P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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ピクシーと写真と私

 新学期が始まって初めの闇の魔術に対する防衛術の授業。

 私は机の上に置かれた羊皮紙をひっくり返し、テストの内容を確認した。

 

『問一 一九四〇年代に魔法界を震撼させた闇の魔法使いは誰か』

 

『問二 君は夜のロンドンで闇の魔法使いに遭遇した。君はどのような呪文で自らの身を守るだろうか』

 

『問三 ホグワーツに掛けられている防衛の魔法を一つ以上答えよ』

 

『問四 吸血鬼の弱点を二つ以上答えよ』

 

『問五 君は満月の夜に狼男に遭遇した。適切な対処を記述せよ』

 

 このような問題が羊皮紙に細かい字で五十問書かれている。

 どうやら、三十分で全ての問題を解かせる気はないらしい。

 私は鞄の中から羽ペンを取り出すと、分かる問題から順番に羊皮紙の問題を解き始めた。

 

 三十分後、大きな箱を抱えてロックハートが教室に戻ってくる。

 まだ殆どの生徒が羽ペンを動かしていたが、ロックハートが杖を振るうと答案用紙が宙に浮き、ロックハートのもとに集まった。

 

「それまで。テストはここまでにしよう。……ふむ、思った以上に授業の進捗はいいようだ。クィレル先生は優秀な先生だったみたいだね」

 

 ロックハートは集めた羊皮紙をパラパラとめくると、教卓の隅に置く。

 そして教室を見回し、一言付け足した。

 

「ああ、安心してほしい。このテストはあくまで現状を把握するためのものだから成績には反映されない。だが……特別点数が良かったホワイト君とグレンジャー君には十点ずつあげよう。グリフィンドールにニ十点だ」

 

 ロックハートに名前を呼ばれて、ハーマイオニーは少し顔を紅くする。

 対してロックハートはそんなことはどうでもいいと言わんばかりに教卓の上に置いた箱の中に手を突っ込んでいた。

 

「さて、闇の魔術に対する防衛術について今更説明する必要はないだろう。例のあの人が消えた今、闇の魔術師というもの自体は極端に少なくはなっている。今の君たちに必要なのは対人戦闘能力より、対危険生物戦闘能力だ。言ってしまえば、この一年は危険な魔法生物に対する防衛術を学んでもらうことになる」

 

 ロックハートは箱の中に突っ込んでいた手を引っ張り出す。

 そこには青色の小さな妖精が握られていた。

 

「ピクシー妖精だ。小さく、機敏で、悪戯好き。コーンウォール地方に生息している小妖精だよ」

 

 ロックハートはピクシー妖精を一匹教室の中に放つ。

 ピクシー妖精は教室の中を飛び回ると、早速天井に取り付けてあるシャンデリアを落とそうと躍起になり始めた。

 

「獰猛な性格で、鋭い牙がある。今日はこいつを使って失神呪文の練習を行おう」

 

 ロックハートが杖を振るうと、ピクシーの体が凄い速度で何かに引っ張られ、ピクシーはロックハートの手の中に収まる。

 

「さて、全員杖を持って立ち上がって」

 

 生徒たちは堅苦しいテストの反動もあってか、皆ワクワクした表情で椅子から立ち上がる。

 ロックハートは全員が立ち上がったのを確認すると、杖を一振りし教室中の机と椅子を消失させた。

 

「まずは呪文の練習だ。失神呪文……わかるものは?」

 

 ロックハートの問いに、ハーマイオニーの手が一番に上がる。

 

「グレンジャー君。答えは?」

 

「ステューピファイです」

 

「素晴らしい。知識は誰にも盗まれない宝だ。ステューピファイ。まずは杖を振らずに唱えてみよう。発音に気を付けて。『テュ』を『ピュ』と発音しないように。さん、はい!」

 

「「「ステューピファイ!」」」

 

 ロックハートの掛け声とともに、生徒が口々に呪文を口にする。

 ロックハートはそれを聞くと、満足そうに一度頷いた。

 

「よろしい。それでは実践だ。まずはお手本を見せよう」

 

 そう言うとロックハートは手に掴んでいたピクシー妖精を教室に放つ。

 そして杖を構えると、鋭くピクシー妖精に向けた。

 

「ステューピファイ!」

 

 杖の先端から赤い閃光が飛び出し、ピクシー妖精に命中する。

 ピクシー妖精はビクンと体を痙攣させると、教室の真ん中にポトリと落ちた。

 

「と、こんな感じだ。一度に多くのピクシーを放すと危ないから、一人ずつ実習しよう。さて、では最初は……」

 

