P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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満月の夜と不可能犯罪と私

 一九九四年の六月六日。

 私は全ての試験を終え、談話室に帰ってきていた。

 多くの生徒が試験後の解放感からか、外に遊びに行っており、談話室の中には私の他には上級生が数名とハリー、ロン、ハーマイオニーの三人しかいない。

 

「バックビークが負けたみたい」

 

 私が三人に近づくと、ロンが弱々しく言った。

 私はロンが持っている羊皮紙を覗き込む。

 どうやらハグリッドからの手紙のようで、震える手で泣きながら書いたのか荒々しい文字が書かれている。

 

『控訴に敗れた。日没に処刑だ。おまえさんたちにできることは何もねぇから、来ちゃなんねぇぞ。おまえさんたちには見せたくねぇ』

 

「そう……残念だったわね」

 

 私はロンに羊皮紙を返す。

 

「ハグリッドを一人にできないよ」

 

「でも、処刑は日没だ。絶対許可は下りないよ……ハリー、特に君は──」

 

 ロンは死んだような目で窓の外を見る。

 

「透明マントを着ていけば大丈夫だよ。それに忍びの地図もある。危険は無いさ」

 

「……私は行かないほうがいいわね。原因を作ったのは私のようなものだし」

 

 まあ、実際バックビークが処刑されることはない。

 きっと魔法界のどこかにあるレミリア・スカーレットの豪邸で可愛がられるんだろう。

 

 夕食後、ハリー達三人は透明マントを被ってハグリッドの小屋へと歩いていった。

 私は三人を見送ると、一度談話室へ戻る。

 すると、談話室の窓の外に一匹のフクロウが待ち構えていた。

 私はフクロウを談話室の中に招き入れると、足に結ばれている羊皮紙を解き、広げて内容を読む。

 

『日没後、同じ場所で パッドフット』

 

 羊皮紙には短くそれだけが書かれていた。

 私はフクロウを窓の外に放つと、すぐにブラックからの手紙を暖炉で燃やす。

 そして鞄の中にロープやスキャバーズなどが入っていることを確認すると、ナイフを取り出して制服の下に隠した。

 

「日没後に同じ場所だったらそろそろ向かった方がいいわね」

 

 私は鞄を小さくしてポケットの中に入れ、談話室を後にする。

 そしてそのまま階段を下りると、校庭に人の気配がないことを確認してから時間を止め、暴れ柳のうろの中に入った。

 私は時間停止を解除して、杖明かりを頼りにゆっくり横穴を進んでいく。

 外の様子は窺い知れないが、例の廃墟に着く頃には日は沈んでいるだろう。

 

 三十分ほど横穴を進んだだろうか。

 私は埃っぽい廃墟の床の上に足を下ろした。

 

「さて、同じ場所なのだとしたら二階だけど……」

 

 私は杖明かりを灯したまま、薄暗い廃墟の中を歩く。

 今にも崩れそうな階段を上り、私はブラックと遭遇した部屋の前までやってきた。

 

「そこにいる?」

 

 私は扉越しにブラックに呼びかける。

 部屋の中は少しの間無音だったが、すぐに返事が来た。

 

「ああ、入ってくれ」

 

 私はゆっくり扉を開けて部屋の中に入る。

 部屋の中ではブラックがベッドに腰かけていた。

 この前と比べるとブラックの服装は少し綺麗になっているように感じる。

 ブラックも私の視線に気が付いたのか、上着の裾を少し持ち上げながら言った。

 

「マグルの街に忍び込むには服装には気を付けないとな。奴らは無駄に綺麗好きだし」

 

「まあそれは言えてるわ」

 

 私は部屋の隅にあった椅子の埃を払うと、ブラックと向かい合うように腰かける。

 

「それで、帰ってきたということは何か重要なことがわかったのよね?」

 

 ブラックは私の言葉に頷いた。

 

「君と別れたあと、私は一度実家に戻り準備を進めた。まず初めに忍び込んだのは魔法省だ。新聞を読む限りではあの事件はすぐにマグルの警察から魔法省に捜査協力が出されたからね」

 

「指名手配犯が魔法省に?」

 

「ホグワーツに忍び込むよりかは簡単だよ。あそこは職員も多ければ来客者も多い。少し変装して堂々と歩いていれば誰も私がシリウス・ブラックだとは思わない」

 

