P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
「トムは、貴方を覚えていなかった。肉体を失った影響で、記憶の一部も失なっていたの」
「私のことを覚えていなかった……?」
私の横に座るホワイトは小さく頷く。
「あの時、トムは肉体を失っていて非常に希薄な存在だった。きっとそのせいで記憶を失っていたのだと思うわ」
「そして、肉体が復活したことで、私のことを思い出した……」
「実感が持てたのはその頃じゃないかしら。少なくとも、私がその話をした時は全く信じていなかった。ただあなたが時間停止の能力を持っていることだけは知っていたから、なんとかして味方に引き込もうとはしていたけど」
本来ヴォルデモートは私ではなくハリーをあの墓地へと連れてくる計画だったらしい。
それがパチュリー・ノーレッジの干渉で私が代表選手に選ばれてしまい、仕方なく私を墓地に引き込み私の血を使って復活したとヴォルデモートは言っていた。
「トムは私のことも警戒していたわ。裏切り者だと思っていたのでしょうね。トムは、私をそばに置きたがらなかった。まあ、その気持ちもわからなくはないわ。敵か味方かもわからないのに、自分よりも力を持っている魔法使いを側には置きたがらないでしょう? あの時のトムは存在もかなり希薄だったし。私は、あなたのことを伝えてすぐにその場を去ったわ」
「そのあとは? 小悪魔としてレミリアの側に仕え始めるのは一年以上先の話でしょ?」
「一度ロンドンに戻ってレミリアとパチュリーの居場所を探り始めたわ。二人が裏でつながっているというのは二人が揃って対抗試合の審査員に抜擢されたことでほぼ確定したし、二人がロンドンを離れてホグワーツに出向いている隙をついて色々調査させてもらったの」
確かにあの年はレミリアとパチュリー、それに美鈴やシリウスも揃ってホグワーツにいることが多かった。
紅魔館の場所を探るにはそれ以上の機会はないだろう。
「死の予言からあなたが卒業するまではレミリアがあなたに手出ししないことはわかってたし、それまでに交渉してあなたのことを諦めてもらおうと思ってた。でも、あなたがハリーとシリウス兄さんを殺したことで事情が大きく変わった」
ホワイトは真剣な表情を私に向ける。
「あなたは、彼女の身内を、シリウス・ブラックを殺した。レミリア・スカーレットという存在はね、相当身内を大切にする。それこそ、報復としてすぐに殺されても不思議ではなかった。私はそれに危機感を覚え、すぐにレミリアと接触したわ。自分という存在を晒し、直接交渉を呼び掛けた」
シリウス・ブラックが死んだタイミングでホワイトが紅魔館を訪れたと美鈴も言っていた。
「そして、あなたの身柄の確保と引き換えに私はレミリアに協力することになったってわけ。レミリアの目的はフランドールや美鈴から聞いてる?」
ホワイトの問いに私は頷く。
「レミリアはイギリス魔法界のトップに立とうとしていると」
「そうね。そのために彼女はダンブルドアとトム・リドル……ヴォルデモート卿の両方を排除しようとした」
「お母さんは、それに協力していたのよね? でも、どうして? 私を助けるために自らの伴侶を手にかけるようなことを……」
ホワイトは少し目を細める。
そして、一瞬躊躇うような仕草を見せた後、少しだけ声を潜めて言った。
「紅魔館であなたを捕まえ損ねた時、レミリアはあなたに計画の全容を話していたけど、あれは当初の計画ではないわ」
「当初の計画じゃない?」
「そう。当初の計画では、ダンブルドアもトムも殺すつもりはなかった」
「え?」
ダンブルドアもヴォルデモートも殺すつもりがなかった?
「でも、いや、じゃあ、どうして……」
もしも、レミリアの計画にダンブルドアとヴォルデモートの死が組み込まれていなかったとしたら。
それで、レミリアの計画が成り立つのか……?
