P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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記者の死体と第三の課題と私

 

 時間が止まった世界では、私から発せられる音以外は何も聞こえない。

 今もそうだ。

 時間の止まった世界では、自分の呼吸の音や心臓の音が鮮明に感じ取れる。

 私は目の前に転がるスキーターの死体を見ながら、自分の心臓の音に耳を傾けていた。

 

「……心拍数が上がってない。なんか、慣れちゃったなぁ」

 

 私は目の前に転がる死体の時間を止めると、死体の腕を掴む。

 そしてロンドンにあるノクターン横丁へと瞬間移動し、人気のない路地裏に死体を投げ込んだ。

 

「さて、アリバイ工作はこんなものでいいかしらね」

 

 ホグワーツでは姿くらましはできない。

 ただでさえ人気が少ないノクターン横丁の、誰も通らないような路地裏だ。

 死体が見つかるのに数日掛かってもおかしくはない。

 それに、スキーターのことだ。

 様々な魔法使いから恨みを買っていることだろう。

 間違っても私が疑われることはないはずだ。

 

「あ、そうだ。一応これは処分しておこうかしら」

 

 私はスキーターの死体から、手帳や財布などの持ち物を片っ端から剥ぎ取る。

 一番の目的は私の情報が書かれた手帳を処分するためだが、財布などの貴重品も奪っておけば少しは目眩ましになるはずだ。

 

「まあ、心配のしすぎかしら」

 

 私は移動魔法を用いてホグワーツ城の裏へと戻ると、時間停止を解除する。

 そしてそのまま裏口から城の中に入り、談話室を目指した。

 

 

 

 

 スキーターの死体が発見されたのは第二の課題から一週間が過ぎた頃だった。

 日刊予言者新聞は彼女の怪死を小さく記事にしたが、それ以降は彼女に関する記事は掲載されていない。

 どうやら身内からしても、いつ死んでもおかしくはないと思われていたのだろう。

 

「よし、随分と様になってきたな」

 

 私の目の前の丸椅子に腰かけているムーディが私の目の前でもがき苦しんでいる蜘蛛を見ながら言った。

 私は蜘蛛に掛けていた磔の呪文を解除すると、悪霊の火を用いて蜘蛛を跡形もなく焼き尽くした。

 

「よし、それでいい。その歳で悪霊の火を操ることができる魔法使いは殆どいないだろう。だが、これでお前は闇の魔術について、深い知識を身に着けることができたはずだ」

 

 私は悪霊の火を解除すると、杖をローブ内に仕舞いこむ。

 

「まったく、生徒に教えるような内容じゃないですよこれ」

 

 私が肩を竦めると、ムーディは小さく鼻を鳴らした。

 

「だが、必要なことだ。闇の魔術に対抗するには、闇の魔術を深く知らなければならん。そして、お前は既に並の死喰い人以上に闇の魔術について精通しておる。たとえ夜道で不意を打たれたとしても、何の問題もなく対処することができるだろう」

 

「まあ、確かにもう並の魔法使いには負ける気はしませんが……さて、次は何を教えてくれるんです?」

 

「そうだな。次、次か……」

 

 ムーディは腕を組んで小さく唸る。

 十秒ほどの沈黙の後、ムーディは呆れたような顔で言った。

 

「もう、次はない。教えるべきことは全て教え終わった。これ以上の課外授業は時間の無駄だろうな」

 

「それじゃあ、明日からはもうここに来なくてもいいと?」

 

 私は石造りの隠し部屋を見回しながらムーディに言う。

 

「ああ、そういうことだ。それに、第三の課題も控えておる。そちらに向けた準備も進めていかなくてはならないだろう?」

 

「いやまあ、準備も何もまだ何をするかすら知らないので対策のしようが無いんですけどね。先生は何か知っています?」

 

「なんだ。ダンブルドアから何も聞いてはおらんのか?」

 

 ムーディは少し目を丸くすると、ため息交じりに教えてくれた。

 

「巨大な迷路だ。中央にある優勝杯を一番初めに手にした選手の優勝となる」

 