 ブラックはそう言って肩を竦める。

 確かに、見知らぬ男性がホグワーツを歩いていたら違和感しかないが、役所のような場所なら自然な光景になるのだろう。

 

「私は資料室で当時の捜査資料を漁った。だが、魔法省は犯人に関する具体的な手掛かりを何も掴んではいなかった。あの孤児院からは魔法を使った痕跡は見つからなかったそうだ」

 

「魔法の痕跡がない?」

 

「ああそうだ。魔法というのは使うとその場に残滓のようなものが微かに残る。強力な魔法であればあるほど、強い残滓がその場に残るんだ。もっとも、どんな魔法を使ったかまではわからないがね。あの孤児院からはそういった痕跡は見つかっていない。つまり、あの惨状を作り出すのに犯人は魔法を使っていない。魔法省も犯人はどこにでもあるようなナイフで犯行を行ったと結論づけた」

 

 三十人以上を殺すのに魔法が使われていない……そんなことがあり得るのだろうか。

 

「じゃあ、犯人はマグルである可能性もあるんじゃないの?」

 

「まあ、その可能性も十分ある。結局のところ魔法省は逃亡中の私は杖を持っていないだろうと推測し、私が魔法を使わず殺したと結論づけた」

 

 確かにそれなら魔法省がブラックの犯行だと結論づけるのも納得がいく。

 

「でも、それ以上の何かがわかった。そうよね?」

 

「ああ、そうだ。魔法省の捜査資料を読んだとき、私は疑問に思った。マグルでも可能な犯行なのに、どうしてマグルの警察は魔法省に捜査協力を依頼したんだろうとね。私は今度は捜査協力を依頼したロンドン警視庁に忍び込んだ。だが、マグルの警察は魔法省よりも資料の管理が厳重だ。捜査資料を見つけ出すのに随分と時間が掛かってしまったが、先週ようやく捜査資料を入手することができたんだ」

 

 ブラックは暗くなりつつある室内で神妙な面持ちをする。

 

「マグルの調べでは、殺された被害者たちには奇妙な点があるらしい。マグルの世界ではその人物がいつ死んだのか調べることができる。死亡推定時刻というらしいが、マグルの調査では三十二人の被害者は、ほぼ同時に死亡している。それに、あれだけ部屋中が血まみれになっているにもかかわらず、血が付いた足跡は一種類だけだったようだ」

 

「じゃあ、その足跡の人物が犯人ということでしょう?」

 

 ブラックは少し押し黙ると、確認するように聞いた。

 

「……調べるうちに知ったことだが、君はあの孤児院の生き残りらしいね。ホワイト、見つかったのは君の足跡だ。君は一度あの孤児院に入っている、そうだね?」

 

「……ええ。私は自分の目で孤児院の皆が殺されているのを確認した。足跡はその時に付いたものだと思う」

 

「問題はそこだ。足跡は君の物しか見つかってない。つまり犯人はあれだけの血だまりの中、全く血を踏まずに殆ど同時に三十二人を殺したということになるんだ。そんな犯行はマグルには不可能だ。だからこそ、ロンドン警視庁は魔法省に捜査協力を依頼した」

 

「ちょっとまって、それっておかしいわ」

 

 マグルの警察は魔法でも使わない限りできない犯行だったからこそ魔法省に協力を求めた。

 だが、魔法省の調べでは犯人は犯行に魔法を使っていない。

 

「そう、明らかにおかしい。だが、裏を返せば不可能な犯行だからこそ、私の身の潔白が証明できる。少なくとも、私には魔法を使わずに痕跡を残すことなく三十二人を同時に殺すことはできないからね」

 

 ブラックはそこで一度言葉を切ると、大きく肩を竦めながら冗談混じりに言った。

 

 

「それこそ、時間でも止めない限りこの犯行は不可能だろう」

 

 

 ブラックがそう言った瞬間、私は時間を止めていた。

 時間を止めない限りこの犯行は不可能?

