P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
ハロウィンの夜から数日の間、シリウス・ブラックの話題で持ちきりになった。
結局あの日の捜索ではブラックを見つけ出すことはできなかったらしく、生徒たちの間で様々な噂が飛び交う。
だが、そのどれもが信ずるに値しないような根も葉もない噂だ。
また、グリフィンドールの談話室の前には太った婦人に代わりカドガン卿の肖像画が掛けられることになった。
太った婦人の肖像画が修復されるまでの代理という話だが、これがなかなかの曲者で、扉を通ろうとするものに手当たり次第に決闘を挑んだり、コロコロと合言葉を変えたりする。
まあこのご時世を考えれば適任なのかもしれないが、一日に何度も出入りしなければならない扉と言うこともあり、あまりにも面倒くさい。
特に被害を受けているのは合言葉を覚えるのが苦手なネビルで、二日に一度は談話室の前で待ちぼうけを食らっていた。
だが、その甲斐もあってかハロウィンの夜以降シリウス・ブラックは城の中に現れていない。
時間が経つにつれて生徒たちの間でも緊張感は解けていき、皆の意識は次第にクィディッチの第一試合へと向いていった。
「聞いたか? 明日はスリザリンじゃなくてハッフルパフとの対戦になるらしい」
クィディッチの試合を明日に控えた夜。
大広間で夕食を取りながらロンが言った。
「どうして? 予定ではスリザリンとの対戦だったわよね?」
私がそう聞くと、ロンはスリザリンのテーブルの方を見る。
「どうやらスリザリンのキャプテンがシーカーの腕が万全じゃないって訴えたらしいんだ。それでスリザリンとの試合が延期になったって。それ自体は少し前から決まっていたことらしいんだけど……」
まあ、そうでなければハッフルパフの選手はいきなり試合に出ることになってしまう。
きっとここまで話が回ってきていなかっただけで、スリザリンではなくハッフルパフと当たることは一週間ほど前から決まっていたんだろう。
「でも、多分明日の試合に出たくない言い訳だろうな。ほら、天文学のシニストラ先生が言ってただろ? 明日は嵐がくるって」
確かにマルフォイの腕は随分前から包帯が取れており、普通に動かせている。
シーカーの腕の調子が悪いというのはキャプテンの言い訳だろう。
「嵐の中でのクィディッチは過酷だ。スニッチは見えないし、速度を上げると雨粒が顔に突き刺さるんだ。多分見てるこっちもずぶ濡れになると思うよ」
「えー、私談話室で待ってようかな」
私がそう言うと、ハリーは分かりやすく残念そうな顔をする。
「冗談よ。ちゃんと見に行くわ。でも、そうなのだとしたらしっかり雨の準備をしないと。マントに防水呪文でもかけていこうかしら」
私は皿に残っていた最後のパンを口の中に放り込み、席を立って談話室に戻る。
そしてそのまま女子寮へと上がり、普段自分が着ているローブに防水呪文を重ね掛けした。
「これでよし。あとはしっかり防寒していけば大丈夫そうね」
私は防水呪文を掛けたローブをベッドに掛け、談話室へと降りる。
そして暖炉の前のソファーに座り読書を始めた。
次の日。
バケツをひっくり返したような雨の中、私たちはクィディッチスタジアムの観客席に来ていた。
観客席にはこの大雨にも関わらず、ホグワーツの殆どの生徒と教師が集まっている。
この場にいる時点であまり人のことは言えないが、皆クィディッチとなると多少の雨などものともしないらしい。
私のようにしっかり雨の対策をしている生徒は少なく、殆どの生徒は全身びしょ濡れになりながら観客席で身を震わせていた。
「そろそろ始まるぞ」
ロンがグランドの真ん中を指さして叫ぶ。
雨でよく見えないが、確かにそこには赤と黄色のユニホームをまとった選手たちが見えた。
赤がグリフィンドール、黄色がハッフルパフだろう。
普段ならうるさいぐらい聞こえる実況やマダム・フーチの開始を告げる笛の音も殆ど聞こえず、気がついたら選手たちは箒に乗ってスタジアム内を飛び回り始める。
普段と比べて動きは随分と遅かったが、それでもちゃんとプレーができているあたり日頃の練習の成果がしっかりと出ているようだった。
「ハリーはどこかしら」
私はフードの隙間から雨が入りこまないようにしながら上空を見回す。
だが、この雨だ。
ハリーを特定するのは困難を極める。
「こんなんで本当にスニッチが捕まるの?」
「捕まらなかったら、捕まるまでやるのがクィディッチだよ。嵐で取れないんだったら、嵐が過ぎ去るまでやるさ!」
ロンが私の横で叫んだ。
心なしか楽しそうに見えるのは気のせいだろうか。
いや、気のせいではないだろう。
