会議が繰り広げられていることだろう。
まあ、それに関しては向こうの出方を待つばかりだ。
生徒を人質に取っている現状、レミリアやパチュリーも強硬手段は取りにくいはずである。
私は自室のベッドに腰掛けながら生徒が執筆したレポートに目を通す。
結局私は以前までホワイトが使っていた部屋をそのまま使うことにした。
ここには魔法薬学の授業に必要な資料はあらかた残っているし、何よりホワイトが残していった生活用品をそのまま使用できる。
何かしらの罠が張られている可能性も否定できないが、自分の生活スペースに罠を張るような性格には見えない。
安全装置が掛かっているとはいえ、常に銃口を突きつけられた状態で生活を送りたいものがいないのと同じだ。
私はレポートの評価を羊皮紙にメモすると、レポートの束をまとめて紐で縛り机の上に放り投げる。
そして一度ベッドに寝転がったあと、とあることを思い出し、ぴょんと跳ね起きた。
「そうだ。ダンブルドアの肖像画」
私は簡単に身支度を済ませ、洋服の上から白いローブを着込む。
そしてダンブルドアの肖像画と話すために校長室へと向かった。
「舌なし同士の指切りげんまん」
ガーゴイル像に合言葉を唱え、私は校長室へと上がる。
ちなみに外部との連絡手段を極力断つため、校長室の合言葉は私の他には美鈴にしか教えていないとフランドールは言っていた。
私は重厚な樫の扉を数回ノックし、フランドールが在室しているかを確かめる。
返事はない。寝室は別に用意されているため、そっちにいるのかもしれない。
「お邪魔しますよっと」
私は校長室の扉をそっと開け、中へと入る。
そして室内をぐるりと見回し誰もいないことを確かめると、歴代校長の肖像画が掛けられている部屋へと移動した。
本来ならば校長の肖像画は校長室内に飾られているが、フランドールの指示で全部別室へと移動させられたのだ。
肖像画の中にいる歴代校長たちは、私を見下ろしてすぐにヒソヒソ話を始める。
私はそんな校長たちを尻目にダンブルドアの肖像画へと近づいた。
ダンブルドアは額縁の中でスヤスヤと寝息を立てている。
「ちょっとツラ貸しなさい」
私はダンブルドアの肖像画を壁から取り外し、肖像画の掛けられている部屋から出る。
そして校長用の椅子に腰掛け、額縁を何度か叩いた。
「ほら、起きなさい嘘つきボケ老人」
ダンブルドアは軽く眉を顰めると、うっすら右目を開けてすぐに閉じる。
どうやら起きてはいるようだ。
「聞きたいことがあるの。起きなさいってば」
「お主自分が殺した相手に対して厚かましすぎやせんか?」
肖像画の中のダンブルドアは目を瞑ったままボソリと言う。
「なによ。先に私を騙して利用したのは貴方でしょ! ダンブルドア、あなたには説明する責任があるわ」
「わしの話に耳を傾けることなく殺したのはどこのどいつじゃったか」
ダンブルドアは目を開け、大きな欠伸を一つする。
私はダンブルドアの肖像画を机の上に立てかけ、大きなため息をついた。
「ダンブルドア、貴方は少なからず私の出生の秘密について知っているはず。少なくとも、貴方はあの孤児院に魔法使いの子供が住んでいることを知っていた」
私が本当に隠された子供だったら、そもそもホグワーツの入学案内など届かないはずだ。
「ふむ、着眼点は悪くないのう。そして、自分の出生に関することをわしに聞きにくるという選択肢も正しいと言えるじゃろう」
ダンブルドアは何度か頷き、改めて私の顔を見る。
そして、いつになく真剣な眼差しで言った。
「一九八一年、わしはセレネ・ブラックを名乗る人物から手紙を受け取っておる」
「セレネ・ブラックから手紙を?」
「そうじゃ。どうか私たち親子を保護してほしいと」
「それはいつ頃?」
その手紙がどのタイミングで届いたのかによって話はだいぶ変わってくる。
「ヴォルデモート卿が滅んですぐのことじゃな」
「自分の陣営が敗れたから、自分たちだけは助かろうとダンブルドアに助けを求めた……という都合のいい話、ではないんでしょうね」
「今となってはわからん。セレネからの手紙は、セレネが死亡したという報告とほぼ同時にわしのもとに届いた。わしはすぐに確認を取った。近くに赤子はいなかったかと」
セレネはロングボトム夫妻に殺されたという話だ。
もしその時セレネが赤子を抱えていたとしたら、ロングボトム夫妻は流石に保護するはずだ。
「答えは否じゃった。セレネは子供を連れてはいなかった」
