P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
無事お金を手に入れることができた私とハリーは、ハグリッドに連れられてグリンゴッツを出る。
ハリーは眩しそうに眼を細めていたが、ハグリッドはそんなことを気にしていられないといった表情で重そうに口を開いた。
「まずは制服だな」
ハグリッドは遠くに見える看板を顎で差す。
「俺はちょっと漏れ鍋で元気薬をひっかけてくる。さっきのトロッコにはまいった」
ハグリッドは青い顔のまま先ほど通ってきた道を引き返していく。
ダイアゴン横丁に取り残された私とハリーは、少々顔を見合わせた後ハグリッドが示した看板のある店の前まで移動した。
「マダム・マルキンの洋装店……ハグリッドが言ってたのは多分ここよね?」
「うん、そうだと思う」
私は恐る恐る扉を開き、中を覗き込む。
店の中にはずんぐりした女性がおり、覗き込んだ瞬間彼女と目が合った。
「あら、お客さんね。お嬢ちゃんたちも今年からホグワーツ?」
店員の女性、多分彼女がマダム・マルキンだろう。
マルキンは私たち二人を店の中に引きずり込むと、踏み台の上に立たせる。
店の中には既に採寸を行っている少年が一人おり、その横に私が、そして私の横にハリーが並んだ。
マルキンは私の頭から長いローブを被せると、丈に合わせてピンを挿し始める。
「やあ、君も今年からホグワーツかい?」
私の横に立っていた少年に声を掛けられた。
その少年は私のように白い肌をしており、まるで蛇のような容姿をしていた。
「ええ、そうみたい」
「そうか。じゃあホグワーツで必要なものの買い出しってわけだ」
少年は気取った声色で続ける。
「僕の父は隣で教科書を買ってるし、母はどこかで杖を見てる。まあでも、僕が一番欲しいのは箒だね。新しい競技用の箒を買わせてこっそり持ち込んでやる」
少年は自慢げにそう言ったが、私は競技用の箒という単語に興味が湧いた。
「競技用の箒?」
「そうさ。ニンバスの新型が出たんだ。今までの箒とは段違いに速いに違いない。君は箒は持っているかい?」
少年は私の方を振り向くと、私の顔を見て少し固まる。
そして少々顔を赤くして目線を逸らした。
「いいえ、持ってないわ」
「じゃあクィディッチはやらないんだね」
「クィディッチ?」
私がそう聞き返すと、少年は少し意外そうな声を出す。
「クィディッチを知らないの? もしかして、マグル生まれか?」
「マグルって?」
「魔法使いじゃない人間のことさ」
魔法使いじゃない人間の子供が魔法使いになることがあるのか。
いいことを聞いたかもしれない。
「わからないわ。私に両親はいないし」
「死んだの?」
「多分ね」
少年は歯に衣着せぬ物言いでそう言うが、私も特に気にすることなくそう返す。
私自身、私の両親のことなど、割とどうでもいいと思っていた。
既に死んだか、ただ私を捨てただけかはわからないが、どちらにしろロクな親ではないだろう。
「そうか。きっと魔法使いだよ。そうに決まってるさ」
少年は慰めているのか、そんなことを言った。
少年の物言いからして魔法使いから生まれた魔法使いのほうが優秀であるというジンクスでもあるのだろう。
所謂純血主義というやつか。
「私は生まれてからずっと孤児院で暮らしてきたから魔法界には詳しくないの。色々教えてくれると助かるわ。その様子だと、どこか魔法使いの名家の生まれなんでしょう?」
「よくわかったね」
「そんな雰囲気が出てるもの」
高貴なオーラというよりかは、見た目がいいとこのお坊ちゃんだ。
これで両親は畑仕事に精を出してますなんて言われたら、逆に驚くところである。