いや、成り立つ。
杖腕と魔力を奪った時点で魔法使いとしてのアルバス・ダンブルドアは死んだ。
そこに残るは権威だけであり、レミリア自身もダンブルドアが隠居するように働きかけていた。
そしてヴォルデモートの方も、レミリア、パチュリー、ホワイトの三人が手を組めば殺さずに捕えることなど造作もないだろう。
だったら……だとしたら……
「もしかして、私のせい? 私が、ヴォルデモートとダンブルドアを殺したから……?」
その問いに、ホワイトは答えない。
だが、その痛いほどの沈黙が、私の問いが真実であることを何よりも物語っていた。
「ほんとはね……」
数分の沈黙の末、ホワイトが呟く。
「トムが死んだところで全てを終わらせるつもりだったの。そりゃ当初の計画ほどではないけど、レミリアにはホグワーツの防衛という功績が残った。私も最愛の娘だけは守れそうだった。レミリアはこの戦いで得た名声を武器に、少しずつ魔法界の実権を握るつもりだった」
美鈴の言葉が思い出される。
美鈴は私が何かしない限り、レミリアは何もしないと私に忠告してくれた。
レミリアは、本当にあそこで終わりにしようとしていたのだろう。
だけど……ええ、わかってる。
その状況を壊したのは私だ。
「でも、そこで話は終わらなかった」
ホワイトは真っ直ぐ正面を見つめながら言葉を続ける。
「今の状況を引き起こしたのは、ダンブルドアとフランドールよ」
「そう、私が……って、え?」
「だってそうでしょう? 実の母親である私が生きているのに、クラウチを父親に仕立てあげようだなんて。余計なお世話もいいところだわ。ダンブルドアの人を馬鹿にするような嘘と、フランドールの魔力の狂気。その二つが重なったことで、あの惨状は出来上がったと言わざるを得ない」
ホワイトは真っ直ぐな視線を私に向けてくる。
「サクヤ……あなたは何も悪くないわ。あなたは、本来被害者なの」
「私が……でも、私は──」
「あなたは悪くない。だから、あなたが気に病むことなんて何もないのよ」
私は……私は本当に悪くないのか?
確かに悪意を持って何かをしたことは一度もない気がする。
私はいつだって自らの平穏を求めてきた。
その結果、私の周りに死体が積み重なっただけで……
「あなたがクラウチとダンブルドアを殺して逃亡したことで、再びレミリアの計画が動き出した。このままではサクヤがフランドールの魔力の狂気に犯されて、化け物へと変貌してしまう。そうなる前に止める必要があった。そして、あの手この手でようやくあなたを捕まえたところで──」
「美鈴とフランドールの裏切り……」
「そう。あの二人はあなたを攫って逃げてしまった。その理由自体は二人から聞いてる?」
「美鈴は自らの欲望のために。フランドールは……姉に構って欲しかったから?」
ざっくりと要約するとそのような内容だったはずだ。
「あの二人は勢いと能力に任せて行き当たりばったりに魔法界を支配しようとしている。そんなの上手く行くはずないわ。それはサクヤも感じているでしょう?」
まあ、計画に無茶があるんじゃないかというのは私も少し思っている。
フランドールはいつも思いつきで行動しているようにしか見えない。
美鈴はただそれに付き従っているだけで、自ら何かを提案することはあまりない。
子供のおままごとと言われてしまえば、まあその通りだろう。
「このままでは魔法界は確実に滅ぶわ。そうなる前に、あの二人を止めないといけない。あの二人についていってもその先にあるのは破滅だけよ」
「それは……」
「サクヤ」
ホワイトは、私を真剣な顔でじっと見つめる。
「そもそも、あの二人に付き従う必要なんて何もないはずよ」
「でも、レミリアから逃げないと私の命が──」
「馬鹿ねぇ。私がどういう理由でレミリアと手を組んでいるのか忘れたの?」
ホワイトがレミリアと手を組んでいる理由……。
それは私の身を守るため──
「え? あ、え? それじゃあ、私は別に──」
「そう。レミリアはあなたを殺そうとだなんてしてないわ。そりゃ、サクヤちゃんは殺人犯として指名手配されているから表向きは逮捕したことにしないといけないけど、実際に牢屋に閉じ込めておくようなことにはならない。姿を変えて私と一緒に旅に出てもいいし、私みたいにレミリアの従者となって紅魔館に仕えるのもいいかしらね。パチュリーも新しい助手を欲しがっていたし」
レミリアやホワイトが私の命を狙っていないなら、確かにフランドールや美鈴と行動を共にする必要はない。
レミリア陣営に寝返ってしまった方が確実に安全だ。
フランドールの能力は確かに脅威ではあるが、レミリアとパチュリー、ホワイト、そして私の時間操作の能力と正面から張り合えるほどとは思えない。
「サクヤ、貴方はもう逃げる必要なんてないの。大丈夫、私が全部なんとかしてあげる」
