P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
トマトスープが出来上がる頃にはハリーたち四人は台所の方に入ってきた。
ロンは不満げな表情で私を見てくるが、私が肩を竦めると諦めたように椅子に座る。
「お前たちときたら一体何を考えているやら……」
私が配膳を進めていると、四人の後ろからまだブツブツと文句を言っているモリーさんが顔を出す。
「あらサクヤ、準備ありがとう。助かるわ。ハリーもゆっくりしていって。別に貴方のことは責めていませんからね」
モリーはハリーに対してニコリと微笑むと、フライパンを火にかけ温め始める。
そしてソーセージに火を通すと、ハリーの皿の上にソーセージを山盛りにした。
「それにしても不法な車で飛んでいくだなんて……」
「でもママ! 曇り空だったよ!」
「お黙りフレッド! そういうことを言ってるんじゃありません!」
「でも連中、ハリーを餓死させるところだったんだぜ?」
フレッドとジョージが口々に抗議するが、モリーは聞く耳を持たない。
どうも他人に甘く身内に厳しい性格のようだ。
私はスープを皿に盛ると、机の上に並べる。
そして自分も席につき、パンにバターを塗って食べ始めた。
ソーセージにスープ、そしてパンをお腹に詰めおわったところで、ロンが大きな欠伸をする。
まあ、昨日の朝からずっと起きていたのだ。
眠たくないわけがなかった。
「なんにしても疲れたぜ」
フレッドがフォークとナイフを置いて呟く。
「腹も膨れたことだし、そろそろベッドに──」
「行きませんよ」
モリーがフレッドの言葉を遮った。
「夜中起きてたのは自分が悪いんです。庭小人の駆除をしてちょうだい。また手に負えないぐらい増えてるの」
「そんな!」
フレッドは悲痛な叫び声を上げた。
「勿論、お前たちもです」
そう言ってモリーはジョージとロンを睨む。
だがハリーの方を向く頃には笑顔になっていた。
「ハリー、貴方は上に行ってお休みなさいな。あのしょうもない車で迎えにきて欲しいって、貴方が言ったわけじゃないもの」
「あの、いえ。僕も手伝います。庭小人の駆除って見たことありませんし」
ハリーは私の方をチラリと見ながら慌てて言った。
まあ私も眠たいことは確かだが、眠たければ時間を止めて眠ればいい。
庭小人の駆除ぐらい付き合おうではないか。
「そう、優しい子ね。でも、そんなに面白いものでもないのよ?」
モリーは暖炉の上に積まれている本の山から一冊の分厚い本を引っ張り出す。
背表紙には『ギルデロイ・ロックハートのガイドブック~一般家庭の害虫~』と書かれていた。
「さて、ロックハートはどんなことを書いていたかしら」
モリーは鼻歌交じりに本を捲り始める。
表紙にはブロンドで青い瞳のハンサムな魔法使いの写真が載っており、こちらに向かってウインクを投げ続けていた。
「ほんと、彼って素晴らしいわ。家庭の害虫についてもほんとによくご存じ。この本、とってもいい本だわ」
モリーは表紙の魔法使いを見てうっとりしている。
そんな様子を見て、ロンがため息をつきながらハリーに囁いた。
「ママったら奴にお熱なんだ。というよりかは、魔法界にロックハートのファンは多いよ。特に魔女から大人気」
「ふうん、そうなのね」
私は本の表紙でウインクを続けている魔法使いをじっと見る。
確かに顔立ちはかなりいい。
それに家庭の害虫という狭い分野で分厚い本が一冊掛けるということは、頭もいいんだろう。
「僕らを馬鹿にしすぎじゃないか? 庭小人の駆除ならしょっちゅうやってるから流石にやり方を忘れたってことはないよ」
ジョージが不満げにモリーに言う。
「あら、貴方たちがロックハートよりよく知っているというのなら、お手並み拝見といきましょうか。私があとで点検に行ったとき、庭小人が一匹でも残っていたら後悔することになりますよ?」
「あー、はいはい。行こうぜ。さっさと終わらせてベッドに潜ろう」
フレッドを先頭にして私たちは隠れ穴の庭に出る。
ハリーは物珍しそうに庭のあちこちをキョロキョロと見ていた。
「そういえば、マグルの庭にも飾り用の小人が置いてあるよ」
「ああ、あのマグルが庭小人だと思ってるやつだろ? 僕も見たことはある。あの小さいサンタクロースに釣り竿持たせたやつ」
ハリーがロンに言うと、ロンは茂みの中に手を突っ込みながら答えた。
その瞬間、ロンが茂みの中から何かを引っ張り上げる。
ロンの手には五十センチぐらいの小人が握られていた。
小人は全体的に汚らしく、頭もジャガイモのように凸凹している。
「これが庭小人さ。不細工だろ?」
ロンは庭小人に蹴られないように庭小人の足首を掴みなおす。
そして頭の上でカウボーイの投げ輪のように庭小人をグルグル回し、最終的に垣根の向こうへと投げ捨てた。