「まあね。将来マルフォイ家を背負うものとしてはそれぐらい……僕はドラコ。ドラコ・マルフォイだ」
「私はサクヤ・ホワイト。サクヤでいいわよ」
私はマルフォイの顔を見て微笑む。
マルフォイは白い顔を少し赤くすると、軽く咳払いをした。
「サクヤか……ところで一緒に入ってきたそっちの少年は?」
マルフォイは私越しにハリーの方を覗き込む。
「ああ、彼は私と同じで両親がいないの。だから一緒に買い出しに来たってわけ」
「二人でかい?」
「違うわ。ホグワーツの関係者が案内してくれているの。彼と会ったのは今日が初めてね」
私はあえてハリーの名前は出さなかった。
必要だと感じたら、ハリー自身が自分で名乗るだろう。
「ふうん……って、もしかして君の案内って……」
マルフォイは窓の外を顎で指す。
そこには大きなアイスクリームを器用に三つ持っているハグリッドの姿があった。
「ええ、彼ね」
「へ、へぇ。ハグリッドが案内か……まあ召使いのようなものだし荷物持ちぐらいにはなるか」
「確かに力は強そうね」
ハグリッドは店の扉を開けようとするが、両手にアイスを持っていたことを思い出したらしく、店の前で待つことにしたようだった。
マルフォイはハグリッドのそんな様子を鼻で笑うと、そのまま言葉を続ける。
「野蛮人だって話だ。学校の領地内の掘っ立て小屋に住んでいて、土人のような生活をしてるって」
「彼って──」
「あら、遅れてるわよドラコ。最近はそういうの流行ってるんだから。自然に囲まれた生活を求めてわざわざ都会から田舎に引っ越す人もいるみたい」
私はハリーが何か言う前に割り込む。
マルフォイは意外を通り越して不思議そうな顔をしていた。
「わざわざ文明レベルを下げるなんて……マグルのやることは分からないな」
「それには同感ね。わざわざお金をかけてまでやることではないと私は思うわ。まあ私は孤児院暮らしだから、生活はみすぼらしいんだけどね」
「ならよかったじゃないか。ホグワーツは寮だから今の孤児院からは離れられる」
まあ、確かにそうなのだ。
ホグワーツでの生活がどのようなものなのかはわからないが、孤児院よりかは裕福な生活が送れそうである。
「さあ終わりましたよ。おぼっちゃん」
私がホグワーツでの生活を想像していると、マルフォイの採寸が終わったようだった。
「じゃあホグワーツで。サクヤ」
マルフォイはぴょんと踏み台から飛び降りると、魔法によって一瞬で縫い終わったローブの入った袋を片手に店を出ていく。
そして店の外にいるハグリッドを軽く睨むと、鼻を鳴らして通りを歩いて行った。
「なるほど、ドラコ・マルフォイね」
私は独り言のようにそう呟く。
ハリーは何かを考えるように押し黙ったままだったが、その表情から察するにハグリッドを馬鹿にされて相当機嫌が悪いようだった。
「貴方も面倒くさい生き方してるわね。勿論、私はハグリッドが野蛮人だなんて思っていないわ」
「だったらどうして……」
ハグリッドが馬鹿にされたのに文句を言わなかったのか。
ハリーの目はそう訴えていた。
「自分の思ったことに正直になることはいいことだけど、それを全部口に出すのは自己中心的な行為よ。時には他人に話を合わせることも大切だし、円滑なコミュニケーションには譲歩やお世辞も必要だわ」
これ自体は私が孤児院でいい子ちゃんを演じてきて学んだ処世術だが、ハリーは納得していないようだった。
「ハグリッドが馬鹿にされるのを黙ってみているぐらいなら、僕は自己中でいい」
「そう、それはそれで立派な考えね」
「え?」
私はそう言うと同時にマルキンの採寸が終わる。
私は出来上がったローブを受け取ると、マルキンに料金を支払った。
「さて、急がないと彼がせっかく買ってきてくれたアイスが溶けてしまうわ。私は先に行くわね」