「初めに手にした選手の優勝? それじゃあ、今までの点数は関係ないということですか?」

 

「まあ、そういうことになるか。迷路には今までの点数が高い選手から入ることになる。点数が高い選手が有利なことには変わりないが、点数が低い選手にもチャンスはあるということだ」

 

 ムーディはそこで一度言葉を切ると、部屋に置かれた椅子から立ち上がる。

 

「そういえばサクヤお前、優勝する気はあるのか? 第一の課題、第二の課題は真面目に取り組んでいたようだが……」

 

「そう、ですね……一千ガリオンは欲しいですし、優勝できるなら優勝するつもりでいますよ」

 

「随分と曖昧な返事だな。そのような浮ついた考えでいると足元を掬われるぞ? 油断大敵! 優勝を目指すなら全力で優勝杯を取りに行くのだ」

 

 ムーディはガンと手に持っていた杖を床に打ち付ける。

 私はその様子に小さくため息を付いた。

 

「まあ、そうですね。それじゃあ優勝することにします。まあ、迷路となれば運の要素も強いでしょうし、絶対とは言えませんが」

 

「よし、その意気だ。わしによる課外授業は今日で終わりだが、相談したいことがあればいつでもこの部屋を訪れるがいい」

 

「あら、お優しいことで。頼りにさせていただきますよ」

 

 私がそう言うと、ムーディは気に入らないと言わんばかりに鼻を鳴らす。

 

「ふん。お前のことだ。何か問題に突き当たったとしても、自分一人で解決してしまうのだろうな」

 

「そんなことは……。なんにしても、今日までありがとうございました」

 

 私はムーディに対し頭を下げ、隠し部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 一九九五年、五月末。

 私はバグマンに呼び出され、クィディッチ競技場へと来ていた。

 クィディッチ競技場には私とバグマンの他に、クラムとフラーの姿もある。

 

「やあ、やあ。よく集まってくれた、選手の諸君」

 

 バグマンは私たちに対し陽気に挨拶すると、大きな手振りで競技場の中を指し示す。

 競技場の中には大きな生け垣が張り巡らされており、巨大な迷路が形成されていた。

 

「どうだ。見事なものだろう? まだ育成途中だが、あと一か月もすれば六メートルほどの高さになる。さて、これが何かわかるかね?」

 

 バグマンが私たちに問うと、クラムが唸るように答えた。

 

「迷路」

 

「そう、その通りだ。第三の課題は迷路! 実に単純明快だろう? この迷路の中央に優勝杯が置かれる。その優勝杯を最初に手にした選手の優勝だ」

 

 バグマンはそう言うと、思い出したかのように付け加える。

 

「勿論、今までの点数が全く関係ないということはない。迷路には点数の高い選手から順番に入ってもらう。一番点数が高いホワイト君とデラクール君では迷路に入る時間に二十分の差がある。ホワイト君が有利なことには変わりないが、デラクール君にもチャンスはあるということだ。どうだ、面白かろう?」

 

 バグマンは楽しそうに笑いながら私たちを見回す。

 私は数か月前にムーディから聞いたことを思い出しながら何度か頷いた。

 

「そうだろうそうだろう! では、何か質問がなければ、城に戻るとしようか。今日は少し冷えるからな」

 

 バグマンはそう言うと、足早にホグワーツ城の方へと歩いていく。

 私は育ちかけの迷路をもう一度眺めると、フラーと一緒にホグワーツ城の方へと歩き出した。

 

「第三の課題は迷路か……私迷路は初めて。少しワクワクするわね」

 

 私が笑顔でフラーに言うと、フラーは頭を抱えながらため息をつく。

 

「のんきなものデス。きっとただ迷路をするだけではないんでしょう?」

 

「まあ、そうね。きっと色んな障害が配置されると思うわ。でも、流石にドラゴン以上ということはないはずよ」

 

「どらごんより凄いのが来たらさすがに死んじゃいマース」

 

 フラーはブルリと肩を震わせる。

 

