P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
グリフィンドール対レイブンクローのクィディッチの試合はグリフィンドールの勝利で終わった。
ハリーは何の問題もなくファイアボルトを操り、レイブンクローのシーカーを寄せ付けることなくスニッチをキャッチした。
ハリーのシーカーとしての腕もさることながら、やはり箒の性能が段違いだ。
なんにしても、次のグリフィンドール対スリザリンの試合でスリザリンに五十点差をつけて勝てばグリフィンドールが優勝である。
「そういえば、父上の話では明日あのヒッポグリフの裁判がロンドンで行われるらしい。まあ、処刑判決以外あり得ないだろうね」
授業終わりに図書館で一緒に勉強していたマルフォイが魔法史のレポートを書きながら話してくれる。
「でも、ハグリッドも相当準備しているみたいよ? ヒッポグリフが無罪判決を受けた過去の事件を調べたりとか、法律の勉強とか」
まあ、そのデータを集めたのは主にハーマイオニーだが。
自分の宿題をこなすだけでてんやわんやになっているのに、合わせて裁判の準備の手伝いまでするとはお人好しもいいとこだ。
「いや、今回の場合弁護をするのがあの毛むくじゃらのウスノロじゃなく敏腕の弁護士でも無罪判決を引き出すのは無理だろうね。父上の話では魔法界の権力者と危険生物処理委員会との間で取引があったらしくて、表向きはヒッポグリフは処刑されるんだけど裏ではその権力者のペットとして売却されるらしいんだ」
「危険生物処理委員会が裏取引を?」
私が聞くとマルフォイが残念そうな顔で頷いた。
「危険生物処理委員会が魔法生物の処刑に積極的なのはそれが理由さ。有罪判決を出さないと権力者に売却することができないからね。勿論、秘密裏に行われていることだからこのことを知っている人間は委員会内部でも上層部だけさ」
「なるほど、それが危険生物処理委員会の収入源なわけね」
ということはバックビークはどこか金持ちな権力者のもとでペットとして可愛がられるということか。
ハグリッドがそのことを知ったらさぞ喜ぶだろう。
「おい、これじゃ点数が付けられないどころか減点を貰う可能性すらあるぞ……そういえば、サクヤは明日のホグズミードはどうするんだ?」
マルフォイはゴイルの書いたレポートを見て顔を顰めながら私に聞いてくる。
「あれ? 言ってなかったかしら。今年は色々あって許可証にサインを貰えなくてホグズミードには行けないの」
「ホグズミードに行けない? 孤児院の連中は正気か? サクヤ、虐待とか受けてないよね?」
マルフォイは信じられないと言わんばかりな声色で言う。
「あ、それに関しては大丈夫よ。サイン自体は貰ったんだけど、その職員が退職しちゃったからサインの効力がなくなっちゃっただけで」
「そうか……そしたら、何か買ってくるよ。明日は裁判が終わったら結果を父上が教えてくれると思うし、それを伝えるついでにね」
「ええ、お願いしようかしら」
私は広げていた羊皮紙を片付けると、教科書と一緒に鞄の中に詰め込む。
そしてマルフォイ、クラッブ、ゴイルに手を振ると図書館を後にした。
次の日、皆がホグズミードから帰ってくるぐらいの時間帯にマルフォイから呼び止められた。
マルフォイの手には大きなハニーデュークスのお菓子の袋が握られている。
「サクヤ! いろいろ買ってきたよ!」
マルフォイは笑顔で私にお菓子の袋を渡してくれる。
ああ、こうして女に貢ぐ男というのは生まれるんだろうと思いながらマルフォイからお菓子の袋を受け取った。
「ありがとう。そういえば、ヒッポグリフの裁判はどうなった?」
「予定通り処刑されることになったらしい。つまり金持ちのペット行きだよ」
マルフォイは歯がゆそうな顔をする。
「まあ、あのウスノロの泣き顔でも見て留飲を下げることにするよ。今日は大広間には顔を出さないだろうな」
それじゃあ、とマルフォイは手を振って廊下を歩き去っていく。
私はハニーデュークスの大袋を抱えて談話室へと戻った。
イースター休暇明けの週の土曜日、ついにグリフィンドール対スリザリンの試合の日がやってきた。
私はスタジアムの観客席でロンとハーマイオニーと共に選手の入場を待つ。
「グリフィンドールが二百点差でスリザリンに勝てばグリフィンドールが優勝だ……」
「もう。ロン、さっきからそればっかりじゃない」
「当たり前だろ? 優勝が懸かってるんだ」
ハーマイオニーは呆れたようにため息をつく。
「でも、スリザリン相手にチェイサーが五十点差をつけないといけないんでしょう?」
私がそう聞くと、ロンはスタジアムを睨みながら言う。
「チェイサーの腕はグリフィンドールのほうが上だよ。時間さえかければ点差をつけることは不可能じゃない。でも、問題があるとすればハリーは五十点差がつくまではスニッチをキャッチできないんだ。その前にマルフォイがスニッチを見つけてキャッチしてしまったらその時点でグリフィンドールの負けが確定する」