私はローブの入った紙袋片手に、店の外へと出る。
「ほれ、これはお前さんの分だ。今日は暑いからな」
ハグリッドは大きなアイスクリームを手渡してくれる。
「ありがとうございます」
私はハグリッドにお礼を言うと、アイスに刺さっているスプーンでアイスをすくった。
「ハリーもそろそろ終わりそうだな。まだまだ買うものは沢山ある。今日は忙しいぞ」
ハグリッドは出てきたハリーにアイスを手渡すと、ダイアゴン横丁を歩き出す。
次に買いに行ったのは羊皮紙と羽ペンだ。
文房具店には魔法が掛かっている羽ペンやインク等も置いてあり、ハリーは色が変わるインクを見つけて意気揚々と購入していた。
私はというと、こんなところで無駄遣いもできないため、普通に学校指定の羊皮紙と羽ペン、インクを購入する。
それにしても普段使いのノート代わりに羊皮紙とは、豪勢なものである。
羊皮紙は文字通り羊の皮を鞣し、薄く削って作られるためパルプ紙等より高価なはずだ。
私はあまりに安価な羊皮紙を必要分だけ購入すると、帳簿に制服分もまとめて記入する。
羊皮紙、羽ペンときたら次は教科書だ。
フローリシュ&ブロッツ書店と書かれた店の棚には、天井近くまでびっしり本が積み上げられていた。
私は必要な教科書を確認するために手紙を取り出そうとしたが、書店の一角にホグワーツ新入生向けお買い得セットを見つける。
どうやら新入生向けにまとめ買いできるようになっているようだった。
「ハリー、あのセットお得じゃない?」
私は何かの本を読み耽っているハリーの肩を叩く。
「あー、うん」
ハリーは一応返事をしたが、会話の内容を理解はしていないようだった。
私はハリーが読んでいる本を覗き込む。
本の表紙には『呪いの掛け方、解き方(友人をうっとりさせ、最新の復讐方法で敵を困らせよう)』と書かれている。
どうやら呪文の本のようだ。
そんなにマルフォイに腹を立てているのだろうか。
私は小さく肩を竦めると、雑に紐で括られている教科書のセットを店主のもとまで持っていく。
そして小袋から硬貨を取り出し、店主に支払った。
「ハリー、まだ買うものは沢山ある。買うものを買ったら次に向かうぞ?」
ハグリッドはハリーの首根っこを掴むと、教科書のセットとともに店主のもとまで持ち上げて連れて行く。
ハリーは先ほど読み耽っていた本も買おうとしていたが、ハグリッドに引っ張られ叶わなかったようだった。
「僕、どうやってダドリーに呪いをかけたらいいか調べてたんだよ」
「それが悪いとは言わんが、あの本はおまえさんにはまだ早い。それに、マグルの世界ではよっぽどのことがない限り魔法を使っちゃいかんのだ」
ハグリッドはそう嗜めると、ハリーの背中をバンバン叩いて次の店へと急かす。
ハリーは少々心残りがありそうだったが、ハグリッドに背中を叩かれては歩かざるを得ないようだった。
「ハリー、ダドリーって?」
私は背中をさすっているハリーに聞く。
「ああ、僕の居候先の子供だよ」
「その様子だと、仲は良くなさそうね」
「もう最悪さ」
ハリーは忌々し気に首を振る。
どうやら居候先の家族とはあまり仲が良くないらしい。
まあ、痩せ細った体と、みすぼらしい服装を見るに、ただ仲が悪いだけではなさそうだ。
その後も大鍋や秤、望遠鏡など手紙に書かれている物を購入していく。
私はリストを上から辿り、買っていないものを確認した。
「あと買ってないのは……杖ね。ハグリッドさん、杖はどこで買えますか?」
「杖はオリバンダーの店に限る。ここらでは一番の杖職人だ。っと、そういえばまだおまえさんらに入学祝を買うておらんかったな」
「そんな、案内までしていただいているのに」
