P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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灼熱と蓬莱の薬と私

 私の腕に差し込まれている管が血液で満ち、赤く染まる。

 ゾクリと全身に悪寒が走り、今までにないほどの明確な死を予感させた。

 このままでは失血死する。

 なにか……なにか……。

 なんでもいいから、誰でもいいから。

 誰か、私を助けて……。

 

「怯えているの? 安心なさい。すぐに終わるわ」

 

 ホワイトは優しげな笑みを浮かべながら私の頬を撫でる。

 私は全身を微かに震わせながら、静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 その時だった。

 瞼越しでも網膜を焼く激しい光と息ができないほどの熱気が私を襲う。

 それと同時に絹を裂くようなホワイトの悲鳴が私の鼓膜を突いた。

 

「ボンバーダ・マキシマ!」

 

 それに続いて聞き覚えのありすぎる声と爆発音。

 私は、目に涙を浮かべながら顔を持ち上げた。

 

「サクヤ!! 無事!?」

 

「待ってろよ、今拘束を解くから──」

 

 そこに立っていたのは、ハーマイオニーとロンだった。

 ハーマイオニーは私の腕に刺されている針を慎重に引き抜き、腕に治癒魔法を掛ける。

 ロンは私の手足を拘束しているベルトと何とか外そうと悪戦苦闘していた。

 

「ロン!! ハーマイオニー!! な、何で!?」

 

「ファニーだよ。ほら、あの新入りのゴーストの」

 

 ロンは右足首の拘束具を外すと同時に親指で部屋の隅を指差す。

 そこには全身に炎を纏い、怒りに満ちた表情で部屋中の機械を焼いているファニーの姿があった。

 

「あの子が私たちを説得しにきたの。貴方を助けなきゃきっと殺されてしまうって」

 

「でも、本当に間一髪だったな。よし外れた」

 

 ロンはコツを掴んだのか、残りの拘束具も手際よく外していく。

 私は自由になった手で涙を拭うと、二人に抱きついた。

 

「ありがとう……今度こそ本当にダメかと──」

 

「サクヤ……私たちこそごめんなさい。もっと貴方とは話し合うべきだったわ」

 

「ごめん、サクヤ。僕も意地を張ってた」

 

 私たちはしばらくの間固く抱き合う。

 私は二人と抱き合いながら、少し離れたところで床に伏して燃えているホワイトに視線を向けた。

 

「でも、どうしてここがわかったの?」

 

「これよ」

 

 ハーマイオニーは私から離れると、ポケットの中から小さな鏡の破片を取り出す。

 

「ダンブルドアが亡くなってすぐ、フォークスがこれを届けにきたの。受け取った当初は何かわからなかったけど、しばらく調べて正体がわかったわ。これは両面鏡の破片だって」

 

 両面鏡という単語を聞いて、私はハッとする。

 

「もしかして、私の脳に埋め込まれている鏡と同じ……」

 

「え、脳に埋め込まれてるの? 所持してるとかじゃなくて?」

 

 ハーマイオニーは眉を顰める。

 どうやらその辺の話は何も聞かされていないらしい。

 

「ま、まあなんにしても、この破片を持っている時に何度か時間が止まることがあったわ。それで気がついたの。この鏡と対になっている鏡をサクヤが所持しているって」

 

 私はベッドから降りると、少し離れたところで倒れ、燃え続けているホワイトを見る。

 動く様子はない。

 肌は溶け、黒く焼け焦げている。

 きっと既に死んでいるだろう。

 

「鏡の魔力を辿ってここまできたのね。……でも、そうか」

 

 ファニーの存在を完全に忘れていた。

 何も知らないファニーは、本当に私がパチュリーに捕えられたと思ったに違いない。

 そこで、私のことを助ける手助けをしてくれそうな人……ハーマイオニーとロンに声を掛けたのだろう。

 

「ファニー!」

 

 私の呼びかけに、ファニーは周囲を燃やす手を止めこちらを振り向く。

 

「ありがとう、助かったわ」

 

「それより、フランは無事なの? 美鈴は……死んだって記事では読んだけど……」

 

「あー……その辺は後で説明するわ」

 

 存在を忘れて置いていったと正直に言ったら、今度は私が燃やされるかもしれない。

 だが、結果的にファニーを置いていったことで私の命は助かった。

 

「そろそろ建物が崩壊するわ。外に出ましょう」

 

 ハーマイオニーは私の右手を握って、開け放たれている扉に向かって歩き出す。

 私は炭化し始めているホワイトを横目で見ながら出口の扉を目指した。

 

 

 その時だった。

 

 

 先ほどまでピクリとも動かなかったホワイトが急に起き上がり、近くの机の上に置かれていた小瓶を手に取る。

 そして小瓶ごと口の中に放り込み、強引に噛み砕いた。

 

