P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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悲鳴と闇の魔術と私

 

 パチュリーと別れた後、私はハリー、ロン、ハーマイオニーの三人と合流し帰路に就いていた。

 

「でも、本当に大丈夫なの? あんなに傷だらけで……ドラゴンの血も浴びてたでしょう?」

 

 ハーマイオニーは何度も何度も私の体の心配をしてくる。

 私は大きなため息をつきながらハーマイオニーに言った。

 

「もう、そんなに心配ならこの場で私を素っ裸にして確認すればいいじゃない。パンツから脱ぎましょうか?」

 

 私は両手でスカートの裾を掴む。

 ハーマイオニーは顔を真っ赤にしながら慌てた様子で私の手を押さえた。

 

「わかった! わかったからスカートをたくし上げようとしないで!」

 

 そんなやりとりを見て、ロンが肩を竦める。

 

「サクヤって、たまにとんでもないこと言い出すよな」

 

「まあ、私別にいいところのお嬢様ってわけじゃないし」

 

「それはそうなんだけど……見た目に合ってないというか。実は名家の令嬢とかじゃないよね?」

 

 ロンの言葉に、ハリーが何度か頷く。

 私は不敵な笑みを浮かべると、ロンに対して言った。

 

「実はマルフォイ家の隠し子なのよ」

 

「……あり得そうな嘘つくのやめろよ! え? もしかして本当に?」

 

「嘘よ」

 

 ロンは唖然とした表情で口をパクパクさせると、諦めたように苦笑いした。

 

 私たち四人は校庭を横切って城に入り、階段を上ってまっすぐ談話室を目指す。

 八階廊下を奥まで進み、太った婦人の肖像画に合言葉を言って談話室へと入った。

 その瞬間、爆発したような歓声が私を包み込む。

 どうやらグリフィンドールの生徒たちが私の帰りを待ち構えていたようだ。

 

「さいっこうにクールだぜサクヤ! まさかドラゴンを倒しちまうなんてな!」

 

 ジョージが私の肩をガッチリ抱いて談話室の真ん中に引っ張り込む。

 談話室のテーブルには様々な料理やお菓子が山盛りになっており、片隅にはバタービールの瓶が何本も並んでいた。

 

「ちょいと厨房とホグズミードから調達してきた。サクヤが腹空かせてると思ってな」

 

 フレッドが大ジョッキになみなみとバタービールを注ぎ、私に手渡してくる。

 私は鞄から金の卵を取り出すと、バタービールと共に掲げた。

 

「ありがとうみんな! この魅惑的な液体とドラゴンの金のゲロに乾杯!」

 

 そしてそのままジョッキの中身を一気に飲み干し、空ジョッキを机に叩きつける。

 それを受けて、談話室はまた大きな拍手に包まれた。

 私は近くにいたアンジェリーナに金の卵を手渡すと、早速料理に手をつけ始める。

 金の卵は次から次へとグリフィンドール生の手を渡り、最終的には私の机の横に戻ってきた。

 

「にしても、あれはどうやったんだ? あの、なんだ? 一発でドラゴンの首がこう、ボトリって」

 

 私に骨つきのチキンを手渡しながらフレッドが聞いてくる。

 私はチキンに齧り付きながら答えた。

 

「切断魔法。本当は奥の手だったんだけど、随分早く披露することになっちゃった」

 

 私はそう言うと杖を取り出し、バタービールの空き瓶に向ける。

 そして空き瓶の上半分の時間を少し遅くし、バタービールの瓶に切断呪文を掛けた。

 まっすぐ水平に切断したため、切れた上半分はピッタリと下半分の上に乗っかり、見た目上は何も起こっていないように見える。

 私は杖をしまうと、近くにあったフォークを空き瓶の口目掛けて投擲した。

 フォークはそのまま正確に空き瓶の口にヒットし、空き瓶の上半分のみが地面に落ちる。

 それを見て、談話室にまた大きな拍手が沸き起こった。

 

「まあ、その前にドラゴンに手痛い一撃を貰っちゃったけどね。フラーやクラムは大きな怪我はしてないんでしょう?」

 

「うーん、まあそうだね。でも点数はサクヤが一番だよ。このままの調子でいけば、本当にホグワーツが優勝しちゃうかも」

 

 私はそんな事を言うネビルのおでこを小突いた。

 

「優勝しちゃうかもじゃなくて、優勝しちゃうのよ」

 

「よし、その意気だ。……っと、そうだ! 開けてみてくれよ。第二の課題のヒントが入ってるんだろう?」

 

 ジョーダンがテーブルの金の卵を持ち上げると、私に手渡してくる。

 私は手に持っているチキンを口の中に詰め込むと、金の卵の隙間に爪を食い込ませた。

 

「本当は一人で見ないといけないんでしょうけど、今更よね。行くわよ」

 

