P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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お誘いとドレスと私

 私の一人と一匹暮らしは好調な滑り出しを見せていた。

 クリーチャーは私の命令したことはきっちりと守り、掃除も料理も完璧にこなしている。

 それに私が衛生面を整えろと命令したからか、毎日新しい枕カバーを身につけるようになった。

 本当ならばちゃんとした衣服を身に付けさせたいところではあるが、屋敷しもべ妖精に衣服を与える行為は解雇を意味する。

 そしてそれは屋敷しもべ妖精にとっても不名誉なことらしかった。

 私は書斎の机の上に夏休みの宿題を広げると、教科書を開くことなくスラスラとペンを走らせていく。

 自己学習の成果が出ているのか、学校側から課せられる宿題レベルの知識は頭の中に入っていた。

 私が羊皮紙の上で羽ペンを走らせていると、書斎の扉が三回ノックされる。

 

「お嬢様、ハリー・ポッター様からお手紙が届いております」

 

 クリーチャーだ。

 私は羽ペンをインク瓶に戻すと、椅子から立ち上がり書斎の扉を開ける。

 扉の前には腕に真っ白なフクロウを止まらせたクリーチャーが立っていた。

 

「ご苦労様。それと、お茶を淹れて頂戴」

 

「かしこまりました」

 

 クリーチャーはフクロウを部屋の中に入れ、頭を下げて扉を閉める。

 私はハリーのペットであるヘドウィグを窓際の止まり木に止まらせると、足に巻かれていた羊皮紙を解いた。

 

『サクヤへ。新しい家での生活はどう? もし人手が必要そうなら手伝いに行くからいつでも電話して。こっちは今、いとこのダイエットの真っ最中だよ。ダドリーの通信簿にダイエットの必要性がつらつらと書かれていたらしくて、ついにおじさんたちが重い腰を上げたんだ。しかも、ダドリーだけカロリー制限は可哀想だからって家にいる全員が付き合わされてる。そのせいで今日の朝ごはんはオレンジのカケラが一つだけさ。このままじゃ夏休みが終わる前に餓死しちゃうから何かフクロウで送ってくれると凄い助かる。学校が始まったらホグズミードでお礼はするから。p.s. おじさんがついにホグズミードの許可証にサインしてくれたよ。これで今年はホグズミードに行けると思う。ハリーより』

 

「要約すると、飢えて死にそうだから何か送ってくれってことよね?」

 

 私がヘドウィグに聞くと、ヘドウィグは小さく鳴く。

 私は机の上に新しい羊皮紙を取り出すと、ハリーからの手紙に返事を書き始めた。

 

『ハリーへ。新しい家は中々快適よ。朝起きる時間も決まっていないし、家事をしてくれる便利な存在もいるしね。それと、ダイエットのことだけどそんなに脂肪が余ってるなら消失呪文で少し消失させたらどうかしら。案外スマートになるかも。まあそれとは別にして、家から少し食料を送ります。日持ちを考えるとビスケットが最適かしらね。でも、服に食べカスをつけたまま歩き回らないように注意しなさい。サクヤより』

 

「っと、こんなところかしら」

 

 私は手紙を一度読み返すと、細く畳んでヘドウィグの足に括り付ける。

 その瞬間、また部屋の扉がノックされた。

 

「お嬢様、お茶をお持ちいたしました」

 

「入っていいわよ」

 

 私が許可を出すと、クリーチャーが片手で器用にティーポットとカップが載せられたお盆を持ちながら、扉を開けて部屋に入ってきた。

 クリーチャーは私の机までカップを運ぶと、タイミングを見計らって紅茶を注ぎ入れる。

 その瞬間、部屋いっぱいに紅茶の香りが広がった。

 

「あ、そうだクリーチャー。ビスケットってこの家にあるかしら? 友達が飢えてるみたいなの」

 

 私はハリーからの手紙をクリーチャーに見せる。

 クリーチャーは手紙に目を通しながら言った。

 

「それならば、日持ちのするものをある程度纏まった数ご用意致します。一時間ほどお時間頂けますか?」

 

「それならヘドウィグを預けるから、用意が出来たらヘドウィグに持たせてハリーへ送って頂戴。私はそろそろ仕事の時間だから」

 

