P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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姉妹愛と東の秘境と私

「じゃじゃーん。サクヤちゃんが仲間になりましたー!」

 

 ホワイトが私の肩を抱き、イタズラっぽい笑顔でレミリアにそう報告する。

 レミリアはホワイトと私の顔を交互に見て、大きなため息をついた。

 

「おい、宇宙人。何がどうなってそうなったのか説明しろ」

 

 レミリアは万年筆のキャップを締め、椅子から立ち上がる。

 ホワイトは私を体の陰に隠すように一歩前に出た。

 

「ホグワーツに本を送ったって言ったじゃない。聞いてなかったの?」

 

「聞いてたわよ。でも本を送ったのは昨日の夜。それがどう転んだらそうなるのよ」

 

「だから言ったじゃない。サクヤは優秀だって」

 

 レミリアは私たちの目の前まで歩いてくると、値踏みするように私の顔を見る。

 そして、私に対して右手を差し出した。

 

「よろしく」

 

 私は差し出された右手に一瞬視線を落とすと、そっとレミリアの手を握り返す。

 レミリアはもう逃さないと言わんばかりに力強く私の手を握った。

 

「とりあえず、お茶にしましょうか。ホワイトがどう唆して貴方を連れてきたかも知りたいし」

 

 レミリアは握手している右手を左手に持ち替え、手を繋いだまま私をテーブル近くまで引っ張っていく。

 私は素直にそれに従い、レミリアに促されるままに椅子に座った。

 レミリアは椅子を私の横へと移動させ、手を繋いだまま隣に座る。

 側から見たら気味が悪いほどに仲良しに見えるだろうが、きっと時間操作対策だ。

 

「小悪魔、お茶」

 

「はいはーい」

 

 ホワイトは部屋の隅にあるティーセットに魔法をかけ、紅茶の準備を始める。

 私とレミリアはしばらくの間無言で手を繋いでいたが、やがてレミリアの方から口を開いた。

 

「ホワイトからはどこまで?」

 

「お母さんが私を保護しようとしてた……とか、ダンブルドアを殺すつもりはなかった……とか」

 

「つまりは全部ってわけか。ほんと口が軽いんだから」

 

 レミリアは空いている方の手で軽く眉間を押さえる。

 私は少し疲れた様子のレミリアを横目で見ながら、相手を刺激しないように慎重に聞いた。

 

「あの……お母さんの話では──」

 

「身の安全は保証するからこっちにつきなさいって言われたんでしょ?」

 

「……ええ、そうです」

 

 レミリアの態度から察するに、ここまで早い展開は予想していなかったらしい。

 まあでも、考えてみればそうか。

 あの本が私の元に届くかすら曖昧な状況で、私とホワイトが接触する時期など読めるはずもない。

 レミリアは私と繋いでいる手をもぞりと動かすと、お茶の準備をしているホワイトのほうに視線を向けたまま言った。

 

「そうね。ここらで仲直りしときましょうか。正直、もうあなたどころじゃないのよ、こっちは。妹が馬鹿したおかげでね」

 

「フランドールさんは──」

 

「わかってる。結局のところあの子は私と一緒に遊びたかったんだわ」

 

「一緒に遊びたかったにしては、やったことがやったことですけどね。ホグワーツの占領は比較的穏便に進みましたけど、その前には魔法省を破壊してますし」

 

 レミリアは魔法省という単語を聞いて、大きなため息をつく。

 

「正直その件に関してはもう手に負えない。貴方の協力があればフランドールはすぐにでも捕らえることができる。でもそしたら今度こそフランドールを一生幽閉することになるわ。それは、私の望む未来じゃない」

 

「私の望む未来?」

 

「そもそもなんで私がイギリス魔法界の実権を握ろうとしているかわかるかしら?」

 

 その言い方から察するに支配欲ではないのだろう。

 魔法界での地位向上……いや、レミリアはすでに魔法界でかなりの地位を確立している。

 私が頭を捻っていると、レミリアはどこか遠くを見ながら言った。

 

「あの子のためよ」

 

「あの子って……フランドールさん?」

 

「そう。外の世界が吸血鬼にとっての理想郷になったら、あの子も外に出てきてくれるかもしれない。なんて、考えていたんだけど……」

 

 その世界が実現する前に、フランドールは外の世界に飛び出した。

 

「ほんと、人生って上手くいかないものよね。私は人間じゃないけど」

 

「それじゃあ、レミリアさんはずっとフランドールさんのために?」

 

 レミリアは答えない。

 だが、レミリアの表情を見ればその答えは明らかだった。

 私は右手にレミリアの体温を感じながら、改めてレミリアに問う。

 

「仮に私が協力して、ホグワーツをフランドールさんから解放したら、その後どうするんです? やっぱり魔法大臣に?」 

 

「いや、もう普通に無理でしょ。フランの一件で吸血鬼に抱く心象はかなり悪くなった。私が築き上げてきたものが魔法省の建物と共に大爆発よ。仮に無理矢理魔法大臣に就任しても、人の心はついてこない。それに──」

 