 ロックハートはぐるりと教室内を見回す。

 そしてまっすぐ私を指さした。

 

「ホワイト君、やってみたまえ」

 

「え? あ、はい」

 

 私はロックハートに言われてローブから杖を引き抜く。

 

「準備はいいかい?」

 

「はい、大丈夫です」

 

 ロックハートは私の準備が整ったことを確認すると、箱の中からピクシー妖精を一匹取り出して教室に放った。

 私は教室を縦横無尽に飛び回るピクシーをじっと眺める。

 ピクシーの動きは速く、呪文を一発で当てるのは難しいだろう。

 私は杖を持っていない右手をまっすぐピクシーの方に向ける。

 そしてパチンと指を鳴らした。

 教室中を飛び回っていたピクシーはその音に反応し、私のほうにまっすぐ飛んでくる。

 横に動いている物体を追うのは難しい。

 だが。こちらに向かって飛んでくる物体は、どんなに速く動いていたとしても私から見たら止まっているのと変わらない。

 

「ステューピファイ!」

 

 私の真紅の杖から放たれた赤い閃光はこちらに向かって飛んでくるピクシーに直撃する。

 ピクシーは空中で失速すると、私の足元にポトリと落ちた。

 

「よろしい。リスクは高いが、それは同時にチャンスでもある。では次は──」

 

 その後もロックハートは順番に生徒を指名し、ピクシーを放っていく。

 授業の終わりには、少なくとも一人一回はピクシーと対峙した。

 

「ピクシーは素早い。呪文を一発で当てることは困難だが、それは同時にピクシーに呪文を当てられるようになれば大抵の魔法生物に魔法を当てられることになる。慣れてくればスニッチを魔法で撃ち落とすことすら可能だろう。そして、今日教えた失神呪文は非常に使い勝手のいい呪文だ。殺傷能力はなく、対象を無傷で気絶させることができる」

 

 ロックハートが杖を振るうと、消えていた机や椅子、教科書が教室に出現する。

 

「さて、今日の授業はここまでだ。授業の最初に言った通り、しばらくは教科書は『トロールとのとろい旅』だけ持ってくればいい。では、次の授業に向かいなさい。私はここで次の授業までにピクシーを起こさないといけないからね」

 

 ロックハートは気絶したピクシーの入った箱を抱えて教室の裏に消えていく。

 ロックハートが居なくなると生徒たちは興奮冷めやらぬ様子で教室を出ていき始めた。

 

「なんというか、意外だったな」

 

 教科書の山を抱え込みながらロンが言う。

 

「そうかしら。確かに本に出てくる彼とは少し性格が違うように思うけど、でも噂通り凄く優秀な魔法使いだわ」

 

 ハーマイオニーは教科書をまるで宝物のように胸に抱えた。

 

「うん、見直したって言い方は少し違うような気がするけど……本の内容は少し誇張して書いてあるものだとばかり思ってたんだ。でも、あの様子だと本の中のロックハートより実物のロックハートの方が優秀なように見えるよ」

 

「ああ、それは本人も話していたわね。自分の書く本はあくまで娯楽書だから、面白可笑しく脚色してるって」

 

「へぇ。って、そんな話どこでしたのよ?」

 

 ハーマイオニーは噛みつくように私に聞いてきた。

 

「どこって、ホグワーツ特急のコンパートメントの中だけど」

 

「彼と同じコンパートメントに乗ってたの!?」

 

 ハーマイオニーは驚きの声とともに手に持っていた教科書をバラバラと落とす。

 

「ええ、そうだけど……それがどうかしたの?」

 

「ほら、サクヤ察しろよ。ハーマイオニーはロックハートのファンなんだ」

 

 ロンが床に落ちたロックハートの著書を拾い上げる。

 その本は新品の教科書にしてはあまりにも読み込まれた跡があった。

 

「ああ、なるほど」

 

 ハーマイオニーは顔を真っ赤にしてロンから教科書を奪い取る。

 

「それは今関係ないでしょ! そうじゃなくて……私ずっと列車の中でサクヤを見つけられなかったことが気になってたの。それに、ロックハート先生が乗っていたのだとしたら確実に話題になるはずよ。それを見つけられないなんてことがあるのかしら」

 

「どういうこと?」

 

「サクヤは確か先頭の客車にいたって言ってたわね。何番目のコンパートメントにいたか覚えてる?」

 

 ハーマイオニーの問いに、私は昨日のことを思い出す。

 確か私は客車に入ってすぐのコンパートメント、つまり客車の一番後方のコンパートメントのはずだ。

 

「先頭の一番後ろよ。それがどうかしたの?」

 

