P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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吼えメールとマンドレイクと私

 結局のところ、ハリーとロンが退学になることはなかった。

 噂話やゴーストから聞いた話をまとめると、どうやら二人は空飛ぶ車でホグワーツまで来た挙句、校庭にある暴れ柳に突っ込んだらしい。

 普通なら退学になってもおかしくないような所業だが、二人の言い分とまだ新学期が始まってないということを考慮して罰則を貰うのみで済んだようだった。

 歓迎会が終わったあとハーマイオニーと二人でグリフィンドールの談話室で待っていると、しょぼくれた顔のハリーとロンが肖像画の穴をよじ登って談話室に入ってくる。

 その瞬間、談話室は拍手喝采に包まれた。

 

「やったなハリー! マジ感動的だぜ!」

 

 リー・ジョーダンが大きく手を叩きながら叫ぶ。

 

「なんで呼び戻してくれなかったんだよ! なんにしても、車で暴れ柳に突っ込むなんてなぁ……何年も語り草になるぜこれは」

 

 フレッドはロンの背中をバンバンと叩きながら興奮気味に言った。

 そのほかにも、普段あまりハリーたちと関わりのない上級生もハリーたちをまるでスターのように讃えている。

 談話室の中で硬い表情をしているのは監督生のパーシーのみだった。

 その気配を敏感に感じ取ったのか、ハリーとロンはパーシーに捕まる前に男子寮へと上がっていく。

 ハリーとロンを待っていたグリフィンドール生も、一つのイベントが終わったため皆大きく伸びをしながら各々散っていった。

 

「なんにしても、これで二人が調子に乗らないといいけど」

 

 ハーマイオニーは腰に手を当てて男子寮の方を睨む。

 

「まあ今更でしょ。それに、こんなことをしでかしてモリーさんが黙っているとは思えないわ」

 

 車で暴れ柳に突っ込んだということは、アーサーの車がお釈迦になったことを意味する。

 遅かれ早かれ今回の騒動はモリーの耳に届くだろう。

 

 

 

 

 次の日の朝、私たちが大広間で朝食を取っていると、ロンの頭の上に一匹のフクロウが落ちてきた。

 フクロウはそのまま机の上に滑り落ちると、ロンの食べていたオートミールの皿をひっくり返す。

 

「エロール! まだ死んでなかったのかお前」

 

 ロンは慎重な手つきでエロールを持ち上げると、小皿に水を入れてエロールの近くに置く。

 エロールは横たわりながらも小皿の中に嘴を突っ込んだ。

 

「まったく。お騒がせなフクロウだよほんと」

 

 ロンはローブに少し掛かったオートミールを拭いながらため息をつく。

 だが、すぐに机の上に落ちている赤い封筒に気が付いた。

 

「大変だ……」

 

「まあ、ローブは私が綺麗にしてあげるわ」

 

 ハーマイオニーがそう言って杖を取り出す。

 

「そうじゃなくて──これ」

 

 ロンはまるで爆発物でも触るかのように赤い封筒を持ち上げた。

 

「その手紙がどうしたの?」

 

 ハリーが慎重に手紙を持ち上げたロンに聞く。

 

「ママが……ママが『吼えメール』を送ってきた」

 

 その手紙を見て、横にいたネビルも顔を青くする。

 

「ロン、早く開けたほうがいいよ。僕も一回おばあちゃんから届いたことがあるんだけど、怖くて開けられずにいたら……その、酷かった」

 

 それを聞いて、サァっとロンの顔の血の気が引く。

 

「吼えメールってなに?」

 

 ハリーがロンに聞いたが、ロンは吼えメールに全神経を集中させており、まったくハリーの言葉が聞こえていなかった。

 

「開けたほうがいいよ。ほんの数分で終わるから……」

 

 そう言いながらも、ネビルは既に両手でがっちりと両耳を塞いでいる。

 ロンは意を決した表情で封筒を開封した。

 その瞬間、封筒が爆発したと錯覚するほどの爆音でモリーの声が大広間中に響き渡る。

 

『車を盗み出すなんて退学処分になって然るべきです! 昨夜ダンブルドアから手紙が来て、お父さんは恥ずかしさのあまり死んでしまうのではないかと心配したほどですよ! こんなことをする子に育てた覚えはありません! お前もハリーも──』