なるほど、確かにそれは厳しい勝利条件だ。
マルフォイはハリーほどの腕と箒は持っていないものの、普通にシーカーとしての腕はいい。
スニッチを見つけてしまったら捕まえるのにそこまで時間は掛からないだろう。
そうしているうちに選手たちが声援と共にスタジアムに入場し、フーチの笛の音と共に試合が開始された。
『さあマダム・フーチの笛が鳴り試合が開始されました。実況はわたくしリー・ジョーダンでお送りします。さて最初にクアッフルを取ったのはグリフィンドールのアリシア・スピネット選手! スリザリンのゴールへ向けて一直線に飛んでいきます! いいぞ! そのまま……あー! スリザリンのワリントン選手がクアッフルを奪いました! おっと! ここでジョージ・ウィーズリーが惚れ惚れするブラッジャー打ちでワリントンを妨害! 再びクアッフルはグリフィンドールへ!』
リー・ジョーダンの実況がスタジアム内に鳴り響く。
グリフィンドールの選手はそのままクアッフルをパスし合いスリザリンのゴールへシュートした。
『ゴール! グリフィンドール先制点です!』
グリフィンドールの観客席がわっと沸き上がる。
その後もグリフィンドールは二十点、三十点とスリザリンとの点差をつけていった。
このままいけばスリザリンとの点差をつけること自体は可能だろう。
問題があるとすれば、既にマルフォイがスニッチを見つけていることだろうか。
「スリザリンのシーカーがスニッチを見つけたようです! スニッチを追いかけて一直線にスタジアムを横切っていきます! おっと! ここで事態に気が付いたグリフィンドールのシーカー、ハリー・ポッターがドラコ・マルフォイの後を追う! だがまだスリザリンとの点差は三十点しかついていないぞ! えー、余談になりますが、グリフィンドールが優勝するにはスリザリンと二百点差をつけなければなりません! スニッチを取ればスリザリンの勝利! 取らせなかったらグリフィンドールはニック状態になります!』
マルフォイは後ろからハリーが来ていることを確認すると、箒と体を一直線にして一気にスニッチに迫る。
ハリーはマルフォイと横並びになると、マルフォイとは反対の方向を一瞬見て、すぐに真下に急降下した。
その瞬間、ハリーで死角になっていた位置からブラッジャーが飛来し、マルフォイの箒の柄を直撃する。
フレッドがハリーの作った死角からブラッジャーを打ち込んだのだ。
マルフォイは箒から振り落とされそうになりながらも、なんとか体勢を取り直す。
だが、スニッチは見失ってしまったようだ。
『グリフィンドールのビーターによる妨害が綺麗に決まりました!』
「いいぞフレッド!」
ロンが隣で大声で叫ぶ。
私は私で、今ハリーとフレッドが行った妨害行為に素直に感心していた。
「なるほど、ああいうプレーもあるのね」
「むしろフレッド、ジョージはああいうプレイの方が得意だよ。妨害させたらあの二人の右に出る選手はいない」
フレッド、ジョージの二人はいつも以上に目を輝かせてブラッジャーを追っている。
あの二人の中ではスリザリンの選手にブラッジャーをぶつけるのはいつもの悪戯の延長なのだろう。
そうしている間にもグリフィンドールは得点を重ね、ついにグリフィンドールとスリザリンの点差が五十点になる。
その瞬間、ハリーが今までにないほどの速度で動き出した。
『ハリー・ポッターがスニッチを発見したようです! まるで稲妻のような速度で一直線に上空から降下していきます! マルフォイが後ろから追いかけるが……やった! ハリー・ポッターがスニッチをキャッチ! グリフィンドールの優勝です!』
グリフィンドールの観客席が歓声で爆発する。
ハリーはグラウンドに立ってスニッチを掲げていた。
グラウンドには次々とグリフィンドールの選手が降り立ち、ハリーを担ぎ上げる。
私の横にいるハーマイオニーも、ロンと抱き合いピョンピョンと飛び跳ねていた。
優勝杯の授与式はすぐに執り行われ、キャプテンのウッドが誇らしげな表情でダンブルドアから優勝杯を受け取る。
中止になった去年を数に入れなければ、これでグリフィンドールが二年連続優勝だ。
今年も優勝したこともあり、グリフィンドールはしばらくお祭り騒ぎだったがそれも長くは続かなかった。
六月が近づくにつれて校内の雰囲気はクィディッチから学期末試験へと向かっていく。
図書館の机は勉強する生徒で埋まり、談話室のあちこちで羽ペンを走らせる音が聞こえてくる。
特に誰よりも沢山授業を取っているハーマイオニーは大忙しだった。
授業へ向かう移動間も教科書に目を通し、かと思えば急にいなくなり、何故か空き教室から急に現れたりと明らかに様子がおかしい。
ハーマイオニーが作った試験の時間表も矛盾だらけだった。
「数占いの試験が九時で、変身術の試験も九時、そのあとの呪文学と古代ルーン語も時間が被ってる。君一体いくつ体があるの?」
