P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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壁の文字とミセス・ノリスと私

 十月三十一日土曜日、私は大広間でハロウィンのご馳走を堪能していた。

 机の上にはいつもより何倍も豪華な料理が並んでおり、大広間もかぼちゃやコウモリの飾りつけがなされている。

 私は大きなかぼちゃパイをナイフとフォークで切り分けながら、ここにはいない三人のことを考えた。

 ハロウィンパーティーだというのにハリー、ロン、ハーマイオニーの三人がいないのにはある理由がある。

 どうやら今年のハロウィンとグリフィンドールに憑いているゴーストであるほとんど首無しニックの五百回目の絶命日パーティーが被っているらしく、三人はそちらに参加するとのことだった。

 勿論、私もハリーから一緒にニックの絶命日パーティーに参加しないかと誘われはした。

 だが、私はその誘いを断ったのだ。

 確かに絶命日パーティー自体にも興味はある。

 だが、それとハロウィンのご馳走とを天秤にかけることはできない。

 ゴーストが主体のパーティーに人間の食べれるものが出るとは思えなかった。

 

「まあでも、流石に三人が可哀そうよね」

 

 私は空いている皿に机の上の料理を取り分けると、そのまま皿ごと鞄の中に入れる。

 湯気を立てていた料理は鞄の中で私が手を放した瞬間に時間が止まり、ピクリとも動かなくなった。

 

「さて、絶命日パーティーはどこでやってるって言ってたかしら」

 

 私はある程度ご馳走にも満足したので、お腹をさすりながら席を立つ。

 そしてそのまま大広間の外へと出た。

 その瞬間、ハリーが凄い勢いで二階に続く階段を駆け上がっていくのが見える。

 その後ろをロンとハーマイオニーが慌てて追いかけていた。

 

「確か絶命日パーティーは地下でやってるはずだけど……逃げてきたのかしら」

 

 私は三人を追うように階段を上る。

 ハリー達は三階まで階段を駆け上がると、そのまま三階の廊下を走り始めた。

 

「一体、なんなのよ……」

 

 私はため息を一つつくと、そのまま三人の後ろを走る。

 ハリーがかなり全力で走っているためか次第に私と三人の距離は離れていったが、三人は廊下の途中で何かを見つけたらしく、足を止める。

 私は軽く息を切らせながら三人に近づくと、壁を見つめている三人に話しかけた。

 

「絶命日パーティーで料理の材料にでもされそうになった……って、なにこれ?」

 

 私は三人が見つめている壁に視線を向ける。

 そこには血液を思わせるような赤いペンキでこう書かれていた。

 

『秘密の部屋は開かれたり。継承者の敵よ、気をつけよ』

 

 壁の文字は松明の光を受けて鈍く光って見える。

 そもそも、秘密の部屋とは一体なんだろう。

 

「そこにぶら下がってるのはなんだ?」

 

 ロンが文字の下を指さす。

 その場所は暗く影になっていたためよく見えなかったが、どうやら猫が吊り下げられているようだった。

 

「この猫は……フィルチのね。でも、どうしてこんなところで死んでいるのかしら?」

 

「……ここを離れよう」

 

 ロンが声を潜めて言う。

 

「助けてあげるべきじゃないかな?」

 

「いや、今ここにいるのを見られないほうがいい」

 

 ハリーはフィルチの猫に手を伸ばそうとするが、ロンがそれを諫める。

 確かにロンの言う通りだ。

 今この場にいるのを誰かに見られるのは明らかにまずい。

 

「だったら急いだほうがいいわ。多分そろそろパーティーが終わるはず──」

 

 私がそう言いかけた瞬間、階段から多くの生徒が三階へと上ってくる。

 そして壁の文字とその前にいる私たちを見つけると、あっという間に私たちの周りを取り囲んだ。

 私たちを囲んでいる生徒たちは一定の距離を取りながらも、少しでも壁をよく見ようと押し合いへし合いしている。

 

「遅かったわね」

 

 私は大きなため息をつき、吊られている猫に手を伸ばす。

 見つかってしまったのなら、猫を助けようとする仕草ぐらいは見せたほうがいいだろう。

 

「なんだ? 何事だ?」

 

 私が猫を掴んだ瞬間、人垣の奥からしわがれた声が聞こえてくる。

 その声は私たちを取り囲んでいる生徒を押しのけ、すぐに私たちの近くまでやってきた。

 