 確かに、時間を止めて全員を刺し殺せば、一度に全員を殺すことは可能だ。

 時間を止めているかぎり血は傷口から吹き出さないため、血だまりを踏むこともない。

 だが、私は事件があったときは漏れ鍋の宿で眠っていたはずだ。

 みんなを殺すような時間はどこにも……。

 

「時間がない……なんて、関係ない。私にアリバイなんて存在しない……そんな、私、いつの間に……」

 

 考えれば考えるほど、私が殺したようにしか思えなくなってくる。

 少なくとも、マグルの警察の調査が正しければ、私にしかできない犯行だ。

 

「なんで……どうして私は皆を……」

 

 私が殺したという記憶はない。

 だが、記憶なんて曖昧なものだ。

 本当に私がやったんじゃないのか?

 自分が犯人ではないと思い込みすぎて、いつの間にか自分の中で記憶が改ざんされたんじゃないか?

 何せもう一年近く前だ。

 もう何が嘘で何が真実か、それすらわからない。

 

「……ダメだ。もう、分からない。わからなくなっちゃった」

 

 私は懐に忍ばせていたナイフを取り出すと、ベッドに座っているブラックの首に突き刺し、真横に引き抜く。

 そして、ダメ押しと言わんばかりにブラックの胸にナイフを突き立てた。

 

「わからない。わからないよ……だから、だからね? シリウス・ブラック、貴方が犯人。私は、これで孤児院のみんなと、ハリーの両親の仇を討った」

 

 私はナイフを引き抜くと、ブラックの前に立つ。

 そして、時間停止を解除した。

 

「──ッ!?」

 

 ゴボリという音と共にブラックの首と胸から血が溢れ出す。

 ブラックは何が起こったのか理解するよりも前に、床に崩れ落ちて死んだ。

 

「……さようなら、シリウス・ブラック。貴方の見つけた真実は、私にとってあまりにも都合が悪すぎる」

 

 ブラックの死体からあふれ出た血液が地面に広がり、私の靴を濡らす。

 その瞬間、ギシリと階段を上る音が部屋の外から聞こえてきた。

 私は時間を止めようと一瞬周囲を見回す。

 

「サクヤ! そこにいるの?」

 

 だが、時間を止める寸前に聞こえてきたハリーの声が、私に時間を止めさせるのを躊躇わせた。

 何故ここにハリーが……しかも、私がここにいることを知っている。

 私が混乱しているうちに、部屋の扉を開けてハリー、ロン、ハーマイオニーの三人が部屋の中に入ってきた。

 

「──ひッ! ……サクヤ、この人……」

 

 ハーマイオニーは短く悲鳴を上げると、口元を抑えてブラックの死体を覗き見る。

 

「間違いない。こいつ、シリウス・ブラックだ! ……もしかして、君がブラックをやっつけたのかい?」

 

 ロンがブラックと私が手に持っているナイフを交互に見ながら言った。

 ナイフを見られたからには、もう誤魔化しは効かないだろう。

 私はナイフについた血をハンカチで拭いながら言った。

 

「ええ、そうよ。ブラックは私が殺した」

 

「……一体何があったんだい?」

 

 ハリーがブラックの死体を呆然と見ながら聞く。

 私は肩を竦めると、ブラックの死体を蹴飛ばした。

 

「襲われたの。学校の校庭を歩いている時に攫われて……貴方に対する人質として私を攫ったってブラックは言ってたわ。言うことを聞かないと私の指を一本ずつ切り落とすって……それで、あんまりにもムカついたから……」

 

 私は後ろからナイフを引き抜いて、振り下ろす真似をする。

 

「多分ブラックも、私が女で子供だから油断したんだと思うわ。じゃないとこんなに簡単に殺せなかったと思うし」

 

 私がそう言うと、ロンが短く口笛を吹いた。

 

「でも、貴方たちはどうしてここに? まだ私が攫われてから一時間も経ってないし、偶然たどり着くような場所でも無いと思うんだけど……」

 

「これだよ」

 

 ハリーがポケットから古びた羊皮紙を取り出した。

 ハリーがフレッド、ジョージからもらったという忍びの地図だ。

 

「ハグリッドの小屋からの帰り道、暴れ柳の抜け道を通っていくサクヤの名前を見つけたんだ。それで不思議に思って後をつけて来たんだけど……」

 

 ハリーはもう一度床に倒れているブラックを見る。

 