「それにハリー、おまえさんは今日誕生日じゃないか。……そうだ。ハリーにはフクロウなんてどうだ? うん、それがいい。フクロウだ。他の動物に比べて役に立つ。手紙なんかを運んでくるしな。サクヤもフクロウでいいか?」
ハグリッドは名案だと言わんばかりに大きな手をポンと叩く。
ハリーは目を輝かせていたが、私の脳裏に昨日の惨状がよぎった。
「お気持ちは嬉しいんですが……私はフクロウは遠慮します。あまり良いイメージがないので」
「ん? そうか……ならサクヤは別のもんだな。ほれ、ハリーこっちだ」
ハグリッドはハリーを引っ張ってフクロウを専門に扱っている店に入っていく。
二十分もしないうちにハリーは大きな鳥かごを抱えて店から出てきた。
籠の中には真っ白なフクロウが羽に顔をうずめてぐっすりと寝ている。
「あ、ありがとうハグリッド」
「礼はいらん。さて、次はサクヤだが……」
「ハグリッドさん、私は大丈夫です。別に誕生日というわけでもありませんし」
私へのプレゼントを考え込むハグリッドに対し、私はそう言った。
「そうか? でもそれじゃあ少し不公平じゃないか?」
「それでは私の誕生日が来たら、その時プレゼントをください。今プレゼントを貰って、誕生日にまた貰ったら今度はハリーが不公平ですので」
「お? そうか……確かにそうかもしれん」
ハグリッドは納得したのか、気を取り直して言った。
「それじゃあ最後に杖だな。オリバンダーの店に向かおう」
私とハリーはハグリッドに連れられて杖が売られている店に向かう。
着いた先は今まで入った店に比べると一番店の外見が古かった。
扉には剥がれかかった金色の文字で『オリバンダーの店』と書かれている。
扉の横にはショーウィンドウがあるが、そこには色褪せた紫のクッションの上に杖が一本置かれているだけだった。
ハグリッドは劣化した扉を壊さないよう慎重に扉を開ける。
それと同時に、店の奥でベルが鳴り響いたのが聞こえた。
「凄い。これ全部杖?」
ハリーは店内を眺めながら呟いた。
カウンターの向こうには杖が収められているのであろう細長い箱が天井まで所狭しと積み上げられている。
「いらっしゃいませ」
まるで空間から滲み出したかのように老人の柔らかな声が店内に響く。
声がした方を向くと、大きく綺麗な目をした老人が、優し気な笑みを浮かべて立っていた。
「お待ちしておりましたよ、ハリー・ポッターさん。貴方は実にお母さんと同じ目をしていなさる。貴方の母が最初の杖を買ったのが、つい昨日のことのようじゃ」
オリバンダーは懐かしむように目をつむると、ハリーへと近づいていく。
そして握手を交わすと、私の方へと向いた。
「お嬢さんは初めてのお客さんだね。今年からホグワーツかな?」
その後もオリバンダーはハグリッドと挨拶を交わし、その流れでハリーの杖を探し始める。
杖選びは杖と魔法使いの相性で決めるらしく、オリバンダーは何度もハリーの手に杖を持たせては、取り上げてを繰り返していた。
「難しい客じゃの……なに、心配なさるな。必ずぴったり合う杖をお探ししますでな。そうじゃの……いや、そんなまさか」
オリバンダーは神妙な面持ちで一本の杖を取り出すと、ハリーに持たせる。
その途端、魔法のことは何もわからない私にも感じ取れるほど、ハリーの指先に魔力が集まるのがわかった。
ハリーは特に呪文も唱えず、杖をビュンと振るう。
次の瞬間杖の先から赤と金の花火のような火花が飛び出し、店の中を飛び回った。
「素晴らしい。いや、よかったよかった。でも、不思議なこともあるものじゃ……」
オリバンダーはハリーの持っている杖を箱に戻して、茶色の紙で包みながら言った。
「柊と不死鳥の羽根、二十八センチ。良質でしなやかな良い杖じゃ」
オリバンダーはブツブツと続ける。