「あの……うん。でも──」
「二人を裏切るのに抵抗がある? 大丈夫よ。レミリアは身内には甘々だから。フランドールはきっとお咎めなし。美鈴は多少お灸を据えられるかもしれないけど、それはいつものことだわ」
それならまあ、いいか。
レミリアが私の命を狙っていないのなら、逃げ続ける理由などどこにもない。
むしろ、保護してもらえるなら願ったり叶ったりだ。
それに時間操作の能力が戻ったのなら多少なりとも交渉の余地もあるだろう。
「うん、わかった」
「いい子ね」
ホワイトは私の肩をそっと抱く。
そしてベッドから立ち上がると、私の手を握りながら言った。
「じゃあ行きましょうか」
「え、今すぐ?」
「今すぐよ。裏切りの意思を抱いたままフランドールに会わない方がいい。開心術ほどではないにしろ、彼女も人の心を読むのが上手だから」
まあ、リスクがあるのは確かか。
私は一度手を離し、改めてホワイトの時間停止を解除する。
そして机の横に立てかけていた鞄を手に取った。
私の持ち物は全てこの中に入っている。
これさえ持ち出せば困ることはないだろう。
「準備はいい?」
「うん、大丈夫」
ホワイトは改めて私の方に左手を差し出す。
私は差し出された左手を見て、ホワイトも私と同じ左利きなのだと少し嬉しく感じると、自分の左手をそっと重ねた。
その瞬間、私の体が虚空へと落ちる。
この感覚は姿現しではない。
きっとパチュリーの瞬間移動魔法だ。
一瞬の無重力。
その後すぐに私の体は地面へと引っ張られる。
そして気がついた時には私は薄暗い部屋の中に立っていた。
「さて、到着。もう時間停止を解除していいわよ」
ホワイトに言われ、私は時間停止を解除する。
その瞬間部屋の中に明かりが灯り、周囲を明るく照らした。
私は部屋の内装を軽く見回す。
きっと、この部屋はホワイトの私室だ。
家具の配置や種類がホグワーツのホワイトの私室によく似ている。
ホワイトは机の上に置かれている置き時計を一度覗き込むと、羽織っていたローブを脱いで椅子に掛けた。
「それじゃレミリアに挨拶に行きましょうか」
「え……大丈夫ですかね?」
レミリアとは何度か殺し合った仲だ。
対面した瞬間物理的に首を飛ばされるようなことになったら笑い話では済まない。
無意識に左手で拳銃を触るが、このようなおもちゃでは傷を与えることすら出来ないだろう。
そんな私の心境を察したのか、ホワイトは私の肩に手を置く。
「大丈夫よ」
「……うん、わかってる」
私は拳銃から手を離す。
そして、ホワイトの後に続いて部屋の外へと出た。
部屋の外は赤色を基調とした薄暗い廊下だった。
窓は少なく、あったとしてもカーテンでしっかりと日光が遮られている。
そして壁際にはガス灯と思わしき明かりが点々と灯っていた。
私はこの廊下を過去に二度通ったことがある。
一度目はダンブルドアと共に、そして二度目は逃走経路として。
これが三度目。
「ついてらっしゃい」
ホワイトは私を先導するように廊下を進む。
私はホワイトの後ろにピッタリとつくように歩きながらホワイトに聞いた。
「今、レミリアは?」
「流石に起きてると思うわ。でも、最近生活習慣が乱れてきてるからちょっと確証がない」
「昼夜逆転してる時点で生活習慣もなにもないとは思いますけどね」
「それがね、最近は夜型の生活に戻りつつあるわ。不死鳥の騎士団のメンバーの大半はホグワーツにいるし、魔法省ともそこまで頻繁に連絡を取っているわけでもない──と、ここよ」
ホワイトは廊下を突き当たりまで進み、目の前にある扉をノックする。
「私よ。レミリア起きてる?」
「起きてるわ」
扉越しにレミリアの声が聞こえてくる。
ホワイトは先ほどのレミリアの返事を入室許可だと判断したのか、ドアノブを回して中に入った。
扉を開けた先は先ほどのホワイトの部屋と比べてかなり広い空間が広がっており、その部屋の壁際中央に大きな書斎机が置かれている。
そして、レミリアはその書斎机の上で大量の書類を片付けていた。
「一体何の用? 見ての通りかなり忙しいからどうでもいい用事だったら承知しない──」
レミリアは万年筆を忙しなく走らせながらチラリと私たちの方を見る。
そして、そのままの体勢で固まった。
「じゃじゃーん。サクヤちゃんが仲間になりましたー!」
ホワイトが私の肩を抱き、イタズラっぽい笑顔でレミリアにそう報告する。
レミリアはホワイトと私の顔を交互に見て、大きなため息をついた。
設定や用語解説
レミリアに拳銃
例え時間を停止させてゼロ距離で撃ったとしても、ちょっと痛いぐらい
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活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。