 私は懐中時計を取り出して時間を確認する。

 ここから漏れ鍋まで歩いて三十分ほどなので、そろそろ家を出ないといけないだろう。

 

「そうでございましたか。では、そのように致します」

 

 クリーチャーはヘドウィグを肩に乗せると、盆を持って部屋を出て行く。

 私はクリーチャーの淹れた紅茶を飲みながら出かける準備を始めた。

 

 

 

 

 八月に入ると今度はロンから手紙が届いた。

 なんでも、ロンの父であるアーサーがクィディッチワールドカップのチケットを人数分確保したらしく、私も一緒にどうかという内容だった。

 

「これは……困ったわね」

 

 私は手紙を読みながら頬を軽く掻く。

 確かに魅力的な提案ではあるし、プロのクィディッチの試合というものを一度は見に行きたい。

 特に何も事情がなければ、私は二つ返事で行くと返信していただろう。

 

「どうしたものかしら……」

 

 私は机の引き出しから昨日家に届いた一枚の手紙を取り出す。

 そこにはクィディッチワールドカップのチケットが取れたから一緒に行かないかといった内容が書かれていた。

 差出人はドラコ・マルフォイ。

 スリザリンにいる友達の一人だ。

 

「どっちの誘いに乗ったとしても、断った方からいい顔はされないだろうし、かといってこれを理由に行かないというのは勿体ない」

 

 個人的には最近一緒に遊べていないのでマルフォイの誘いに乗りたい気持ちが強い。

 だが、二人の手紙に書かれているチケットの席を見る限りでは、どちらも最上階貴賓席だった。

 

「絶対席は近くよね。なんなら顔が見える距離だと思うし……」

 

 私はロンとマルフォイの手紙を机の上に並べて唸る。

 そのまま二十分ほど悩んだが、実を言うと私の中で結論は既に出ていた。

 どちらにも行かない、それが一番だろう。

 私は引き出しから羊皮紙を二枚取り出すと、予定があるのでワールドカップには行けないという内容の手紙を書き始める。

 クィディッチワールドカップに興味はあるが、どちらかを切り捨ててまで見に行くものでもない。

 この日は素直に家で魔法の研究でもすることにしよう。

 

 

 

 

 クィディッチワールドカップ当日。

 私は使っていない部屋の中に座り込み、じっと意識を集中していた。

 ホグワーツに通い始めてからというもの、私の能力は少しずつ進化している。

 以前は時間を止めることしかできなかったが、今では指定した物の時間だけを止めたり、時間の流れを早めたり遅めたりすることができるようになった。

 私の時間だけを少し早めれば、私は徒競走で誰にも負けなくなる。

 逆にファイアボルトに乗ってるハリーの時間を遅くしたら、ハリーは亀にも追い抜かれるだろう。

 私は大きく深呼吸をすると、部屋全体を隅々まで見回す。

 今、私がしようとしているのは空間への干渉だった。

 最新の科学では時間と空間は同じものとして扱われている。

 つまり、時間に干渉できるということは、同時に空間にも干渉できるはずなのだ。

 その実例として、私は既に内部に無限の空間を持つ鞄を所持していた。

 これ自体は二年生の時に検知不可能拡大呪文の練習中に不可抗力で作り上げてしまったものだが、既存の魔法では内部の空間を無限に広げることはできない。

 つまり何らかの形で私の時間を操る能力が拡大呪文に干渉し、鞄の中の空間を無限に広げたのだろう。

 

「部屋の隅の八つの点を遠ざけるイメージで……」

 

 私は目を瞑り、部屋の角の八つの頂点が無限に広がっていく様子を思い浮かべる。

 部屋がどこまでも無限に広がる。

 どこまでも遠くへ、遠くへ……。

 

「……」

 

 私は静かに目を開ける。

 そこには、何もなかった。

 周囲には明かり一つなく、先程まで足を付けていた床すらない。

 

「──ッ! 出口ッ!!」

 

 私は急いで杖明かりを灯して部屋の扉があった方向を見る。

 そこには部屋の出入口の扉が宙に浮かんでいた。

 

