P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
ちなみに、物語の進捗としては1/3程度です
結局私が医務室を退院できたのは、目が覚めてから一週間ほど経った頃だった。
私の肩やお腹にはまだ傷の痕が薄く残っているが、マダム・ポンフリーの話ではそれ自体も一か月ほどで消えてなくなるらしい。
現状、痛み自体も全くない。
これならばなんの問題もなく学生生活を送れそうである。
一週間休んでいたため授業の内容からは遅れているが、それに関しては今更の話だ。
去年秘密の部屋に取り残された時はもっと長い間授業を受けていなかった。
今更一週間ぐらい何の問題もない。
それに入院中にもハーマイオニーが甲斐甲斐しく授業の内容を羊皮紙にまとめてベッドまで届けてくれた。
その甲斐あってか、私は授業に何の支障もなく復帰することができた。
それに、私が授業に復帰してからというもの、多くの教師が嫌に私に優しく接してくるようになった。
フリットウィックは私が掛けた魔法を必要以上に褒めまくるし、ルーピンは明らかに私に対しての加点が甘い。
特にトレローニーはそれが顕著で、他の生徒には不安を煽るようなことしか言わないが私に対してだけは励ますような予言しかしなくなった。
私に対する態度を変えないのは魔法薬学のスネイプぐらいだろうか。
あのマクゴナガルでさえ私を少し贔屓しているような気がする。
きっと教師の間では孤児院のことなども共有されているに違いない。
私は教師たちの同情と哀れみの目に少々嫌気が差したが、迷惑するほどでもないので好きにやらせておくことにする。
なんにしても、一番やりにくい授業は魔法生物飼育学だろう。
ハグリッドは私が入院中、毎日のように見舞いに来たし、その度に食べきれないほどのロックケーキを見舞いの品として持ってきた。
授業に復帰してからも異常なほど過保護になり、木のささくれが指に刺さる可能性があるからとレタス食い虫の飼育容器すら運ばせようとはしなかった。
そうしているうちに私が復帰してから一か月ほど経過した。
ヒッポグリフにやられた怪我もすっかり良くなり、体に残っていた傷痕も綺麗さっぱり消え去っている。
これがマグルの世界だったら、今でも私は病院のベッドの上で、私の体には痛々しい傷跡が走っていたことだろう。
「サクヤ、おとめ座ってこんな形だったっけ?」
私とロンとハーマイオニーは談話室の暖炉の前を陣取って天文学の宿題を進めていた。
「ザニアがないわ。ほら、ここよ」
私はロンの羊皮紙のおとめ座に羽ペンで点を一つ描き足す。
ロンは私が描き足した星と教科書の星座図を見比べた。
「あ、これ星なんだ。教科書についたゴミかと思った」
「貴方ねぇ……」
ハーマイオニーは呆れたように肩を竦める。
私は自分の羊皮紙に最後の点を描きこむと、羊皮紙と羽ペンを鞄の中に仕舞いこんだ。
「そういえば、さっきから掲示板の前に人が集まっているけど、何かあったのかしら?」
私は伸びをしながら掲示板の方を見る。
先ほどから常に数人の生徒が掲示板の前に集まり、楽し気に談笑していた。
「確かにそうだな。ちょっと見てくる」
星座図を作る面倒な作業に嫌気が差し始めてきたのであろうロンが羽ペンを投げ出して掲示板の方へ歩いていく。
そして生徒たちの間から掲示物を覗き見ると、浮かれ足で暖炉の前へと戻ってきた。
「ホグズミードだ! 一回目のホグズミード休暇の日付が書いてあった」
「ほんと!? 何日?」
前からホグズミード行きを楽しみにしていたハーマイオニーがロンの話に食いつく。
「十月末、ハロウィンだよ」
それを聞いてハーマイオニーは小さくガッツポーズをした。
「ゾンコには行きたいよな。それにハニー・デュークスでお菓子も買いたいし……サクヤはどこか行きたい店はある?」
「そうねぇ。ダービッシュ・アンド・バングズは行きたいと思ってるけど……」
私はロンの問いに言葉を濁す。
そういえば、私はホグズミードに行けるのだろうか。
私の許可証は血塗れで、書かれている名前も故人のものだ。
それに、私自身シリウス・ブラックに命を狙われている可能性もある。
そういうことを加味すると許可が下りない可能性の方が高いだろう。
もし許可が下りなかったらハリーと二人でお留守番か。
そんなことを考えていると、クィディッチの練習終わりのハリーが談話室に帰ってきた。
ハリーは掲示板の前の人集りをチラリと見てからこちらに歩いてくる。