「動物虐待……」
「いや、違うんだ。こうしないといけないんだよ。しっかり目を回させて巣穴への道をわからなくさせるんだよ」
私がぼそりと呟くと、ロンが慌てて弁明した。
「ああ、その通りだ。だが、全体的に飛距離が足りないな。俺ならあの切り株まで飛ばせるぜ」
フレッドは庭小人を思いっきり振り回すと、勢いをつけて投げる。
庭小人は放物線を描いて飛んでいくと、切り株を少し越えてどしゃりと落ちた。
私もそれに倣って庭小人を捕まえると、グルグルと振り回し垣根の向こうに放り投げる。
私が投げた庭小人は綺麗な放物線を描き、切り株に頭からぶつかった。
「あ」
頭をぶつけた庭小人はフラフラと立ち上がると、頭を押さえて数歩歩き、バタリと倒れる。
「あー、死んだか?」
「あの庭小人に違う庭小人をぶつけたらわかるんじゃないか?」
ジョージは倒れている庭小人に狙いをつけて、庭小人を投げる。
だがジョージが投げた庭小人は倒れている庭小人より随分と手前に落ちた。
「まあ、当たらないよな」
ジョージが後頭部を掻きながら言う。
私はもう一人庭小人を捕まえると、何度か回した後倒れている庭小人を狙って放り投げた。
私が投げた庭小人は放物線を描いて山なりに飛んでいくと、倒れている庭小人に頭からぶつかる。
すると倒れていた庭小人が起き上がり、飛んできた庭小人に文句を言い始めた。
「すげぇコントロールだな。狙ってやったのか?」
フレッドが庭小人を追い立てながら私に聞く。
私は試しにもう一度先程の切り株を狙って庭小人を投げた。
私が投げた庭小人はまたもや吸い込まれるように切り株に向かって飛んでいき、頭から切り株にぶつかる。
自分でも気が付いていなかったが、どうやら私には庭小人投げの才能があるようだ。
私はその後も試すように庭小人を投げる。
私が投げた庭小人は誰もが私が狙った位置に一インチの誤差もなく落下した。
「こんなところで私の隠れた才能を発掘してしまうなんて……」
結局庭小人の駆除は一時間ほどで終了した。
目を回した庭小人たちは列を成して草むらの中に消えていく。
「どうせまた戻ってくるんだけどな」
ロンが庭小人を眺めながら言った。
「連中はここが気に入っているらしい。というより、パパが連中に甘いんだ。面白いやつらだと思っているらしくて……」
丁度その瞬間、台所の方から緑色の光が見える。
「と、噂をすればだ。親父が帰ってきたようだぜ」
私たちは庭を横切り家の中へと入る。
アーサーは台所の椅子に座り込み、ぐったりと目を瞑っていた。
どうやら夜通し仕事をしていたようである。
「まったく、酷い夜だったよ」
私がアーサーにお茶を入れると、アーサーは軽く会釈してティーカップを持つ。
そしてゆっくり一口飲むと、大きなため息を一つついた。
「一晩だけで九件も抜き打ち調査だ。フレッチャーのやつなんか私が後ろを向いた隙に呪いをかけようとしてくるし……」
「何か面白いものは見つかった?」
フレッドが食い気味にアーサーに問う。
「いや、私が押収したのは縮む鍵が数個と、嚙みつくヤカンだけだ。まったくもってどうしようもない物を作るも──」
「ええ、貴方の作った車とかもそうですね」
急に台所の奥からモリーが顔を出す。
アーサーはモリーのいきなりの登場に慌てて姿勢を正した。
「モリー、いや、あの……くるまとは?」
「ええアーサー、貴方が自分の奥さんには仕組みを調べるために分解するとか何とか言って、実は呪文を掛けて飛べるようにしたあの車です」
アーサーは何故モリーの機嫌が悪いのかわからず目をパチクリとさせている。
「モリー、あれ自体は何の法にも触れていない……えっと、その……たとえ空飛ぶ車を持っていたとしても、飛ばすつもりがなければだね──」
「ええ、ええ、ご存じですよ。何せ自分の夫が作った法律ですもの。自分の趣味のためにしっかり法に抜け穴を作ったことも! 申し上げますが、ハリーが今朝到着しました。貴方が今さっき飛ばすつもりがないと言った車でね!」
「ハリー? どのハリーだね?」
アーサーは机の周りに群がる私たちをぐるりと見まわし、ハリーの姿を発見し飛び上がった。
「なんと! ハリー・ポッター君かい? いやはや、よく来てくれた。ロンがいつも君の話を──」
「その息子たちが昨晩ハリーの家まで車を飛ばして、また戻ってきたんです!」
モリーの怒声が台所に響き渡る。
だが、アーサーはわかりやすく目を輝かせた。
「や、やったのか? 上手くいったか? あ、いや……」
アーサーはモリーの鬼のような視線に気が付き、口ごもる。
「そ、それはお前たち……いかん。そりゃ絶対いかん」
これは長くなりそうだ。
なんにしても大の大人が説教されているのを見るのは忍びない。
