P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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本屋とオーバーホールと私

 グリンゴッツを出ると皆思い思いの方向に散っていく。

 モリーはジニーを連れて制服を買いに行き、パーシーは新しい羽ペンがいると一人文房具屋の中に消えていった。

 

「じゃあ俺たちも行くぜ。実はリーのやつと待ち合わせしてるんだ」

 

 フレッドとジョージはそう言い残すと通りを駆けていく。

 最終的に私たちだけがグリンゴッツの前に取り残された。

 

「それじゃあ私たちもいきましょうか」

 

 私はハリー、ロン、ハーマイオニーの三人と曲がりくねった石畳の上を歩く。

 道中、ハリーが買ってくれたアイスクリームを食べながらダイアゴン横丁の店を色々見て回った。

 雑貨屋でインクと羊皮紙を買い足したり、高級クィディッチ用品店でチャドリー・キャノンズのユニホームに釘付けになっているハリーとロンを無理やり引きずっているうちにあっという間に一時間が経過する。

 私は懐中時計を確認すると、三人とともにフローリッシュ・アンド・ブロッツ書店に向かった。

 

「なんというか、こんなに混む店だったかしら」

 

 私たち四人が書店にたどり着くと、そこには既にかなりの人だかりができていた。

 皆押し合うようにしながら店の中に入ろうとしている。

 

「あれじゃないか?」

 

 ロンは店の上の階の窓に掛かっている大きな横断幕を指差した。

 

『ギルデロイ・ロックハートサイン会~私はマジックだ~』

 

 どうやら有名人のサイン会の真っ最中らしい。

 なんにしても、店が混んでいるからといって教科書を買わないという選択肢はない。

 私たちは人垣を押し分けるようにしながら店の中に入り込む。

 中ではモリーと同じぐらいの歳の魔女たちに囲まれたロックハートが次々に自伝『私はマジックだ』にサインをしていた。

 

「私ちょっとサインをもらってくるわ!」

 

 ハーマイオニーは書店に置いてあるロックハートの著書を一冊掴むと、列に並んでいたモリーの隣にこっそり割り込む。

 私はそんな様子のハーマイオニーに呆れつつ、必要な教科書を集めながらサイン会の様子を眺めた。

 

「日刊予言者新聞です。ハンサムなスマイルを一枚お願いします」

 

 ロックハートはカメラマンにそう言われると、カメラの方に顔を上げる。

 そして驚いたような声で言った。

 

「もしや、ハリー・ポッターでは?」

 

 ロックハートがそう言った瞬間、人垣がパッと開きロックハートがハリーを台上に引っ張り上げる。

 

「ほら、ハリー。にっこり笑って。私と君のツーショットなんて一面大見出しだ」

 

 カメラマンはこのチャンスを逃さまいと握手を交わす二人に対しシャッターを切る。

 何度もフラッシュが焚かれハリーのぎこちない笑みがその度に照らされていた。

 

「有名人は大変ね」

 

 私は肩を竦めると隅っこの方でもみくちゃにされているジニーと合流する。

 ジニーは低い身長でなんとかロックハートを見ようと精いっぱい背伸びをしていた。

 

「この本取り敢えず大鍋の中に入れておいていい?」

 

「うん、いいよ」

 

 流石に手が疲れてきたので私は山のようになった必要な教科書をジニーの大鍋の中に入れた。

 

「みなさん、今日は記念すべき日になりました。なんと、かの有名なハリー・ポッターが私の自伝を買いに来たわけであります。ですが、実を言うと必然でもあるのです」

 

 ロックハートは観衆に向けて声を張り上げる。

 

「わたくし、ギルデロイ・ロックハートの著書のいくつかがホグワーツの闇の魔術に対する防衛術の教科書に指定されました。彼はその教科書を買いに来たわけですが、何故教科書に私の本が指定されているのか。理由は単純です。わたくしことギルデロイ・ロックハートはこの度、ホグワーツにて闇の魔術に対する防衛術の担当教授職を引き受けることになりました!」

 

 わっと観衆が沸き、同時に拍手が起こる。

 

「ダンブルドア校長から話があった時はついにこの時が来たかと思いましたね。数々の伝説を残してきた私ですが、ついに次世代の若者にその技術を伝授するときがやってきたわけです。ここにいるハリーも、私の授業を受けることになるでしょう」

 

 ロックハートはそう言ってハリーに並べられていた自分の著書の全てをハリーに手渡す。

 ハリーはタワーのようになっている本の山を抱えながらよろよろとこちらに逃げてきた。

 

「これあげる」

 