そして空いていたソファーに身を沈めた。
「何かあったの?」
ハリーは掲示板の方を見ながら言う。
「第一回のホグズミード行きの知らせだよ」
「やったぜ。ちょうど臭い玉が切れてたんだ。ゾンコの店に行かなくちゃ」
ロンがそう言うと、ハリーの後から談話室に入ってきたフレッドが意気揚々と掲示板の方に歩いて行く。
逆にハリーはソファーの上で一層小さくなった。
「ハリー、次はきっと行けるわ。ブラックはすぐに捕まるわよ」
ハリーの心情を察したハーマイオニーがハリーを励ます。
「ホグズミードでやらかすほどブラックも馬鹿じゃない。捕まるとは思えないな。でも、逆に言えばブラックはホグズミードじゃ手出しできないってことさ」
ロンはそう言ってハリーの顔を見る。
「ハリー、マクゴナガルに聞けよ。次はなんて言ってたら一生行けないぜ」
「ロン! ハリーは学校から出ちゃ行けないのよ!」
ハーマイオニーがそうロンを窘める。
「でも、三年生でハリー一人だけ残しておくなんてできないよ。今度マクゴナガルに聞いてみろよ」
「うん。そうするよ」
まあ、ダメ元でマクゴナガルに聞いてみるのは悪いことではないだろう。
私の場合いくら吸魂鬼が学校の周囲を固めてようが、いつでも好きな時に自由に抜け出すことができる。
だが、校則違反を犯してまでホグズミードに行きたいとは思わない。
一応マクゴナガルに聞いてみて、許可が下りなければ素直に談話室でゆっくりしよう。
私がそんなことを考えていると、ハーマイオニーの膝の上にクルックシャンクスが飛び乗った。
口には大きな蜘蛛を咥えており、誇らしげにハーマイオニーに見せている。
「あら、ひとりで捕まえたの?」
ハーマイオニーがクルックシャンクスを撫でながら言った。
「なんでもいいけどこっちには近づけないでくれよ? 鞄でスキャバーズが寝てるんだ」
ロンはそう言って鞄を少し遠ざける。
クルックシャンクスはロンがそう言った瞬間、鞄の方を見たような気がした。
「なら、星座図も終わったし私はクルックシャンクスと女子寮に上がるわ。猫とネズミを同じ空間に置いておいたらトラブルしか起きないもの。ハーマイオニーもそれでいいわよね?」
私はハーマイオニーの膝の上に乗っているクルックシャンクスを抱え上げる。
クルックシャンクスは何事かと少々暴れながら私の方を見たが、私の目を見た瞬間大人しくなった。
いや、大人しくなるどころの話じゃない。
尻尾をピンと立てたままブルブル震えてピクリとも動かなくなってしまった。
「え、ええそうね。私は数占いの宿題が残ってるし、クルックシャンクスは任せるわ。いい子にしてるのよー」
ハーマイオニーは文字通りの猫撫で声でクルックシャンクスの頭を撫でる。
私は片手でクルックシャンクスを抱き直すと、鞄を掴んで女子寮へと上がった。
「ちょっとお待ちなさい」
ホグズミード週末のお知らせが掲示された次の日、変身術の授業の終わりに教室を出て行こうとする生徒たちをマクゴナガルが呼び止める。
「みなさんは私の寮の生徒ですので、ホグズミード行きの許可証をハロウィンまでに私に提出するように。いいですか? 許可証がなければホグズミードも無しです。忘れず提出すること」
マクゴナガルがそう言うと、ネビルが遠慮がちに手を挙げた。
「あのー、僕、許可証をなくしちゃって……」
「貴方の許可証は貴方のおばあさまが私に直送なさいました。その方が安全だと思われたのでしょう」
ネビルはホッと表情を緩ませると、シェーマスと一緒に教室を出て行く。
「今だ、行け」
その瞬間、ロンがハリーの背中を押した。
その様子を見てハーマイオニーが何か言いたげだったが、言葉を飲み込んだようだった。
ハリーは教室から生徒がいなくなったのを見計らってマクゴナガルに近づく。
「ポッター、どうかしましたか?」
マクゴナガルはハリーの存在にすぐに気がつき、ハリーに問いかけた。
「あの、先生。叔父と叔母が許可証にサインするのを忘れちゃって」
マクゴナガルはハリーをじっと見ている。
その視線にハリーはしどろもどろになりながらも話を続けた。
「あの、それで……ダメでしょうか? つまり、その、かまわないでしょうか? あの、僕がホグズミードに行っても」
「ダメですポッター。今私が言ったことを聞きましたね? 許可証がなければホグズミードは無しです。そういう規則ですから」
「でも、先生。ご存知のように、叔父と叔母はマグルです。わかってないんです。許可証がどうとか……もし先生が良いとおっしゃってくだされば──」