「まさかこんなことになってるなんて。地図にはサクヤの名前しかなかったから……」

 

「きっとブラックは自分の名前が地図に映らないように自分に魔法を掛けていたんだろうね」

 

 不意に部屋の外から声が聞こえてきたかと思うと、ルーピンが顔を出す。

 

「ルーピン先生!」

 

「暴れ柳のうろの中に入っていく君たちを見かけてね。勝手ながら後をつけさせてもらったよ」

 

 ルーピンは部屋の中に入ると、死んでいるブラックを調べ始める。

 

「でも、まさかブラックがサクヤを攫うとは……怪我はないかい?」

 

「はい。大丈夫です。指も全部くっついています」

 

 私はナイフを仕舞うと、ルーピンに指が無事なことを見せる。

 

「あの、先生……先生は地図のことを……」

 

「ああ、知ってるよ。その羊皮紙がどういうものかも、その地図を誰が作ったのかもね。ハリー、そこで死んでいるシリウス・ブラックはその『忍びの地図』を作った人物の内の一人だ。その地図は君のお父さんが学生の頃、仲間と一緒に作り上げたものだ」

 

「この地図をお父さんが?」

 

 ハリーはじっと古びた羊皮紙を見つめる。

 

「プロングズがジェームズ、パッドフットがシリウス、ワームテールがピーター、そしてムーニーが私。そう、私もこの地図を作り上げた魔法使いの一人だ。だからこの地図のことはよく知っているし、この地図に名前を表示させない方法も知っている。そして、それはブラックも同じだ」

 

「でも、それなら先生はブラックがホグワーツへ侵入するための抜け道を知っていることを知っていたということですよね? どうしてダンブルドア先生に報告しなかったんです?」

 

 私がそう質問した瞬間、ハーマイオニーがハッとした表情をする。

 そして私を部屋の奥に引っ張ると、杖を抜いてルーピンに突き付けた。

 

「ハリー! ロン! 構えて!」

 

 ハーマイオニーの叫び声を聞いてハリーとロンは慌てて杖を引き抜く。

 ルーピンはハーマイオニーの対応に目を丸くすると、大人しく両手を挙げた。

 

「待ってくれ、君が言いたいことはよく理解できる。だが、それは誤解だ。私はブラックの仲間じゃない」

 

「ハリー、ロン、サクヤ、信じちゃダメ! 先生はまだ私たちに隠していることがあるわ!」

 

「私が人狼だということかい? ハーマイオニー、それは学校の職員なら全員が知っている秘密だよ」

 

 人狼という言葉にハリーとロンが眉を顰める。

 あの顔はよく理解していない顔だ。

 

「狼男! ルーピンの代理でスネイプが授業を行った時に習ったでしょう? でも、ダンブルドアは先生が人狼だとわかっていて雇ったってこと?」

 

 ハーマイオニーは油断なくルーピンに杖を突きつける。

 ルーピンは落ち着いた口調で言った。

 

「そうだ。ダンブルドアは私が人狼だと知っているし、私を雇う時に学校中の先生に私が人狼であると説明した。あの人は本当に偉大な魔法使いだよ。人狼だからといって、私を見捨てることをしなかった。……それは、今も昔も変わらない。私がホグワーツに入学できたのは、ダンブルドアが色々と便宜を図ってくれたおかげなんだよ」

 

 ルーピンは懐かしそうに屋敷を見回した。

 

「ハリーには話したね。暴れ柳は私が入学した年に校庭に植えられたと。本当は、私が入学したから校庭に植えられたんだ。当時の先生たちが学校の校庭からこの村の廃墟の屋敷まで横穴を掘って、その穴を塞ぐようにして暴れ柳を植えた。私は満月の夜になると、先生に連れられてこの屋敷に籠り、ここで人狼に変身したんだよ。人狼に変身してしまうと私は我を忘れて人間を襲うようになってしまう。だからこそ、人が来ないこの屋敷に閉じこもって満月の夜が過ぎ去るのを待った。そう、ダンブルドアは私が人狼に変身しても、他の生徒を襲わないように配慮してくれたんだ」

 

「じゃあ、ダンブルドアはこの屋敷から暴れ柳まで横穴が繋がっていることを知っていたということ?」

 

 ハリーがそう聞くと、ルーピンは頷いた。

 