「でもまあ、サクヤが有利なのには変わりませんが、私にもまだチャンスはありマス。絶対に負けないデスからね!」

 

「あら、やる気満々って感じね。望むところよ」

 

 私はフラーに対し軽く手を振ると、ホグワーツ城の入り口の前で別れる。

 そしてグリフィンドールの談話室へ向けて歩き出した。

 

 

 

 

 一九九五年、六月二十四日、第三の課題当日。

 私はホグワーツの生徒に囲まれながら大広間で朝食を取っていた。

 

「サクヤ、これも食べて。今日は頑張ってね!」

 

「でも、腹を壊して競技に参加できませんだなんてマヌケなことにはならないようにな」

 

 グリフィンドールだけじゃなく、レイブンクローやスリザリンなど様々な寮の生徒が私に激励を飛ばし、自分の寮のテーブルへと戻っていく。

 私は皿に山盛りにされたベーコンと玉子を口の中に詰め込みながら呆れ顔で言った。

 

「応援してくれるのはありがたいけど、貴方たち今日も試験よね? そんなので大丈夫なの?」

 

 そう、今日は第三の課題が行われる前に期末試験が行われる予定だ。

 

「でも、それはサクヤも変わらないだろう? 試験、受けてるじゃないか」

 

 ロンは半分ふざけて私の山にベーコンを盛りながら肩を竦める。

 

「僕だったら絶対に受けないけどな。だって、選手は本来期末試験を受けなくてもいいんだろう?」

 

「うーん、私もよくわからないんだけど、マクゴナガル先生が受けたほうがいいって」

 

 私はフォークでベーコンの塊を突き刺し、ロンの口の中に押し込む。

 ロンは顎が外れそうな大きさのベーコンを半分涙目になりながら何とか咀嚼し始めた。

 

「でも、マクゴナガル先生の言う通りだと思うわ。免除されているとはいえ、受けたら受けたでちゃんと成績にはなるんだし」

 

「まあ、そうよね。免除されても第三の課題が始まるまで暇だし。だったら試験を受けるほうがいいわ」

 

 私は皿の上の料理を綺麗に平らげると、ポケットから懐中時計を取り出し、時間を確認する。

 

「っと、そろそろ時間ね。教室に向かいましょうか」

 

 私はナプキンで口を拭くと、椅子から立ち上がり鞄を手に取る。

 その時、何か言いたげな表情のマクゴナガルが私の横を通り過ぎたが、特に声を掛けられることはなかった。

 

 

 

 

 

「レディース&ジェントルメン! 第三の課題、三大魔法学校対抗試合の最終課題がまもなく行われます! 今のうちに現在の得点状況をおさらいしておきましょう」

 

 拡声魔法が掛けられたバグマンの声がクィディッチの競技場内に響き渡る。

 私はポケットから懐中時計を取り出すと、時間を確認してポケットへと戻した。

 

「ボーバトンのフラー・デラクール選手! 五十五点! ほかの選手と大きく点差が開いてしまっていますが、まだチャンスは十分に残されています! 次にビクトール・クラム選手! 六十七点! そしてサクヤ・ホワイト選手! ダントツの八十二点! 一番初めのスタートです」

 

 私はチラリとほか二人の選手を顔を見て、すぐに迷路に意識を向ける。

 この迷路に置かれている優勝杯を手に取れば私の優勝だ。

 賞金は一千ガリオン、それだけあればパチュリーにあの家を返し、新しく家を買うこともできるだろう。

 卒業後のことを考えるのは少し早いが、誰にも邪魔されない平穏な暮らしに一歩近づける。

 望んで参加した試合ではない。

 できることなら、このような目立つ行為はしたくない。

 リータ・スキーターが言っていた。

 ダンブルドアは私を第二の英雄に仕立て上げたいのだと。

 確かに、側から見ればそう思うのは自然なことだ。

 スキーターがそのような結論に辿り着くのにも頷ける。

 

「私が、第二の英雄……」

 

 その瞬間、私の背筋を冷たい汗が一滴流れ落ちた。

 スキーターの考えは本当に思い違いか?