「ポッターさん。ワシは自分で売った杖は全て覚えておる。貴方のご両親も、そこにいるハグリッドのも、それに、例のあの人の杖もじゃ」
「例のあの人」、私はその人物の名前は聞いたことがなかったが、大体想像はついた。
きっとハリーが赤子の頃、撃退した闇の魔法使いのことを指しているのだろう。
「この杖に使われている羽根と同じ不死鳥の羽根で作られた杖がこの世にもう一本だけ存在しておる。そういうものを兄弟杖というのじゃが、その杖の持ち主が貴方にその傷を負わせたのじゃ」
そういってオリバンダーはハリーの顔をじっと見る。
ハリーは大きく身震いすると、不安そうに視線を泳がせた。
「貴方はきっと偉大な魔法使いになる。さて、次はお嬢ちゃんじゃ」
オリバンダーはハリーから杖の料金を受け取ると、今度は私の方へと向く。
「杖腕はどちらかな?」
「杖腕?」
「羽ペンは、どちらの手で持つかな?」
なるほど利き腕のことを聞いているようだった。
私は利き腕である左腕をオリバンダーに差し出す。
オリバンダーは私の左腕のあちこちの寸法を測りながら、時折メモを取っていく。
「ふむ、これなんてどうじゃろう」
オリバンダーは机に置かれた杖を手に取ると、私へと手渡す。
「イチイにドラゴンの心臓の琴線、ニ十センチ」
私は渡された杖を手に取るが、オリバンダーはすぐに取り上げてしまった。
「次はこれじゃ。黒檀にユニコーンのたてがみ。二十七センチ」
またしても私が杖に触った途端、オリバンダーは取り上げてしまう。
「ふむ、どうも並の杖とは相性が悪いようじゃ。どうしたものか……」
オリバンダーは困ったように頭を掻く。
そして少し悩んだのち、何かを思い出したかのように店の奥へと駆けて行った。
しばらくして少し埃だらけになりながらオリバンダーは帰ってくる。
手にはいかにも古そうで、そして上品な箱を持っていた。
「アカミノキに吸血鬼の髪、二十五センチ。やや硬い」
埃の積もった箱の中には赤く光沢のある杖が一本収められていた。
オリバンダーは丁寧に箱から杖を取り出すと、私に渡してくる。
その杖を受け取った瞬間、何か冷たいものが背筋に走るのを感じる。
魔力というものを意識したことがない私だが、今ならわかる。
杖を中心として力の渦のようなものが、私の体を這いずり回っているような感覚がした。
「その杖は先々代が吸血鬼との戯れの一環で作った杖じゃ。普通、杖の芯材に吸血鬼の髪を使うことはない。込められている魔力自体は最高のものと言えるんじゃが、殆どの魔法使いと相性の悪い杖になってしまう」
私は試しに適当に杖を振ってみる。
すると杖の先から氷の結晶のようなものが飛び出し、空中で弾けて店の中に降り注いだ。
それはさながら、店内に雪が降ったようだった。
「ですが、お嬢さんとは非常に相性が良いようじゃ。お嬢さん、名前は?」
「サクヤ・ホワイトです」
「ホワイトさん。きっとその杖は貴方の良い相棒となるでしょう」
オリバンダーは古びた箱を魔法で新品同様にすると、私から杖を受け取って中に仕舞う。
そしてハリーの杖と同じように茶色の紙で包装した。
私は杖の代金、二十ガリオンをオリバンダーに払う。
ハリーの杖より倍以上高いが、使われている素材によって値段は雲泥の差らしい。
もっとも、高いからといって、性能がいいわけではなさそうだが。
「さてはて、どうやら賭けは先々代の勝ちのようじゃな」
オリバンダーは杖の入った箱を私に手渡しながら嬉しそうに言った。
「賭け?」
「ええ、そうとも。この杖を作るにあたって、先々代と吸血鬼の間で賭けを行ったらしいのじゃ。曰く、売れなかったら吸血鬼の勝ち、売れたら先々代の勝ち」
オリバンダーはそう言ってほほ笑む。
「これは賭け金の請求の手紙を送りませんとな」