「おかしいわ。私は確かにそのコンパートメントを覗いてる。でも、そこにはサクヤも、ロックハート先生もいなかったはずよ」

 

「そんなはずないわ。地味で目立たない私ならまだしも、あんなに目立つ容姿をしているロックハートを見落とすはずがないわ」

 

 またバラバラと教科書を落とす音が聞こえてくる。

 私が視線を向けると、今度はロンが教科書を取り落としていた。

 

「君、自分の容姿が地味で目立たないって思ってるのかい?」

 

「冗談に決まってるじゃない。ほら、行くわよ」

 

 私は本の山を抱えながらホグワーツの廊下を歩く。

 ロンは慌てて本をかき集めると、私の後を追って走り出した。

 

 

 

 

 ロックハートが教鞭を取る闇の魔術に対する防衛術の授業はたちまち大人気の授業になった。

 各学年に合わせたレベルの調整は勿論のこと、今までにないほど実践的であり、実戦的だ。

 さらに、ロックハート自身の魔法の技術も高く、噂ではホグワーツ内でダンブルドアに次ぐ実力者なのではないかと言われていた。

 まあそれだけだったらロックハートは噂通りの人物だったという話で終わる。

 だが、不思議なのはそのほかの教師たちの反応だ。

 特にマクゴナガルやスネイプなど、ダンブルドアに比較的近い教師たちはロックハートの評価を聞くたびに首を傾げていた。

 何故か一部の教師陣はロックハートが優秀であることにかなりの違和感を覚えているように感じる。

 私は大広間でトーストにバターと蜂蜜をたっぷりと塗りつけながら職員の机のほうを覗き見た。

 そこではロックハートがフリットウィックと親し気に話しているのが見える。

 少し視線を横に移動させると、その様子を怪訝な顔で見ているハグリッドの姿があった。

 

「そういえば、ハグリッドの小屋にお邪魔するのって今日の午前中よね?」

 

 私は横で口の中にベーコンを押し込んでいるロンに聞く。

 ロンは口をモゴモゴさせながら言った。

 

「うん、土曜の午前中だって言ってたから今日のはずだよ。でもハグリッドと約束したのは僕じゃなくてハリーだから詳しいことはわからないなぁ」

 

「で、そのハリーは?」

 

「ウッドに引きずられていったみたい。クィディッチの練習だってさ」

 

 なるほど、ハリーがロンと一緒に大広間に来ていない理由はそれか。

 グリフィンドールは去年の寮対抗杯で優勝を果たした。

 そのためキャプテンであるオリバー・ウッドも勢いづいているのだろう。

 

「なら、クィディッチの練習が終わるまでスタジアムで練習を見学するのはどう? サクヤもどうせ暇でしょう?」

 

「どうせは余計だけど……まあ、そうね。まだ授業も始まって一週間だし、復習するようなこともないしね」

 

 私はトーストを一口かじる。

 少しハチミツを塗りすぎたためか、バターのしょっぱさよりもハチミツの甘さがガツンときた。

 

「甘っ……」

 

 机の上に置かれているポットから紅茶を注ぎ、砂糖を入れずに飲む。

 紅茶の若干の渋さが口の中のハチミツの甘さを程よく中和した。

 

 朝食を取り終えると、私たち三人はハリーの練習を見学しにスタジアムに移動した。

 スタジアムにはまだグリフィンドールチームの姿はなく、スタンドにもカメラを持った新入生と思われる少年がじっと待っているだけだった。

 

「あ! もしかして、サクヤ・ホワイトさんですか!!」

 

 スタンドにいた少年はこちらに気が付くと、近くに駆け寄ってくる。

 

「コリン・クリービーって言います。グリフィンドール生です!」

 

 コリンはカメラを抱えたままぺこりとお辞儀をした。

 

「ということは新入生ね」

 

「はい、今年からホグワーツです」

 

 私たちは適当なスタンドに腰かける。

 コリンは腰かけることなく、私の正面に立った。

 

「僕、ハリー・ポッターさんに写真を撮らせてもらおうとここで待っていたんですけど、全然更衣室から出てこなくて。もう一時間以上待ってるんですけど……」

 

「ああ、多分ウッドがこの夏寝ずに考えたフォーメーションを延々と聞かされているんだと思うわ。それにしても……」

 

 私はコリンの容姿を上から下まで観察する。

 果たして私はこの少年と知り合いだっただろうか。

 有名なハリーのことを知っているのはおかしなことではない。

 だが、新入生が何故私のことを知っているのだろうか。

 

「よく私の名前を知っていたわね。どこかで名乗ったかしら?」

 

