P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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二人が出会ったのは果たして偶然だったのだろうか


煙突飛行と占い師と私

 水曜日の朝、私はみんなより少し早く起き、自分の荷物をまとめ始める。

 ヨレヨレのTシャツや靴下をトランクに詰め込んだ後、ジニーの部屋を軽く見回して忘れ物がないかを確かめた。

 

「まあ、忘れ物があったとしてもロンに持ってきてもらえばいいか」

 

 私はトランク片手に階段を下りて台所の方に向かう。

 台所ではモリーがベーコンのサンドイッチを山のように皿に盛り付けていた。

 

「あら、おはようサクヤ」

 

「おはようございます、モリーさん。何か手伝いましょうか?」

 

「そうね……じゃあみんなを起こしてきて頂戴。ジニーの学用品も買わないといけないし、早く出るに越したことはないわ」

 

「わかりました」

 

 私はトランクを暖炉の横に置くと、先程下りてきた階段をもう一度上り順番に部屋を回って皆を起こしていく。

 そして最後にジニーを起こし、寝ぼけているジニーの手を引いて台所に下りた。

 

「ありがとうサクヤ。貴方も早くサンドイッチ食べちゃって」

 

 私は空いている椅子にジニーを座らせると、その隣に座りサンドイッチを手に取る。

 向かい側ではアーサーが火傷しないよう慎重な手つきで紅茶を飲んでいた。

 

「あちっ……そういえば、サクヤは今日帰るんだったか。荷物はもうまとめたかい?」

 

 アーサーが紅茶を啜りながら私に聞いてくる。

 そう、私は今日ロンドンにある孤児院に帰ることになっていた。

 今日帰る理由は単純で、ただ単に今から向かうダイアゴン横丁が私の暮らす孤児院と近いからだ。

 今日そのまま歩いて帰れば、孤児院まで送って貰う必要もない。

 

「はい、起きてすぐに。それに、忘れ物があってもロンが届けてくれると思いますし。そうよね?」

 

「え? ああ、うん。勿論。それっぽいものがあったら一緒にトランクに詰めて持ってくよ」

 

 ロンは口いっぱいにサンドイッチを頬張りながら答えた。

 

 朝食を取り終わるとみんなローブを着込んで暖炉の前に集合する。

 モリーは暖炉の上に置かれた植木鉢の中を覗き込んだ。

 

「アーサー、だいぶ少なくなってるわ。今日買い足さなくちゃ」

 

 モリーは小さくため息をつくと、ハリーの方に鉢を差し出す。

 

「さーて、お客様からどうぞ! ハリー、お先にいいわよ」

 

 ハリーは鉢と暖炉を交互に見て困惑したような顔をする。

 

「な、え……どうすればいいの?」

 

「あ、そうか。ハリーは煙突飛行は初めてだっけ。ごめん、伝え忘れてたよ」

 

 ロンが思い出したかのように頭を掻いた。

 

「ほう。じゃあ去年はどうやってダイアゴン横丁に学用品を買いにいったのかね?」

 

「地下鉄に乗りました」

 

 アーサーの問いにハリーは簡潔に答える。

 

「ほう? 地下鉄というとあれだろう? エスカペーターとかなんとかいうのがあるんだろう? ハリー、あれはどんな──」

 

「アーサー、後にして頂戴。ハリー、安心していいわ。煙突飛行ってそれよりずっと速いのよ。だけど、一度も使ったことがないとなると……」

 

 モリーは鉢を持ったまま自分の子供たちを見回す。

 その様子を見て、フレッドが鉢の中に手を突っ込んだ。

 

「ハリー、よく見てろよ」

 

 フレッドは鉢の中からキラキラ光る煙突飛行粉を掴み取ると、暖炉の中に粉を振りかける。

 すると暖炉の中で燃えていた炎は鮮やかな緑色に変わり、一気に燃え上がった。

 フレッドは意気揚々と暖炉の中に入り、大きな声で叫ぶ。

 

「ダイアゴン横丁!」

 

 その瞬間、フレッドの姿が暖炉から消えた。

 なるほど、煙突飛行で暖炉から人が出てくるところは見たことがあるが、出発側を見るのは初めてだ。

 

「ハリー、はっきり発音しないと駄目よ」

 

 今度はジョージが鉢に手を突っ込んで煙突飛行粉を手に取る。

 そして慣れた様子で煙突飛行をしていった。

 