「その通り。ダンブルドアやマクゴナガル、それにポンフリーとかはこの横穴のことを知っているはずなんだ。吸魂鬼がホグワーツの周りを固めるという話になった時、誰も暴れ柳の横穴の話をしなかったから、てっきりもうすでに穴は埋められたものだと思っていた。……結果としては、穴はそのまま残っていたわけだが」

 

 ハーマイオニーは恐る恐る杖を下ろす。

 ルーピンはそれを見て優しく微笑んだ。

 

「ありがとう。とにかく、今は一刻も早く城に戻ろう。ブラックの遺体の回収は後回しだ。幸いヒッポグリフの一件でファッジがホグワーツに来ている。そのまま引き継いでしまえばいいだろう」

 

 ルーピンはブラックの死体を見下ろすと、少し悲しそうな顔をする。

 だが、すぐに真剣な表情になった。

 

「さて、学校に戻ろう。みんな心配しているだろうしね」

 

 私たちはルーピンを先頭に一階に下りると、横穴を通って暴れ柳の真下に戻る。

 ルーピンは手慣れた手つきで暴れ柳のコブに石を置いた。

 

「さあ、これで大丈夫だ。順番に上がろう」

 

 ハーマイオニー、ロン、私、ハリーの順番でうろをよじ登り、最後にルーピンが這い出てくる。

 私たちが暴れ柳の枝が届かない位置まで移動すると、ルーピンはコブに載せていた石を魔法で移動させた。

 

「おやおや、どこに行ったかと思えば……こんな時間に生徒を連れて一体どこへ行っていたんでしょうな」

 

 不意に後ろから声をかけられ、私たちは急いで振り返る。

 そこには片手にゴブレットを持っているスネイプの姿があった。

 

「貴様のために時間をかけて調合しているというのに、それを飲み忘れるとは……良い御身分ですな。さっさと飲みたまえ。そろそろ月が顔を出すぞ?」

 

 スネイプは手に持っていたゴブレットをルーピンに押し付ける。

 ルーピンは空を見上げると、慌ててゴブレットの中身を飲み干した。

 

「いつもありがとう、スネイプ先生。でも、私はどうもこれが苦手でね……」

 

「飲みたくないのであれば、次回からは調合しないが──」

 

「いやいや、感謝しているとも。本当だ」

 

 ルーピンはゴブレットをスネイプに返す。

 スネイプはゴブレットを受け取ると、私たちを見ながら言った。

 

「それはともかくとして、一体何をしていたのかね? 私の目が節穴じゃなければ、あの例の横穴から顔を出したように見えたが?」

 

「そのことだ、セブルス。急いでダンブルドアとファッジを呼んでくれ。シリウス・ブラックが見つかった」

 

 ルーピンがそう言った瞬間、スネイプが目を見開いた。

 

「シリウス・ブラックだと? どこにいる?」

 

「叫びの屋敷だ。サクヤがブラックに攫われたんだ」

 

 スネイプは不可解な顔をして私を見る。

 

「その攫われた生徒がここにいるわけだが?」

 

「隙を見て殺しました」

 

「……ああ、私が到着した時にはブラックは既に死んでいたよ。まったく、たくましい限りさ」

 

 ルーピンはスネイプに屋敷内の状況を簡単に説明する。

 スネイプはルーピンの話を聞き終わると不敵に微笑んだ。

 

「ふん、奴にはお似合いの最期だ。出来ればこの手で殺してやりたかったが……まあいい。ルーピン、お前は子供たちを医務室まで連れて行け。私はダンブルドアに報告した後、ブラックの死体を回収しに行く」

 

 スネイプはそう言うと、城の方へと歩いていく。

 ルーピンは顔を覗かせ始めた満月をチラリと見ると、スネイプの後を追うように城の方へと歩き始めた。

 

「あとは他の先生たちがなんとかしてくれるだろう。私たちは医務室へ向かおうか」

 

 私たちはルーピンを先頭にして城の中に入る。

 私はルーピンの後ろを黙って歩きながら、ブラックを刺し殺した手応えの残る左手を握りしめた。




設定や用語解説

スネイプの魔法薬
 人狼に変身しても自我を保つための薬。人狼に変化するのを止めることはできない。

Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
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