 ハリーは本の山をジニーの大鍋の中に入れる。

 私の本と混ざったが、書店の外に出た後に分ければいいだろう。

 

「僕のは自分で買うから──」

 

「あ、サクヤ! 君も教科書を買いに来たのかい?」

 

 その瞬間、私の後ろから聞き覚えのある声がした。

 私が振り返るとそこにはマルフォイの姿があった。

 

「お久しぶりドラコ。ということは貴方も本を買いにきたのね」

 

 私はマルフォイが抱えている本の山を指さす。

 マルフォイは本を抱えたまま呆れたようにロックハートの方を見た。

 

「いい迷惑だよほんと。荷物が重くなって仕方がない。今年は重すぎてホグワーツ特急が動かないんじゃないか?」

 

 マルフォイはそう言ってもう一度私の方を見る。

 そして私の後ろにいるハリーを睨みつけた。

 

「それに、教科書を買いに来ただけで一面大見出しなやつもいるしな。ええ? ポッター。有名人は大変だな?」

 

 マルフォイは皮肉交じりに言う。

 ハリーはマルフォイを睨みつけるだけだったが、その間にジニーが割って入った。

 

「ほっといてよ。ハリーが望んだことじゃないわ!」

 

「へえ? よかったじゃないかポッター。素敵なガールフレンドができて」

 

 そう言われてジニーはふくれっ面を真っ赤にする。

 その時ロックハートの本をそれぞれ抱えたロンとハーマイオニーが人込みの中から現れた。

 

「なんだ、君か」

 

 ロンはまるでゴミでも見るかのような目でマルフォイを見る。

 

「ハリーがここにいるからサインでも貰いに来たのか?」

 

「君こそサインを貰わなくて大丈夫かい? 沢山書いてもらって学校で売るといい。そんなに沢山買い込んだら君ら家族はこの先何か月か飲まず食わずだろう?」

 

「やめなさいよみっともない」

 

 私は今にも殴りかかりそうなロンの前に出る。

 

「ロン、こんな場所で喧嘩しないの。ドラコもよ」

 

 マルフォイは私にそう言われて分かりやすくシュンとする。

 その瞬間、今度はアーサーが人込みに押し流されて私たちのもとにやってきた。

 

「ひどいもんだここは。早く外に──」

 

「これはこれは、アーサー・ウィーズリー」

 

 アーサーが言い切る前に、マルフォイの後ろからマルフォイをそのまま大きくしたような男性が姿を現す。

 きっとマルフォイの父親だろう。

 

「ルシウス」

 

 アーサーは何とも微妙な表情でその男性の名前を呼んだ。

 

「役所は大忙しですな。あれだけ何回も抜き打ち調査を……勿論、残業代は貰っているのでしょうな」

 

 マルフォイの父親はジニーの大鍋の中に入っている本を一冊手に取る。

 それは今にも表紙が取れそうな中古の変身術の教科書だった。

 

「いや、どうもそうではないらしい。魔法省も大変ですな。満足に給料も出ないとは。娘の教科書も満足に揃えてやれないのでは仕事にも精が出ないでしょう」

 

「倹約家なだけだ。君が気にするようなことじゃない」

 

 マルフォイの父親は鼻を鳴らして中古の教科書を大鍋の中に放り投げる。

 そして今度は私の方を向いた。

 

「君がサクヤ・ホワイト君だね。息子から話は聞いている。これからもドラコをよろしく頼むよ」

 

 マルフォイの父親はハーマイオニーの方をちらりと見る。

 

「それに、たまに勉強を見てくれると助かる。マグル生まれに全教科で負けているというのは──」

 

「父上! も、もう行きましょう!」

 

 マルフォイは先程のジニー以上に顔を真っ赤にすると、父親を引きずって店の外に出て言った。

 

「ほんと、サクヤにはめっぽう弱いよな」

 

 ロンがマルフォイの後ろ姿を睨みながら言う。

 まあ、年頃の男子なんてあんなものだろう。

 

 私たちは本の代金を店主に払い、早々に書店を後にする。

 書店の外でジニーの大鍋に入れていた教科書を受け取りトランクの中に入れた。

 

「うわ、おも……」

 

 分厚い本がぎっしりと詰まったトランクは殺人的な重さになっている。

 私は何とかトランクを持ち上げたが、このままでは普通に片手で持って帰れそうにない。

 

「トランクの重さがゼロになったらいいのに」

 

 そんなニュートンやアインシュタインに真っ向から喧嘩を売るようなことを考えながら何とかトランクを持ち上げる。

 その瞬間、急にトランクが軽くなり、私は反動で後ろにひっくり返った。

 

「うわっ!」

 