「よかった……。これをやるときはもう少し用心したほうがいいわね。少し間違えたら延々と何もない空間を彷徨うことになりそう」

 

 私は呼び寄せ呪文を扉に掛けることによって自分を扉の方へと引き寄せる。

 そして無重力の中ドアノブを捻り、部屋の外に出た。

 部屋の外は特に変わった様子はなく、私の体は床に張り付くように引き寄せられる。

 どうやら部屋の外には能力の影響は出ていないようだ。

 

「一応、実験は成功ね。鞄の時の現象を再現できたわけだし」

 

 私はもう一度部屋の中に入ると、中の空間の時間を停止させる。

 この部屋は倉庫にしよう。

 中の世界の時間を止めている限り、私以外の誰もこの部屋に入ることはできない。

 私は部屋の外に出ると、扉を閉めて鍵を掛ける。

 そもそも部屋に踏み入ることはできないが、扉を開けたら真っ暗な空間が広がっているというのは奇怪すぎる。

 クリーチャーが驚かないように普段はこの部屋は封鎖しておこう。

 私は自分の書斎へと戻ると、先程の結果を羊皮紙にまとめる。

 取り敢えず実験には成功したが、このままでは便利な収納スペースを作るだけの能力になってしまう。

 能力的にはもう少し研究が必要だろう。

 私は実験の結果を羊皮紙にまとめ終わると、部屋のことをクリーチャーに伝えるためにキッチンへと下りた。

 

「クリーチャー、貴方の部屋の三つ隣の部屋には入らないようにしなさい。一応鍵を掛けておいたから問題ないとは思うけど」

 

 私はキッチンで今日の晩御飯を作っているクリーチャーに声を掛ける。

 

「はい、かしこまりました。差し支えなければ理由をお聞かせいただけると──」

 

「死の危険があるから。物理的には入れないようにはなってるけど、姿現ししたらどうなるかわからないわ」

 

「死の危険……でございますか」

 

 クリーチャーはフライパンで炒めていた野菜を鍋に流し込む。

 そして鍋に水を入れると、オーブンの様子を窺い始めた。

 

「そう、死の危険。だから詮索もしないこと」

 

「そんな、詮索など……滅相もございません」

 

「ならいいけど。夕食はいつもの時間に頼むわ」

 

 私はそう言うと、二階にある書斎へと戻る。

 夕食の時間まであと一時間はあるため今日中に残っている宿題を全て終わらせてしまおう。

 

 

 

 

 

 新学期を一週間後に控えた金曜の朝。

 私は自宅にある暖炉に火を灯し、煙突飛行粉を投げ入れる。

 そして緑色に変わった炎の中に踏み込むと、煙を吸い込まないようにしながら言った。

 

「漏れ鍋!」

 

 次の瞬間、私の体は煙と共に煙突へと吸い込まれていく。

 私はそのまま物凄い速度で上昇し、気が付いた時には漏れ鍋の暖炉の中に立っていた。

 私は体に付いた灰を払いながらカウンターへと向かう。

 

「あれ? サクヤちゃん今日シフトだっけ? 昨日が最後だって聞いたけど」

 

 カウンターの向かい側にいる店主のトムが首を傾げながら私に聞いてくる。

 

「ああいえ、今日は買い出しですよ。夜まで掛かるようなら夕食はここで取るかもしれませんが」

 

 私はトムに小さく会釈をすると、パブを抜けて中庭へと進む。

 そして杖を取り出し、順番通りにレンガを叩いてダイアゴン横丁に入った。

 

「えっと、新学期で必要なものは新しい教科書と、魔法薬の材料を買い足して……、あと、正装用のドレスローブ? ドレスローブなんて何に使うのかしら」

 

 マグルの学校によってはマナーの授業を行う学校もあると聞く。

 そんな感じでホグワーツでも社交のためのダンスの授業でも行うのだろうか。

 

「まあ、用意しろってことは着る機会があるってことだし、それならちゃんとしたものを用意しましょうか」

 

 私は一番初めにマダム・マルキンの洋装店へと向かう。

 マダム・マルキンの洋装店では、恰幅のいい女店主、マダム・マルキンが新入生と思われる少年の採寸を行っていた。

 