「私の猫だ! ミセス・ノリスに何をしている!!」

 

 声の主はフィルチだった。

 フィルチは猫を掴んでいる私を鋭く睨みつける。

 

「フィルチさん、猫が──」

 

「お前がやったのか!? 私の猫を殺した!!」

 

 フィルチは今にも私に掴みかかってきそうな勢いだ。

 私はガチガチに固まっている猫を抱き、こちらに向かってくるフィルチと対峙する。

 

「アーガス!!」

 

 だが、フィルチがこちらに掴みかかってくる前に、三階の廊下にダンブルドアの大きな声が響いた。

 ダンブルドアは数人の教師を引き連れて私たちの前までやってくると、壁に書かれている文字と私が抱いている硬くなった猫を交互に見る。

 

「アーガス、一緒に来なさい。ミス・ホワイト。猫をこちらに。四人もついてくるのじゃ」

 

 私は言われたとおりに猫をダンブルドアに渡す。

 ダンブルドアは石のように硬くなった猫を優しく抱いた。

 

「私の私室がすぐ上にあります」

 

「ありがとうギルデロイ」

 

 ダンブルドアはロックハートの先導のもと、猫を抱えたまま階段の方に向けて歩き始める。

 私たちはそのまま連行されるように階段を上り、ロックハートの私室へと入った。

 ダンブルドアは机の上にフィルチの猫を静かに置く。

 そして今にも私に殴りかかってきそうなフィルチをよそに、猫に鼻が付きそうなほどの距離で猫を調べ始めた。

 

「フィルチさん、落ち着いて深呼吸を。大丈夫です。猫は死んでいませんから」

 

 ロックハートは私の後ろでフィルチを宥めている。

 

「死んでないだと? 適当な慰めを──」

 

「アーガス。ギルデロイの言う通りじゃ。猫は死んでおらん」

 

 フィルチがロックハートに突っかかる前に、ダンブルドアがフィルチに対して言う。

 フィルチは縋るような視線をダンブルドアに向けた。

 

「死んでいない?」

 

「ああ、そうだとも。石になっておるだけじゃ。原因はわからんが──」

 

「あいつがやったんだ!!」

 

 フィルチはヒステリックな悲鳴を上げて私を指さす。

 

「私が駆け付けた時、こいつが猫を掴んでいた! きっとこいつがやったに違いない!!」

 

「アーガス。落ち着くのじゃ。学生にこのような真似は出来んよ。ミセス・ノリスは高度な魔法で石にされておる。それに、わしはミス・ホワイトがつい先ほど大広間を出ていったことを知っておる。ミセス・ノリスを石にするだけならまだしも、壁にあのような細工をする時間はないじゃろう」

 

「だったらこいつが!」

 

 フィルチは次にハリーの方を指さした。

 

「こいつがやったに違いない! こいつは私が、私が……私がスクイブだと知っている!」

 

「そんな! 僕たちはやってません!」

 

 ハリーは必死にダンブルドアに訴えかける。

 

「私たちもつい先ほどまでほとんど首無しニックの絶命日パーティーに参加していました。私たちを見ているゴーストが沢山いると思います」

 

 ハーマイオニーが冷静に自分たちのアリバイを説明する。

 

「では、何故三階の廊下にいたのかね?」

 

 そんな弁明を聞いて、スネイプが私たちに質問した。

 

「ホワイトはまだわかる。あの食べようを見るに満腹になったので談話室に戻ろうとしていたのだろう。だが、諸君らは違うな。ゴーストのパーティーに人間の食べられるような料理は出ない。まさか、空腹のままベッドに入ろうとしていたとでも?」

 

「それは……」

 

 スネイプにそう言われてハリーが口ごもる。

 あの様子を見るに、何か理由があってあの場所を探していたのはハリーのはずだ。

 後ろの二人はハリーの後ろを追いかけているだけのように見えた。

 

「もしハリー達の犯行なのだとしたら、もう少しうまくやるじゃろう。それに、先程も言った通り学生が猫をこのように石化させることが出来るとは思えん。それにじゃフィルチ、運が良いことにミセス・ノリスは治すことができる」

 

「治る? でも、こんなにカチコチになって……」

 

「スプラウト先生が最近マンドレイクを手に入れたようでな。十分に成長したら石化を解く魔法薬を作らせよう」

 

 フィルチはまだ納得はいっていないようだったが、取り敢えず猫が助かるとわかったため落ち着いたようだった。

 