「まあ母さん、ハリーは大丈夫だ。だろう? ハリー」

 

「もう、そんなこと言ってハリーが迷子にでもなったらどうするんです? ハリーのおじ様おば様になんて申し開きすれば──」

 

「大丈夫です。多分僕が迷子になっても、最高に笑える話だとしか思わないと思いますから。心配しないでください」

 

 ハリーが最高に笑えないジョークを言う。

 まあ、ハリーはジョークを言っているつもりはないだろうが。

 

「そう、それなら……アーサーの次に行きましょうか。まず、この粉を暖炉に振りかける。そして、どこに行くかはっきり言うの」

 

「肘は引っ込めておけよ」

 

「それに目は閉じたほうがいいわ」

 

「あんまりもぞもぞ動くなよ? へんな暖炉に落ちるかもしれないから」

 

「慌てないでね。フレッドとジョージの姿が見えるまでじっとしてるのよ?」

 

 ロンとモリーが口々に言う。

 ハリーは何度か頷くと、鉢から粉をつまみ暖炉に振りかけ、緑色に変わった炎の上に立った。

 ハリーは目を瞑り深呼吸をしようとして、とたんにむせ返る。

 

「だ、ダイア、ご……横丁!」

 

 ハリーがむせながらそう叫んだ瞬間、ハリーの姿がスッといなくなった。

 私たちはしまったという表情で顔を見合わせる。

 

「大丈夫かしら。ちゃんとたどり着いているといいけど」

 

「取り敢えず向こうに行ってみるしかないですね。私も行きます」

 

 私は鉢の中から煙突飛行粉を取り出し、暖炉に振りかける。

 そしてトランク片手に緑色に変わった炎の中にゆっくりと入った。

 緑色の炎は私の肌を撫でるが、不思議と熱さは感じない。

 まるでドライヤーから出る風のような温かさだ。

 私は小さく息を吸い、大きな声で叫ぼうとした。

 が、その瞬間、熱い灰が私の喉を焼く。

 

「だ、ゴホっ、うぇ、灰が喉に……」

 

 その瞬間、まるで掃除機で吸い込まれたような感覚が全身を襲う。

 私は状況を確認しようと周囲を見回そうとするが、緑色の炎が私の周囲を取り巻いているらしく、ろくに目を開けることもできない。

 すると次の瞬間、私は背中に強い衝撃を受けた。

 肺の中の空気が全て勢いよく口から逃げていく。

 私は呼吸困難になりながらも、ゆっくりと立ち上がった。

 どうやらここはどこかの暖炉のようだ。

 私は全身灰まみれになりながら暖炉の外へと出る。

 

「なんなのよ一体……」

 

 私は背中をさすりながら周囲を見回す。

 そこはどこかの店の中のようだった。

 店内にはいくつか棚が置かれており、その上には怪しげな魔法具や綺麗に磨かれた水晶玉が値札とともに並べられている。

 まだ開店していないのか、それともそもそも客入りが少ないのか、店の中には誰もいなかった。

 

「えっと、ここどこ?」

 

 私はローブを脱ぐと、暖炉の中で灰を叩き落とす。

 どうやら煙突飛行に失敗し、どこか別の場所に移動してきてしまったようだ。

 私は灰まみれになっているトランクを暖炉の中から引っ張り出すと、同じように灰を払い、暖炉の横に置いた。

 

「ここからもう一度煙突飛行したほうが早いかしら」

 

 私はそう思い煙突飛行粉と火をつける道具を探す。

 だが、暖炉の上に置かれた鉢は空になっており、火をつける道具も見つけることはできなかった。

 

「だとしたら、一度外に出て──」

 

「あらソフィア。貴方の怖がる泥棒さんは随分可愛らしい容姿をしているわよ?」

 

 不意に後ろから声がして、私はゆっくり後ろを振り返る。

 そこには背中から大きな蝙蝠のような羽を生やしている少女と、その少女の後ろに隠れながらへっぴり腰で杖を構えている眼鏡の魔女がいた。

 

「だって、あんな大きな音がしましたし……まだ店は開店前ですし……泥棒だって思うじゃないですか」

 

「こんな朝遅くに堂々と盗みに入る泥棒がどこにいるのよ。それに盗まれるようなものもないでしょうに。ほら、杖を仕舞いなさいな。相手さんも困惑しているわ」

 