ロンから言わせれば、こういう状況もクィディッチの醍醐味に違いない。
そのまましばらく試合を見ていたが、両チームともに少しずつ点数を入れれているようだ。
横で律儀に点数を数えていたハーマイオニーが今の得点状況を私に教えてくれる。
どうやら今現在、グリフィンドールが五十点リードしているようだ。
その瞬間、微かにフーチの笛の音が聞こえてくる。
どうやらウッドがタイムを要求したらしい。
「私ちょっと行ってくるわ。ハリーの眼鏡に防水魔法を掛けてくる」
ハーマイオニーはそう言うが早いか観客席を飛び出していく。
グリフィンドールのピッチではウッドが皆を集めて何かを話しており、何か問題があるというよりかは、純粋に情報をまとめているように見えた。
しばらくするとまた笛が鳴り、選手たちは雨を切り裂くようにして空へと昇っていく。
この雨にも慣れてきたのか、先程と比べると選手の動きがいいように感じた。
「このままハリーがスニッチをキャッチできれば……」
ハーマイオニーが自分の肩を摩りながら観客席へ戻ってくる。
「多分体力だけで見たら体の大きなディゴリーが有利だ。でも、ハリーの方がシーカーとしての腕はいいと思う。箒もいいのに乗ってるし。ディゴリーがスニッチを見つけたのにハリーが気がつければ負けることはないさ」
ロンが雨の中で目を凝らしながら言った。
次の瞬間、二人の選手が急加速を始めるのが見える。
クィディッチであのような動き方をする選手はシーカーしかいない。
ハリーと相手チームのシーカーであるディゴリーがスニッチを見つけたのだ。
「行けるぞハリー!」
私の横でロンが叫ぶ。
だが、その瞬間クィディッチのスタジアムに黒い影のようなものが近づいてきた。
「あれは……」
私はスタジアムを漂う黒い影に対し目を凝らす。
間違いない、あれは吸魂鬼だ。
「なんでスタジアムに吸魂鬼が?」
「ハリー!!」
横でハーマイオニーが悲鳴を上げたのを聞いて、私は咄嗟にハーマイオニーの視線を追う。
そこには箒から滑り落ちるハリーの姿があった。
ハリーはそのまま真っ直ぐ地面へと落ちていったが、落下速度が次第にゆっくりになり、最終的に優しく地面へと下ろされる。
私が観客席を見回すと、職員用の観客席に座っていたダンブルドアがハリーに向けて杖を向けていた。
「大丈夫。ダンブルドアが何とかしたみたいよ」
私は今にも泣きそうなハーマイオニーの肩を叩く。
ダンブルドアはハリーが地面に付いたのを確認すると、今度は吸魂鬼に向けて杖を向けた。
ダンブルドアの杖から放たれた銀色の光はやがて不死鳥を象り吸魂鬼に向けて飛んでいく。
銀色の光でできた不死鳥は吸魂鬼を追い立てるとスタジアムの外へと吹き飛ばした。
「取った! スニッチをキャッチしたぞ! ハッフルパフの勝利だ!」
グラウンドではハリーに何が起こったのか認識できていないディゴリーがキャッチしたスニッチを掲げている。
だが、すぐに周囲を見回し、ハリーが地面に倒れているのを見てスニッチを投げ捨てハリーに駆け寄った。
「どうした! 何があった!? 審判! いや、早く医務室に!」
ディゴリーはハリーを抱え上げると、グリフィンドールのピッチへと駆けこむ。
ここからではよく見えないが、観客席の方からマクゴナガルとダンブルドアがグリフィンドールのピッチに駆け込んでいったように見えた。
「この場合、試合はどうなるの?」
私は口をぽかんと開けているロンに聞く。
ロンは口をパクパクとさせながらも私の問いに答えた。
「わからない。でもスニッチを取ったのはディゴリーだ。ハリーが落ちた時点では試合はまだ止まってなかった。公式ルールに則れば、ハッフルパフの勝ちだよ……」
「わ、私ハリーの様子を見に行くわ」
「うん、みんなで行こう」
私たちは観客席を抜け出すと、グリフィンドールのピッチに駆け込む。
そこではハリーの手当と並行して試合をどうするかが話し合われていた。
「こんなの間違っている! この試合はやり直すべきだ!」
ずぶ濡れのディゴリーがマダム・フーチに対して訴える。
「途中で吸魂鬼が試合の邪魔をしたんだ。やり直してしかるべきだ。そうだろう?」
ディゴリーは拳を固く握りしめているウッドにもそう訴えた。
「いや……ルールに則れば、ハッフルパフの勝利だ。あの時、まだ試合は止まっていなかった」
ウッドは悔しそうな表情をしながらも、グリフィンドールの負けを認める。
「私としても、試合をやり直すほどのトラブルでもないでしょう。試合を邪魔するために何者かが意図的に吸魂鬼を招き入れたわけではなさそうですし、この試合はハッフルパフの勝ちで終わらせるべきです」
マダム・フーチは最終決定だと言わんばかりの口調でディゴリーに言った。