 あの時は何者かがダンブルドアの裏を掻き、ゴブレットに細工をしたと考えた。

 だが、どうだろう。

 ゴブレットに一番自然に細工ができるのは他でもないダンブルドアだ。

 もし、スキーターの言う通りダンブルドアが私を英雄に仕立て上げようとしているのだとしたら……

 私の名前をゴブレットに入れたのは、他でもないダンブルドアではないか?

 秘密の部屋から生還した。

 ブラックに狙われ、逆に殺した。

 そして今回、最年少で三大魔法学校対抗試合に優勝したとなったら話題性はバッチリだ。

 優勝したタイミングでブラックのことを公表すれば、私は瞬く間に第二の英雄として祭り上げられるだろう。

 ムーディの課外授業もそうだ。

 あの課外授業もダンブルドアが指示したものかもしれない。

 

「ダンブルドアは、私に何をさせようとしているの?」

 

 その瞬間、甲高いホイッスルの音が私の鼓膜を打つ。

 

「サクヤ選手、スタートです!」

 

 バグマンの大声と共に、私は迷路の中に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 杖を構えることもせず、呆然と迷路の中を歩く。

 本当ならば、一つ一つの障害に注意を払って慎重に進むべきなのだろう。

 だが、どうにも迷路に集中することができない。

 ダンブルドアが私を英雄に仕立て上げようとしているというのはつまり、私にとってはダンブルドアが私を陥れようとしているのに等しい。

 私は英雄なんかになる気はない。

 ほどほどでいい、名声なんて望んでない。

 ダンブルドアは、私を英雄にして何をさせたいのか。

 そんなのは決まっている。

 ヴォルデモートに対する備えだろう。

 ヴォルデモートが復活しようとしていることは賢者の石騒動の際に明らかになっている。

 ダンブルドアは私をヴォルデモートにぶつけるつもりなのかもしれない。

 その時、私の脳裏にある言葉がフラッシュバックした。

 

『私についてこい。私が望む世界は、貴様にとっても住みやすい世界の筈だ』

 

 ヴォルデモートはあの時私にそう言った。

 私が住みやすい世界。

 ダンブルドアが思い描いたその世界は、本当に私にとって住みやすい世界なのか?

 ヴォルデモートが思い描く世界の方が、私には過ごしやすいのではないか?

 心臓が大きく脈打つ。

 体が熱い。

 脳が沸騰しそうになっているのを感じる。

 ダンブルドアとヴォルデモート、きっと実力は拮抗しているだろう。

 とすれば、私がどちらにつくかによって勝敗が決まる。

 

「私は、一体どちらに……」

 

 不意に、私のつま先が台のようなものにぶつかる。

 はっとして前方に意識を向けると、そこにはキラキラと輝く優勝杯が置かれた大理石の机があった。

 

「そんな……ここまで何の障害も……」

 

 私は後ろを振り返る。

 何度か曲がった記憶はあるが、そこまで長い時間歩いたわけではない。

 それに、どれほど運が良かったとしても、全く邪魔されずにここまでたどり着くなんてことは本来不可能だろう。

 

「これも……ダンブルドアが仕組んだことだっていうの?」

 

 私は目の前にある優勝杯を見る。

 これを取れば、対抗試合の優勝は私だ。

 どこからどこまでダンブルドアの策略かはわからない。

 だが、少なくとも今は、この優勝杯を手に取るしかないだろう。

 私は周囲を見回し他の選手の姿が見えないことを確認すると、優勝杯を手に取った。




設定や用語解説

試験を受けているサクヤ
 本来この日は選手の家族がホグワーツにくる日だったが、サクヤには誰も来ていないのでマクゴナガルが事前に気を利かせた形になった。

第二の英雄
 サクヤはハリーと同じ素質を持っている……ように表向きは見える。

どストレートにゴブレットにたどり着くサクヤ
 明らかな異常行為。何者かが細工しないことにはこうはならない。

Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。
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