「学生は帰ってよろしい。先生方はわしと一緒に先程の廊下に戻ってあの文字を調べるのを手伝ってもらいたい。アーガスはミセス・ノリスを医務室へ。マダム・ポンフリーなら薬ができるまで彼女にぴったりのベッドを用意してくださるじゃろう」

 

 私たちはダンブルドアにそう言われると、逃げるようにロックハートの私室を後にする。

 ロックハートに少し聞きたいことがあったが、明日は日曜日だ。

 明日の個人授業の時にでも聞けばいいだろう。

 

「それにしても、誰がミセス・ノリスを石にしたんだろう?」

 

 談話室がある階を目指して階段を上りながらハリーが問いかける。

 

「ヒントがあるとしたら、壁に書かれていた文章だと思うわ」

 

「なんだっけ? 確か秘密がどうとかって……」

 

 ハーマイオニーはそんなロンの様子に小さくため息をつくと、壁に書かれていた文章を言い始めた。

 

「『秘密の部屋は開かれたり。継承者の敵よ、気をつけよ』そう書かれていたわ」

 

「ハーマイオニー、まさか貴方が犯人だったなんて……そんな長い文、書いた本人じゃないとそうそう覚えられないわ」

 

 私がそう言うと、ハーマイオニーは足を止めてこちらを睨んできた。

 

「冗談よ。何にしても『秘密の部屋』、『継承者』、この二つが鍵になりそうね」

 

「まさか、また去年みたいに図書室に籠るのかい? 図書室での調べ物はニコラス・フラメルの一件でお腹一杯だよ」

 

「いえ、調べ先に心当たりがあるわ。そもそもホグワーツについて書かれた本なんて学校の図書館にも数えるほどしかないもの」

 

 どうやらハーマイオニーは何か心当たりがあるようだった。

 私たちは肖像画に合言葉をいい、裏の穴をよじ登ると談話室のソファーの一角を占領する。

 

「何にしてもお腹が空いたよ。こんなことになるなら僕らもハロウィンパーティーの方に参加しておけばよかった」

 

 ハリーはそう言ってお腹をさする。

 

「それ、ニックに聞かれないようにしなさいよ?」

 

 私はそう言いながら鞄の中から取り分けていたハロウィンの料理を取り出した。

 

「じゃじゃーん! かぼちゃのパイにローストビーフにチキンにベーコンにデザートも取ってきたわ」

 

 私は皿に盛られた料理を次々と机の上に広げていく。

 三人はその様子を目を丸くして見ていた。

 

「サクヤ、前から天使のようだとは思ってたけど、改めるよ。君は女神だ」

 

 ロンはそんな冗談を言いながらカボチャパイを手に取り頬張り始める。

 他の二人はどうやって鞄から料理を取り出したのかが気になっているようだが、空腹に負けたらしくロンに続いて料理を食べ始めた。

 

 

 

 

 

 ミセス・ノリスの一件から一晩経ち、私はロックハートの私室で個人授業を受けていた。

 ロックハートは昨日の一件など気にも留めていないらしく、普段通りの口調で防御魔法の説明を行っている。

 私はそれを羊皮紙に書き留めながらも、頭の中は昨日のことを考えていた。

 

「プロテゴ……盾の呪文は相手の魔法から自らを守るための呪文だ。いくつか派生形があるが、まずは基本のプロテゴ、その後プロテゴ・マキシマの習得を……って、心ここに在らずって感じかな?」

 

 ロックハートにそう聞かれ、私は咄嗟に羊皮紙から顔を上げる。

 

「よし、君の考えていることを当てて見せよう」

 

 ロックハートはニコリと微笑むと、じっと私の目を見る。

 だが、数秒もしないうちに小さく眉を顰めると、咳払いを一つして話し始めた。

 

「君は昨日の猫の件で頭が一杯だ。そうだろう?」

 

「……まあ、間違ってはいないです」

 

「だろうね」

 

 ロックハートは手に持っていた教科書をパタリと閉じる。

 暗に昨日のことを質問してもいいと言っているのだろう。

 

「先生は秘密の部屋について何かご存知ですか? 秘密の部屋が開かれたとは、どう言う意味なんでしょう?」

 

 私がそう尋ねると、ロックハートは手に持っていた教科書を机の上に置く。

 

「ホワイト君。君はホグワーツの歴史についてどこまでご存知かな?」

 