「あら、お客さんね。ドレスローブかしら」

 

 マダム・マルキンは巻尺を少年に当てながら私に声を掛ける。

 どうやら私と同じような目的で入店する人が多いようだ。

 

「はい。正装用のドレスローブが必要みたいで」

 

「そうなのよねぇ。そのせいでうちもてんてこ舞いだわ。まあ、儲かってるからいいんだけどね」

 

 マダム・マルキンはそう言って苦笑いを浮かべる。

 

「あれ? 毎年のことではないんです?」

 

「ええ、学校に問い合わせたら今年だけの特別な持ち物だって話だし。ダンスパーティーでもやるのかしら。貴方は何かご存じ?」

 

 私はマダム・マルキンからの問いに静かに首を振った。

 

「私はてっきり四年生から社交ダンスの授業でも始まるのかと……でも、そうすると着る機会は少なそうですね」

 

 だとしたらあまりお金は掛けないほうがいいだろうか。

 

「そうね。でも、サイズは後から魔法でいくらでも調整できるし、この機会にいいものを買っておいた方がいいわよ。貴方折角綺麗な容姿してるんだから、着るものもそれなりの物を選ばないと」

 

 マダム・マルキンは少年の採寸を他の魔女に任せると、私の肩をぐいぐいと押して店の奥へと向かう。

 

「全体的に色白だから真っ赤なドレスが似合うわね。でも、目の色に合わせた青いドレスも捨てがたいし……」

 

「あの、目立たないものの方が……黒とか」

 

「黒は逆に目立つわよ? 大丈夫、私に任せて」

 

 マダム・マルキンはバチンとウインクすると、試着室へと私を引きずり込む。

 そして着せ替え人形のように何着か私にドレスを試着させると、ウンウンと唸り始めた。

 

「うーん、素体が綺麗だから迷っちゃうわね。可愛い系じゃなくて綺麗系だからフリルは少なめの方がいいだろうし……ちなみに、貴方どこの寮?」

 

「グリフィンドールです」

 

 マダム・マルキンはそれを聞くと、最終的にスレンダーなデザインの真っ赤なドレスを私に差し出した。

 私はドレスを身に纏うと、鏡の前でポーズをとる。

 

「あら、いいわねぇ。異国のお姫様って感じがするわ」

 

 マダム・マルキンは服のあちこちをつまみながらサイズが合っているか確認を始める。

 私はじっと鏡に映る自分を見つめていた。

 

「確かに。これしかないって思えるほどにはしっくりきました」

 

「でしょう? 散々付き合わせちゃったし、お値段は少し勉強させてもらうわ」

 

 私はドレスから先程来ていた洋服に着替えると、ドレスをマダム・マルキンに渡す。

 マダム・マルキンは手慣れた様子でドレスを畳むと、紙袋に入れて私に渡した。

 私は鞄の中に紙袋を仕舞いこむと、ドレスの料金をマダム・マルキンに支払う。

 マダム・マルキンの言う通り、店に展示してあるドレスの値段と比べると、八割ほどの値段になっていた。

 私はマダム・マルキンに軽くお礼を言うと、鞄を片手に店を出る。

 店員の趣味に付き合わされ結構な時間を消費してしまったが、結果としていい買い物ができたのでまあいいだろう。

 

「さて、これはいつ着ることになるのかしらね」

 

 私は誰に言うでもなくそう呟くと、次の買い物をするためにダイアゴン横丁を歩いた。




設定や用語解説

屋敷しもべ妖精の解雇
 屋敷しもべ妖精は仕えている者から衣服を渡されるとその家を出ていかなければならない。なお、今作のドビーはハリーとルシウスとのひと悶着がないためまだマルフォイ家に仕えている。

クィディッチワールドカップ
 誘いを受けたのはクィディッチワールドカップの決勝戦。ブルガリア対アイルアンド。

サクヤの空間操作能力
 いまだ未完成。能力の加減ができないのでふとした拍子に空間を無限大にまで広げてしまう。

真っ赤なドレス
 サクヤ自身は絶対に自分から選ばないような色。



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https://twitter.com/hexen165e83
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