ロンがハーマイオニーの試験の予定を見ながら呆れたように呟く。
ハーマイオニーは予定表を急いで隠すと何でもないかのような表情をした。
「別に、普通よ。だってここは魔法界だもの」
ハーマイオニーはそう言うと、数占いの教科書を本の山から探し始める。
「でも、何かトリックがあるのよね? 体を分裂させる魔法薬とか?」
「あー、まあそんなところよ」
私が聞くと、ハーマイオニーは言葉を濁した。
きっとそれに近い魔法を使用しているのだろう。
「なんでもいいけど、過労死しないようにしなさいよ。ほら、こことか丸くハゲてる」
私はハーマイオニーの後頭部を指でつつく。
「え!? 嘘!! どこ!? どこ!?」
「嘘よ」
ハーマイオニーは手に持っていた分厚い本で私の頭を叩いた。
その時、窓の外に純白のフクロウが降り立つ。
ハリーのペットのフクロウであるヘドウィグだ。
「ハグリッドからだ」
ハリーはヘドウィグから手紙を受け取ると、急いで手紙を開く。
「バックビークの控訴裁判の日付が決まったみたい。六月の六日だ」
「試験の最終日だわ」
ハーマイオニーが間髪入れずに言った。
ハリーは手紙の続きを読みながら言う。
「ホグワーツで裁判が行われるらしい。……それに、死刑執行人が一緒にやってくるって」
それを聞いて、ハーマイオニーが怒りを露わにした。
「控訴に死刑執行人を連れてくるなんて……それじゃあ、まるで判決が決まってるみたいじゃない!」
確かに、判決は既に決まっている。
ということは、その日来る死刑執行人は偽物なのだろう。
私がそのことを話そうか迷っていると、窓際にもう一羽小さなフクロウが降り立つ。
そのフクロウは恐る恐る談話室に入ると、私の肩の上に飛び乗った。
「ん? 誰からかしら」
私は小さなフクロウの足に括られている羊皮紙を解くと、贈り主を確認する。
そのにはパッドフットと名前が書かれていた。
「あー、漏れ鍋の店主からだわ」
私は適当なことを言いながら皆には見えないように羊皮紙を広げる。
そこには短くこう書かれていた。
『痕跡を見つけた。六日に戻る。ネズミは逃がすな』
私は何度か羊皮紙を読み返してから暖炉の中に羊皮紙を放り込む。
どうやらブラックはロンドンで重要な何かを掴んだようだ。
これはすぐにでもスキャバーズを確保しておいた方がいいかもしれない。
私は大きくあくびをすると、教科書を鞄の中に放り込んだ。
「じゃ、私はそろそろ寝るわ。ハーマイオニーもあんまり根を詰めすぎないようにね」
私はソファーから立ち上がり、鞄片手に女子寮へと入る。
そして皆の死角に入ったところで時間を止め、談話室に戻るとそのまま反対側にある男子寮へと入った。
「ロンには悪いけど、スキャバーズは捕えさせてもらうわ」
私はロンのベッドの近くに置かれた毛布の上で眠っているスキャバーズを掴むと、すぐに鞄の中に放り込む。
これでたとえスキャバーズが動物もどきだとしても、何が起こったかは理解できないだろう。
それに鞄の中は時間が止まっている。
どれだけの時間鞄の中でスキャバーズを監禁したところで、スキャバーズは餓死するどころか監禁されていたことを認識することすらできない。
私は談話室を経由して女子寮へと戻ると、時間停止を解除する。
これで動物もどきの疑惑があるスキャバーズの確保には成功した。
もしシリウス・ブラックが信用に値する人物だとわかれば、素直にブラックにスキャバーズを引き渡そう。
だが、ブラックの話が作り話の可能性もある。
そもそもスキャバーズが動物もどきでもなんでもなく、アズカバンで見た新聞の写真から話をでっち上げた可能性すらある。
それに、スキャバーズがピーター・ペティグリューだったとしても、ブラックがハリーの両親を裏切っていないという証拠にはなりえない。
本当はブラックが秘密の守人で、ピーター・ペティグリューは何か理由があって人間の姿に戻れないだけかもしれない。
「まだ決めつけるには早すぎる」
私は自分のベッドに横になると、色々な可能性を考える。
もしブラックが孤児院を襲っていないのだとしたら、一体誰が何の目的で孤児院を襲ったというのだろうか。
ウール孤児院は魔法界とは何の関係もない貧乏な孤児院だ。
襲われる理由があるとは思えない。
私は少し早めに寝る支度を済ませ、ベッドの中に潜り込む。
なんにしても、ブラックが掴んだという痕跡を聞いてからでいいだろう。
設定や用語解説
スリザリンと二百点差
バスケやラグビーなら絶望的な点差だが、クィディッチではクアッフルをゴールに入れると十点、スニッチキャッチで百五十点入るので実質チェイサーが五回分ゴールを多く取り、スニッチをキャッチしたら二百点差になる。
丸くハゲてる
十円ハゲという単語を使おうとして、イギリスに十円玉はないと思い出しこのような表現に。
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