 

 あまりにも爆音なため、窓ガラスがビリビリと振動し、今にも割れそうになっている。

 

『まったく愛想が尽きました! お父さんは役所で尋問を受けたのですよ! みんなお前のせいです。今度ちょっとでも規則を破ってみなさい! わたしがお前をすぐに家に引っ張って帰りますからね!』

 

 そう言うと吼えメールは一気に燃え上がり、机の上に灰となって積もる。

 ハリーとロンは呆然と燃え尽きた吼えメールを眺めていた。

 

「なんというか、ご愁傷様……」

 

「いや、当然の報いでしょ」

 

 ハーマイオニーは厳しくそう言い放つ。

 だが、ハーマイオニーは吼えメールの一件で二人が十分罰を受けたと判断したのか、すぐに笑顔で時間割を机の上に広げた。

 

「ほら、すぐにでも授業が始まるわよ。一番初めの授業はスプラウト先生の薬草学ね。ハッフルパフとの合同授業みたい」

 

「ああ、うん」

 

 ロンとハリーは吼えメールのショックからまだ回復していないのか、大広間を出てからも心ここにあらずといった様子だった。

 二人を半ば引っ張るようにして私たちは温室のほうへと向かう。

 温室の外には既に他のクラスメイトが集まっており、薬草学のスプラウトを待っている様子だった。

 しばらく待っているとスプラウトとロックハートが何かを楽しそうに話しながら温室の方へと戻ってくる。

 スプラウトはずんぐりした小さな魔女で、つぎはぎだらけの帽子を被っている。

 また、ロックハートの方は本屋でみたライラック色のローブではなく、黒く、目立たないローブを着込んでいた。

 

「それにしてもびっくりしましたわ。ロックハート先生があそこまで薬草学の造詣が深いなんて」

 

「いや、スプラウト先生には敵いませんよ。私にはお手伝いすることぐらいしかできません。っと、スプラウト先生はこれから授業でしたね。後片付けは私がしておきますので、先生は授業のほうへ」

 

 ロックハートはそう言うとスプラウトが持っていた包帯の山をひったくり、温室の中へと入っていく。

 スプラウトはうっとりとした目でロックハートを見ていたが、すぐに我に返ってニコニコ笑顔で生徒たちに呼びかけた。

 

「みなさん! 今日は三号温室に!」

 

 スプラウトは慣れた手つきで三号温室の鍵を開け始める。

 そういえば今まで薬草学の授業は一号温室で行っていた。

 三号温室には危険な植物が植わっているとのことだったが、学年が上がったことによって少し授業のレベルも上がったということだろう。

 

「さあ、皆さん温室の中へ」

 

 スプラウトは温室の扉をパッと開けると、中に生徒たちを呼び込む。

 私たちはスプラウトの後に続いて温室の中に入ると、真ん中に置かれている机を取り囲むように円になった。

 

「今日はマンドレイクの植え替えを行います。マンドレイクの特徴がわかる人はいますか?」

 

 スプラウトが生徒にそう聞いた瞬間、ハーマイオニーの手がスッと上がる。

 

「マンドレイク、別名マンドラゴラは強力な回復薬です。姿を変えられたり、呪いをかけられたりした人を元の姿に戻すのに使われます」

 

 ハーマイオニーの完璧な答えに、スプラウトは小さく手を叩く。

 

「大変よろしい。グリフィンドールに十点あげましょう。ミス・グレンジャーの言う通り、マンドレイクはたいていの解毒剤の主成分になります。しかし危険な面もあります。その理由が言える人は?」

 

 またハーマイオニーの手が一番に上がる。

 

「マンドレイクの泣き声はそれを聞いた者にとって命取りになります」

 

「その通り。もう十点あげましょう。みなさん、一つずつ耳当てを手に取って」

 

 スプライトは生徒に耳当てを配り始める。

 

「私が合図したら皆さん耳当てをしっかりとつけてください。私が合図するまでは決して耳当てを外してはいけませんよ。それでは、付け!」

 