 魔法界と関わり合うなら、フランドールを幽閉しないといけない。

 レミリアは口には出さなかったが、きっと後に続く言葉はそれだ。

 

「それじゃあ……」

 

「移住しようと思ってて」

 

「移住?」

 

「そう」

 

「どこへ?」

 

「ここじゃないどこか遠くへ」

 

 曖昧な答えだ。

 だが、きっともう候補地は決まっている。

 レミリア・スカーレットというのはそういう吸血鬼だ。

 レミリアはホワイトに向けていた視線を私に向ける。

 

「一緒に来る?」

 

 そして、長年連れ添った友人に冗談でも飛ばすかのように言った。 

 

 

 

 

 

 レミリアと一番初めに会ったのはロンドンにある魔法使いのパブ、漏れ鍋の店の中だった。

 いや、会ったというのは語弊がある。

 正確には、チラリと姿を見かけただけだ。

 面と向かって話したのは二年生の学期初め。

 私が煙突飛行に失敗し、トレローニー先生の妹が経営する占い用品店に迷い込んだ時だ。

 

「死の予言はもういいんです?」

 

 私はその時のことを思い出しながら茶化すように言う。

 

「そんな予言したっけ? 聞き間違いじゃない?」

 

「あなたって人はほんと……まあ私からしたら助かるんでいいですけど」

 

「言ったでしょ? それどころじゃないって。あなたに死の予言をしたことなんてどうせみんなもう忘れてるわよ」

 

 レミリアはそう言って肩を竦める。

 その時、ティーセット一式が滑るように空中を浮遊し、私たちのテーブルの上へと着地した。

 

「お茶が入りましたよ。お嬢様」

 

「はいはいご苦労様。それじゃ、ホグワーツ奪還作戦の打ち合わせをしにいきましょうか」

 

 レミリアはホワイトの淹れた紅茶を無視して椅子から立ち上がる。

 そして私の右手を引き、そのまま部屋の外へ向かって歩き始めた。

 

「あの、お茶は……」

 

「あまり時間は残されていないわ。そろそろフランもサクヤがいないことに気がついたでしょうし」

 

「あ、じゃあ一旦時間を止めましょうか?」

 

 私は机の上に用意されたティーセットを横目に見ながらポケットから懐中時計を取り出す。

 ホワイトはレミリアが紅茶を飲まないことがわかっていたかのように、杖を一振りしてティーセットを消失させた。

 

「時間を止めるのは地下に降りてからでいいわ」

 

「ほんと、意地悪なお嬢様よねぇ。サクヤもそう思うでしょ?」

 

 ホワイトはレミリアに引っ張られるように歩いている私の横までくると、空いている方の手を握る。

 右手にレミリア、左手にホワイトと奇妙な状態のまま私は廊下を進み、階段を下りた。

 

「パチェ、居るわよね?」

 

 レミリアは地下の扉を開けると同時に、その先に広がる空間へと声を掛ける。

 扉のすぐ近くには見覚えのあるテーブルがあり、その奥には梯子でもなければ届かないほどの高さの本棚がびっしりと列を成していた。

 

「なによ、こんな時間に遊びにくるなんて珍し……」

 

 お目当ての人物、パチュリー・ノーレッジはすぐに現れた。

 棚の陰から顔を見せたパチュリー・ノーレッジは、レミリア、ホワイトの順で視線を動かしたあと、私の顔を見て固まる。

 なぜここにいるのか、なぜレミリアと手を繋いでいるのか、全くわからないと言わんばかりだ。

 

「えっと……え? なに? 捕まえたの? 捕まったの?」

 

 パチュリーは若干目を白黒とさせながら私たちの方へと近づいてくる。

 ホワイトはそんなパチュリーに対し少し得意げに言った。

 

「親子の絆ってやつかしら」

 

「ごめんなさい。私、月の言葉はわからないの。レミィ、何があったの?」

 

 パチュリーはホワイトを半ば無視するような形でレミリアに説明を求める。

 

「サクヤが寝返ったわ」

 

「親子の絆で」

 

「……親子の絆でね」

 

 ホワイトの言葉を繰り返すようにレミリアは渋々付け足す。

 パチュリーは値踏みするように私を見ると、右の手のひらをこちらに向けた。

 

「何を──」

 

「動かないで」

 

 パチュリーは真剣な表情で私に右手をかざしたが、十秒もしないうちに手を下ろす。

 そして疲れたような表情でため息をついた。

 

「なるほど、親子の絆ね。レミィ安心して。サクヤの考えに裏はないわ。フランの分身も紛れてない」

 

「そ。なら安心ね。サクヤ、時間を止めて貰えるかしら」

 

 私は言われた通り時間を止める。

 手を繋いでいるレミリアとホワイトの時間は止まらないが、私と接触していないパチュリーは世界と共に動きを止めた。

 

「両手は塞がってるし……私が左手でパチュリーを触ればいいかしら?」

 

 レミリアはそう言ってパチュリーに手を伸ばす。

 だが、それには及ばない。

 私は離れた位置からパチュリーの時間だけを動かした。

 パチュリーは周囲の時間が止まったことを確認すると、近くに置かれているテーブルへと歩いていく。

 レミリアはパチュリーに伸ばしかけた手を手持ち無沙汰に腰に当て、小さな声で言った。

 