「な……まだ生きて──」

 

 私は服の下に隠している拳銃を抜こうと手を伸ばす。

 だが、普段拳銃を差している場所には何もなかった。

 

「ファニー!」

 

「任せて!」

 

 ファニーの両手が真っ赤に燃え上がり、呼吸が出来ないほどの熱気が室内を包み込む。

 発生した炎は渦を巻き、立ち上がったホワイトを包み込んだ。

 

「死に晒せぇええええ!!」

 

 ファニーの怒号が室内に響く。

 その瞬間、ホワイトを中心に小規模の爆発が起こり、私たちはその爆風で壁際へと吹き飛ばされた。

 

「──ッ!」

 

 空中で体勢を取り直し、壁に足から着地する。

 そして地面を転がるようにして起き上がった私は、すぐに視線をホワイトへ向ける。

 

「……嘘でしょ」

 

 そこには、完全に無傷の状態のホワイトが、周囲に炎を纏うようにして立っていた。

 ホワイトは自分の体の様子を確かめるように視線を巡らせる。

 そして、やれやれと言わんばかりに肩を買い竦めた。

 

「酷いことするわぁ。折角優しく優しく接してあげてたのに。まあ、そっちがその気なら私はそれでもいいわよ? 強引に、強制的に、力づくで貴方の血液を回収するわ」

 

「そんな……なんで……どんな治癒魔法を使ってもあそこまでの回復は──」

 

「なんでだと思う? グレンジャーさん」

 

 ホワイトはニコリとハーマイオニーに微笑みかける。

 ハーマイオニーはヘビに睨まれたカエルのように体をこわばらせた。

 

「メラメラちゃんはよく分かってるわよねぇ。実際貴方は何十年も燃え続けたわけだし」

 

「メラメラちゃん?」

 

 私はファニーの方を振り向く。

 ファニーは物凄い形相でホワイトを睨みつけながら歯を食いしばっていた。

 

「今服用したのは未完成の蓬莱の薬。サクヤちゃんには教えてなかったけど、蓬莱の薬の本来の効能は穢れを生むことじゃない。どちらかといえばそれは副作用なの」

 

 ホワイトは口の中から血液が付着したガラスの破片を吐き出す。

 

「蓬莱の薬の本来の効能は魂の固定化……ようは不老不死。それも命の水で得られるような不完全なものではない。完全にして永遠の不老不死を得ることができるの。まあ、熟成の工程を挟まないと永遠に持続はしないんだけど、それでも擬似的に効果を得ることはできる」

 

 ホワイトは自分の首に杖を向ける。

 そして、切断魔法を放ち自分の首を切断した。

 

「ヒッ……」

 

 ハーマイオニーが小さく悲鳴を上げる。

 自ら首を切断したホワイトはそのまま力なく床に崩れ落ち、激しく燃え上がる。

 そして、その炎が収まる頃には無傷な状態となって床から立ち上がった。

 

「これが蓬莱の薬。といっても、まだ不完全だけど。完全なる不老を得るには、やはり永遠の熟成期間が必要。そのためにも貴方の血液が必要なのよ。ね? いい子だから、おとなしく血液をよこしなさい」

 

「逃げろっ!」

 

 ロンの叫び声と共にファニーが火球をホワイトに放ち、私たちは一斉に壁に空いた穴へと駆け込む。

 私はハーマイオニーの後ろを走りながらハーマイオニーに聞いた。

 

「姿現しは!?」

 

「ここじゃ出来ないわ! 周囲に姿現し防止の魔法が掛けられてる」

 

「サクヤ、あれが君のママってほんとかよ……うちのママより数倍怖い」

 

「ママじゃない……らしいわよ。親族であることは確かだけど」

 

 卵子の提供をしたのはホワイトのクローンの方だという話だ。

 ホワイトが育ての親であることは確かだが、そこに愛情なんてものはなかった。

 私は……私の扱いはあくまで研究成果の一つだ。

 私たちは全体的に白一色で統一された、マグルの病院のような通路を走り、階段を駆け降りる。

 そしてもう使われていないのであろうエントランスを抜け、建物の外へと出た。

 

「で、ここどこなのよ?」

 

 私は振り返り、先ほどまでいた建物を見上げる。

 だが、その建物に既視感はない。

 ホワイトの研究室があった製薬会社のビルとは別の建物だった。

 

「ロンドンよ。端っこの方だけど」

 

「よし、ここまで来れば姿現しできるはずだ」

 

 私たちは共に手を繋ぎ合う。

 そして最後に遅れてやってきたファニーを空いている手で抱え、ハーマイオニーに目配せした。

 

「行くわよ!」

 

 頭の先から水道管に詰め込まれるような感覚が私を襲う。

 足の先が地面に付き、体の回転が収まる頃には私は広々とした庭の上に立っていた。

 