「あまり多くは……四人の創始者がいて、それが寮の名前になった……ですよね?」

 

「まあ、概ねそんなところだ。ゴドリック・グリフィンドール、ヘルガ・ハッフルパフ、ロウェナ・レイブンクロー、サラザール・スリザリン。その中でもスリザリンは由緒正しい優れた魔法使いだけがホグワーツで教育を受けるべきだと考えていたんだ。結局のところスリザリンは他の三人とあまりにも馬が合わず、ホグワーツを去ることになる。その時にスリザリンが残したのが秘密の部屋だ」

 

 ロックハートはまるで歴史書を読み上げるようにスラスラと話を続ける。

 

「スリザリンは自分の継承者となるものがホグワーツに相応しくないものを追放することができるように秘密の部屋にスリザリンの継承者のみが操ることが出来る怪物を封じたと言われている」

 

「つまり秘密の部屋が開かれたというのは……」

 

 私がそう呟くと、ロックハートは小さく頷いた。

 

「スリザリンの継承者が怪物を城に解き放った。そういうことだろうね」

 

「わーお」

 

 あまりの事態に、私はついついそんな気の抜けた返事をしてしまった。

 

「随分他人事のようなリアクションだね。君は純血の家系だったかな?」

 

「いえ、よくわかりません。私はマグルの孤児院の育ちなので」

 

 実際のところ、私は自分が純血なのかハーフなのかマグル生まれなのか、それすら知らない。

 私は物心ついたときから孤児院にいるため、マグル生まれというよりかはマグル育ちというやつだろう。

 

「マグルの孤児院育ち……なるほどね。ちなみに、どこの孤児院か聞いても?」

 

「ロンドンにあるウール孤児院というところです。寂れた貧相な孤児院ですよ」

 

「……なるほど。何にしても気をつけた方がいい。伝承が本当なのだとしたら明日の朝ホグワーツのどこかの廊下で死体が見つかってもおかしくはないわけだからね」

 

 まあ、ロックハートの忠告ももっともだろう。

 これからは少しでも怪しい気配を感じたら時間を止める癖をつけた方がいいかもしれない。

 私はそこまで考え、ふとロックハートの言葉が引っかかった。

 

「石になった生徒、ではなく死体ですか? 猫が石化して見つかっているので、てっきり怪物はメデューサのように相手を石化させる能力を持っているものだと思ったのですが」

 

 その瞬間、ロックハートは確かにしまったという顔をした。

 そして少し悩んだような素振りを見せると、諦めたように肩を竦める。

 

「グリフィンドールの才女を甘く見ていたよ。……ここだけの話だ。こんな話が広まっても、生徒を不安がらせるだけだからね。誰にも広めないと約束できるかな?」

 

 私が頷くと、ロックハートは私の耳元に顔を近づける。

 

「実は、秘密の部屋は五十年前に一度開いている。その時はマグル生まれの生徒が一人死んだらしい」

 

「五十年前に、一度?」

 

「私が知っている限りでは、秘密の部屋が開かれたのはその一度だけだ。その時は危うくホグワーツが閉鎖するところだったが、運よく犯人が捕まったらしい。もっとも、私が入学したのはその事件があってから何十年も後だから噂話以上の話はわからないがね」

 

 さて、とロックハートは机の上に置いていた教科書を再び手に取る。

 

「盾の呪文がスリザリンの怪物に対してどれほどの効果があるかはわからないが、知らないよりかは知っているほうが遥かにマシだろう。プロテゴの呪文は魔法攻撃に対し──」

 

 ロックハートは話は終わったと言わんばかりに個人授業を再開する。

 秘密の部屋に関して聞きたいことはまだあったが、これ以上のことが知りたかったらそれこそ事件の当事者に話を聞くしかないだろう。

 五十年前となると、ダンブルドアや魔法史を教えているゴーストのビンズだろうか。

 だが、秘密の部屋のことを聞いたところで、素直に教えてくれるとは思えない。

 きっとロックハートの話以上の情報は出てこないだろう。

 私は意識を切り替えて盾の呪文の授業に集中した。




設定や用語解説

絶命日パーティー
 ゴーストの誕生日パーティーのような何か。今回の場合ニックが死んでから五百周年記念

ロックハートとの個人授業
 他の教師陣には秘密で行われている。また、サクヤもロックハートとの関係をハリーたちに説明してはいない

Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
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