「ポッター、私はいいとは言いません。許可証にはっきり書いてあるように、両親か保護者が許可しなければなりません」
マクゴナガルは机の上の書類をまとめると、引き出しの中に仕舞い込む。
「ポッター、残念ですが、これが私の最終決定です。さあ、早く行かないと次のクラスに遅れますよ?」
ハリーはこれ以上は無意味だと判断したのか、肩を落として教室を出ていく。
私はロンとハーマイオニーに先に行くように手振りすると、マクゴナガルに近づいた。
「何度言っても許可は……と、ホワイト、貴方でしたか。いかがしましたか?」
マクゴナガルはいそいそと次の授業の準備を始めている。
私は鞄の中から血でカピカピになった許可証を取り出すと、机の上に出した。
「先生、これって許可下りますか?」
マクゴナガルは血まみれの許可証に明らかに動揺すると、震える手で許可証を持ち上げ血で半分隠れているサイン欄を見る。
そして右手を目がしらに当ててしばらく考え事をした後、許可証を私に返した。
「残念ですが、故人は保護者にはなりえません」
「そうですか……」
私は許可証を鞄の中に仕舞い込む。
「ホワイト、貴方の場合は確かに事情が特殊です。保護者と呼べる存在がいないので本来ならば学校側が許可を出すべきなんでしょう。ですが、今は情勢が情勢です。シリウス・ブラックがまだ捕まっていない今、学校の外に出るのは賢明とは言えません」
マクゴナガルは話を続ける。
「ブラックが捕まり吸魂鬼がアズカバンへと帰ったら、改めて私が許可を出しましょう。それまで辛抱できますね?」
「はい、大丈夫です。私もホグズミードに行けるとは思っていなかったので。ハリーと一緒に学校で大人しくしてようと思います」
私は小さく頭を下げ、変身術の教室を後にする。
やはりブラックに狙われている可能性のある私はホグズミードには行けないか。
私としてはブラックを探し出して殺してやりたいとすら考えているのだが。
「学校に侵入してきたら話が早いんだけどなー」
見つけたら徹底的に追い詰めて少しずつ刃物で切り刻んでやる。
私は硬く拳を固めると、次の授業の教室に急いだ。
ハロウィンの朝、私はいつもの三人と一緒に大広間で朝食を取った後、みんなと一緒に玄関ホールへと移動する。
そこではフィルチが、許可が下りている生徒が載っている長いリストを見ながら外に出る生徒を確認していた。
「ハニーデュークスでお菓子を沢山買ってくるわ」
ハーマイオニーは心底気の毒そうな顔でハリーに言う。
「うん、たーくさんね。ゾンコでも何か買ってくるよ」
ロンもハリーの肩に手を置いて励ました。
「僕のことは気にしないで。三人で楽しんできてよ。パーティーで会おう」
ハリーは空元気を振り絞って笑顔で二人に手を振る。
私もハリーの肩に手を置いて言った。
「そうよハリー。買い物なら今年の夏にダイアゴン横丁で散々したじゃない。それに今日はハロウィンよ。ホグズミードでお腹をいっぱいにしちゃったら勿体ないわ」
「うん、そうだね。サクヤも楽しんできてよ」
ハリーは話を聞いているのかいないのか、肩を落としながら言う。
私は小さくため息をつくと、ハリーに対して言った。
「何言ってるのよ。私も居残りよ」
私がそう言うと、ハリーは目を丸くする。
いや、ハリーだけではない。
ロンとハーマイオニーの二人も驚いていた。
「あれ? 言ってなかったかしら」
私は肩を竦めて見せる。
「え、でも君、そんなこと一言も……どうして?」
ハリーは目をパチクリさせながら聞いてきた。
「孤児院の職員からサインを貰ってたんだけど、その人が退職しちゃって。それで私の許可証が無効になっちゃったってわけ」
「あー……そう、なんだ……」
ハーマイオニーは何と言っていいかわからないといった表情で私を見る。
「だから……はい、これ」
私は呆然としているハーマイオニーにガリオン金貨を二枚手渡す。
「これで買えるだけお菓子買ってきて。何買ってくるかは二人に任せるわ」
「あ、それなら僕も」
ハリーもポケットの中からガリオン金貨を取り出し、ロンに手渡す。
「なんか悪いわね。お遣い頼んじゃって。私たち二人は談話室で優雅に紅茶でも飲みながら待たせてもらうわ」
私は冗談交じりにそう言うと、ハリーにウィンクする。
ハリーは私の冗談に苦笑で返したが、少し元気が出たようだった。
「……うん、わかったわ。食べきれないぐらいお菓子を買ってきてあげる」