「隠れ穴ね」

 

 私は庭の先に見える歪な家屋を見て呟く。

 増設に増設を重ねた、マグルの基準で言えば間違いなく違法建築なそれは、ロンとその家族が暮らす家、『隠れ穴』だ。

 

「死喰い人対策で忠誠の術がかけてある。レミリアさんは来たことがないし、すぐには来れないはずだ」

 

 ロンは隠れ穴に向かって歩き出す。

 それを見て、私は二人との間に大きな認識の違いがあることに気がついた。

 

「待って。レミリアさんとはもう話はついてる。むしろ彼女は味方になってくれるはずよ」

 

 それを聞き、私以外の三人は怪訝な顔をする。

 まあ当たり前か。

 ファニーたちは、私がレミリアの陣営から助けるためにここまで来たのだから。

 

「どういうこと?」

 

「話すと長くはなるんだけど……」

 

 私は周囲を見回して、ホワイトの気配がないかを確認する。

 そして、しばらく大丈夫だと自分に言い聞かせ、事の顛末を少しずつ三人に話し始めた。

 

 

 

 

 

「ひっどーい! それじゃあ、完全に私の存在を忘れて、私以外で仲良しこよししてたってこと!?」

 

 ホワイトがホグワーツに設置した白紙の本を解読してから、三人が助けに来るまでのことを三人に話し終わった瞬間、ファニーが青白い顔を少し赤くして憤慨する。

 

「忘れてたのは謝るけど……貴方結構ピーブズと仲良くしてたじゃない。居場所があるならそのままの方がいいと思って」

 

「事情ぐらい話してよ!」

 

 だが、ファニーに話していなかったおかげで今こうして命拾いしている。

 きっとホワイトは、レミリアやパチュリー、フランドールのことは警戒していても、ファニーのことは全くノーマークだったに違いない。

 

「ありがとう、ファニー。本当に助かったわ。貴方がいなかったら私は今頃カラカラのミイラになって死んでたでしょうね」

 

 とりあえず命の危機を脱したことで、精神的にも余裕が出てくる。

 ハーマイオニーは私のジョークのような事実に苦笑いすると、咳払いを一つして話を本題に戻した。

 

「でも、だとしたらどうする? レミリアさんたちが敵じゃないとすればかなり強力な味方になるわ」

 

「あくまで共謀はしてないってだけじゃないのか? サクヤ、どう思う?」

 

 隠れ穴の庭の端で私たちは膝を突き合わせて考える。

 ロンの言葉通り、隠れ穴の敷地内に忠誠の術が掛けられているのだとしたら多少は時間稼ぎが出来るだろう。

 だが、相手はヴォルデモートやパチュリー、ダンブルドアと同格の魔法使いだ。

 いつまでもここが安置だとは限らない。

 

「いや、レミリアとホワイトは繋がってないと思う。ホワイトは私を攫う時に美鈴さんを……彼女の部下を殺しているわ」

 

 レミリア自身が完全に美鈴を見限っていたとしたらこの限りではないが、彼女と美鈴の間には家族愛にも似た繋がりがあったようにも思う。

 

「ホワイトは今までの関係性を全て捨てて一気に事を進めようとしているわ。きっとこの後も手段を選ばない」

 

「だとしたらここでグズグズしてる場合じゃないな」

 

 私たちは互いに頷きあう。

 方針は定まった。

 ホワイトは、私たちだけで戦える相手ではない。

 

「レミリアとパチュリーは魔法省にいるはず。きっと今頃は魔法法執行部か魔法大臣室ね」

 

「魔法省で姿現しできる場所は?」

 

「地下八階のアトリウム……魔法省の玄関口になら姿現しできるわ」

 

 ハーマイオニーは私とロンの手を握る。

 そして、ハーマイオニーに纏わりつくようにファニーが身を寄せた。

 

「行くわよ……」

 

 ハーマイオニーが地面を蹴り、それに合わせて私たちも回転を始める。

 その瞬間、私の両足が地面から離れ、頭の先から空間の狭間に押し込まれた。

 

「──え?」

 

 足が地面に着かない。

 いや、重力を感じない。

 次の瞬間、物凄い風が私の全身を包み込んだ。

 

「ハーマイオニー!?」

 

「そんな……どうして……」

 

 姿現しで出現した先は魔法省のアトリウムではない。

 私たちは、ロンドンの上空を自由落下していた。




設定や用語解説

蓬莱の薬
己の存在が肉体ではなく魂を軸とするため、たとえ肉体が滅んでも魂を軸として別の場所に肉体を復活させることが出来る。蓬莱の薬を服用したものは、たとえ生き埋めになろうが、完全に消滅させようが、宇宙の終わりがこようが死ぬことはない。

Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
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