 私はそのまま力を込めて金の卵をこじ開ける。

 その瞬間、耳をつんざくような咽び泣く悲鳴が大音量で金の卵から鳴り始めた。

 皆両手で耳を塞いで苦しそうに呻いている。

 

「サクヤ! 早く卵を閉じろ!」

 

「ダメよ。ヒントはちゃんと聞かないと」

 

 私は悲鳴のような音により一層集中したが、その悲鳴を言語化することはできなかった。

 だが、悲鳴に何か法則性は感じる。

 言葉なのか歌なのかはわからないが、この悲鳴を言語化できれば、第二の課題の正体がわかるのだろう。

 私は一通り悲鳴を聞き終わると、金の卵をバチンと閉じる。

 悲鳴が消えたことによって、私の周りの生徒たちは少しずつ顔を上げ始めた。

 

「な、なんだったんだ?」

 

 ロンが軽く頭を振りながら金の卵を見る。

 私は金の卵を鞄の中に仕舞い込んだ。

 

「多分何かの暗号だとは思う。人間の悲鳴とは少し違うようだったし……でも何かの生物の声だとは思うわ」

 

「そうだとしたら……私たちとは違う言語を使う生物ってこと?」

 

 ハーマイオニーの問いに私は頷く。

 

「多分ね。でもその前提でいけばそう遠くないうちに卵の秘密は解けそう」

 

 私は皿の上に残っていたチキンを口の中に放り込むと、鞄片手に女子寮に続く扉の方に移動する。

 先程の卵の悲鳴でパーティーは白けてしまった。

 今日はもう解散の流れだろう。

 私はそのまま女子寮の階段を上り、自分のベッドがある部屋に入る。

 そしてポケットの中にある青い宝石を鞄の中に仕舞い込むと、寝る支度を始めた。

 

 

 

 

 第一の課題が終わった次の日。

 私が大広間で厚切りのトーストに滴り落ちるほどバターを塗っていると、ハーマイオニーが新聞を握りしめながらこちらに走ってくるのが見えた。

 あの慌てようから察するに、新聞にはそれほど良い内容は書かれていないのだろう。

 私は邪魔が入らないうちにと、トーストを一口頬張る。

 濃厚な塩気がカロリーとともに口の中に充満する。

 私はそれをオレンジジュースで胃の中に流し込んだ。

 

「サクヤっ! 今日の新聞なんだけど……」

 

 ハーマイオニーは息を呼吸を整えながら私の横に座る。

 そして私の前に日刊予言者新聞の朝刊を置いた。

 私はハーマイオニーの分のオレンジジュースをゴブレットに注ぎながら朝刊を覗き込む。

 そこには血まみれになりながら金の卵を掲げている私の写真が大きく掲載されていた。

 新聞の見出しはこうだ。

 

『狂気に満ちた英才教育 ホグワーツのサクヤ・ホワイト、第一の課題にてドラゴンを最も残虐な方法で処刑 その裏に見え隠れするダンブルドアの黒い影』

 

「えっと、なになに……『ホグワーツ代表のサクヤ・ホワイトは学校では到底習わないような凶悪な魔法を用いてドラゴンを殺傷した』『サクヤ・ホワイトは以前からダンブルドアに目をかけられており、年齢制限に満たないにも関わらず代表選手に選ばれたのはダンブルドアがサクヤ・ホワイトを贔屓している動かぬ証拠』『全身返り血塗れになりながら金の卵をドラゴンの腹の中から引きずり出しているサクヤ・ホワイト。その表情はどこか楽しげであった』……うん、この記事がどうしたの?」

 

「どうしたもこうしたもないわ! 抗議するべきよ!」

 

「抗議するにもそこまで偏向報道というわけでもないし、私としては思惑通りダンブルドアが糾弾されているからこれでいいんだけどね」

 

 まあ、本当ならば記事など書かれないほうがいい。

 だが、代表選手に選ばれてしまった以上、否が応でも目立ってしまう。

 だとしたら、私ではなくダンブルドアに非難の矛先が向いているほうがいいだろう。

 

 

 

 

 

 

「よろしい。呪文の撃ち合いに関してはこれでいいだろう」

 

 十二月も半ば、ホグワーツの校庭にも雪が降り積もる頃、私は隠し部屋の中でムーディの課外授業を受けていた。

 この課外授業自体何か特別な理由がない場合は毎日のように行われているため、もう相当な時間ここでムーディに戦い方を習っていることになる。

 ムーディは手に持っていた杖をローブに差すと、近くに置いてあった椅子にどっかりと腰掛けた。

 