「覚悟しとけよ二人とも」
ハーマイオニーとロンはそう言うと、ホグワーツの玄関ホールを抜けて城の外へ歩いて行った。
私はそれを見送ると、ハリーと一緒に談話室へと戻る。
談話室には暇を持て余している様子の下級生と、上級生が数人残っていた。
「ハリーハリーハリー! ハリーったら!」
私たちが談話室に入った瞬間、談話室の一角から大きな声が聞こえてくる。
私たちが目を向けると、そこにはハリーの大ファンのコリン・クリービーと彼の同級生であろう二年生が普段は上級生が占領しているソファーに座っていた。
「ハリー! もしよろしかったらこっちで少しお喋りしませんか!? 去年の話をぜひ聞きたいです!」
ハリーはそれを見てやりにくそうに頬を掻く。
どうにもハリーはこのクリービー少年が苦手なようだった。
「あー、僕たちこれから図書館で勉強しないといけないから。またあとでね」
ハリーはそう言うと踵を返そうする。
私は小さくため息をつくと、残念そうな顔をしているコリンに話しかけた。
「コリン、貴方勉強は大丈夫なの? 去年は学期の初めのほうから石にされていたから相当勉強が遅れているわよね?」
私がそう言うと、コリンは大きく胸を張る。
「大丈夫です! 夏休みの間に一通り復習してきました! そういえば、ハリーもサクヤもホグズミードにはいかないんです?」
もっともな疑問だろう。
私はコリンの頭をポンと叩くと、軽く微笑んで言った。
「行く必要がないからね。それに私、人込みって苦手なの」
じゃあね、と私はコリンに手を振ってハリーの後を追う。
ハリーは図書館に行くと言っていたが、廊下を少し歩いたところで管理人のフィルチに捕まっていた。
「そこで何をしている? どうして仲間の悪ガキどもとホグズミードで臭い玉やらゲップ粉とかを買いに行かない?」
どうやら三年生であるハリーがこの時間に一人で廊下をうろついているのを怪しんでいるようだった。
「こんにちはフィルチさん。ハリーが何かしましたか?」
私は後ろから近づくと、二人に声を掛ける。
フィルチは私にいきなり声を掛けられたことでビクンと肩を震わせたが、すぐに私の方に振り向いた。
「お前もだ。どうしてホグズミードに行かん? 学校に残って何かいたずらするつもりなのか?」
「まさか。ウィーズリーの双子じゃあるまいし。それに、どうして私がホグズミードに行けないか、理由を御存じでない?」
私がそう言うと、フィルチは鼻を鳴らす。
「フン、興味ないな。なんにしても、ホグズミードに行かないならお前たちがいるべき場所は談話室だ。今すぐ談話室に戻れ!」
「はーい。しつれーしまーす」
私はフィルチに頭を下げると、ハリーの手を引いてフィルチから離れる。
あの様子じゃフィルチは孤児院の事件のことを知らなそうだ。
「フィルチのやつ、多分僕が廊下を歩いているだけで気に入らないんだ」
ハリーは私に手を引かれながらブツブツと呟く。
「まあ、普通に考えたらホグズミードに行かないなんて不自然だしね。それでどうする? 本当に図書館で勉強する?」
「まさか」
私はハリーの手を放し、二人で誰もいない廊下を歩く。
まあ、こうなってしまっては完全に暇を持て余しているだけなので、日当たりの良い場所で読書でもしよう。
「そう。じゃあ私はこの時間を利用して読書でもしようと思うわ。ハリーは?」
「図書館には用事がないし、もう少ししたら談話室に戻るよ」
私は軽く手を振ってハリーと別れる。
折角の機会なので去年ロックハートから貰った本でも読もう。
私は一階へと下りると、読書に丁度良さそうな場所を探してふらつき始めた。
設定や用語解説
レタス食い虫
草食の大人しい芋虫。何かの幼虫というわけではなく、成虫になっても芋虫の姿をしている。また、食べることもでき、ホグワーツの食堂では時折レタス食い虫の揚げ物が出る。
ロックケーキ
ハグリッドが得意としている岩のように硬いケーキ。人外のようなあごの力がないとろくに歯が立たない。
コリン・クリービー
秘密の部屋騒動で一番初めに石にされたグリフィンドールの二年生。去年のハロウィンから学期末に掛けてずっと石だったので一年生の授業は殆ど受けれていなかった。
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活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。