ディゴリーは何か言いたげに口を開きかけたが、ハリーを見て口を閉じる。
そして気絶しているハリーの肩を優しく叩くと、ハッフルパフのピッチに向けて雨の中を歩いていった。
「なんにしても、早くポッターを医務室に運ばねばなりません。私とマダム・フーチでポッターを医務室に運びますので、貴方たちはまず寮に戻って濡れた服を着替えて来なさい。お見舞いに来るのはそれからでも遅くないはずです」
マクゴナガルはそう言うと、マダム・フーチと共にハリーを連れて奥へと消えていく。
私たちはしばらくグリフィンドールのピッチで何も言えずにいたが、やがて沈黙を破るようにジョージが言った。
「取り敢えず、着替えないことにはハリーのお見舞いにも行けない。さっさと着替えて医務室に行こうぜ」
私たちはジョージの言葉に同意すると、みんなで城に向けて歩き始める。
グリフィンドールの選手たちはこの後どのような点差がつけば今年の優勝を狙えるかを話し合っていた。
「ハリー、大丈夫かしら」
ハーマイオニーはショックと寒さで肩を震わせている。
私は防水効果の付いたローブをハーマイオニーに被せると、背中をドンと叩いた。
「あれぐらいじゃ死なないわ。多分少し気絶してるだけよ」
私はハーマイオニーの背中を押して城の階段を上がり、談話室を抜けて女子寮へと上がる。
途中からローブをハーマイオニーに貸してしまったので、私も頭の先から靴下の先までずぶ濡れだった。
「取り敢えず私はシャワーを浴びて来るわ。ハーマイオニーも早く準備しちゃいなさいよ」
私は替えの着替えが入った鞄を掴むと、シャワー室へと足を向ける。
なんにしても、早く準備をしてハリーのお見舞いに行ってあげよう。
私たちは準備を済ませると、三人揃って医務室へと駆けこむ。
医務室には既に人が入っており、結局シャワーすら浴びずに医務室に入り込んだ様子のフレッドとジョージがハリーの肩を掴んでハリーを励ましていた。
「気にするなハリー、これで試合が決まったわけじゃない。ハッフルパフが二百点差でレイブンクローに負けて俺たちがレイブンクローとスリザリンに勝てば優勝だ」
「でも、それじゃあハッフルパフがレイブンクローに勝ったら?」
ハリーは心配そうにフレッドに聞く。
「ありえないぜ。レイブンクローのほうが圧倒的に強いさ。まあでも、スリザリンがハッフルパフに負けたらアレだが……」
「なんにしても百点差が決め手になるな」
フレッドの言葉にジョージが続けた。
しばらくするとマダム・ポンフリーが医務室に到着し、泥だらけのフレッドとジョージに出ていくように命じる。
私たちは既に綺麗な服に着替えていたので追い出されずに済みそうだ。
「僕、あの後どうなったの? 地面に落ちるところまでは覚えているんだけど」
ハリーは深刻そうな顔で私たちに尋ねる。
私たちは顔を見合わせると、ハーマイオニーがハリーに説明を始めた。
「貴方が地面にぶつかる前にダンブルドアが魔法を掛けて貴方をゆっくりにしたの。それで、その後吸魂鬼を追い払って……そのあと、マクゴナガル先生とフーチ先生が貴方をここまで運んだのよ」
ハリーは俯いて何かを考え始める。
そしてふと顔を上げて私たちに聞いた。
「誰か僕のニンバスをキャッチしてくれた?」
「いや、僕たちは見てないけど……」
ロンは私とハーマイオニーの顔を見る。
私もハーマイオニーも首を横に振った。
少なくともあの状況で箒の行方を追っていた人間などいないだろう。
その瞬間、その問いに答えるようにフリットウィックが医務室に顔を出す。
フリットウィックはハリーが起きていることを確認すると、悲しそうな顔でハリーに持っていたバッグを差し出した。
「ポッター君、君の箒ですが、どうにも暴れ柳に突っ込んだようで……。私が確認しに行った時にはこの有様でした」
ハリーはフリットウィックからバッグを受け取ると、中身を見て悲しそうに呻く。
そしてベッドの横にバッグの中身をひっくり返した。
「まさか、そんな……」
ハリーは床に散らばる木片を虚ろ気な目で見る。
そこにはハリーの相棒であるニンバス2000がバラバラになって散乱していた。
設定や用語解説
大雨の中のクィディッチ
クィディッチの試合はスニッチが捕まるまで終わらない
セドリック・ディゴリー
ハッフルパフのキャプテンにしてシーカーを務める上級生。人格者であり、全てのハッフルパフ生の見本のような存在
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活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。