「ああ、いえ! でも一年生の間で話題になってますよ。凄く可愛い二年生がいるって。写真一枚いいですか!」

 

 そう言ってコリンはカメラを構える。

 私はそう長くない髪を軽くかきあげた。

 

「可愛く撮ってね」

 

「ありがとうございます!」

 

 コリンは興奮気味にカメラのシャッターを切る。

 その様子をハーマイオニーが呆れた様子で見ていた。

 そうしているうちに、グリフィンドールの更衣室から箒を担いだ選手たちが姿を現す。

 それを見て、コリンは選手の方に慌てて駆けていった。

 

「あの様子だと、本当に今から練習が始まるようね」

 

「だとするとあと一時間……いや、下手すると日が沈むまで練習するかもな」

 

 ロンが腕時計を見ながら言った。

 もしそうなのだとしたら、頃合いを見計らってハリーを攫うか、ハリーは諦めて私たちだけでもハグリッドの小屋に行くのかを決めなければならないだろう。

 グラウンドに出てきたグリフィンドールの生徒たちは早速箒に飛び乗り練習を始める。

 ハリーも去年マクゴナガルから貰った競技用の箒、ニンバス2000に乗って大空へと飛び上がった。

 そのハリーを追って、コリンもカメラを構えている。

 私もスタジアムを縦横無尽に飛び回っているハリーを目で追っていたが、視界の隅に緑色のユニフォームが映り、視線をそちらに向ける。

 そこにはスリザリンの選手たちがお揃いの箒を持ってグラウンドの隅に立っていた。

 

「スリザリンもやる気十分ね。練習試合でもするのかしら」

 

 私はそんなことを呑気に考えていたが、どうも様子がおかしい。

 ウッドやグリフィンドールの選手がスリザリンの選手の方に近づいていき、瞬く間に言い争いが始まってしまった。

 

「何か言い争いをしているみたいだけど……大丈夫かしら」

 

 ハーマイオニーは心配そうにそう呟く。

 

「行ってみよう」

 

 ロンはスタンドから立ち上がると、スリザリンのキャプテンと言い争いをしているウッドのもとに走っていった。

 私とハーマイオニーもその後を追う。

 そこにはスリザリンのユニフォームに身を包んだマルフォイの姿があった。

 

「あらドラコ。いつの間に選手になったの?」

 

 私がマルフォイに駆け寄ると、マルフォイは得意げに鼻を擦る。

 

「今年から僕がスリザリンのシーカーだ。それに、ほら! 箒も新しくした。ニンバス2001、最新鋭の箒さ。しかも、僕だけじゃない。スリザリンの選手全員がだ」

 

 確かにスリザリンの選手は全員お揃いの箒を持っている。

 

「父上がスリザリンのクィディッチチームに箒を寄贈したんだ。これでスリザリンは優勝間違いなしさ」

 

「ええ、そうね。それに、貴方がシーカーをするんだもの。活躍、楽しみにしてるわ」

 

 私がそう言って微笑むと、マルフォイは顔を真っ赤にして箒で顔を隠す。

 そうしているうちにも、ウッドとスリザリンのキャプテンの間で話が付いたようだった。

 

「……ああ、わかった。今日のところは引き下がろう。だが、こんなことは二度もないと思えよ!」

 

 どうやらスリザリンのキャプテンは、スリザリンの寮監のスネイプから特別に許可を得ていたらしい。

 ウッドもスタジアムの予約をしていたらしいが、去年の優勝寮ということもあり、今日のところはスリザリンにスタジアムを譲ったようだった。

 

「じゃあ、練習もなくなったことだし、ハグリッドの小屋に向かいますか」

 

 私は見るからに不機嫌なハリーの背中をバンバンと叩く。

 すると、ウッドが慌てて私たちの間に割って入った。

 

「ちょっと待った! スタジアムが使えなくなっただけでクィディッチの練習をしないとは一言も──」

 

「これ以上ハグリッドを待たせたらハグリッドの首が伸びすぎて小屋の低い天井を突き破ってしまうわ」

 

 私はハリーの背中を押しながらグリフィンドールの更衣室を目指す。

 ウッドはやれやれと大きく肩を竦めた。




設定や用語解説

くっそ優秀なロックハート
 秘密の部屋編はロックハートを中心にして動いていきます

新人シーカーマルフォイ
 下手ではないが、ハリーのような天性の才能は持っていない

ナメクジ喰らわないフォイ
 サクヤがいるだけで態度が軟化するマルフォイ。原作ほどハリーたちとマルフォイの仲は悪くない。良くもないが

Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
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