 羽を生やした少女に諫められて眼鏡の魔女はおずおずとローブに杖を仕舞う。

 私は羽を生やした少女と、眼鏡の魔女に見覚えがあった。

 

「えっと、確か吸血鬼の占い師さんと……占い用品店の店員さん?」

 

 去年のクリスマスにこの店を覗いた時のことを思い出す。

 吸血鬼の少女は私の顔をじっと見て、首を傾げた。

 

「うーん、去年の講演会にこんなのいたかしら。貴方覚えてる?」

 

 吸血鬼の少女は眼鏡の魔女に聞く。

 眼鏡の魔女は眼鏡を両手でかけ直すと、私の顔をじっと見た。

 

「いやぁ、見たことないですけど……」

 

 そう言って眼鏡の魔女はまたローブから杖を引き抜く。

 私はそれを見て咄嗟に杖を引き抜いた。

 

「ああ、大丈夫です。綺麗にするだけですから」

 

 眼鏡の魔女はヒヒっと不器用に笑うと、私に向けて杖を振るう。

 すると私の持っていたローブ含め、私の全身に付いていた灰は綺麗さっぱり消え去った。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 私は左手で杖を握ったまま、眼鏡の魔女にお礼を言う。

 

「なるほど、貴方が……」

 

 気が付くと、いつの間にか杖を持っている左腕ががっちりと握られ固定されている。

 握っている腕を辿ると、いつの間にか私の目の前に吸血鬼の少女が移動していた。

 

「っ、なにを──」

 

「ああ、ごめんなさい。大丈夫よ」

 

 吸血鬼の少女は優しく私の手を放してくれる。

 私は二人に危害を与える気がないと判断すると、杖をローブに仕舞い直した。

 

「すみません。勝手にお邪魔する気はなかったんです。ただ煙突飛行に失敗してしまって……」

 

「ああ、煙突飛行に……」

 

 眼鏡の魔女は暖炉と私を交互に見ながら私の言葉を復唱する。

 

「ふうん。この店の暖炉ってネットワークに繋がっていたのね。毎回漏れ鍋を経由してた私が馬鹿みたいじゃない」

 

「あ、いつも漏れ鍋経由してたんですね。飛んでやってきているのだと思ってました。で、どこに行こうとしてたんです?」

 

 眼鏡の魔女は暖炉の上の鉢を覗き込みながら私に聞いてきた。

 

「えっと、ダイアゴン横丁に行こうとしていたんですけど……」

 

「よかったわね。着いたわよ」

 

 吸血鬼の少女はいたずらっぽく笑う。

 確かにこの店はダイアゴン横丁の外れに存在していたはずだ。

 

「ああ、いえ。私が行こうとしていたのは……いや、でも確かにここもダイアゴン横丁ですし……まさか、ダイアゴン横丁の店にランダムで飛ばされるとか?」

 

 私がうんうんと唸っていると、吸血鬼の少女はケタケタと笑った。

 

「貴方面白いわね。ソフィア、紅茶を準備しなさい。どうせ美鈴が迎えに来るまでまだ時間があるわ」

 

「えぇ~、さっきお茶したばかりじゃないですか。また飲むんですか?」

 

「お茶会じゃないわ。占いよ」

 

 眼鏡の魔女は成程と頷くと、暖炉に火を灯し紅茶を入れる準備を始める。

 吸血鬼の少女はがっちりと私の肩を掴むと、そのまま店内にあった椅子の上に私を座らせた。

 

「あの、多分私を探している魔法使いの家族がいると思うのであまり──」

 

「大丈夫、時間は取らせないわ。それに、私もそろそろ館に帰ろうと思っていたところだし」

 

 吸血鬼の少女は私の前に机と椅子を持ってくると、机を挟んで向かい側に腰かける。

 

「貴方は運がいいわ。きっと、煙突飛行に失敗したのも運命ね。貴方、お名前は?」

 

「……サクヤ・ホワイトです」

 

「そう。ではサクヤ。この紅茶を……ソフィア! まだなの?」

 

「そんなすぐにお湯沸きませんよ……」

 

 吸血鬼の少女はため息をつくと、手のひらに小さな炎を灯し、暖炉の方へと投擲する。

 炎はまっすぐ暖炉の中に落ちると、物凄い勢いで燃え上がり、一瞬で鍋の中の水を熱湯に変えた。

 