「やはりお前は筋がいい。この一ヶ月でお前の技術は格段に進歩した。並の魔法使いには……いや、決闘という形式だったら闇祓いにも負けんだろう。だが、たとえ決闘で勝てたとしても、それで生死が決まるわけではない。お前に必要なのはお前自身の身を守る技術だ。敵は行儀良く武装解除の呪文など使ってはこん。腕のいい死喰い人なら初手で死の呪いを放ってくるだろう」

 

 死の呪い、アバダケダブラ。

 当たったら最後、反対呪文が存在しない凶悪な魔法だ。

 

「そのような存在を相手にする時、重要なことは何か。機先を制することだ。相手の動きを予測し、相手より早く呪文を放つ」

 

「相手がどう動くか考えて、撃たれる前に撃つということですか?」

 

 ムーディは静かに首を横に振った。

 

「予想ではない。予測だ。そのためには、相手が魔法を放とうとしている予兆を感じ取らなければならん。例えばだ」

 

 ムーディは杖を持たずに手を私の方へと向ける。

 一体何をしているかよくわからなかったが、次の瞬間、とてつもなく嫌な予感がし私は咄嗟に横に飛び退いた。

 

「そうだ、その感覚だ。どうやらこの一ヶ月である程度は身についていたようだな。今、わしが何をしたかわかったか?」

 

「いえ、特には……でも凄く嫌な予感がして」

 

「もう一度、今度は杖を持って同じことをするぞ」

 

 ムーディはそう言うと杖を引き抜きまっすぐ私に向ける。

 私は先程と同じような感覚がしたので咄嗟に横に避けた。

 その瞬間、赤い閃光が私の顔スレスレを通過し、壁に当たって弾ける。

 それを見て、先程ムーディが何を行ったのか理解した。

 

「これでわかったな」

 

「さっき私が感じたのは、呪文を放つ予兆?」

 

「その通り。体の中を魔力が駆け巡り、杖先に到達するまでの刹那の時間。これを完全に消せる魔法使いは存在せん。この予兆を的確に感じ取り、相手より早く呪文を放つ。死の呪いを放ってくるような奴らと相対するにはこの感覚が必要不可欠だ」

 

 確かに、少しでも早く相手の動きを察知できれば、私の能力を使って先回りができる。

 そうじゃなくとも何かしら回避動作に移ることが可能だろう。

 

「でも、それなら杖を振る動作でわかるんじゃ?」

 

「愚か者、敵は礼儀正しく正面から魔法を放ってはこんぞ。真後ろから不意を突かれたらどうする? お前はわしと違って頭蓋骨の後ろを見通すことは出来んだろう」

 

 ムーディの言う通りだ。

 この感覚を正しく身に着けることができれば、不意打ちで意識を失うことはなくなるだろう。

 そう、私の能力は不意打ちに非常に弱い。

 敵と相対している場合、私は誰にも負けないだろう。

 だが、能力を発動する前に、敵を認識する前にやられてしまったら、能力の介入の余地がなくなるのだ。

 

「それにだ。慣れてくれば、相手がどんな呪文を放とうとしておるのかもわかるようになってくる。だが、そのためには闇の魔術に対して深い理解が必要だ」

 

「闇の魔術に対する深い理解? 知識を身に付けろ、そういうことですか?」

 

 自慢ではないが、知識だけなら私は既に新しい魔法を開発できるほどには身に着けている。

 最近ではパチュリーの本を裏から読み解こうとしているためか、表に書かれている内容は問題なく理解できるようになっていた。

 

「知識もそうだが、頭で理解しているだけでは不十分だ。闇の魔術に真に対応するには、闇の魔術をその身で理解していなければならん」

 

「その身で理解……また服従の呪文でも私に掛けます?」

 

 私が冗談交じりに肩を竦めると、ムーディは静かに首を横に振った。

 

「いや、そうではない。お前自身が闇の魔術を使えるようにならねばならんと言っておるのだ」

 

「とんでもないこと言い出しましたね」

 

 私はあえて茶化した口調で言うが、ムーディは真剣そのものだった。

 

「だが、必要なことだ。許されざる呪文は勿論のこと、悪霊の火などにも精通しなければならん。ここから先の課外授業では主に闇の魔術そのものを教えていく」

 

「まあ、私としては使える魔法の幅が広がることは願ってもないことですが……ホグワーツの教師としてそれでいいんです?」

 

 私がそう聞くと、ムーディはニヤリと笑った。

 

「本職は闇祓いだ。教員職にはダンブルドアの頼みで就いているにすぎん。では、早速取り掛かるぞ」

 

 なんだかとんでもない流れになってきたが、私としては願ったり叶ったりだ。

 服従の呪文を自習したことはあるが、専門家に教わるほうが術の精度も上がるだろう。

 私は意気揚々と真っ赤な杖をローブから引き抜いた。




設定や用語解説

魔法の前兆
 魔法使いが呪文を放つ時、体内の魔力が杖に伝わるまでに一瞬のタイムラグが生じる。

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