なんとも、気の長い賭け事だ。
私は呆れつつもしっかりと杖を懐に仕舞いこむ。
今日買ったものはハグリッドに持ってもらっているが、これだけは自分で持ち歩こうと思った。
オリバンダーの店を出て、そのままダイアゴン横丁を歩いて最初のパブへと戻る。
ハリーはオリバンダーに言われたことをまだ考えているようで、あまり表情が明るくなかった。
「大丈夫か? なんだか随分静かだが」
ハグリッドはパブを通り抜けながらハリーに聞く。
ハリーはなんと言えばいいのか言葉に迷っているようだったが、やがて小さく口を開いた。
「みんな、僕のことを特別だと思ってる」
日の暮れたロンドンの町を歩きながらハリーは続ける。
「漏れ鍋のみんな、クィレル先生、オリバンダーさんも……でも、僕魔法のことは何も知らないし、当時のことなんてなんにも覚えてない。なのに、なんでみんな僕に偉大な何かを期待してるんだ?」
ハグリッドはそんなハリーの頭を大きな手でわしゃわしゃと撫でた。
「心配せんでもええ。すぐに魔法界での生活にも慣れるさ。それにホグワーツでみんな一から学ぶんだ。そりゃ大変なのはよくわかる。おまえさんは選ばれたんだ。だがな、ホグワーツは楽しいところだ。ありのままでいい」
なるほど、ハリーがハグリッドを慕う理由が分かった気がした。
そのままロンドンの町を歩いていき、私の暮らす孤児院までたどり着く。
ハグリッドは手に持っていた私の荷物を降ろすと、懐から封筒を一つ取り出した。
「ホグワーツ行きの切符だ」
私が中身を確認する前に、ハグリッドはそう言った。
「九月一日、キングズ・クロス駅発。まあ切符に全部書いてある」
「ここまでありがとうございました」
私はハグリッドに対し深々と頭を下げた。
「なに、これも仕事のうちだ。次会う時はホグワーツだな」
私はハグリッドと握手を交わすと、隣にいるハリーの方を見る。
「じゃあねハリー。長い付き合いになりそう」
「うん、これからよろしく」
私はハリーとも握手を交わし、その場で二人を見送る。
二人の姿が見えなくなると、大きな荷物から順番に自分の部屋へと運び始めた。
設定や用語解説
ドラコ・マルフォイ
フォイフォイフォフォイフォイ!
ニンバスの新型
ニンバス2000のこと。魔法界のスポーツ、クィディッチで使う競技用の箒
クィディッチ
魔法界で一番人気のスポーツ。超変則的なルールのサッカーのようなもの
純血主義
魔法使いから生まれた魔法使いのほうが優れているという考え方
魔法使いの名家
聖二十八一族と呼ばれる純血の家系がこれにあたる。ちなみにマルフォイ家やウィーズリー家、クラウチ家、ロングボトム家など、作中でよく聞く名前が多い
ダドリー
ハリーが居候していたダーズリー家の一人息子。両親から甘やかされており、ぽっちゃり体系のいじめっ子。頭は悪い
ハリーの杖
ハリーの杖に使われている不死鳥の羽根はヴォルデモートの杖に使われているものと同じ。似た杖に選ばれるものは性格的にもよく似ている
吸血鬼の髪が使われた杖
杖の芯材にできるほどの魔力を有した吸血鬼は、多くの場合卓越した精神力の持ち主であることが多く、杖にその吸血鬼の精神が宿りやすい。そのため、並みの魔法使いでは魔法を使うどころか、杖そのものが呪文を跳ね返し術者に攻撃することがある。また、殆どの魔法使いと相性が悪く、そもそも選ばれることが少ない
先々代オリバンダーと吸血鬼の賭け
杖の代金分、二十ガリオンを賭けていた。杖が売れたため、吸血鬼の負け
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活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。