 私はそのまま地面に尻もちをつく。

 その衝撃でトランクの留め具が外れ、中身が盛大に辺りに散らばった。

 暖炉に背中から落ちたり後ろにすっころんだり、今日は散々な一日だ。

 

「大丈夫?」

 

 ハーマイオニーはひっくり返った私を引き起こしてくれる。

 私はズボンに付いた砂を叩き落とすと、散らばった中身を詰め込みもう一度トランクを持ち上げた。

 

「ん?」

 

 その時妙な違和感を感じ、私はトランクを見る。

 何故かはわからないが、この一瞬でトランクの重さが急に軽くなった。

 転んだ拍子に中身を落としてしまったかと心配になり、私はもう一度トランクを開けて中を確認する。

 だが中は先程詰め直した時と変わらず分厚い本が所せましと並んでいた。

 

「なんで?」

 

「どうしたの?」

 

 ハーマイオニーは私と一緒にトランクの中を覗き込む。

 私はトランクを閉め、もう一度トランクを持ち上げた。

 やはりトランクは何も入っていないかのような重さになっている。

 

「ああ、いや。なんでもないわ」

 

 どうやら何か不思議な力が働いているようだ。

 この力がどういうものかわからない以上、ハーマイオニーには言わないほうがいいだろう。

 あとで時間を止めてゆっくり検証することにしよう。

 私たちはフローリッシュ・アンド・ブロッツ書店を離れると、皆で漏れ鍋まで移動する。

 今回はここで解散することになっていた。

 

「それじゃあサクヤ、引き続き良い休暇を」

 

「はい。お世話になりました」

 

「サクヤ! ハーマイオニー! またホグワーツ特急で!」

 

 ウィーズリー一家とハリーは漏れ鍋の暖炉で隠れ穴に煙突飛行していった。

 

「ハーマイオニーはここからどうするの?」

 

 私がそう聞くと、ハーマイオニーは両親の方を見ながら言った。

 

「私たちは地下鉄で帰るわ。流石にうちの暖炉は煙突飛行ネットワークに繋がってないし。サクヤは?」

 

「私はもう少し寄るところがあるから」

 

 私はグレンジャー一家と別れるとダイアゴン横丁へと戻る。

 そしてしばらく歩き、去年のクリスマスに懐中時計を買った時計屋を訪ねた。

 

「ごめんくださ~い」

 

 私は店の扉を開け店の中に入る。

 すると店の奥の方から店主の老人が顔を出した。

 

「おお、あの時の。買った時計の調子はどうだい?」

 

 老人は私の顔を見て嬉しそうに微笑む。

 私はポケットの中から懐中時計を取り出した。

 

「特に大きな狂いもありません。なので言われたとおりにオーバーホールにきました」

 

 老人は懐中時計を受け取ると、工具を使って懐中時計の裏蓋を開ける。

 そして忙しなく動くテンプを確認した。

 

「なるほど、大切に使われているようだ。こっちへ」

 

 老人は懐中時計片手に店の奥にあるテーブルに向かう。

 私はその横に置いてある椅子に腰かけた。

 

「オーバーホールにはどれぐらいの時間が掛かりますか?」

 

「一時間も掛からんよ。マグルの時計技師と違ってこっちは魔法を使えるから」

 

 老人は専用の工具を使って時計の分解を始める。

 私は横で老人の作業をじっと観察した。

 

「ホグワーツはどうだい? あそこは面白いところだろう?」

 

 私は老人にホグワーツでの思い出話をいくつかする。

 好きな授業や友達のハリー、ロン、ハーマイオニーの三人の話など、本当に他愛もない話だ。

 老人は時折時計を杖でつつきながら楽しそうに私の話に相槌を打つ。

 老人の言った通り、時計のオーバーホール自体は一時間も掛からず終わってしまった。

 

「清掃と給油をしておいた。精度の調整もしておいたから一年は大丈夫だと思う」

 

「ありがとうございます」

 

 私は老人から懐中時計を受け取る。

 魔法で綺麗に磨かれた懐中時計は私の手の中で小さな音を立てながら動いていた。

 私はいつものように右手で懐中時計をギュッと握りしめる。

 四ビートのリズムが私の手のひらを通じて感じ取れた。

 

「うん、いい感じです」

 

 私の行動に老人は不思議そうに首を傾げる。

 私は懐中時計をポケットの中に滑り込ませると、老人に向き直った。

 

「本当にありがとうございました。来年またオーバーホールに出しにきます」

 

「もし壊してしまったらフクロウ便で郵送してくるといい。うちは永年サポートが売りだから」

 

「はい。その時はよろしくお願いします」

 