「そこで話は終わり……というわけではないんでしょう?」
「そうじゃな。当然わしはセレネの子供を探した。親であるセレネは道を踏み外してしもうたかもしれんが、子に罪はない。なんとしても保護しなければと」
「……私はすぐに見つかったの?」
ダンブルドアは少し目を細める。
「わしがお主を見つけたのは、お主がプライマリースクールを卒業する丁度一年ほど前のことじゃ。その頃のわしは既にセレネの子供は死んでいるものだと考えておった」
「私を見つけたのは偶然ということ?」
「偶然……そうじゃな、偶然というほかない。お主を初めて見たのはロンドンの大通りじゃ。真っ白な髪に透き通るような肌、青い瞳。この子がセレネの娘に違いないとわしは直感的に察した」
「重要なのはその後……私を見つけた貴方はその後どうしたの?」
「勿論。その素性を探った。その子供が本当にセレネの娘なのか。一体どこで暮らしているのかと。まだ一人で生きていけるような歳ではない。必ずどこかで世話になっておるはずじゃと」
私は一度校長室の出入り口である樫の扉を見る。
まだフランドールが帰ってきそうな気配はない。
「その結果、その子が孤児院で暮らしていることがわかった。ウール孤児院。ロンドンに昔からある孤児院じゃ。わしはすぐに孤児院を訪ね、孤児院の院長に話を聞いた。実はその時一度会っておるのじゃが、覚えとらんじゃろうな」
「こんな特徴的な髭面、一度見たら忘れないと思いますけど……」
「変装しておったからな。わし」
そりゃ覚えてるはずない。
「その時、院長はなんて?」
「子供の名前はサクヤ・ホワイト。赤子の頃に孤児院で保護し、院長自らが名前をつけたと。その時お主から感じ取った魔力と保護された時期、容姿からみて、お主がセレネの娘であることは自明じゃった。わしはすぐに察した。逃亡中のセレネが子供を孤児院に預けたのじゃと」
肖像画の中でダンブルドアの瞳がキラリと光る。
「わしはすぐにお主の名前を魔法省へ登録し、入学手続きを進めた。お主を残して命を落としたセレネとの約束……いや、約束の体は成しておらなんだが、子供を保護してほしいという母親の願いを無下にするわけにはいかん。子に罪はない。セレネは道を踏み外してしまったが、その子供はわしがきっと一人前の魔法使いにしてみせると──」
「余計なお世話よ」
「どうやらそうだったようじゃな。結局、お主も母親と同じように道を踏み外した」
「──ッ、誰のせいだと……」
いや、これに関してはダンブルドアに当たるのは良くないか。
私は小さく深呼吸をし、改めてダンブルドアに聞く。
「貴方が孤児院を訪れた時、セシリアは何か言っていた?」
「セシリア……孤児院に一人いた女性職員のことかの?」
この様子じゃ、セシリアがホワイトでありセレネ・ブラックであるということには気が付いていないか。
どうやらホワイトはかなり巧妙に自分の身を偽装していたようだ。
「いえ、覚えてないならいいのよ」
そこから先は、私が記憶している通りだろう。
ホグワーツからの手紙が届き、マクゴナガルが孤児院へ……。
今思えば何もかもが懐かしい。
私はダンブルドアの肖像画を持ち上げると、肖像画の掛けられている部屋へと移動する。
そして元の位置へと掛け直した。
「聞きたかったことは聞けたし、私はもう帰るわ」
「そうかそうか。どのような経緯であれ、子供たちの将来に関わる身となった以上──」
「お説教は聞きたくないわ。じゃあね」
私は踵を返し、肖像画の部屋を出る。
そしてキッチリと扉を閉め、校長室を後にした。
結局のところ、ダンブルドアは私の出生に関してはそれほど詳しくないことがわかった。
まあ、それもそうだ。
セシリアが自室に残した姿をくらますキャビネット、レイセンが残した日記帳、ホワイトが研究室に残した蓬莱の薬の研究資料。
これらの情報をパズルのように組み合わせ、私たちはホワイト……そしてセレネ・ブラックの正体を突き止めることができた。
逆に言えばそのどれもない状態から私たちと同じ結論に達することは不可能だと言えるだろう。
十月に入ってようやく日刊予言者新聞にホグワーツが何者かにより占拠されているという記事が掲載された。
魔法省にはしっかりこちらの名前と目的は伝えているが、記事には掲載されていない。
きっとレミリアが魔法省や新聞社に圧力をかけ、情報が拡散しないようにしたに違いない。