 スプラウトの合図とともに皆耳当てを耳に装着する。

 私も、もこもこした耳当てをしっかりと装着した。

 スプラウトは皆が耳当てをつけたことを確認すると、何かが植わった鉢植えと、空の鉢植えを温室の奥の方から運んでくる。

 そして鉢植えに植わっている植物を一気に引き抜いた。

 引き抜かれた植物の根は醜い赤子のようになっており、音は聞こえないが泣き喚いているように見える。

 スプラウトは空の鉢植えにマンドレイクを突っ込むと、黒い堆肥でマンドレイクの根をしっかりと埋め込んだ。

 一連の作業が終わり、スプラウトが自分の耳当てを外し、生徒に合図をする。

 私は隣の生徒が耳当てを外したのを確認したあと、慎重に耳当てを外した。

 

「このマンドレイクはまだ苗ですので、泣き声を聞いても死に至ることはありません。でも皆さんを数時間気絶させる程度には危険です。ですので、作業を行う際は耳当てを絶対に外さないように。後片付けの時間になったら私がまた合図をします」

 

 スプラウトは温室の奥を指さす。

 

「一つの苗床に四人、植え替えの鉢植えはここに十分あります。堆肥の袋はこっちです。歯が生えてきている最中ですので、十分注意してください」

 

 私たちは奥から必要なものを持ってくると、耳当てをして植え替える準備を進める。

 ハリーがマンドレイクの葉の部分を掴み、ロンが替えの鉢植えを構える。

 ハーマイオニーが堆肥の袋を準備し、私は両手でしっかりと耳当てを押さえた。

 

『行くよ』

 

 声は聞こえないが、ハリーがこちらに対してそう言ったような気がする。

 私たちがハリーの問いに頷くと、ハリーは一気にマンドレイクの苗を引き抜き、ロンが構えていた鉢植えの中に入れる。

 その瞬間、ハーマイオニーが鉢の中を堆肥で一杯にした。

 私はその様子を見て小さく手を叩く。

 その後も私たち四人は華麗なチームワークでマンドレイクの植え替えを終えていった。

 多分クラスで一番手際が良かったんじゃないだろうか。

 ハリーが抜き、ロンが構え、ハーマイオニーが埋め、私が手を叩く。

 四つ目の植え替えを終えた時、不意に後ろから私の肩が叩かれた。

 私が振り返るとそこには笑顔のスプラウトが立っている。

 そして私にマンドレイクの鉢をグイっと押し付けた。

 

『貴方も作業しなさい』

 

 声は聞こえなかったが、スプラウトは多分そう言ったのだろう。

 私はマンドレイクを引き抜くと、替えの鉢植えにマンドレイクを押し込み、ハーマイオニーが持っていた堆肥を流し込んだ。

 

 薬草学の次は変身術の授業だった。

 一年生の期末試験の際にやりすぎたこともあり、マクゴナガルがかなり期待した眼差しを私に投げかけてくる。

 課題はコガネムシをボタンに変えるというものだったが、私は時間を止めて何度か練習してから実習に臨んだ。

 

「さあミス・ホワイト。変化させてみなさい」

 

 マクゴナガルの監視下のもと、私は咳払いを一つした後コガネムシに呪文を掛ける。

 その瞬間、コガネムシは見事なエメラルドグリーンの飾りボタンに変化した。

 

「素晴らしい飾りボタンです。グリフィンドールに十点加点しましょう」

 

 マクゴナガルはにっこり微笑むと、今度はロンの様子を見に行く。

 私は小さくため息をつくと、変化させたボタンを杖でつついた。

 

「貴方も大変よね」

 

 飾りボタンに変化させられたコガネムシはピクリとも動かない。

 その瞬間、卵を腐らせたような臭いが鼻を突いた。

 

「臭っ……一体何が──」

 

 私が周囲を見回すと、ロンの杖から煙が噴き出している。

 よく見ると、ロンの杖は真ん中のあたりがテープでぐるぐる巻きになっていた。

 

「杖ぐらい新しいものを……いや、夏休暇の時には折れてなかったわよね?」

 

 多分だが、車で暴れ柳に突っ込んだ時に折れてしまったのだろう。

 だがあの杖ではまともに呪文は使えないはずだ。

 ちゃんと授業を受けるためにも新しい杖が必要だろう。

 