「直接触る必要すらないのね」

 

 レミリアはそっと私から手を離す。

 数秒後レミリアの時間は停止したが、すぐに時間停止を解除した。

 

「サクヤの記憶からなんとなく事情は察したわ。まさかホワイトの仕掛けたあの本があそこまでの効果を発揮するとはね」

 

 パチュリーは杖を一振りし、机の上に山積みになっている本を綺麗に片付ける。

 

「一度時間停止を解除して」

 

 そして、杖を取り出しながら私に言った。

 私はパチュリーに言われた通り時間停止を解除する。

 パチュリーは壁際に置かれた柱時計が動き出したことを確認してからまっさらな机の上に魔法をかけ、上空から見たホグワーツの映像を映し出した。

 

「これは?」

 

「マグルの人工衛星の映像。魔法を相乗りさせてもらってるの。無断で」

 

 ああ、そういえばフランドールがそのようなことを言っていた。

 フランドールが監視衛星を落としてから数ヶ月が経っている。

 流石にもう新しいものを用意していたか。

 パチュリーは机に映し出された映像に魔法をかけ、拡大していく。

 映像は城の屋根を突き抜け、室内を映し出した。

 

「フランドールは……大広間ね。この様子じゃまだ気がついてない」

 

 フランドールはいつも通り大広間で夕食を食べている。

 今日隣にいるのはシビル・トレローニーだ。

 何の話をしているか気になるが、どうやら音声までは拾えないようだ。

 

「美鈴は?」

 

 レミリアの言葉に、パチュリーは映像を縮小させ一度ホグワーツ全体を映す。

 

「職員室……いない。美鈴の部屋……いない。校長室には……」

 

 私も皆と同じように目を凝らす。

 その時、私の部屋の扉が開いたのを視界の隅に捉えた。

 

「あ、ここ」

 

 私は自分の部屋を指差す。

 そこには美鈴が立っており、不思議そうな顔でキョロキョロと部屋の中を見回していた。

 

「時間を止めて」

 

 パチュリーに言われて、私は時間を停止させる。

 そして改めてパチュリーとレミリア、そしてホワイトの時間停止を解除した。

 

「まだ騒ぎにはなってない……けど、あの様子じゃ時間の問題ね」

 

「どうするの?」

 

 パチュリーは時間が止まった影響で何も映さなくなった机の魔法を解除する。

 

「このまま時間を動かさずに全て終わらせる。パチュリーはフランの部屋に厳重な結界を。ホワイトは強力な睡眠薬を用意して」

 

「睡眠薬ですか?」

 

 私はレミリアに尋ねる。

 睡眠薬を使うということは、フランドールの時間を動かした状態で紅魔館まで移動させるということだろうか。

 

「そうよ。触ったら時間停止が解けてしまうんだったら、付き添い姿くらましは出来ないし」

 

「それならいい方法がありますよ」

 

 私はホグワーツから持ち出した鞄についてレミリアに説明する。

 あの鞄の中は時間が止まっている別世界になっているため、時間を止めた状態で鞄の中に入れてしまえばノーリスクでフランドールを移送可能だ。

 時間が止まっていても、魔法などで宙に浮かせれば運搬が可能なのは確認済み。

 

「何よそれ……随分なアーティファクトじゃない」

 

 レミリアは鞄の説明を聞いて目をキラキラとさせている。

 しまった、説明しないほうが良かったか?

 お宝好きのレミリアだ。

 なんやかんやと難癖つけて鞄を手に入れようとしてくるかもしれない。

 

「まあ、時間操作能力を持ってないとそもそも内部にアクセスできないんですけどね。内部の時間は止まってるわけですし」

 

「で、その肝心の鞄はどこにあるわけ?」

 

 パチュリーは私の方を見ながら尋ねる。

 

「レミリアさんの部屋ですよ」

 

「取りに行ってくるわ」

 

 ホワイトは手をヒラヒラ振りながら地下の図書館を出て行く。

 レミリアはその後ろ姿を見送ると、近くにあった椅子へ腰掛け、私にも椅子に座るように促した。

 

「あ、そうだ。で、さっきの話だけど」

 

 レミリアはふと思い出したかのように口を開く。

 

「サクヤ、あなたも一緒に来る? こうなってしまった以上、もう魔法界に居場所はないでしょう?」

 

 まあ、レミリアの言う通りではある。

 今更ホグワーツに生徒として戻ることはできないし、社会復帰も厳しいだろう。

 だとしたらホワイトと共にレミリアについていって、新天地を目指すのもアリかもしれない。

 

「ちなみに、どこに行く予定なんです?」

 

 私の問いに、レミリアは不敵に微笑む。

 

「私たちが目指す土地は、忘れ去られた存在が集う東の秘境──」

 

 

 

「──幻想郷よ」




設定や用語解説

幻想郷
日本のどこかにあるといわれている秘境。結界によって隠されており、内部がどうなっているかは不明。

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