それにそろそろ眠気も限界だ。
私は大きく伸びをすると、ジニーの部屋に上がった。
「今日の朝うちに来たのって、もしかしてハリー・ポッター?」
部屋に入った途端ジニーが私に詰め寄ってくる。
ここ数日でジニーは随分私の存在に慣れたらしく、実の姉のように話しかけてくれるようになっていた。
「ええ、そうよ」
「どうして私も連れてってくれなかったの?」
ジニーは膨れっ面で私に文句を言う。
私はベッドに潜り込みながらジニーに言った。
「だって貴方夜の九時には寝ちゃうじゃない」
「言ってくれたら起きてたもん!」
「わかった。それじゃあ次の機会があったら貴方も連れて行くから」
私は大きな欠伸とともに毛布を頭の上まで引っ張り上げる。
ジニーは納得していなさそうだったが、睡魔には勝てない。
私はそのまま夢の世界へと落ちていった。
ハリーをマグルの家から救出してから一週間が経過しただろうか。
私がトーストにバターとマーマイトを塗っていると窓際にフクロウが降り立った。
足にはそこそこの厚さのある手紙の束を持っている。
「モリーさん、お手紙です」
私は窓を開けてフクロウにベーコンのカケラを与えながら手紙の束を受け取る。
「どなた宛のお手紙?」
私はモリーに手紙の束を手渡す。
モリーはお玉を鍋の上に引っ掛けると、手紙をまとめている紐を解いた。
「あら、ホグワーツからの手紙だわ。それにハリーとサクヤの分もある。はい、貴方宛よ。こっちはハリーね」
モリーは順番に便箋を配っていく。
私はモリーから便箋を受け取ると、封蝋を破り中から手紙を取り出した。
「通学と新しい教科書の案内みたいですけど……基本呪文集以外は全部ロックハートの本みたいですよ」
私はまたモリーに手紙を渡す。
モリーは用意すべき教科書リストを見て、まあ素敵と飛び上がった。
「でも、この一式は安くないぞ」
ジョージがリストを見ながら言った。
「ロックハートの本は高いんだ。全員分となると……」
「まあ、なんとかなるわ。ジニーのはお古で済ませられると思うし」
まあ、これだけ子供がいれば余っている教科書もあるだろう。
私は教科書のリストを眺めながらトーストをかじる。
その時、この家にいる中では一番上の兄のパーシーが台所に下りてきた。
「みなさんおはよう。いい天気ですね」
パーシーは一つだけ空いていた椅子に座ろうとするが、画鋲でも踏みつけたかのように立ち上がる。
そして尻の下からよれよれのフクロウを持ち上げた。
「エロール!」
ロンがパーシーから今にも死にそうなフクロウを受け取り、翼の下から手紙を取り出した。
「やっと来たよ。ハーマイオニーからだ。ハリーを迎えに行く前にハーマイオニーに手紙を出してたんだよ」
ロンは私に手紙を手渡すと、エロールを勝手口近くにある止まり木まで運んでいく。
エロールは最後の力を振り絞って止まり木に掴まったが、数秒もしないうちに地面にポトリと落ちた。
「悲劇的だよな」
ロンはエロールを拾い上げ、台所にある食器の水切り棚の上に載せた。
私はそれを横目で見ながら手紙に目を通す。
『お元気ですか。上手く行って、ハリーが無事だったことを願っています。ハリーが無事ならすぐに知らせてね。でも、別のフクロウを使った方がいいかもしれません。もう一度配達させたら、あなたのフクロウはもうおしまいになってしまうかもしれないもの。あとそれと。私たち水曜日は新しい教科書をロンドンに買いに行きます。ダイアゴン横丁でお会いしませんか? 近況をなるべく早く教えてね。ハーマイオニーより』
「どうもハーマイオニーは水曜日に家族と一緒にダイアゴン横丁に行くみたい。ご一緒しませんかだって」
私は戻ってきたロンに手紙を渡す。
ロンは手紙を読んで苦笑いをすると、手紙をハリーに渡した。
「それなら、返信はヘドウィグに頼もう。それと水曜日だけど……」
ハリーは今度はモリーに手紙を手渡す。
モリーは手紙を読むと、皆に向けて言った。
「ちょうどいいわね。買い出しは水曜日にしましょうか。ハリー、そう伝えてもらえるかしら」
「あ、はい。わかりました」
ハリーは羊皮紙を取りに階段を上がっていく。
私は今にも死にそうなエロールに水を飲ませるために、椅子から立ち上がった。
設定や用語解説
庭小人(ノーム)
ジャガイモのような大きな頭に三十センチほどの身長の小人。危険な魔法動物ではないが、鋭い牙を持っているため噛まれたら痛い
サクヤの投擲
投げて届く範囲なら、ほぼ誤差なく物を投げることができる。サクヤは自覚していないが、時間を操る能力を無意識に使って空間把握能力を上げている
マーマイト
ビールの酒粕を主原料としたジャムのような何か
Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。