「現状、ホグワーツを占拠している何者かの目的はわかっておらず、闇祓い局が中心となり慎重に情報を探っている……か。こんなんで生徒の保護者は納得するんですかね?」
私の右隣で朝食を食べていた美鈴は楽しげに反対側に座っているフリットウィックに話しかける。
流石に一ヶ月も一緒に暮らしてきて私たちの存在にも慣れてきたのか、フリットウィックは紅茶のカップ片手に答えた。
「納得せんでしょうなぁ。では、こういうのはどうです? フクロウ便を手紙に限って解禁するというのは」
「あー、確かにそれはいいかもしれませんね。親御さんも安心するでしょうし」
「いや、安心させてどうするんですか」
でもまあ、悪い話ばかりではない。
現状ホグワーツから外部に連絡する手段は校長室にある歴代校長の肖像画だけだ。
故に、今のホグワーツの現状はどうしても魔法省のフィルターが掛かった情報しか世間に出回らない。
魔法省はかなり頑固な組織だ。
世論が動かなければ要求に応じることはないだろう。
「で、そこらへんどう思います?」
私は美鈴とは反対側の左隣に座っているフランドールに尋ねる。
フランドールは私から新聞をひったくると、むむむと軽く唸った。
「魔法省が徹底的にホグワーツの現状を隠そうとするのなら、確かにそれはありかもね」
勿論、こちらが背負うリスクも大きい。
フクロウに紛れてレミリアやパチュリーが入ってくる可能性もあるし、それによって今こちらが有している優位が崩れるかもしれない。
だが、フランドールはどこかそれを望んでいるようにも見える。
「解禁しちゃうか。フクロウ便」
「おお、言ってみるものですな!」
「でも、流石に検閲はしっかりやるわよ。手紙は美鈴が全部回収して、検閲してからまとめてホグズミードの郵便局に出す。保護者からの手紙も同様。一度ホグズミードの郵便局に集めて、美鈴が安全なものかを確認してから生徒へ渡す」
「十分ですとも。ね、マクゴナガル先生」
「私としてもどうにか生徒の無事を保護者の皆様にお伝えしたいと思っていたところです」
マクゴナガルは朝食のベーコンを切り分けながら言う。
そんなマクゴナガルを見て、フランドールは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「あら、いいのかしらぁ? 魔法省やお姉様は必死にホグワーツの現状を隠そうとしてるみたいだけど」
「私は魔法省の人間でも、レミリア・スカーレットの部下でもありません」
だからまあ、そんな政治的思惑よりも生徒の精神安定の方が重要ということか。
「ここ一ヶ月生活を共にして貴方という吸血鬼の人となりもわかってきました。そして、生徒に危害を加えるつもりがさらさらないということも」
「それは心外だわ。やるときはやる女よ、私は」
フランドールはそう言うが、確かにフランドールは生徒を害することはしていない。
むしろ、フランドールも美鈴も生徒からは好かれているように見える。
ストックホルム症候群なだけかもしれないが。
「フランさんが新しく定めた暴力行為を罰しないっていう校則も、結局形だけみたいになってますしね」
少なくともこの一ヶ月、大きな暴力沙汰は起きていない。
起こったとしても、生徒同士の軽い喧嘩程度だ。
その程度なら、校則ができる前から度々起こっていた。
「いくら校則で許されているからって、人間そうそう暴力なんて振るわないのよ。それに、校則で守られないからどのような報復があるかもわからないし」
結局のところ、今のホグワーツではそれ相応の覚悟がないと人は人に暴力を振るえない。
フランドールがそこまで考えてこの校則を作ったとは思えないが、現状上手く機能しているように見えた。
「ま、とりあえず手紙については許可するわ。美鈴は各寮の監督生に手紙の回収要領と配布要領を指示すること。頻度は週に一回。日曜の朝回収で」
「了解です!」
これで来週の頭には魔法界中にホグワーツの現状が知れ渡ることになる。
それが私たちにとっていい方に転ぶか悪い方に転ぶかはわからないが、現状が動き出すことは確かだろう。
設定や用語解説
歴代校長の肖像画
本来ならば校長室に直接掛けられているが、フランドールが校長に就任したことで別室に押し込まれた。
彼らは生前の記憶を有しているが魂が乗り移っているわけではないので、同じ記憶を持つ他人でしかない。
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