「これでよし」

 

吸血鬼の少女は眼鏡の魔女がボコボコと沸騰するお湯を冷まし始めるのを確認すると、私の方に向き直る。

 

「しょうがないわね。おしゃべりでもしながら時間を潰しましょうか。っと、自己紹介がまだだったわね」

 

 吸血鬼の少女はオホンと小さく咳ばらいをした。

 

「私はレミリア・スカーレット。五百年を生きる夜の支配者にして偉大な大占い師よ」

 

「大が二個入ってますよー」

 

「謙遜が過ぎたわね。夜の大支配者にして偉大な大大占い師ってところかしら」

 

 へんな人だ。

 私は率直にそう思った。

 レミリアは素で言っているのか、得意げに胸を張っている。

 その様子は私よりも小さな子供のように見えたが、五百年という言葉が正しいのなら私よりも、いやダンブルドアよりも年上のはずだ。

 

「へ、へぇ。そんな凄い人に占ってもらえるなんて光栄です」

 

「ええ、光栄に思うといいわよ」

 

「そんな大げさな……って言いたいんですが、本当に光栄なことですよ」

 

 眼鏡の魔女はティーポットを机の上に運んでくる。

 そして私の前にティーカップを置くと、紅茶をゆっくりと注いだ。

 

「私はソフィア・トレローニーと言います。この占い用品店を切り盛りしている魔女です」

 

「サクヤ・ホワイトと言います。ホグワーツの──」

 

「グリフィンドール生……合ってるかしら」

 

 私が自己紹介をしようとした瞬間、向かいに座っているレミリアが私の言葉を遮ってそう言った。

 

「……はい、グリフィンドール生です」

 

 偶然なのだろうか。

 私はレミリアの赤い瞳をじっと見る。

 レミリアも得意げな顔で私の顔を見た。

 

「では、始めましょうか。まずは目の前の紅茶をゆっくりと飲み干しなさい。漉しきれていない茶葉を飲まないように注意して、ゆっくり、ゆっくり飲むの」

 

 私は火傷しないように気を付けながら恐る恐る紅茶を飲む。

 流石にひと息で飲み干すことはできず、何度かに分けて紅茶を飲み干した。

 

「ティーカップをこちらに」

 

 私は言われたとおりにレミリアにティーカップを差し出す。

 レミリアはティーカップを受け取ると、中指で弾いた。

 ティーカップはコマのようにくるくると回転しながらテーブルの上を円を描くように回る。

 

「ティーカップに集中して。じっと目で追って」

 

 言われなくとも私の視線はティーカップに釘付けになっていた。

 ティーカップは次第に勢いを失っていき、最終的にテーブルの中央に裏向きの状態で動きを止める。

 レミリアは人差し指をティーカップの底に当てると、そのまま下に弾き、その反動で浮き上がったティーカップのハンドルを掴んで中を覗き込んだ。

 

「まあこんな感じでカップの底に残った茶殻の形を見て占うの。占いの中ではかなり一般的なものね。貴方もホグワーツで占い学を取れば、授業で習うと思うわよ?」

 

 レミリアはそう言いつつも、視線はカップの底を覗いている。

 そして、眉を顰めた。

 

「あら、若いのに可哀そうだわ。でも、それも運命なのかしらね」

 

 レミリアはカップを机の上に置く。

 そして私の目をじっと見て言った。

 

「サクヤ・ホワイト。貴方は一九九八年の夏に死ぬわ」

 

 レミリアの冷酷にも聞こえる声が、静まり返った店内に響く。

 私はまるで石化の魔法でも掛けられたかのように、レミリアを見つめたまま動けなくなった。




設定や用語解説

ヨレヨレのTシャツ
 いくらマーリン基金からお金が出ていようが、サクヤの貧乏性は治らない

ソフィア・トレローニー
 占い学の授業でおなじみシビル・トレローニーの妹。オリキャラ。多分もう殆ど出番はない

レミリア・スカーレット
 ついに物語に関わり始めたおぜう。ちなみに今作中にレミリアをおぜうさまと呼ぶものはいない

紅茶占い
 占い学の授業でも習う基本的な占いの一つ。レミリアは指でカップを弾き無駄に回すが、占いの結果には影響しない

死の予言
 レミリアに死の予言をされたものは皆予言通りに死んでいる

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