 私はもう一度頭を下げ、店を後にする。

 一年に一度ではあるが、この付き合いは大切にしたい。

 私は漏れ鍋に戻りながらポケットの中で懐中時計を握りしめる。

 心拍数を頼りに時間を止めるよりも、時計の振動を頼りに時間を止めるほうが正確な能力の行使が可能だ。

 私は石のアーチを潜って漏れ鍋の中に入る。

 そのまま店内を通り抜けてロンドンの町に出た。

 私は妙に軽いトランクを片手にロンドンの町を歩き、孤児院まで帰る。

 そしてセシリアの熱烈なハグをやり過ごし、自分の部屋へと戻った。

 

「……やっぱりおかしいわよね」

 

 私は窓の外に誰もいないことを確かめ、時間を停止させる。

 そして手に持っていたトランクを床の上に置いた。

 

「トランクの重さが急になくなるなんて……」

 

 私は時間の止まった部屋の中でトランクを何度か持ち上げる。

 やはりトランクは空のように軽い。

 

「無意識に何か魔法を掛けているのかしら」

 

 私は一度トランクの中身を床の上に広げる。

 そしてもう一度トランクを持ち上げた。

 

「重さは変わらない。ということは中身の重さがゼロになっている?」

 

 私は今度は床に置いたロックハートの本を手に取る。

 ロックハートの本はずっしりとした重さを私の手に返してきた。

 

「出したものにはちゃんと重さがある。ということは中に入れたものの重さが消えるということね」

 

 私はもう一度トランクの中に本を入れる。

 すると今度はトランクと本の重さを足した重さをしっかりと感じた。

 

「もとに戻った? うーん、偶然変な力が働いたのか……」

 

 私はひっくり返したり覗き込んだりしながらトランクの中を調べる。

 だが特に異常を見つけることはできなかった。

 

「研究の余地ありね。いや、でもそういえば」

 

 私はポケットの中から金貨の入った小袋を取り出した。

 

「この袋の中に入れてある金貨の重さは見た目程度には減っているし……そういう魔法がありそうね」

 

 このマーリン基金の金貨の小袋も見た目以上の金貨がこの小袋に詰められている。

 きっとそのような空間を広げたり重さを軽減したりする魔法があるのだろう。

 

「やっぱり何でも入るトランク……いや、鞄があれば便利よね。でも中の時間が止まっていればもっと便利だけど」

 

 私はトランクを地面に置くと、時間停止を解除する。

 そして今度は懐中時計をポケットから取り出した。

 私は止まった時間の中を自由に動くことができる。

 また、止まった時間の中のものに触れればそのものの時間を動かすことができる。

 

「まあ、生き物に触れたら私の意思とは関係なく時間が動いちゃうのは欠点よね」

 

 だとしたら、時間が動いている普通の世界で、任意に物の時間だけを止めることができるのだろうか。

 私は右手に握りしめた懐中時計に集中する。

 そして六十秒かけて一周する秒針をじっと見つけた。

 次の瞬間、懐中時計の針はぴたりと動きを止める。

 

「お、できた」

 

 私はその場で懐中時計を軽く振る。

 普段は自由に動く銀の鎖は、まるで一本の棒になっているかのように動きを止めていた。

 

「単体で時間を止めてもその場で固定されるわけじゃないのね。重さもちゃんとあるし」

 

 詳しい原理は私にもわからない。

 だが、物体を指定して時間を止められるというのは、新しい発見だった。

 

「これ極めればいつでもどこでも温かい料理が食べれるんじゃないかしら」

 

 なんにしても、私のこの時間停止の能力はまだ分かっていないことが多い。

 これからも少しずつ自分の能力について研究していこう。

 私は床に散らばった荷物をトランクの中に詰め直す。

 なんにしても夏休みはまだ長い。

 自分の能力について調べる時間は十分にあるだろう。




日刊予言者新聞
 魔法界の新聞。ホグワーツへも届けてもらうことができる。

ギルデロイ・ロックハート
 勲三等マーリン勲章、闇の力に対する防衛術連盟の名誉会員、週刊魔女のチャーミングスマイル賞を5回連続で受賞した魔法使い。お母さん世代の魔女に大人気なハンサム。

ルシウス・マルフォイ
 ドラコ・マルフォイの父親にてホグワーツの理事の一人。過去ヴォルデモートの手下である死喰い人だったが、ヴォルデモートがいなくなったタイミングでうまいこと逃れ、今でも普通に権力者として魔法界にいる。

サクヤの能力の進化
 単純に時間を止めるだけだったのが、対象を選んで時間を止められるようになった。使用用途はまだ考え中(サクヤが)

Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
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