 変身術の授業が終わり、私たちは大広間に昼食を取りに来ていた。

 ロンは先程の失敗がかなり気になっているのか、杖のテープを巻きなおしている。

 

「くそ、このポンコツ! 役立たず!」

 

「学校に杖の予備がないかしら。それか家から代わりの杖を送ってもらうか」

 

「家に手紙を出したところでまた吼えメールが返ってくるだけさ。『杖が折れたのはお前が悪いからです!!』ってね」

 

 ロンがそう言って肩を竦める。

 もう杖を直すのは諦めたのか、ロンは鞄の奥の方に杖を押し込んだ。

 

「でも、その杖じゃまともに授業が受けられないわ」

 

 ハーマイオニーが自分の皿に卵料理をよそいながら言う。

 

「勿論、杖を振り回すだけが魔法じゃないけど、杖を振ることができなければ魔法使いじゃないわ」

 

 ロンは不貞腐れたようにベーコンにかじりつく。

 ハーマイオニーは肩を竦めると、時間割を確認し始めた。

 二人の間に微妙な空気が流れ始める。

 ハリーは何とか空気を変えようと、慌てて口を開いた。

 

「午後の授業はなんだっけ?」

 

「闇の魔術に対する防衛術よ」

 

 ハーマイオニーが間髪入れずに答える。

 

「君、ロックハートの授業を全部小さなハートで囲んでるけどどうして?」

 

 ロンがハーマイオニーの時間割を覗き込む。

 ハーマイオニーは顔を赤くすると、慌てて時間割を隠した。

 

「あら、ハーマイオニーも乙女ね」

 

「からかわないでよ! 純粋に尊敬してるだけ」

 

 昼食を終え、私たちはロックハートの本を抱えて闇の魔術に関する防衛術の教室に向かう。

 ロックハートはまだ来ていないようで、教室の中ではロックハートがどのような授業を行うのか生徒が口々に話し合っていた。

 

「去年のクィレルの授業は殆ど座学だったけど、ロックハートの授業はどんな感じだろう?」

 

 ハリーは机の上にロックハートの本を積み上げてタワーのようにしている。

 対照的に私は机の上に本を敷き詰めて机の上を平らにした。

 

「まあ、本を読む限りでは面白そうな授業にはなりそうだけど……」

 

 私は本の一つを指で弾く。

 その瞬間、ロックハートが教室の扉を開いて中に入ってきた。

 

「やあ、少し待たせたかな? すまないね。思いのほか昼食のミートパイが懐かしくてつい食べ過ぎてしまった。生徒の前にパイ生地をいっぱいつけたローブで出てくるわけにもいかないからね」

 

 ロックハートは教卓の上で授業の準備を進めながら教室の中を見回す。

 そして何かに気が付いたかのようにネビルの机の上に置いてある本を一冊取り上げた。

 

「すまない。使う教科書の指定をしていなかったね。しばらくはこの『トロールとのとろい旅』を使って授業をしていく。それ以外の教科書は自分のベッドの下に仕舞いこんでいて構わないよ」

 

 ロックハートはネビルに本を返すと、黒板の前に立つ。

 そして大きな字で三十分後の時間を書いた。

 

「さて、早速だが私の自己紹介の前にまずは君たちのことが知りたい。なに、簡単なテストだ。制限時間は三十分。自分がわかる範囲で解いてくれ」

 

 ロックハートが杖を振るうと、机の上に置いてあった教科書が全て消失する。

 そしてロックハートの鞄の中から数十枚の羊皮紙が列を成して飛び出し、生徒一人一人の机の上に裏向きで着地した。

 

「さあ、始めて欲しい。その間に私は裏で少し今日の授業の準備をしてくるよ」

 

 ロックハートはそう言い残すと教室の裏にある部屋の中に入って行ってしまう。

 生徒たちは顔を見合わせると、机の上に置かれた羊皮紙をひっくり返した。




設定や用語解説

マンドレイク
 別名マンドラゴラ。回復薬や解毒薬の材料になる。モンハンだとキノコだが、ハリー・ポッターでは植物の根。

Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
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